ウソが下手な二人
俺、レンドを含めたクラットス攻略メンバーが帰還して一ヶ月が経った。
簡単にその間の事を話そうと思う。
ーー……。
「え。水にぃ、離れるの?」
「ああ」
クラットス、ゲーハ砂漠を抜け、ミズヤさんが唐突に俺達と別行動を取ると話し出した。
「まだ黒幕の素性掴めてないんだろ?なら敵の狙いを分散させる為にも、情報を違った角度から得るためにも、おれはおれで動いた方がいいと思うんだ」
「……アテはあるの?」
「ない!……だからしばらく放浪さ」
「……」
「んな寂しそーな顔すんなって。お前には頼れる仲間もいるし、アキハもいる。大丈夫さ」
「……」
「アキハ、頼んだぜ」
「……もう決めたんだもんね。うん、必ずまた、会おうね」
「もちろんさ」
離れていくミズヤさんを止められる人は、誰もいなかった。
ーー……。
そうして帰国したが、直後に全員の糸が切れ、疲労でダウン。三日近く動けなかった。……いや、訂正だ。まだ動けてない奴らがいる。
「……」
「フウヤくん、ミレンちゃん……」
アキハさんと互いに会議室の空白の席を見る。二人は未だ、自室に引きこもっている。
「……怪我は回復した。医療班から報告を受けている。……なのに復帰していないのは」
「多分、心の傷です。……俺には分からないけど二人共、何か大きなショックを受けてた」
「……」
「アキハさんは何か知らないですか?」
「……知ってるかもしれない。でも、私が話すべきことじゃないと思う。フウヤくんから話さなきゃ」
「……」
二人の回答は全く同じ。「しばらく一人にしてほしい」。……そう言ってもう三週間。
「クルックー。仮にもこの連合国のトップな二人共いないのでは会議にならんな。そろそろ呼び戻すべきでは?」
「レービル、てめぇなあ……!!」
「私も賛成よ、その意見」
「レミール……!?」
「私もー」
「レビィまで……!!」
「あのねー、確かに私達は事の顛末を伝聞でしか知らないし、アンタも詳細は分からないときてる。……でも、悠長なことを言ってられる場合でもないでしょ?」
「……黒幕が他にいる。となれぱこの国もいつ襲われるか分からない。次の手を講じなければならない」
「陛下……」
「……ゲン殿、どう考える?」
レール前皇帝の言葉にゲンさんは考え込み、やがて口を開く。
「……この件、私に一任してもらいたい。数日以内には解決してみせよう。……さて、次の議題ですが」
累積する議題に話が移り、もうフウヤ達の事は話題にあがらなかった。けれど、
「……」
皆の関心はもう、会議の中になかった。
ーー……。
「……そろそろ直面せねばならんと思っていた」
会議終了後。俺とアキハさんはゲンさんに呼ばれ、治療棟と呼ばれる施設を歩いていた。
「皆の言う通りだ。私達は差し迫る危機を回避する為、動かなければならない。……その為にはあの二人の力が必要だ」
「……」
「二人の気持ちは理解できる。それを推し測って動きたいが……」
「うん。……動かなきゃ、だよね」
「……うむ」
最初に着いたのはミレンちゃんの治療室。
「……」
コンコン、短いノック。……反応はない。
「アキハ殿。頼む」
女の子の部屋、という事でアキハさんに鍵を渡し、下がるゲンさん。確かに着替え中とかだったらマズいもんな。
「うん。……ミレンちゃん、入るよー」
扉が開き、アキハさんが一歩足を踏み出す。途端に足が止まった。
「アキハさん?」
「アキハ殿?」
「……うん。とりあえず二人とも入って。一緒に、ちょっと」
歯切れの悪いアキハさん。……とりあえず入って大丈夫なのか。なら、
「ミレンちゃん、だいじょう」
「ぐずっ、ぐずっ……ヒトシくん、ウソでしょ……!!」
俺達の目に飛び込んだのは、テレビにイヤホンを繋ぎ、部屋を暗くして至近距離でアニメを観るミレンちゃんの姿。
「……」
ゲンさんも思わず閉口。
「……気づいてないみたい。レンドくん、よろしく」
「え、俺っすか?……」
ひとまず、ゆっくり近づく。
「……うん?」
同時にミレンちゃんが振り返って、俺と目があった。
「……れ、レンド!入ってアンタなん、って二人まで!?」
「……」
「え、あ、ち、違うの!!これは違うのよ!?これはその……あれよ!あれ!!」
「ミレンちゃん」
「な、なに!?」
「とりあえず一緒に来てもらっていい?」
「……はい」
俺達の視線に耐えきれず、ミレンちゃんは大人しく同行してくれた。
ーー……。
「久々の休暇だと思ってその……つい」
「ううん、大丈夫だよミレンちゃん。ちょっと衝撃的だったからつい」
「うむ。休暇を与えてやれなかった我々に非がある。次から前向きに検討しよう」
「……レンド、怒ってる?」
「いや、むしろその」
「?」
「とっ、とりあえず怒ってないよ」
「そ、そう?……ところで私達、どこ向かってるの?」
「フウヤくんの所だよ」
「……そっか。あのバカも休んでたのね。……アイツも色々あったみたいだし、思うところあるのかもね」
「……着いたぞ」
フウヤの部屋の前に着く。よし、
「ミレンちゃんとアキハさんは少し下がってーー」
ガチャッ。
「フウヤー、開けるわよー」
「ミレンちゃん!?ちょちょちょ!待った待った!!」
「何よ?」
「いやその……ほら、着替え中かもしれないからノックくらいは」
コンコン、ガチャッ。
「入るわよー」
「ミレンちゃん!?ノック!ノックの意味!!」
慌ててミレンちゃんの後を追うとそこには、
『ーー1着はエルコンドルパサーー!!』
「くそ……!!まだだ、まだ俺は諦めねぇぞ……!!」
「……」
大画面のテレビでゲームをしてるフウヤの姿。
「俺は絶対、ハルウララちゃんを有馬で勝たせ」
「こんのバカぁぁ!!」
「ぴぎょおっ!!?」
フウヤの決意はミレンちゃんの右膝蹴りにかき消された。
ーー……。
「気落ちしてんのかと思ったらゲームとか、アンタバカァ!?」
「そのセリフ、レンドに言うと喜ぶぞ。高確率で」
非常にも連行されたオレは四人と共に歩く。次の休暇には、必ず……!
「というかウララちゃん派なんだな、お前。てっきりライスシャワーかと」
「お兄様呼びもしてもらってるし、お兄ちゃん呼びもしてもらってるぞ」
「……そうか。カレンチャンもゲットしてたか。いくら使った?」
「レンド。こんな格言があるんだ。"課金は家賃まで"」
「ねぇぞ、んな格言」
「で、オレは家賃ないんですよ」
「そういやお前、国からどさくさに紛れて一軒家もらってたっけか」
「そーそー。ハルちゃんと離れることになったのは悲嘆ものだけど。それはともかく。家賃がない=課金は無限大」
「その方程式、色々おかしいだろ!?」
「……ともあれ、元気そうで良かった。二人とも、午後から会議がある。出席してくれぬか?」
「それ、何時から?」
「二時の予定だが……」
「一時間ぐらいズラしてくれねぇか?」
「何か所用が?」
「ちょっとな。……ミレン、話がある」
「……いいわよ」
ーー……。
国を一望できるテラス。そこに座り込みながらミレンに話しかける。
「ちょっと意外だったよ。素直に応じてくれて」
「……いつもと違って真面目だったからね」
「オレはいつだって真面目だぞ」
「はいはい」
「む……」
「……他の皆もすんなり通して、私達だけにするよう配慮してくれたわね」
「お前のウソがバレバレだってことだろ。元気なフリしやがって」
「お互い様よ。何が有馬よ。全然違うレースだったじゃない」
「……ウソつくの苦手なんだろうなぁ、オレら」
「かもね」
「……ミレン、お前」
「七紅魔の一人、ウィルって子と戦った時の事よ」
「!」
問いかける前にミレンが話しかけた。……話したいことがあったのはお互い様だったらしい。
「私の頭にあり得ない光景が浮かんできた。……小さい頃、あの子と遊んだ記憶」
「……」
「でも、おかしいのよ。私、小さい時はテレビにずっとかじりつきで、他の同世代の子と遊んだ記憶なんて、ないのに……」
「……」
「……それにあの子、天使だったんでしょ?なおさらあり得ない」
「……うん。一般人なら間違いなくあり得ないと言える。けど多分、お前は違う」
「え?」
「ミレン。お前の苗字を聞いていいか?」
「……言ってなかったっけ。私は」
ミレンからフルネームを聞く。……疑念が確信に変わった。
「なんでこんな事を?」
「……。確認したかったんだ。ミレン」
「?」
「今からオレの憶測を話す。……前みたいに空想だと笑っても構わない。でも」
「笑わないわよ」
「!」
「……アンタが生き返ってきたあの時。驚いたけどでも、やっぱりって思った。……アンタが前に語った空想、自分のおじいちゃんが神様かもしれないって話、当たってたんでしょ」
「……ああ」
「……謝るわ、ごめん。バカにして。……聞かせて、アンタの推論。もう、バカになんてしないから」
「……ーー」
口を開いた。オレが、そしてミレンが真っ先に転生された理由。そして、推論。そこから導きだした答えを。包み隠さずに、全て。
「ーー……」
「……ありえない」
「……」
「ありえない……!そんな、そんなのって……!!」
「けど、辻褄は合う」
「っ!」
「相手がそう名乗ったのもシャレのつもりなんだろう」
「っっ!!~~……!!……」
叫びだしたくなる衝動を、懸命に、力一杯堪え、ミレンは不安げにオレに問う。
「私、どうすればいいの……?」
「どうもしなくていいだろ」
「え……?」
「今までのお前でいーんだよ。仮にオレの考えが当たってたとして、どうしようもないことだろ?」
「……」
「言っとくけど、一人でいなくなるなんてマネすんなよ?レンドがうっせーし、隻眼のおっさんやハドソンやその他大勢が絶対オレに詰め寄るからな」
「……」
「どうしようもないし、いなくなれないんだから、今まで通り何にも考えない猪突猛進年増でいとけ。後の事は後で考えりゃいいんだよ」
「……。ばーか」
短くそう言ったミレンは少し涙目。でも、元気は出たっぽかった。
ーー……。
「……ミレンちゃん」
「……とんでもないこと、聞いちゃったね」
「……」
アキハさんの悪魔の囁きで聞き耳を立ててた俺達。……本当にとんでもないの、聞いちまったな。
「……」
「レンドくん、あのね」
「分かってます。……たとえ何があったとしても、ミレンちゃんはミレンちゃんです」
「……うんっ。ゲンさんはどう、かな?」
「……。私は聞かなかった事にする」
スクっとゲンさんは立ち上がる。
「私は何も聞かなかった。……その方がいいのだ」
そのまま去っていくゲンさん。
「……」
「多分、ゲンさんなりの精一杯なんだと思う」
「っすね。……立場ある者として見てみぬフリは必要っすから」
「……私達はどうしよっか」
「同じようにしたいとこっすけど、多分」
「おう、その多分だ」
やっぱ、というか察して放っておいたんだろう。フウヤがすぐ側にいた。複雑な顔したミレンちゃんを連れて。
「……」
「ミレンちゃん」
「聞いたとーりだ。ミレン、このバカはお前が何者だったとしても気持ちや見方が変わったりしねぇよ。勿論、アキハねぇもな」
「……」
「ただまぁ残りの面々は……折を見て、だな。そこまで付き合いある訳でもねぇし」
「……そうね。あーあ、心配して損したっ。ホンットにみんな、ばかなんだから」
三人で顔を見合わせて苦笑する。ホッと胸を撫で下ろしながら。
「さ、今度はアンタの番よロリコン。アンタが生き返ってきた真相、二人とも知らないんだから」
「あ、そうだよ!聞かせろ!」
「うん。フウヤくんがどんな無茶をしたのか、聞いてお姉ちゃんとしてお説教しなきゃ!」
「……はぁ。やれやれ」
フウヤはまた苦笑を浮かべ、自分の祖父の事、そして生き返りの真相を語ってくれたのだった。




