金紅《きんく》の空
「マジかよ……!!」
巨大な岩、いや隕石が落ちてきている。ゆっくりと、己の人生を振り返る時間を与えるように、ゆっくり。
「どうします!?」
逃げる場所も時間もない……!!どうする、どうする……!?
「おいフウヤ!一体どうし……なんじゃありゃあ!?」
「水にぃ、ナイスリアクション。隕石っぽい、アレ」
「隕石だと!?」
「……あれから逃げる場所も時間も足りなそう。ゆっくりとはしてるけど、一時間もしたらぺしゃんこかな」
「壊せねぇのか!?」
「……壊すことは出来ると思う」
「なら……!!」
「けど、ダメだ。そうすると破片が降り注ぐ。オレ達は大丈夫でも、他の住民に被害が出る」
「――!!」
「だから、それ以外の方法めっちゃ考えてる最……水にぃ!!」
「な、なんだ!?」
「水にぃの剣、斬った所消すんだよね!?」
「正確には斬った半ぶ……なるほど!アキハ!!」
「なにー!?」
「おれを上空まで吹っ飛ばしてくれ!!」
「……水くん、いつからそこまでの変態さんに」
「ちげぇ!!ああもう、メンドくせぇから全員上見ろ!」
サンスィヤと戦ってるアキハねぇ、レンド、ミレンが上空を見、唖然とする。
「唖然としなくていい!今から斬ってくる!」
「……なるほど、そういうことね。じゃ、遠慮なく!」
離れた所にいたはずのアキハねぇは、瞬時に水にぃの側に着地し、
「そりゃあ!!」
「っっ!!」
力強く蹴飛ばした。
「~~かぁっっ!効くぅ~~!!けど、そんな事言ってる場合じゃねぇ!霜月流剣華、九の型――断華一閃!!」
水にぃが隕石を真っ二つに……?
「えっ……?」
斬れて……ない?
「ぐふぅえぁ!!」
そのまま落下してきた水にぃ。……丈夫だから平気だろう、けど!
「水にぃ、どうしたの!?」
「……ダメだ、フウヤ。おれの剣じゃ斬れない」
「えっ?」
「あの隕石、“生きてる”!」
「!!」
「おれの消失剣が消せるのは無機物だけだ。生物はどうしようもねぇ」
「ちょ!どうすんのよアレ!!フウヤなんとか――!」
「ちょっと待て!!お前なんでこっちに来てんだよ!!レンドは!?」
「……あ」
慌てて見ると、
「ちょ、キッツ……!」
一人でサンスィヤと戦うレンド。そして、
『ア゛ァア゛ァァッッ!!』
「――あっ」
豪撃。大地を抉る拳がレンドに直撃した。
「…………え?」
ミレンが表情を失い、駆け寄る。
「……れん」
『ア゛ァア゛ア゛ッッ!!』
「ミレンちゃん、危――!!」
「水にぃ、ダメだ!!」
ミレンに、水にぃに。我を失ったやり場のない攻撃が降り注ぐ。
「…………フウヤ、くん。皆が、みんなが……!!」
「っ大丈夫!アイツらなら死なない!!それより考えなきゃ!皆で生きて帰る方法を!」
必死に自分に言い聞かせる。でないと、頭がおかしくなりそうだ。
……どうする。どうすればいい?サンスィヤも、迫る隕石も。二つをどうにかするには、どうすれば――――――。
「…………」
「フウヤ、くん?」
「っ、レンドー!!ミレンー!!水にぃー!!生きてるかー!?」
「……なんとか、な」
「けほっ。……辛うじて、ね」
「へっ。こんなのアキハの拳骨に比べりゃ痛くも痒くも……やっぱ痛ぇわ」
「水くん、皆……!!」
「頼みがある!オレの指示通りに動いてくれ!!アイツをどうにかするために、隕石の方を片付ける!」
「っ!その間、アイツはどうすんのよ!?」
「アキハねぇ、頼める?」
「!了解!あの人は私が相手するよ!」
「そんなの……!!」
「だいじょーぶ。相手するだけなら私一人で充分!」
「けど……!!」
「信じて、ミレンちゃん!」
「……!!」
「……頼んだよ、アキハねぇ」
「うん!フウヤくんの頼みだもん!お姉ちゃん、頑張っちゃうよー!」
コクン、と頷き、迫り来る隕石と向き合う。
「……規模破壊!!」
全ての魔力を尽くし、ありったけの規模の魔法を放つ。本来なら指先程の大きさに縮小できる魔法、だけど。
「……限界、か」
縮小して半分がやっと。半分でもこの都市を滅ぼすには充分。けど、
「絶対にさせない……!ミレンー!!どんなのでもいい!!アイツ並みの大きさのゴーレムを作ってくれ!!アイツに隕石をぶつける!!」
「っ!そんなのムリ!!そんなサイズの操れない!」
「フウヤー!!おれに任せてくれ!」
「っ!頼んだ、水にぃ!」
「ミズヤさん!けどあんな高いところまでどうやって……?」
「そこでキミのゴーレムの出番だ、ミレンちゃん」
「……え?」
――……。
「っかぁー、キッツいなぁ……」
『ア゛ア゛ァァア゛ッッ!!』
「……けど、フウヤくんが頼ってくれてるんだもん。お姉ちゃん、頑張っちゃうぞー!」
――……。
「ちょっ、本気ですか!?」
「本気も本気!頼む、ミレンちゃん!」
「~~!!ああ、もう!知りませんからね!!アレスタ・フォートレス、パワー・ゴーレム!」
「うす」
「この人、上に飛ばして!」
「うす。……そぉりゃあ!!」
「っっ!!」
ミレンのゴーレムに上空高くまでぶん投げられる。目標座標はサンスィヤとは反対側の、隕石の右側。
……だけど。
「くっそ、ズレてる!」
「っ!アレスタ・フォートレス、フェアリー・ゴーレム!」
「あら。なぁにご主人?」
「あの人、あのでっかい隕石の所まで引っ張って!」
「お安いご用よ、ご主人」
ズレた目標座標へ、ミレンのゴーレムが水にぃを抱え、連れていく。
「ありがとう!助かったよ、貴婦人」
「ふふ。ご主人の頼みよ」
「もう離して大丈夫だ。……霜月流剣華、十の型――」
ミレンのゴーレムが手を離し、水にぃは落下しながら意識を集中する。
「――力華剛放!!」
斜め上から、隕石めがけて剣を振り下ろす。――斬れない。けど、
「うぅおぉ……り、やぁぁぁ!!!」
力任せ。水にぃ渾身の力で隕石をサンスィヤの方に飛ばす。
「いっ……けぇぇぇ!!!」
元の半分。しかし充分すぎる程の大きさの隕石は、サンスィヤに直撃した。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「効いてる!?」
「……!そういう事か……!」
「えっ?」
「変だと思ってた。心臓辺り斬りつけられてんのにピンピンしてんのは。いくら再生能力あっても心臓を痛め付けられりゃ悲鳴ぐらいあげる。……アレはアイツの心臓だ!」
「!?」
「そうすりゃ意味が通じる!!アイツが死なねぇのも、アレが生物反応を示してんのも、アイツが苦しんでんのも!」
「けど、なんで心臓がアイツよりもおっきくて、しかも上空から落ちてきてんのよ!!」
「わかんねぇ!!」
「正直ね!?」
「けど、コレなら……!!レンド、アキハねぇ!!」
「はいよ!!」
「なにー!?」
「コイツの体勢崩してくれ!!後は、オレとミレンがどうにかする!!」
「大役じゃんか、OK!」
「必ずやり遂げるよ、フウヤくん!!……レンドくん、タイミング合わせて同時に足を狙うよ!」
「了解っす!」
「……せーのっ!!」
「はぁぁぁ!!」
「うおりゃああ!!」
アキハねぇの打撃、レンドの銃撃。それぞれが同時にサンスィヤの脚に痛みとなり降り注ぐ。
「ミレン!!お前はアイツと心臓を縛り付けてくれ!!」
「っ了解!アレスタ・フォートレス、縛鎖封鎖!!」
心臓が、ミレンの創造した鎖でサンスィヤに縛り付けられ、
『ガッア゛ァァア゛ァ……ッッ!!』
脚が曲がり、膝が地に着く。
「フウヤ!!」
「――。霜月流剣華、第三の秘奥義――」
『ガァァア……ッッ!!』
「――悲槍想華」
大きく、大きく。自分の背丈よりも遥かに高く。斬撃が目の前に縛り付けられていた怪物を、解放する。
「――ぁ」
小さく。けれど確かに。その声は、この場にいる全員に聞こえた。
「――あり、がとう……」
声を最後に、怪物が消滅していく。隕石のようだった心臓もろとも。
「……」
チャリッ
「ん?……」
「フウヤ?」
「なんでもない。……終わった、な」
「……終わった。けど」
「……まだ本当の敵は姿を完全には現してない。けれど、手がかりは掴んだ。後は突き詰めていくだけだ」
「……」
「皆さん、無事ですか?」
エリアの奥から声がする。いつの間にか離れていた、無傷で変わりのない奴が現れた。
「よう、ライラ。こっちは大丈夫そうだ。お前こそ無事でなによりだ」
「……」
「なんだよ」
「BLM男。今さら私の好感度を稼ごうとしても時既に遅しですよ」
「お前はアレだな。シリアスな空気を読めるようになれ」
「読めてますよ。ほんのジョークです。……ハナさん、見つけました」
「!!」
ライラに手を引かれ、暗がりから一人の女性が現れる。……間違いない。
「……ハナさんだよな。レーテリア王国女王の」
「はい。……事情は彼女から聞きました。レーテリアの、いえ、世界の危機だと」
「……信用してくれるのか?」
「しますわ。貴方に嘘の気配は感じられません。それに」
レンドを見、ハナさんは続ける。
「信頼できる仲間が、貴方と共にいます。疑うはずがありません」
「……ハナさん」
「久しぶりです、レンド。……色々、互いに話さなければならない事がありますが、まずは」
レンドが頷く。ハナさんの言葉の続きを、オレが引き継ぐ。
「帰ろう。……レーテリア、ディブトーニに」
――……。
「ンー!してやられましたなぁ」
不気味な程天気が良く明るい、とある都市。豪奢な飾りつけが随所に施されている城で、ディブトーニ・レーテリア付近に現れたその男は快活に笑う。話し相手の男はやや眉間に皺を寄せ、言葉を返す。
「してやられたのは貴様だけだ、フール。……何故“あれ”を動かした?」
「ンー!決定打に欠けるようでしたのでトドメを、と。まさか逆利用、いえリユースされるなど拙僧考えも及びませんで」
「腑抜けた道化めが」
「ンー!手厳しい!おや、もしや拙僧手打ちにされますかな?」
「不要だ。貴様にしかできん事がまだある。全て終えた後に用済みにし、犬のエサにでもしてくれる」
「ンー!拙僧の最期は犬の肉となる!!なるほど、その逞しいリサイクル精神!!拙僧、痛く痛感しました!!是非、今後の術の理念と致しましょうぞ!!」
「…………」
不快。逆鱗に触れられる直前の竜のごとき表情を見せる男を見、フールと呼ばれた男は姿勢と感情をとり直す。
「おや。この手の冗談はお嫌いでしたか。それは失敬をば。今後、貴方様には致しません事を誓いましょう」
「……去れ」
「はっ」
男の一言でフールと呼ばれた男が姿を消す。
その入れ替わり、何もない空間から現れたのは黒のベールを被った女性。
「……」
ハルの母、サクラ。
「……クラットスの支配体制は崩壊しました。いかがいたしましょう」
「放っておけ」
「……いいのですか?」
「よい。元々手慰みで奪った国だ。そこまで固執しておらん」
「……」
「キッシュら七紅魔を失ったのは少々痛いが……その程度だ。精々蚊に刺されたようなもの」
「……」
「……とはいえ、蚊が何匹も集るのはうっとうしいな。丁度アヤツがあの国にいたな。アヤツに一任しよう」
「……しかし、彼女は」
「ああ。力を失っている上に、我らや天神陣営でもない、第三勢力だ。が……そういう奴こそ“動かしやすい”」
「……」
「アヤツは動く。力を求め。それで蚊を何匹か仕留めるとしよう。……“蚊に紛れる蝶”には手出しさせぬよう見張っていろ」
「……承知しました」
現れたのと同様、サクラは姿を消す。残された男、クラットスではブレイと名乗っていた男は忌々しく空を見上げる。
「いつまでも高みの見物を決めているがいい、天神。……最後に笑うのは私だ」
――……。
「ンー、キッシュ殿がやられましたか。そうですか」
ならば、とフールは人っ子一人いない空間でニタリと笑う。
「では拙僧も、覚悟を決めねばなりませんな」
――……。
騒がしい町。人波をかき分け進むサクラ。その顔は酷く苦しげ。
「……はっ……はっ……」
路地裏に入る彼女。胸を抑え、困惑するように呟く。
「分からない……あなたは、誰なの……?」
ストックがこれで尽きたため、更新は暫く先になると思います。ご了承ください。




