天神
「……ふふ。はっはっは。やはり、さすが私の孫だ、フウヤ。……いつから気づいていた?」
「……。ディブトーニの牢屋で会った時は何にも疑問に思わなかった。胡散臭いとは思ってたが、姿はオレの知るじいちゃんじゃなかったし、あの時はそんな事勘繰る余裕もなかった。……けど、追われる身から解かれて一息ついてた時、アンタがいなくなった事を知って、その時に初めて疑問を抱いた。……トドメはミレンの前にも現れた時。オレ達の前に忽然と二回も現れ、その二回とも忽然と消えた。……敵じゃない。敵だったらとっくにオレ達を潰してる。味方でもない。味方ならそんなコソコソする必要はない」
「……なるほど。続きを」
「敵でも、味方でもない。なら“中間”だったら?最初のオレ達の目的はディブトーニを救う事、二度目にアンタと会った時の目的はレーテリアとディブトーニの戦争を止める事。そして三度目、グゲンで会った時、オレ達の目的は裏で戦争を起こそうとしてる奴らの画策を止め、ハルちゃんとサウルちゃんの母親を助け出す事」
「……」
「これら国家間の諍いの中間にいる存在なんてまずない。いや、他国の人間ならそれに当てはまるが、わざわざオレ達の前に現れる必要なんてない。……オレ達の前に現れる必要があり、中間的存在。考えた時に浮かんだのが痴神の存在。そしてじいちゃん、アンタだ」
「……」
「元々、じいちゃんは変人だった。どこか突飛な考え、行動。覚えてるようで覚えていないのがいくつもあるけど、その中でもハッキリと覚えてる言葉がある。人を救え」
「……」
「違和感がバリバリあったのを、今でも強烈に覚えてる。そしてじいちゃんは、死んだ」
「うん。悲しんでくれていたのを覚えてるよ」
「うん、めっちゃ悲しんだ。けど……死んでない。そんな変な気持ちもずっとしてた」
「……」
「ふと、考えたんだ。もしじいちゃんが生きてたら?いや、厳密に言うなら神として行動していたとしたら?妄想だけはめっちゃ得意だから、戦いの合間に何度も現れる老人について考えた時に、さっきの考えに至った。ミレンには笑われたけどな」
「……」
「人を救え?人の為になるとか、人を助けろとかじゃなく?死んだ気がしない?なんで?……生前に疑問に思ってた事がすんなりはまっていく。すぐにオレは神と呼ばれる存在、天界という場所について記された書物を片っ端から読んだ。……痴神、主にオレ達の住む世界をまとめる神。天使、神々に仕える者達。冥神、神の中でも異端で自らの力の証明として世界を滅ぼそうと企み、幽閉された存在。そして、天神。そんな神々をまとめる唯一神。時折下界に現れ、自ら人々に救いの手を与えると言われる存在」
「……」
「天界に存在すると言われる規則も全部読み漁った。そして、驚きと同時に求めていた答えが得られた。――神々の祖、天神。それに仕える事で天神から地位を与えられ、天神が役目を終えたその時、代わりを務める者が現れた。その名は、カリミヤ」
「……うん、よく頑張りました」
「なーにが頑張りました、だよ。オレがそれらの本を読み終わった次の日には、それらの本が全部消えてたんだぞ。……その本も、アンタの差し金なんだろ?」
「さて、なんの事やら」
このジジイ……!!
「さて、本題に入ろうか」
じいちゃんが指を鳴らすと、椅子とテーブルが現れた。
「これ、いる?」
「少し長話になるからね」
二人同時に腰かける。柔和で優しい笑顔を崩すことなく、じいちゃんが事実を突きつける。
「フウヤ。キミは死んでしまった。他ならぬキッシュちゃんの手によって」
「……だよな」
「冷静だね」
「慌ててほしかったか?」
「少しは見てみたかったかな」
「あばばばばば……!!」
「うん。やっぱりいいや」
くっ、かおす先生流はお気に召さなかったか。
「キミには二つの選択肢がある。一つ、このまま死んで意識を手放し、輪廻の輪に入る。記憶等は無くなってしまうが、新天地で暮らせる。キミの望む、たくさんの妹との生活も望めるかもしれない」
「……もう一つは?」
「今、ミレンちゃんがキミを蘇生しようと試みてる」
「っ」
「正確には現時点ではまだ、だけどね。今、あの世界の時間は止まってる。キミが死んだ瞬間でね」
「……」
「新天地で暮らすか、再び皆と共に戦うか。どっちを選んでも構わないよ」
「んなもん、オレの性格上どっち取るか知ってんだろ、じいちゃん」
「……」
「“どっちも選ばない”。それがオレの選択だ」
「……ほう」
「ミレンが蘇生しようとしてるって、多分ミレンの創造魔法で人を蘇生する魔法を、って事だろ?そんな貴重なのオレに使ったが最後、オレ、一生アイツの靴を舐めないといけない人生送っちまうぜ」
「……生き返る気はあるのかい?」
「勿論。だってオレ、まだ誰も救えてない。それにハルちゃん、サウルちゃん、そしてマナとの約束も果たせてない」
「……次は、今回よりも遥かに苦しい死に方をするかもしれないよ?」
「だとしても、オレは止まる訳にはいかない。……オレは止まらねぇからよ……!!」
「……。それで、ミレンちゃんに蘇生してもらわないとしたら、キミはどうやって生き返るのかな?」
んー、団長も流された。……頼む訳だし、おふざけは終わるか。
「それは、さっきの“どっちも選ばない”の答えにもなるかな。……じいちゃん、オレを生き返らせてほしい。アンタなら可能なはずだ」
「うん、可能だよ。……ただ一つ。たとえこのまま生き返っても、キミはキッシュちゃんには勝てない」
「……」
「キッシュちゃんに勝つには、キッシュちゃんの事をよく知らないといけない」
「……調べてはみてた。けど、分からなかった。この世界の人間じゃないから、情報源がなかった」
「だよね。だから私の方から特別サービス。キミにキッシュちゃんの過去を話そう」
「!」
「聞いてどうするかはキミ次第だ。聞くかい?」
「……お願いします、じいちゃん」
「うん。よろしい」
じいちゃんがその容姿を変える。無造作に伸ばし天然パーマ気味な髪。目はシュッとしていて、でもどこか優しげで。オレの知るじいちゃんの姿。
「この方がリラックスして聞けるだろう?」
「ああ。……懐かしいよ」
「私もだ。……これは地球上で、キミが死ぬ前のお話だ」




