ディブトーニ・レーテリアの専守戦 その7
――東地区――
「まったく……。随分と派手に吹っ飛ばしたものだな。クルックー」
囲まれた兵士を、文字通り吹き飛ばし現れたレビィとレミールに、嫌み節にそう語りかけるレービル。その表情は安堵。
「助けるのが遅いアンタが悪いのよー、レービル」
「おや。助ける必要があるとは思わなかったぞ。クルックー」
「変に悪びれても無駄よー。助けようと動いてたの、上から丸見えだったし」
「むっ……」
「はいはい。要らない無駄口はそこまで。……レービル、敵は?」
「来ていた分は片付けたが……見ろ」
レービルが指し示す先には、大勢の敵兵。
「どうやら今日は休憩時間は無しのようだ」
「元よりあるわけないでしょ」
「……仕方ない。もう一働きするかー」
「レーちゃん、ちゃんと無事かしら……」
「信じるしかあるまい。我らはただ、戦うのみよ」
「バラバラに戦うわよー。さっきみたいにまとまって捕まるなんてオマヌケはもうヤだしー」
「そうね。金輪際、アンタと二人で戦うなんて勘弁だわ」
「クルックー。相変わらず仲は悪いままか。……ま、それがらしいか。行くぞ!我ら四砲手が相手だ!」
「アホが一人いないけどねー」
「元よりいないようなモンでしょ。あのバカは」
敵兵に向かい、バラバラに走り出す三人。まとまっていなくても、目指す場所は同じ。
――北地区――
「…………」
「……まだ、戦えるというの……!?」
北地区の戦い。それは他地区の激戦をもその他と捉えられてしまう程、凄絶なものとなっていた。
クミル・ロレットが率いていた軍二千と四百六名。その半数以上を率いて、北地区を守る番人、優柔剛健と戦っていた。
人数差は勿論、こちらは七紅魔が二人。戦力的に充分とクミルは考えていた。が、
「……!!」
未だ衰えぬ暁光。双眸は真っ直ぐクミルを見据える。兵は八割以上倒れ、七紅魔の相棒、ロレットも死んでこそいないが、力尽き伏している。が、剛健は立っている。
いつ倒れてもおかしくない程の血を、いつ使い果たしてもおかしくない程の魔力を使いなお、立っている。自分の見立ては甘かった。そう思うクミルだが、
「……」
同時に彼女は見切った。もうすぐ終わると。
ロレットの魔法が効いている兵士に、クミルは命令する。
「……剛健を、倒しなさい」
走り向かう兵士。クミル自身も、いつ気を失ってもおかしくない程に傷つき、疲弊していたが、倒れる訳にはいかなかった。
「……私が倒れれば、戦線は完全に乱れる。そうなれば……」
――ロレットを、守れない。
――……。
兵士が向かってくる。動きがやけにスローモーションに映る。これが死の間際の瞬間、というやつか。
もう、魔法で避ける魔力と、逃げる体力も、攻撃に耐える生命力も、何も残っていない。
……生きるために、無我夢中で駆け抜けた十代。幸せだった二十代。戦いに明け暮れた後年――。
戦いに生き、戦いに死すが俺の定命、か。その人生に悔いは――、
(――……)
……?…………ああ、そうか。
「悔いは……あるか」
(おかえりなさい、あなた)
(ぱーぱ、ただいま!)
……もし。もし、叶うのであれば。
「お前達と、また……――」
ザシュッ。
……。……?
予期していた痛みが、訪れない。ゆっくりと目を開ける。
「あーもー!まだこんなにいる訳!?うっとうしいったらないわ!」
「ひ、ひぃっ!こ、怖いよぉ……!」
「!お、お前ら……!?」
俺を庇い立つ、二人の人影が、そこにあった。
「なんで、ここに……!!」
「あのねー、国の危機がどうとか、捕まったわたくしには関係ないし、知らないけどね。“命の恩人”であるアンタを見捨てるほど、義理人情に疎くないわよ、わたくし!」
「ぼっ、ぼくももう、ホントは怖いし戦いたくない。けど……助けてもらった恩は返したい。それにあの人の為にもなるし……」
「……」
ワァーー!!
「っ!」
後ろから大勢の声と共に兵が雪崩れ込んだ。……敵兵ではない。
「兵士の皆さん!とにかく敵の方々の無力化を!三連凶の方々も、お願いします!」
「はいはい、分かってるわよ。……こんなに大勢で戦うなんて久しぶり♪暴れてやりましょ、ウンバ!」
「う、うんっ!ウッホー!!」
「…………」
何で、こいつらは……何で……?
「剛健さん」
兵を率いてきた伝達兵、ハドソンが側に来る。ある人物を伴って。
「アナタは確かにこれまで多くの人を傷つけ、命を奪ってきた。……けれど、それに等しいくらい人々の想いを、命を、そして」
連れてこられた彼女は、涙を溢れさせ、近づく。
「家族を、守ってきたんです」
「……お父、さん」
娘がゆっくり、ゆっくり一歩を踏み出し、
「……お父さん!!!」
俺に抱きついた。
「お父さん、お父さん……!!!」
「………………」
言葉が出てこない。突き放す体力も、受け入れる度胸も、抱き締める愛情も。
唯一、口から溢れたのは。
「……すまなかった」
今までの、すべての行いに対する懺悔。その言葉で気づかされた。それが俺の本心だったのだと。俺の気持ちはずっと……ハルと、共にいたかったのだと。
「ううん、ううん……!!いいの、いいの……!!ぱぱ、ぱぱ……っ!!!」
「……っっ!!」
涙が止まらない。ここは戦場で、最も気を許してはいけない場なのに。
「…………っっっ!!!」
涙が、止まらない。
「皆さん、彼らの護衛をお願いします」
『はっ!』
「……家族、か」
一人呟くハドソンの言葉は、誰にも届かない。




