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パンツとシリアスは繋がらない

「っはぁ~……。気持ちいいわぁ~」



あの戦いから一週間。私たちは今、ハルちゃんの部屋に住んでる。内装は地球のそれと変わらず、強いて違いを言うなら2mくらいの水晶玉があるくらい。



皇帝退位を知らされた国民の人々は、歓喜の声を上げた。その歓喜は私たちの想像を超え、三日三晩のお祭り騒ぎ。



救世主……って自分で言うのは恥ずかしいわね。まあ、そうなった私たちだけど、国民のほとんどはそれを知らない。知ってるのは関わったごく一部の人だけ。



本当は隻眼の兵士の人が知らせようとしたんだけど、私と変態はそれを拒んだ。そんなガラじゃないしね。



皇帝を退位させたと同時に、皇帝が蓄えてた金も全部みんなに返した。国のため、とか言って徴収してたみたいだけど、変態が調べたら大半は着服してたみたい。



あ、三連凶と皇帝はまとめて独居牢に入れて、政治的理由で捕まってた人はみんな釈放したわ。ただ、変態と一緒に捕まってたおじいさんだけは見当たらなかったの。……なんだったのかしら、あの人。



まあ、今は平和なこのひとときを過ごしましょう。平和が一番よ。



朝風呂を浴び終えて、脱衣所に出る。……うん、今日もか。



「ハルー、ちょっとー」



「なんですかお姉さま!お召し物ですか!?それともご褒美の時間ですか!?」



「ご褒美の時間はちょっと心当たりないわね。あと、カーテンの内側に入ってこようとしない。……私の下着返してくれる?」



「えっ……!」



「こんな素晴らしい物を手放すなんて……!みたいな目をしてもダメよ。返しなさい」



「お、お姉さまはご自分で創造できるんですよね?それでどうか……!」



「ダメよ。返しなさい」



「……はい」



私がお風呂に入る度に、目の前のハルちゃんがパンツを盗んでいく。最初は変態の仕業かと思ってコテンパンにしたんだけど、ハルちゃんが自首するなり、私にも同じ罰を!とか言い始めて犯人が明らかに。



……なんでこの子、こうなったんだろう?元々そういう娘だった?それとも変態のせい?……とりあえず後者のせいにしておこう。



ちょっとため息をつきながら、返してもらった下着をつけて着替えを済ませて、部屋に戻ろうとする。するとハルちゃんがギュッと後ろから抱きついてきた。



「ちょ、今度は何?」



「ミレンさん……フウヤさんが、フウヤさんが……っ!!」



「アイツがどうしたの……って」



ハルちゃんの指差す先、ハルちゃんの部屋を覗き込むと、



「ふむ。ピンクか……ハルちゃんには白が似合うと思うんだが」



真剣な眼差しでパンツを物色する変態が。



「ん?おお、ミレン。お前はどう思う?ハルちゃんには白が似合うのか、それともピンク」



「吹き飛べ変態。アレスタ・フォートレス、トルネードッ!!」



「ぐぅおふぁぁああ~~っ!!」



変態だけを狙い小さな竜巻を起こして壁に打ちつけた。



「ガード・ゴーレム。ソイツの上に乗って」



「カシコマリ~」



「ぐふぁ……っ!」



そしてトドメ。これでしばらくは動けないでしょ。



「ハル、変態は滅殺したわよ。……ハル?」



「お姉さまの香り、お姉さまの匂い……ああ、なんて良いものなんでしょう」



変態から救った人が変態。……救われないわね、私。



「失礼する」



突然ガチャリと扉が開き、隻眼の人が現れた。瞬時に私から離れるハルちゃん。



「ちょっと何?ノックもなしに」



「すまない。ノックはしたんだが、声はするのに反応がないもので……何かあったのかと」



「ちょっと変態がね。……何かあったの?」



「……隣国、レーテリア王国より伝令が来た。内容はこうだ。此度の戦争、そちらの大将首一つでは割に合わぬ。そちらの国の全てを我らに委ねるのであれば、和平は受け入れる……と」



「なにそれ合併しろって事!?」



「それより酷いかもしれんな。吸収になるだろう。国や人員的にな」



「そんな……っ!」



「和平を受け入れないとなると、再び戦争の始まりだ。真正面からやり合えば、私たちに勝ち目はない。……兵士たちもその提案に心が動いている」



「……アンタはどうなの?この提案はありなの?」



「論外だ。隣国は先代レール国王までは平和主義の国だった。……いや、現国王のレーテリオンも、途中まではそうだった。が、気づけば征服主義の国に成り果てていたよ。……あちらには強力な魔術の使い手、四砲手がいる。この国が吸収されれば、他国の征服の際に使い捨ての道具にされるだろうな。……それだけは、それだけは避けねばならぬ……!」



「……変態。聞こえてる?」



「おーう。すげぇ話になってんな」



「……アンタ、前に不穏な事言ってたけど、何か知ってたわけ?」



ゴーレムを退かせると、変態が起き上がって私たちの所に。



「パンツは置きなさい。シリアスじゃなくなる」



「……どうしても?」



「置かなかったらホモ・ゴーレムの餌食にするけど」



「許せ、ハルちゃんのパンツ……!」



泣く泣く、といったところでパンツを床に丁寧に畳んで置く変態。



「……ハル、ごめんね。こんな変態で」



「い、いえ。わかってた事ですし」



他の人の前では素直な良い子なのに……まあいいわ。話を戻しましょう。



私のさっきの問いかけに、変態は頭をかきながらこう答える。



「知ってるっつーか、あの皇帝に他国に戦争を仕掛けるような度胸はないって思っただけだ。最後のビビりよう見る限り、いくら強大な力を持っていようとな。だから、この戦争には二つの可能性が生まれる。隣国から戦争をふっかけたケースか、両国を争わせて得をするような第三者がいるか、だ。まあ、もっとあるかもしれんが、オレが考えうる限りの可能性はこの二つだ。どちらにせよ、目的は皇帝の首一つで留まるもんじゃない。目的はこの国そのものだ。だから和平には応じないんじゃないか……って予想が当たっちまっただけだよ。……なんだよ」



みんなが一様に黙る。それもそのはず。ただの変態がこんなにも思慮を巡らせてるなんて露ほどにも思ってなかったからだ。



「意外と、考えておられたのですな……」



「変態のくせに」



「変態さんなのに……」



「誰が変態だ年増腐女子。ありがとうハルちゃん。褒め言葉だ」



「いきなさい、ホモ・ゴーレム」



「えー、ご主人。マジっすかー?」



「まっ、待て!やめろ、話せばわか……あっーー!」



同じようなセリフを言ったのに、こうも対応が違ったらイラつくなっていうのが無理な相談よね。



「……それで、お二人に話がある」



隻眼の人が改まって話をする。振り返ると、土下座をしていた。



「この国を救ってくれたお二方よ。二度その力、この国の民の為に使ってくださらぬか!何卒、何卒……!」



切実な気持ちが伝わってくる。この隻眼の人、三連凶たちが退いてからというものの、軍のリーダーと政務を執ってるって聞いてる。その重責、私たちには計り知れない。



もちろん、気持ちとしては助けてあげたい。でも、私たちの力でどこまで……。



「何言ってんだ。元からそのつもりだ」



私が悩んでるのに、ホモ・ゴーレムから逃げ切った変態は当然とばかり答えた。



「ちょ、本気なの!?相手は一国よ!?」



「そんなもん、最初と変わらないじゃんか」



「あのね、規模が違うって……!」



「それにハルちゃんと約束したろ。ハルちゃんを助ける手助けをするって。相手が誰だろうが関係ねぇよ」



「…………」



この変態、どれだけまっすぐなのかしら。期待に答える。言葉では簡単でも、実行するのは厳しいのに。……ううん、でも。



「……そうね、ごめんなさい。変な事を言ったわね。兵士さん、その話、引き受けるわ。必ず、この国を助けてみせる」



弟が乗るなら私も乗らなきゃね。姉なんだもの。



「……感謝の言葉しかでない。本当に、本当に……ありがとう……!」



ここで終わればキリッと次に向かって進めるのに、変態はシリアスを続ける気がないらしく、こんな発言をした。



「ところで兵士さんよ。ハルちゃんの前で土下座ってアレか?ハルちゃんのスカートの中を覗こうとしてんのか?いいか!ハルちゃんのスカートの中を覗いていいのはオレだけ」



「誰も覗いちゃダメに決まってんでしょうがぁ!!」



変態に渾身のかかと落としを食らわす。変態でさえなきゃ、そこそこ良い弟なのに。コイツはまったく。



「……年増よ」



「なによ」



変態が床に顔面をぶつけたあと、私を見ながら一言。



「その年で熊さんはいかがかものかと」



「?……ッッ!!今すぐ朽ち果てろぉぉ!!」



「ぼばぁっ!!」



この変態にシリアスは長くは続かない。そう確信したとある日の朝。

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