トビにのってふたたび夏の大ぼうけん
小助たちがくらす山おくのほうにも、いよいよ夏のきせつがやってきました。
森の中では、小助がサルと木のぼりのきょうそうをしています。小助は、となりの木にいるサルにまけないように手足をつかって上のほうへのぼっていきます。
「よいしょ! よいしょ!」
サルのほうも、すばやいみのこなしで大きな木のてっぺんへ向かっています。しかし、小助は小さい体でサルよりも高いところをすすんでいます。
「こっちから教えなくても、小助は木のぼりをすっかり自分のものにしているみたいだなあ」
小助は、さいごまで高い木をのぼり切ろうといっしょうけんめいになっています。
そうするうちに、大きな木のてっぺんが小助の目の先に見えてきました。小助は、てっぺんにある木のえだを右手をのばしてつかみました。
「サルさん、こっち見て! こっち見て!」
「わあっ! もうてっぺんまできたのか」
木をのぼっているとちゅうのサルは、自分の力でいちばん上までやってきた小助のすがたにおどろいています。
そんな時、小助が空のほうをながめると見おぼえのある鳥が遠くからとんでいることに気づきました。
「ピ~ヒョロヒョロヒョロ、ピ~ヒョロヒョロヒョロ」
「トビだ! トビだ! こっちこっち!」
小助の元気な声は、トビのほうにもすぐにつたわりました。トビは、つばさをはばたかせながら小助のそばへきました。
「小助くん、また会うことができたね」
「ピ~ヒョロ、ピ~ヒョロヒョロ」
「ふふふ、小助くんは鳴き声のまねをするのが上手だね」
「うん!」
トビが小助と楽しそうに話している間に、サルがとなりの木のてっぺんへたどりつきました。サルは、小助のそばにいるトビとはじめて顔を合わせています。
「あら? はじめて見る顔だわ」
「サルさん! サルさん!」
「サルさんって、小助くん知っているの?」
「うん!」
小助は、木のぼりの先生だったサルのことをトビにつたえました。これを聞いて、トビはあんしんしてサルと話すことにしました。
「どうして、こんな高いところまでのぼってきたの?」
「こっちにいる小助といっしょに木のぼりのきょうそうをしていたのさ」
「わたしのせなかにのれば、かんたんにここまでくることができるのに」
トビは、木のぼりをする小助たちのすがたにふしぎそうな目で見つめています。そのようすに、サルは少しとまどっているようです。
「それなら、いっしょにのって海のほうへ行こうかな?」
「海って、どういうところなのか?」
サルは、はじめて耳にすることばに頭の中で考えこんでいます。そんな中、小助は海に行った時のことをかわいい声で言い出しました。
「たのちい(楽しい)! たのちい!」
「本当に楽しいのか?」
「うん! たのちいよ!」
楽しそうに話しつづける小助を見て、サルは自分の目で海がどんなところか見たくなってきました。でも、サルの大きな体ではトビのせなかにのることはできません。
すると、トビは小助たちにいつものことばをかけてきました。
「小助くんもサルさんも、目をつぶってごらん。合図するまで目をあけないでね」
小助たちは、トビの言う通りに目をつぶったままでしばらくまつことにしました。やがて、トビの声が小助たちの耳にふたたび入ってきました。
「もう目をあけてもいいですよ」
サルは、目の前がどうなっているのか見ようと少しずつ目をあけることにしました。そこには、でっかい体をしたトビのすがたがあります。
「わわわっ! でっかい鳥がどうしてこんなところにいるの?」
「ふふふ、わたしがでっかくなったわけではなくて、小助くんとサルさんが小さくなったのよ」
さいしょはびっくりしたようすのサルでしたが、トビからのことばを聞いてすぐに小助とともに海へ行くことにしました。
「早く行こう! 早く行こう!」
「そんなにあわてなくても大じょうぶだよ。空からおちないように、しっかりつかまっておいてね」
「うん!」
トビは、いつも元気でかわいい小助の顔をやさしく見つめています。小助たちが海を見るのを楽しみにする中、トビは広い大空へ向かってとび立ちました。




