ジョーカー
「一体何往復するんだ。そろそろ限界だ。休ませてくれ」
名のない村に着き先に居た住人達と挨拶を交わす間もなく荷物を下ろすと、名もない村の住人とアルファ村の住人の男達はミルキに命じられ、人間ソックリな形をした案山子と大量の木材を馬に乗せ、すぐにアルファ村へ引き返した。
アルファ村に到着すると、案山子と木材を下ろし、名のない村へと戻る。名のない村に着くとまた案山子と木材を積み、アルファ村へと戻る。この作業をもう三往復ほどしていた。マウロは眠気と疲労により倒れそうだった。
「この様子だと、後、二往復くらいだな。休んでいる暇はない。この作業もお前達村人を守る為に必要なことだ。文句を言うな」
「ならせめて説明してくれよ。俺達は一体何を運んでいるんだ」
ミルキは面倒くさそうに頭を掻く。時刻はもう明け方。ミルキも疲労と眠気によりイライラしていた。アルファ村に到着する前日からもう三十時間ほど寝ていなかったのだ。
「この木材は人語の木と言って、焼ける時、人間の泣き叫ぶ声と似た音がする。この案山子は村人達の身代わりだ。ルキアは村を更地になるまで焼き払う。その時に悲鳴と焼死体が無ければ怪しまれるだろう。お前達の村で動ける者が想像以上に少なかったのが何度も往復する羽目になった原因だ。人手が足りてないんだ。文句を言わず、さっさと済ませるぞ」
ミルキはマウロを振り払うように馬の速度を上げた。
全ての案山子と木材をアルファ村に運び終えたミルキ達は、手分けしてその木材を民家の中に運んだ。
作業が終わった頃には日が傾きオレンジ色の淡い光が辺りを照らしていた。
「終わったな。戻ろう」
ミルキの声に十数名の男達が力なく答える。皆疲労困憊だった。
マウロは見納めとなる故郷を目に焼き付てから、前をゆくミルキ達を追いかけた。