王
「あれはなんだ」
月明かりに照らされた薄暗い王室。大きなガラスの窓際に腰掛けたバキュラ王は、兵士に問う。
「あ、あれは月で御座います」
片膝を床に着き、着いた膝とは反対側の膝に手を添え座る兵士は、緊張気味に答える。
「そうだ。あれは月だ。では『奴』は何故、我の遥か頭上で絢爛と輝いておる」
「はっ。それは月だからで御座います」
「そうだ。月だからだ。だがしかし、おこがましいとは思わんか」
「誠にその通りで御座います」
バキュラは一度月へと目を向けた後、兵士の目を見つめた。人差し指を月へと突き立てる。
「我はいつの日かアレを手に入れようと思うてあるのだ。それが叶うと思うか?」
「か、叶うはずですとも。バキュラ様なら」
兵士が震え声を絞り出す。暫しの沈黙後、バキュラのドスの効いた声が王室に静かに響いた。
「やれ」
バキュラの声に反応して、王室の扉が開くと二人の屈強な兵士が入ってくる。片膝を付いていた兵士はひいいと馬のようにわななく。
「どうかお助けください。バキュラ様」
バキュラは聞く耳を持たない。片膝を付いていた兵士はなんとかその場から逃げようと走り出すが、屈強な二人の兵士の剣により腹を貫かれた。
兵士の血液が床に飛び散る。屈強な兵士二人が剣を引き抜くと、がばっと声を出して、腹を貫かれた兵士は床に崩れ落ちる。
命が途絶える音がした。
「人間は嘘を吐く。だから嫌いだ」
バキュラは兵士達に目も向けず、十五夜の月を見たままに呟いた。