おそろしいイノシシとのたたかい(その1)
小助は、オオカミのむれといっしょに森の中をおくへとすすんでいきます。オオカミたちが子どもから大人までむれとなって歩くのにはりゆうがあります。
「ぼうや、オオカミがどうしてこんな雪の中でも歩くのか分かるかな?」
雪の中ですすむオオカミの姿を見るのは、小助にとってはじめてのことです。でも、どうしてオオカミが冬ごもりしないで森の中を歩き回るのかはまだ分かりません。
そんな小助に、お父さんオオカミが声をかけてきました。
「おれたちは夏であろうと冬であろうと、エサがあるところをもとめて歩いているんだ。子どもたちをまもるためだったら、おれたち大人がきばをむきだしにしてたたかうことだってあるぞ」
小助がお父さんオオカミのしぐさをじっとながめていると、1ぴきのオオカミが足あとらしきものに気づきました。
「おい! イノシシの足あとがあるぞ!」
「ここから遠くないところにいるみたいだぞ」
オオカミの大人たちは、えものをさがそうと雪の上の足あとにそって歩くことにしました。小助も、お母さんオオカミやちびっこオオカミとともに後ろからついていきます。
「さっきから雪がはげしくふってきたなあ」
「気をつけろ! 風も強くふいているぞ」
オオカミのむれは、前へすすもうにもはげしいふぶきでよく見えません。そんな中にあっても、小助はそれをもろともせずに少しずつ足をふみ出すように歩きつづけます。
ふぶきの中をすすんで行くその時、オオカミとはちがうどうぶつのうなり声が耳に入りました。そのうなり声を聞いたとたん、オオカミの大人たちはオオカミのお母さんや子どもたちに大きな声を上げました。
「気をつけろ! この先にイノシシがいるぞ!」
オオカミのむれをまもろうと、大人たちのオオカミはすがたの見えないけものがあらわれるのをまっています。あいかわらず雪がはげしくふる中、小助は立ち止まらずにそのまま前へすすんで行きます。
「おいおい! このまま行ったらおそろしいイノシシが……」
小助は、イノシシがどんなけものなのかまだ分かりません。オオカミたちがどんなに大声を上げて止めようとしても、小助は雪道をどんどんと歩きつづけています。
すると、うなり声とともに大きなイノシシがふぶきの中を小助に向かってつっこんできました。そのイノシシは、にらみつけるように小さい男の子に向かっていきます。
「うりゃあああああああああ!」
「うぐぐぐぐぐぐっ……」
オオカミたちが目にしたのは、おそろしいイノシシを食い止めた小助のすがたです。雪がふりつづく中、小助はこうふんするイノシシからオオカミたちをまもろうとひっしになっています。
「よくもじゃましやがって! フウウウ~ッ! フウウウウ~ッ!」
「うんしょ! うんしょ! う~んしょ!」
小助はありったけの力を出すと、自分よりも体がでっかいイノシシを後ろにたおしました。そのようすを見ていたオオカミたちは、イノシシとたたかう小さい赤ちゃんにおどろきをかくせません。
「あんなに小さい子どもがイノシシと戦うなんて……」
「早く何とかしないと……」
雪の上にたおれたイノシシですが、すぐにおき上がると小助をにらみつけてはこうふんしています。
「フウウウ~ッ! フウウウ~ッ! フウフウウウ~ッ!」
イノシシが大きなうなり声を上げる中、小助はおそろしいけものをこわがるそぶりをみせないで前へ歩いていきます。
その時、大きなイノシシが小助に向かっていきなりとびかかってきました。思わずしりもちをついた小助ですが、目の前に近づいてきたイノシシをつかむとすぐに後ろへなげとばしました。
しかし、このくらいのことでやられるイノシシではありません。イノシシは、小助をにらみつけながらあいかわらずこうふんしています。
「フウッ! フウッ! フウウウ~ッ!」
「いっちょにあちょぼう(いっしょに遊ぼう)! いっちょにあちょぼう!」
どんなにおそろしいイノシシであっても、小助にとってはおすもうごっこをしたくてたまらないようすです。




