秩序都市――ハミア――
「よーし、向かうかっ!?」
今日も今日とて変わらない煙色一色の空模様。
背伸びして声をかけると年増がフライパンでオレの頭を殴った。
「ぶったね!?親父にもぶたれたことないのに!!」
「起きて早々行ける訳ないでしょうが。最低限の身だしなみとご飯くらい摂りなさい」
「ご飯は歩きながら食えばいいし、身だしなみも別にこれでいいだろ」
「汚っ」
「朝から罵声がオレを襲う!」
「はいはい、フウヤくん着替えて。……あ。そだ。ミレンちゃんに簡単な試着室作ってもらったから、私がそっちで着替えさせて――」
「着替えた!」
「早っ!?」
「……ちっ」
「露骨に舌打ちしないで頂きたい!」
「……ん、ふわっ……おはようございますぅ」
「おう、起きたか暴言年――」
「……んぅ」
スリスリ。
『――っ!!』
突如、暴言年増がオレの肩にスリスリと頭を寄せた。驚愕の表情を浮かべる一同。
「オイ何してんだ暴言年増ぁっ!?」
「……スリスリ」
「理由を聞いてんだよ!!」
「……んー」
スリスリ。
「更にスリスリすんなぁっ!!」
「……ライラちゃん、ちょっと」
アキハねぇがオレと暴言年増を引き離してくれた。た、助かった……!
「んぅ……?」
「あのね、いくらライラちゃんでもやっていい事と悪い事が――」
「……んー」
ギューッ。
『うぇぇぇっ!!?』
こ、今度はアキハねぇを抱き締めたー!?
「ち、ちょちょライラちゃん!?私、そっちの気はないよ!?」
「はむっ」
「ひゃっ!?ちょ、ひにゃあー!!」
「百合もまた良き……ずず」
「お茶を飲んでいる場合ではありませんよ、ミズヤさん!?」
「どうなってんだ……?」
この混乱は、数分続いた。
「ご迷惑をおかけしたみたいですね。すみません」
混乱の後、ハッとした後に深々と土下座しながら謝罪する暴言年増。
「いえ、お気になさらず――」
「迷惑極まりなかったわったく。なに食ってああなった?」
「アンタってホント、デリカシーなさ男ね。コイスさんの爪の垢でも煎じて飲めば?」
「美少女なら喜んで飲むが、男はノーサンキューだ!!そも、年増にデリカシーどうこうなんてない!」
「……ところで私の服が乱れてますが、ドM、何かしました?」
「するかアホ」
「まーまー。事は穏便に。で、ライラちゃん。さっきの何か心当たりある?」
ファサッとシャツをかける水にぃ。……フェミニストめ。
「さっきのというと?」
「フウヤにすり寄ったり、アキハを抱き締めて甘噛みしたりしてたよ」
「え……私、よりにもよってそんな事を」
「オイ、よりにもってなんだ?視線から察するにオレだよな?オレ宛てだよな、それ?」
「……私、どうやら朝起きた時に寝ぼけて人に抱きついたりするクセがあるらしくて」
流しやがった。
「多分、そのクセが原因かと」
「なるほど。……!」
ピーン、と何か閃いた様子の水にぃ。……聞くまい。
「……。アキハさん、大丈夫です?」
水にぃに絶対零度の視線を送った後、年増がアキハねぇに問いかける。そのアキハねぇは隅っこで震えていた。
「あ、危ない危ない……。も、もう少しで新しい扉を開くところだった。いや、フウヤくんへの気持ちは微塵も揺るがないけどっ」
「アキハさーん、大丈夫ですかー?」
「だ、だいじょぶだいじょぶ!!……コホン。私、今日からライラちゃんの近くで眠るのやめるね?」
「トラウマにしてしまいましたか。申し訳ないです」
「う、ううん!こっちこそごめんね?」
「じゃその空いたスペースにおれが……」
『…………』
「全員から冷たい視線!?」
「ミズヤさん、今の流れでそれはないっすわ……」
「人のクセを利用してしまうのはどうかと……」
「下心丸出しで気持ち悪いです」
「……うん。ミズヤくんをよく知ってる私達も、ねぇ」
「水にぃ、異世界来る時に理性落っことしてきた?」
「きてねぇよ!?理性なかったら、とっくに構わずぐへへと――!」
「キモッ」
「……」
暴言年増のストレートな感想が、内角抉って水にぃの心にストライクした。
「さって。鍵探すかー」
「そうね。昨日の奴は持ってなかったみたいだし。その辺に落ちてるかも」
「ぐすっ。……鍵?」
「あっちに扉あるでしょ、水にぃ。あの扉、次のエリアへの扉で壊せない、通れない造りになってるんだ。で、それを唯一通れる方法が鍵なんだ」
「もしかして、コレか?」
「ああそうそうそれ。…………うん?」
水にぃがぶらりと提げたそれに、思わず二度見した。
「え、何で持ってるの?」
「昨日、爆発起きた直後に転がってたのを拾っておいたんだが……あれ?おれ、もしかしてファインプレー?」
「そうですね。ただ、さっきの最低な発言があるので評価はマイナスのままですけど」
「……」
ミレンの氷のような一言が水にぃの明るい表情を粉々にブレイク。やめて!水にぃのライフはもう0よ!
ギィィィ……とゆっくり次の扉を開く。そこには、
「…………」
さっきの街と大きく違い、人の往来があった。忙しなく動く人々。経済活動も行われているようで露店もある。が……、
「……不気味だな」
「うん。全然声がしないよ。……こんなに人で溢れ返ってるのに」
「……もしかして、ここが」
「何か知ってるのか、暴言年増?」
「ええ、ドM。……噂ですが、人々が一切言葉を発さなくなったエリアがある、と聞いたことがあります」
「それがここか……」
「あれ?なんだか人の流れが……」
アキハねぇの言葉通り、人の流れが変わり引けていく。まるで……、
「……何?もしかして避けられてる?私達」
「みたいだな。……喋ったのはまずかったか?」
「何言ってんのよ、レンド。喋らない方がおかしいんだから、喋るのがまずいわけないじゃない」
「いや、そういう事じゃなくて……」
「やめとけ、レンド。アホな年増に構うとお前もアホに――」
ズドンと石が落ちてきた挙げ句、火炙りにされた。
「何?カルシウム不足なん?お前」
「今のはアンタが全面的に悪いわよ」
「……あ、もしかしてせい――」
皆まで言いきれず、石の重さと火の強さが増した。
「……人がいなくなってしまいましたね」
「年増のせいだな」
「アンタのせいよ!」
「ま、まあまあケンカなさらず……」
「……これからどうしましょうか?」
「だなー。RPGなら酒場で情報収集だが……」
「どこまで効果があるかだよね……。そもそもお酒飲めるのコイスさんだけだし。あ、もしかして異世界だから二十歳なってなくても飲めたり」
「しませんよ、アキハさん。……アキハさんとフウヤ、ミレンちゃんの話から察するに、大体はこっちの世界とそっちの世界の事柄は同じみたいです」
「そっかー。……んー、どうしよっか?」
「住人一人一人捕まえて聞き出すのは?」
「なあ、お前やっぱ猪突猛進系年増だろ?じゃなきゃ生――」
皆まで言えず再度潰された。
「ミレンちゃん。とりあえずそんな拷問みたいな方法はダメだ」
「えぇー。じゃあどうするのよ?」
「……私がコイスさんと酒場で聞き込みしてみましょうか?」
「え゛っ」
手を挙げ立候補したのは暴言年増。思わず渋い顔になる。
「ライラちゃん、お酒飲めるの?」
「はい。一応成人してますので。隠してましたがこの中では一番お姉さんなんですよ。むふー」
「……え゛、マジで行くの?」
「なんですかその、ストレートに嫌そうな顔は。行くだけタダでしょう」
「だって、お前やん?絶対問題とか騒動起こすで」
「なんで関西弁口調なってんだよ。それとそのセリフ、お前にだけは絶対言われたくないと思うぞ」
「乗り気じゃないなら無理強いはしませんが……他に手だてあるんです?」
「……住民一人一人捕まえて」
「私と何も変わらないじゃないの、ドM覗き魔」
「ないみたいですね。時間は有限ですし、テキパキいきましょう」
「……はぁ、わぁった。じゃ暴言年増とコイスさんはそれで。オレ達は各自聞き込みしよう。……無駄骨な気もするけど、しないよりはマシだろ」
「では、決まりですね」
ムギュッ。
「!?!?」
何を思ったかこの暴言年増は、朝の愚行を繰り返すが如く、コイスさんの腕に自分の腕を絡ませた。
「なに?お前、おじさんフェチ?」
「違います。頭沸いてんですかDT」
「DT言うな。響くんだよ、この年頃の男には!!」
「この方が警戒も薄くなるでしょう。テーマは“私生活に疲れた男を癒す美女”です」
「頭沸いてんの間違いなくお前だわ。なんだよテーマって」
「さ、行きましょうか。ア・ナ・タ♪」
「え、ほ、本当にこれでいくんですか!?冗談じゃないんですか!?」
「ふふ。冗談なんかじゃありませんよ。ア・ナ・タ♪」
「わ、私には妻と娘が――!!」
有無を言わさず連れていかれるコイスさん。……。
「南無……」
「反応おかしいだろ。いや、あってんのか?」
「……ミレン。あの二人に念のためゴーレムつけててくんないか?情報伝達早そーなの」
「スカウト・ゴーレムのこと?構わないけど……護衛には向かないわよ?」
「いーんだよ。何かあった時に知らせてくれりゃ飛んでいくから」
「あら、優しいじゃない。なに、ライラさんも狙い始めたの?」
「……そうなの、フウヤくん?」
「違うから。誤解だからアキハねぇ、その目のハイライト戻して」
目の色が明るくなったのを見計らって真意を話す。
「敵襲がもしあったらゴーレムだけじゃ守りきれないだろ、多分。だからそういう時には行動の早いゴーレムがいた方がいいと思っただけだ」
「……なるほどね。わかったわ。スカウト・ゴーレム」
「委細承知しました。それでは」
一瞬現れ素早く去るゴーレム。……ミレンより遥かに優秀だな。
「死にたい?」
「何も言ってないだろが」
「口に出てたよ、フウヤくん」
オーマイガッ。
――……。
「そっちはどうだった?」
その後、個別に別れて情報収集に回ったオレ達。再度集合し問いかけると、一様に皆が首を横に振った。
「ダメだった。暖簾に腕押しってこのことだな」
「こっちもー。愛くるしさアピールしても皆がスルーするから、お姉ちゃん傷ついちゃったーえーん。フウヤくん、慰めて?」
「あ、うん。……ミレンとレンドもダメだったのか?」
「……ふふ。今夜はアレ、使っちゃおう。シリアスな所だから控えてたけど……フウヤくんが悪いんだからね?ふふ……」
聞こえない。後ろの悪巧みなんて聞こえない。……いつも以上に今夜は気を付けよう。
「だなー。とりつく島もなしって感じだ」
「だから言ってるでしょ。一人一人捕まえて――」
「お前はいい加減、その方向性を諦めろ」
「後はライラちゃんとコイスさんだけだな」
「え゛っ。水にぃ、アレをちゃん付けで呼んでるの?」
「可愛いからな」
「……やっぱ水にぃ、変わってるわ」
「いや、フウヤの方が変わってるぞ?」
「レンド、ツッコミなさいよ」
「いや、俺も似た者同士かなって……」
「あ、来たよー」
アキハねぇの言葉と共にコイスさんと暴言年増が現れた。……コイスさんはゲッソリと疲れた様子で。
「違うんだ、妻よ。これはあの子を助けるためなんだ分かってくれ……!」
「……。何か掴んだか?暴言年増」
「なんでコイスさんが疲れてるか、聞かないんです?」
「聞いたらやぶ蛇な気がするから聞かな――」
「まず酒場に、社会に疲れた夫とその愛人という体で訪れましてね」
ちくしょう!!強引に話し始めやがった!!
「事ある毎にイチャイチャしてました。体をくっつけたり、顔を(強引に)寄せあったり、(強制的に)間接キスしたり」
「ああぁあぁぁあぁ……!!!」
ゴッゴッゴッゴッ。
「コイスさん!?落ち着けって、コイスさん!!」
「お前、コイスさんに深い恨みでもあんの?」
めっちゃ壁に頭打ち付けてるコイスさんを横目で見ながら問いかける。
「?いいえ、まったく」
「……そうか」
やっぱコイツ、ぶっ飛んでるわ。
「そうしてても店内は静か。グラスをぶつける音一つ聞こえない無音の空間でした。酒場ならもっと騒ぐべきでしょうに。訴えますよ?」
「何に対しての文句?静寂文句?」
「このままじゃ埒が明かないと思ったので、店主に紙でメッセージを書きました」
「愛してるって?」
「私をなんだと思ってるんですか」
「頭のぶっ飛んだヤベー奴」
「親衛隊けしかけますよ」
「はっ。んなの大した脅しになんねーよ」
「アキハさんけしかけます」
「オレが悪かった」
「どうして私だと素直なの、フウヤくん?」
「姉には素直じゃないといけないな、と」
ま、間違ってもアキハねぇが怖かった訳じじじゃないんだからね!!
「書いた内容は、この地区のトップはどこにいるか?です」
「お前も脳筋なの?」
「シンプル イズ ベストです」
「ベターだよ。なんならバッドだよ」
「暫く私達を見た店主は、私達の襟を掴んで追い出しました」
「バカなの?」
「まあまあ。話はここからです。……その一部始終を見ていた、いかにも悪の下っ端みたいな男が近づいてこの紙を渡したんです」
紙を胸の谷間から取り出す暴言年増。お前は不二子ちゃんか。
「……」
「っ!?痛い!痛いよミレンちゃん!?」
「……ふん」
「鼻の下伸ばしてるからだぞ、レンド」
「今のは仕方ないだろ!?」
「そうだぞフウヤ!レンドくんはなにも悪くない!!」
「……ミズヤさん」
「レンドくん」
ガシッと固い握手を交わす水にぃとレンド。アツイユウジョウダナー。
「すけべな二人は置いといて。なんて書いてるの、フウヤくん?」
「……今夜十時、酒場裏の倉庫に来いってさ」
「……罠かな?」
「かもな。でも他に打てる手もないし、行くしかないかな」
「き、危険では?」
「虎穴に入らんば虎児を得ずってな。罠ならオレ達はどの道いつ狙われてもおかしくない現状になってる」
「で、ですが……」
「罠じゃない可能性もある。他から情報を得られないこの状況で接触してきたんだ。罠だろうと突っ込むしかないよ」
「……分かりました」
「皆もそれで構わないか?」
「私はフウヤくんが決めたことなら!」
「私も自分で仕入れた情報なので自分を信じます」
「……ま、お前がいいなら」
「何かあったら責任取りなさいよ、変態」
その後、時間が来るまでしっかり休養と栄養を摂った。
――……。
「……暗いね」
「街灯切れてますしね」
真っ暗な街。言われた場所に来るも街灯が切れ、真っ暗だ。
「アレスタ・フォートレス、ライト」
パッと光が灯る。ミレンか。
「目立ちません?」
「だな。おいミレン、その明かり、今すぐ――」
「……なるほどなぁ。不審な奴、とは聞いちゃいたが魔法を使えんのか」
「っ!」
暗がりの奥から響く男の声。
「……アンタが呼び出したって事でいいのか?」
「お、いいねぇ。暗がりで見知らぬ声を聞いてなお、臆さないってのは。話が早くて助かる。そうだ、俺が呼び出した」
その男は暗がりから姿を見せず、声のみを届ける。
「ちょっと、いつまでもそんな所にいないで、こっちに出てきたらどう――」
「待て、ミレン」
男にライトを動かそうとしたミレンを止める。
「……へぇ。いい判断だ」
「ちょっと、なんで止めるのよ」
「……拳銃を持ってる」
「えっ!?」
「姿は見せずに交渉しようってハラなんだろ、アンタ」
「その方が後々、面倒な事にならずに済むんでね」
「なによそむぐっ!」
レンドが抑えてくれた。ナイス。
「俺の名はゼレス。仮の名だが気にするな。お前さんは?」
「オレはフウヤ。話は単純だ。この国を倒すためにこの地区のトップを探してる」
「……」
僅かな沈黙ののち、上がったのは小さな笑い声だった。
「くっかっかっか。確かに単純だなぁ。俺ぁ、面倒でまだるっこしい話は嫌いだが、ここまでストレートに話す奴なんざ、今までいなかったぞ」
「だと思ってストレートにまとめたまでだ。で、知ってるか?」
「ああ、勿論だ」
『っ!』
オレ以外の皆がザワつく。
「だが、金がないとなぁ。いくら出せる?」
「400万」
「じゃあ500万だ」
「そらよ」
ミレン達から離れ、暗がりの男に現金を渡す。
「……やるじゃねぇか」
「何の事だ?」
「……まあいい。最西端にある家の地下。そこが拠点だ。ロックがかかってるが、昼12時から30分の間、このナンバーを打ち込め。そうすればロックは外れる」
手渡された紙を受け取る。
「わかった」
「……疑わねぇのか?」
「疑うかよ。失敗したら困んのはそっちだろ」
「……なるほど。これ以上互いに探りを入れるのはやめた方がよさそうだ」
「同感だ。……情報感謝する」
「あいよ」
コツコツコツ……と靴音が離れていく。……ふぃー、変な汗かいた。
「フウヤくん!大丈夫だった?」
「ん、大丈夫大丈夫。ちょっと疲れただけ」
「凄い雰囲気で全く話に入れませんでした……」
「ホントですよ。いつからあんなシリアスできるようになったんです、ドM?」
「前からだわ。レンド、ミレン離して大丈夫だぞー」
「おう」
「ぷはっ!……何すんのよ、レンド!?」
「ごめん。そうでもしないと話がまとまらないかと……」
「そんな事ないわよ!私の拳にアイツも応じてペラペラ喋るわよ!」
「お前はどこのルーラー聖女だよ。……一旦、入口近くに戻って、そこで野宿しよう。もう遅いし、話は明日だ」
「む。まあ仕方ないか。……何がどうなってああなったのか、きちんと聞かせろよ、フウヤ」
「勿論だよ、水にぃ。情報共有は基本だからね」
――翌朝――
「……ふわぁ。おはようございます」
「おう、起きたか。てめぇが最後だぞ、寝癖の酷い暴言年増」
「むっ……。まあ仕方ないですよ。昨晩激しかったですから。ね、ドM?」
「ぶふっ」
「……ライラちゃん。それ、どういうこと……?」
「えっ、そんな……私の口からはとても言えないのでフウヤさんに……」
「何がフウヤさんだてめコラぁっ!!そういうキャラじゃねぇだろがぁぁ!!あと、昨日の夜はてめぇに近づいてすらいねぇぇ!!」
「そんな……!!昨日の熱いほとぼりはウソだったと言うんですか……!?」
「ウソだよ!!大いなるウソだよ!!真っ赤っ赤なウソだよ!!」
「フウヤくん……シンジテタのに……」
ガチャガチャ。
「フウヤ、さいてー」
「アキハねぇ、その工具はどっから!?それで何をしようとしてるの!?んで年増てめぇぇ!!」
「ふっ」
鼻で笑いやがった!!って言ってる場合じゃねぇぇ!!オレ、ピンチ☆
「……フフ」
ふざけてる場合じゃねぇだろオレぇぇ!!
「ほーい、ストップアキハー」
「止めないで水くん。フウヤくんと私はもう一度転生してやり直すの……」
「ライラちゃん。真相ちゃんと語る」
「む。まあ楽しめましたしいいですかね。はい、全部ウソです」
「……なーんだライラちゃんってばもー。私、ビックリしちゃったよもー」
「…………」
虚ろな眼から一転していつもの目に戻るアキハねぇ。……た、助かった?
「ごめんなさいです。つい」
「いいよいいよー。フウヤくんの初めてが奪われてないならー。……無くなっても一緒に転生すれぱいいけどね。ふふ」
何それやだ怖いガクガク。
「……ところでフウヤくん。身体の調子はどう?」
「どうって……フツーだけど」
「……ホントに?」
「うん」
「何かムラムラしたりしない?」
「しないけど……」
「……あっれー?配分間違えたのかなー?」
「…………」
もしかして昨日、寝る前に置いてあったお茶……警戒して飲まなかったけど……。今後とも気を付けよう。
「で、フウヤ。昨日のやり取りだが――」
ぐぅー。
『…………』
「ち、ちがっ、ちがうのよ!?今のは……!!」
生暖かい目で、お腹の虫を鳴らした年増を見て、こう言った。
「水にぃ、ご飯食べてからでもいい?」
「だな」
「そうと決まれば作りますか」
「あ、お手伝いします」
「ちょっ!何とか言いなさいよ!?特にフウヤ!!アンタ、こういう時の嘲り担当でしょ!?何でこんな時だけ無意味な優しさ見せるのよ!?ぶっ殺すわよ!?ねぇちょっと聞いてる!?」
ふふ、愉悦愉悦。
「オレが情報収集した時、トップの情報は掴めなかったけど、別の情報を掴んだんだ」
朝食を食べ終え、依然としてジト目のミレンを放置しながら昨日の裏事情を語る。
「別の情報って?」
「裏で犯罪組織が暗躍してるって話」
「犯罪組織、ですか……」
「噂によるとこのエリアに拠点があるらしいが、ボスの姿は分からない。で、その犯罪組織もここの体制が最近変わったのをキッカケに、皆が活動を自粛したり犯罪に手を染めにくくなって商売上がったりだったらしい」
「体制が変わった?」
「……予測でしかないが、ここにいたであろう七紅魔が別の奴に代わったんだろう。前は賑やかで秩序正しい一面の一方、裏では非合法なやり取りが行われていたらしい」
「非合法な……」
「けど、数週間前から秩序は変わらないものの賑やかさは消え、犯罪もそれに倣うように激減したらしい。で、オレはどーにかその犯罪組織と繋がれないかと思った。裏の人間ならこのエリアのボスの居所知ってそうだし。そんな時、コイスさんと、意外にも暴言年増の活躍があったんだ」
「どういう意味ですか。それ?」
「そのまんまだよ、バカ」
「アホクズノロマデブブサイク男、バカにしてんですか?」
「凄いや。暴言が何倍にもなって返ってきた。……話続けるけど、コイスさん達の話でもしかしたら、と思ってあそこに出向いたんだ」
「なるほどな……」
「フウヤくん、あの時カッコ良かったよ!!できるサラリーマンみたいで!」
「久々に知恵熱出すかと思ったよ、あん時は」
超ハードな心理戦繰り広げた気がする。
「で、フウヤ。あんな大金どうしたんだ?」
「オレ達のいた国、ディブトーニで貰ったお金だよ。いいって断ったんだけど、押しきられて……」
「ああ、そんな事もあったわね。私は全額ハルちゃんにあげてきたけど」
「必要になるかもと思って持ってきて正解だったわ」
「……しかし、犯罪組織ですか」
「気持ちは分かるけど、ここは堪えてくれ。コイスさん。……前に進むためだ」
「……分かりました」
「……それにあの組織は後で潰すしな」
「?何か言いました?」
「いや、なんでも。じゃ準備整えて向かうとするか」
昼12時を少し過ぎた頃。オレ達は最西端の家に来た。
「ここですね……」
「地下があるようには見えないわね」
「だからこそ、だろうな」
男から受け取った紙に記されたナンバーを、家にかかっている数字式のロックキーに打ち込む。少ししてカチャリと音がし、扉が開く。
「……これからは静かに慎重に行くぞ。特にミレン」
「わ、分かってるわよっ」
家の玄関から中を覗き込む。普通の造り。目立つ特徴はない。が、
「……」
左奥。台所と思しき場所の床にロックキーがあった。
「……」
静かに、先程と同じナンバーを入力すると、カチャリと小さな音が響き、外側に開いた。
「……」
急な階段が下に伸びる。奥まで長くはなさそうだ。
「……」
ソロリと全員が慎重に階段を降りきる。降りきった先に、一つの鉄の扉。
「……」
開けたら気づかれる、か……。前みたいな大人数での戦闘の可能性もあるから不意打ちしたいところだが。
「っ!!」
イヤな予感が走る。同時に全員を押し倒した。
「きゃっ!」
「うわっ!」
「っ!!」
全員の身体があった場所に斬撃が走る。
「……本当に来るとはな」
部屋の中から声がする。……バレてた?
「……この声」
「……」
「っ!!」
一言も発さず、再度斬撃が飛ぶ。いや、再度どころじゃない。
「…………」
何度も、何度も。確実に仕留めると言わんばかりに飛ぶ斬撃。
「……!」
どうすっかな。このままだとやべぇぞ……!?
「……邪魔するな」
……?斬撃がやんだ?
『いやいや。そこはルールに則ってもらわないとさ』
「……お前達が決めたルールに従うつもりはない」
『……それは私に対する挑戦状と受け取っていいのかな?』
「……勝てばそれで終わりのはずだ」
『それじゃつまらないよ。……うん。私と彼の勝負はそんな短絡に決めていいものじゃない』
「…………」
『もちろん、これはキミの自由だよ。選択の自由。彼らと戦うか、私と戦うか。決めるのはキミだよ』
「……」
「……チャンスか?何かわかんねぇけど話してる内に――」
「待て。レンド、ミレン」
「むっ」
「……ちょっと。何で今、私も入れたのよ」
「動こうとしたのバレてんだよ。……今はやめとけ。隙がねぇ」
「うん、フウヤくんの言う通りだよ。……あの人、強い」
「ああ。……フウヤ、二人でいくか?」
「…………」
「フウヤ?」
向こうで行われていた会話が終わる。見える人影は一人。恐らく相手は通信機越し、キッシュって奴だろう。
会話を終えた部屋の中の人物は、物陰に身を潜めるオレらに向かって言った。
「……刈宮 颯谷、出てこい。サシで勝負だ」
「っ!」
「……カリミヤって、フウヤの……」
「なんでそれを……」
「……」
「フウヤ!」
「大丈夫、水にぃ」
不安と怪訝が混じった表情の水にぃにニカッと笑う。
「絶対勝つから」
「……」
「フウヤくん……」
背後でアキハねぇの心配そうな声色が聞こえる。……やれやれ。心配性な姉に心労かけないためにも、絶対勝たなきゃな。
心配顔の面々の横を通り過ぎていく。ただ、ミレンだけは涼しげな顔をして、
「ま、頑張んなさい」
背中を押した。
「……」
「……」
対峙するオレと男。
「お前が刈宮 颯谷か」
「ああ。アンタの名は?」
「……。俺はグレン。七紅魔と呼ばれる一人だ」
「……。一対一ってことでいいんだよな?」
「ああ」
バチンと重い指音が響き、透明な膜がオレらの周囲を覆う。
「ルールは聞いてるな?」
「負けた方が消える、シンプルで悪趣味なゲームだ」
「同感だ」
抜刀し、グレンと向き合う。……今回、魔法の出番はないな。んな事してる間に切り身になってそうだ。
呼吸を読む。タイミングを見計らう、1、2……1と吸い込んだその時、
「っ!」
「っっ!」
互いに同時に踏み込み、剣を振り下ろす。交差し、鍔競り合う。
「……」
「……」
金属の擦れる音。相手の威圧感。攻めと守りが入れ替わり合うこの空間。同時にそれを崩し、離れる。
「霜月流剣華、一の型――」
離れながら意識を集中し、8の字に印を刻む。
「艷花緑光」
いくつもの剣閃が目の前の空間を切り刻まんと襲いかかった。が、
「ソード・ノティアクション」
全ての斬撃が弾き返された。
「っ、三の型――乱流華旋!」
弾き返された斬撃を上に流す。が、その攻撃がやんだ瞬間には、相手は攻勢に移っていた。
「ツインソード・ノティアクション」
「っ!」
クロス型の斬撃が目前に迫る。間一髪、剣を真下に下ろし、その斬撃を首の皮一枚で防ぐ。
「……なるほど。そういうことかよ」
「そういうことだ。……俺の魔法は斬撃。あらゆるものを斬り裂く」
「その刀はフェイクってわけね……」
「扱えはするがな」
「あぁ、厄介だ、なっ!」
「っ!」
押し返し、力任せに一太刀。
「っ!」
「……っ」
一太刀入った。が、相手のもモロに入った。……痛ぇけど、傷は大したことないっぽいな。
「……互いに攻めも守りも一流か」
「自画自賛か?自分も一流ってなかなか言えないぜ」
「……悪いが、負けるわけにはいかない」
「家族背負ってるからか?」
「っ」
「それとも、自分が今まで守ってきたもん全部背負ってるからか?」
「……」
「ま、両方だよな。アンタの背負うもんは大きい。オレも国なんてでっかいもん背負ってる形だが、根本的にはアンタと守りたいもんは一緒だよ」
「……」
「……大切な人は自分で守らないとな」
「……ああ」
「……勝った方は全部受け継ぐ、なんて提案をしたいがいいか?負けた方の背負ってるもん、全部」
「……。いいな、それは。後腐れがなくていい」
「……」
「……」
オレは右肩を、あっちは左肩を負傷してる。どっちも利き腕。無茶できた方の勝ち。
「霜月流剣華、第二の秘奥義――」
「ソード・エクストラ――」
同時に踏み込む。守りなんて互いに気にも留めずに。
「――華血導放」
「――リディクション」
剣の矛先は的確に、何の障害もなく、相手に突き刺さった。




