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静寂都市ークレール

エリア間の扉を開ける。心持ちは少しシリアスだ。さっきの事があったからな。行った先で何が起きてても不思議じゃない。


慎重に歩を進め、次のエリアに入る。そのエリアは不気味な程、静まり返っていた。


「……暴言年増、このエリアは?」


「矮小な頭ですね。各エリアの名前も頭に入れてないんですか?クレールです」


「どんなエリアかって聞いてんだよバカ」


「そんなのグゲンから出た事のない私が知るはずないでしょう。BLデブメガネクソダサTシャツ男」


「暴言の倍返しにしては酷くね?息子とキャッチボールしてたら、いつの間にかメジャーリーグの投手が投げてきたばりに理不尽なんだけど」


「大丈夫です。あなたに息子はできません。未来永劫」


「泣いた。今のは全オレが泣いた」


心がもう……バッキバキに折れました。


「こーら、ライラちゃん。味方の、しかもお兄ちゃんを戦闘不能にしないのっ。……大丈夫だよ、フウヤくん。フウヤくんの息子は、ちゃんと私が産んで」


「さぁ皆、気を引き締めていこう。何が起こるか分かんないからな」


「……むー」


アキハねぇが膨れてますが気にしません、ええ。非常に心が掻き乱されておりますが気にしません、ええ。……可愛すぎんだろぉぉ!!姉じゃなかったら抱きついてモフモフしてるわ!


「引き締めてないのはアンタだけよ。だらしのない顔してまあ」


「イケメンだから、許される」


キラーン。


「……キモ」


「小さな声で率直な罵倒やめようか、年増」


「……このエリア、誰もいない?」


「いえ、いるようです。ただ、建物内にいるようで、出てくる気配はありませんね」


おぉっと、事態を動かすためにもオレも参加しますか。


「出てくる気配がないなら、手がかりを探しながら進もう」


「そうですね。……あれは?」


コイスさんの視線の先を追いかけると、初めて見る光景に出くわした。


「……」


一体の浮遊型ゴーレム(ドローンっぽい)が一軒の住宅の前にパン等が入った籠を置き、自身の体をぶつけてノックし、すぐに去った。


直後、その住宅から住人が出てきて、チラリとオレ達を見た後、慌てて閉めた。


「……前のエリアと違って、衣食住の確保はされてるみたいだな。……マトモ、とは程遠いが」


「どう見ても歓迎ムードじゃありませんね。蹴って踏まれたかったでしょうに。残念でしたね、生ゴミ変態」


「……もしやとは思うが、それはオレのことか?」


「他に誰がいます?」


「ははーん。ケンカ売ってるな?買うよ、オレ」


「なんて卑わいな」


「言った?オレ卑猥な事言った?」


「二人のじゃれつきは放っておいて。……住人から話を聞くのは難しそうだな。となると怪しい所探って、このエリアを仕切る奴探すしかないか」


「怪しい所っていうと、まずあそこだよね」


アキハねぇが指差すのは他の建物よりも高く、壁の色が虹色な事を除いたら普通の建物。


「とりあえず行ってみましょ」


「今回ばっかりは猪突猛進系美少女(爆笑)の言う通りだな」


「……」


ミレンが指をパッチンと鳴らした。猛烈にイヤな予感がしたので即座にバックステップ!ふぅ、また一つ大人の階段を登っちまったぜ……。


「自ら来てくれるなんて嬉しいぜぇ。どういった風の吹き回しだ?」


「ふっ、なぁに。ハンデってやつさ。……だからお願い、三十秒ハンデちょうだい」


「いやどういう事だよ」


レンドの伝家の宝刀、ツッコミが入るが、今はそんなこと気にしてる場合じゃあない。


「ふっ。そのハンデ、ありがたく受け取るぜぇ。……俺からハンデはやれんがなぁ」


「いやぁ!助けてマミー!マザー!グランドマザぁー!!」


「遂におばあちゃんにまで助け求めたぞ、アイツ」


「放っておいて行こー」


「あぁ!!見捨てないで、アキハお姉様ー!!見目麗しいアキハお姉様ーー!!」


――……。


「死ぬかと思った」


「もぅ。次からは私を最初に呼ぶんだよ、フウヤくん」


「…………」


アキハねぇによってスクラップにされたホモ・ゴーレムの散り様を見て口が開きっぱなしのミレン。


「……凄かった」


「ええ。スプラッタなシーンでしたね」


「さすが、というよりないですね……」


「……あの、アキハさん」


「ん?なーに、ミレンちゃん?」


「その……アキハさんが転生した時に授かった能力って、身体強化ですか?」


「んーん。何も能力とか貰ってないよ。お願いしたのは一つだけ。とびきり頑丈にしてって」


「……それだけ?」


「うん」


「…………」


今度は閉口するミレン。ふふ、勝てないと知ったか、ボクのアキハねぇに!!……今のなし。今のなし。余計なことを考えるもんじゃない。アキハねぇが反応する。


「……今、フウヤくんに凄く褒められたような?」


「感謝はしたけど褒めてはいないよー」


「じゃ、その感謝を今夜私に、私の身体にぶつけてね!!」


「…………」


「どうしてそこで黙るのー!?」


「否定してもアキハねぇ、無理やりプラス思考に持ってくじゃん」


「そんなことしないよ!私はいつだってフウヤくんの意思を尊重するよ!」


「じゃ、ごめん。感謝を身体にぶつけるなんてことはしないです」


「もぅ、フウヤくんってば。照れ屋さんなんだから♪」


「……」


「あぁん、なんで無視ー!?」


「……あの」


「なんだ鬼畜ドS年増」


「変態ドM畜生キモオタ男は放っておいて。……さっきのミレンさんの発言、転生ってどういう事です?」


「カクカクシカジカ四角いムーブ♪」


「ふざけてるんです?舌抜き取りますよ、童貞」


「どどど、童貞だし!」


「動揺の仕方おかしいだろ。……実はミレンちゃん、フウヤ、アキハさんは一度死んだ後、この世界に生き返ってるんだ。詳細はまた後で話すけど」


「……長いんですね。なるほどです、分かりました。にしてもこんなどうしようもない変態ド……を生き返らせるなんて神様って変わり者ですね」


「オイ、なんでオレを見ながら言う。そして何を言いかけた」


「そんな……私の口から言わせるなんて。下劣で下々で下等で下世話な下変態ですね」


「もういいもん。お前に関わらないもん。心を死なせたくないもん」


「キモ、キモ、キモ」


「…………」


なんだろうね……たった二文字の罵倒が三回繰り返された。ただそれだけなのに……こんなに涙が出るのは。


話しながら道を突き進み、虹色の建物の前に着いた。無機質なその異質な建物の側にはエリア間を仕切る扉が。


「まるでここから出る者がいないか監視してるみたい……」


「キモいですね。昨晩のキモオタを思い出します」


「オイ。まるでオレがジッと裸を見てたみたいな言い方すんな」


「……そういえばアレ、昨夜の事だったわね。……ところで変態、風邪はどうしたの?」


「お前のワクチンのせいで治った」


「キモ」


「おかしくない?ここは戦力復活を喜ぶところじゃない?」


「キモ」


「泣くぞ」


「フウヤくん!泣くなら私の胸に!」


「……どうしましょうか。日が暮れ始めてます」


「野宿も手ではあるけど……吹きっさらしの無防備な場所で休むのはなぁ」


「それにこのド変態キモオタの近くに清らかな乙女の身体を休めるのは怖いです」


「そうね。敵よりもそれが怖いわ」


「オイ。マジで手ぇ出してやろうか?」


……ハッ!?


「なぁーんて冗談♪冗談ですよ~。はは、ははっ」


「……ふふ」


あっぶね~!!一瞬でも遅れてたら今頃、首が宙を舞うよりも恐ろしい事が起きるとこだった!


「手を出したら死にますよ?(親衛隊によって)」


「手ぇ出したら殺すわよ?(自分の手で)」


やだ、この女の子達バイオレンス。まじ卍って感じ~。……おぇっ。


「おほん!さて話を戻すけど……ここは進もう。ちょっと強行軍にはなるが」


「……そうね。そうしましょ」


建物の近くでまずは様子を探ることになり近づくと、グニョッと何かが跳ね返した。


「ちょ、何よこれ」


「……侵入者対策の一環ってとこだろーな。参ったな、様子見て動きたかったのに」


「フウヤ。ちょっとこれ、破壊の魔法でドカーンってして!ドカーンって!」


「……センサーが張られてる。破壊の魔法使ったら一発で気づかれる」


「上等よ。何が来ようがまとめて吹っ飛ばしてやるから!」


「さすが猪突猛進系とし」


言い切る前に、なんかのゴーレムに踏み潰された。


「おい、どかせ……」


「すみませんでした、ミレン様って言ったらどかしてあげる」


「誰が言うかバーカ」


「……」


ミシッ、ミシッ……。


「あ、ごめんなさい。背中痛いんでどかしてください。あの、すみませんでした、ミレン様」


なんとか解放され、少し息をついて皆に言った。


「よし、どっか穴がないか確かめよう」


「どうやって?」


「そりゃ実践しかないだろ」


「なるほど。当たって砕ける理論か」


「砕けはしないから安心しろ」


「ですが、それをやったらバレませんか?先ほどのセンサーが感知してしまうのでは」


「センサーはこの不可思議なバリア(仮)の奥にあるし、大丈夫だと思う」


「……けど、あまり時間はかけたくないな」


「だから三分だ。手分けして隙を見つけよう」


三分後。暖簾に腕押しとはこの事か、何の手がかりも得られなかった。……なんの成果も……得られませんでした……ッ!


「もう、バーンといきましょうよ!!バーンと!!」


「……。はぁ、しゃあない。相手にバレて先手打たれるのもイヤだし、やるか」


「マジか」


「……ゴミBL男とミレンさん、基本的な思考回路似通ってますよね」


「誰が!……」

「誰が!……」


ハモった。吐き気を催した。ゴーレムにぶん殴られた。酷いや!こんなのあんまりだよ!!


「はぁ、踏んだり蹴ったりだ……」


「自業自得よ、覗き魔」


「……おぉりゃあ!!極大破壊ギガント・ブレイク!!」


「ちょっ」


砂塵が舞い散る。辺りが砂埃の灰色景色に。そして、


ブーッ、ブーッ。


よく聞くような警報音。


「おまっ、今のぜってー八つ当たりだよな!?」


「あぁ!!」


「開き直りやがって!!……これ思いっきりバレたろーが!」


「どうせバレるんだ。問題ない」


「問題あるわぁっ!!」


「……みんな、気をつけて!来るよ!」


砂埃の中現れたのは、


「……ハイジョ、シマス」


先程食料を配っていた浮遊型ゴーレム、人型の、ミレンが操るようなゴーレム、ドロドロと蠢くスライムみたいなゴーレム?など、多種多様な無機物。……くぅっ!


「なんでここに幼女がいないんだ……ッッ!」


「何の話だよ!?」


「……恐らくスライムみたいなゴーレム→触手プレイ→相手の幼女役、ということかと」


「うわぁ……」

「うわぁ……」


「なんっでオレの思考を完璧に読み取ってんだ暴言年増!!そしてそこぉ!リアルに引くな!!」


オレの精神メンタルの脆さを舐めないで頂きたい!!この脆さはAIBOOOO!!な豆腐メンタルで有名な王様にも引けを取らないんだからな!!


「ふざけてないで、行くぞ!!」


「援護します!!」


「突撃するね!!」


「ぶっ飛ばしてやるわ!!」


「おい、暴言年増は隠……れてるな」


ミレンのスカウト・ゴーレム(だったか?)に抱えられて避難してる。


「あ、ありがとうございます……」


「主君の命ですので」


「……れ、連絡先を伺っても?」


「おい、エセ甘酸っぱい青春繰り広げてんじゃねーよ」


「むぅ。いいじゃないですか。ヒマなんですし」


「おま……もういいや」


付き合ってると大火傷で重症を負いかねないので、会話を切って戦線に向かった。


「アレスタ・フォートレス、ブラック・ボルト!!」


ガガッ、ピーッ


「ヒャッハァー!!汚物は消毒だぁー!!」


「……マシーンか。オレっちの本領は生かせんか。……仕方ない、殺るか」


ミレンの魔法とゴーレムが片っ端からやっつけて、ミレンが一人進んでいく。


「バリスタ・フォート、グレネード・ランチャー!!」


カキンカキン!!


「うげっ、効かない!?」


「……ハイジョ、シマス」


「やばっ!」


「っ!ガード・ゴーレム!」


「カシコマリ~」


ガンッ!!


「……た、助かった。ありがとう、ミレンちゃん!」


「おお、お礼なんて、全然嬉しくないんだからね!!」


ミレンのツンデレ攻撃!レンドにクリティカルヒット!


「大丈夫ですか、レンドさん!」


「あ、ああ大丈夫」


「しかし今、胸を……」


「大丈夫。外傷負った訳じゃないから。単なるアホな話だから」


「は、はぁ……。とりあえず、ホーリー・トルネード!」


コイスさんが魔法を放った。……今の。


「恐らく敵は銃耐性がついています。けど、今ので銃の特性を強めました。これなら……!」


「ありがと、コイスさん。じゃ……」


そう言って、レンドは銃を構え放った。


「ハイ……」


さっきまでレンドの銃が効かなかった機械達が倒れていく。


「おぉ……コイスさん、凄ぇ!」


「いえ、たいした事では……!」


……これでひとまずレンドの方は大丈夫そう。んで、


「ふー。少し汗かいてきちゃった」


向こうで躰一つで次々と敵を薙ぎ倒してる新時代の元姉も全く問題なさそうなんで、


「レンド、コイスさん。ここら辺で後ろの暴言年増を気にしながら進んでくれ。オレは猪突猛進女を追う」


「お前、ミレンちゃんにチクんぞ」


「怖いものなんてなーいさ♪」


何かの罠に引っ掛かっても面倒だし、とっとと追っかけよう。





「あ、やっと来た」


建物内に入り、進んでいくと、ミレンが扉に行く手を阻まれストップしていた。


「鍵、かかってんのか?」


「ううん、かかってないみたい。けど開かないのよ。だからアンタの破壊の魔法でバーンと開けてもら――」


辺りの景色が、グニャリと異質に変化した。


「へっ?な、なに!?」


「っ、幻術か……!!」


「その通り」


グニャリとした感覚が止まり、気づけばオレ達は灰色の無機質な部屋にいた。


そしてそこに、黒髪が無造作に伸びた男が一人。


「たった一日でここまで来るとは思わなかったぞ、侵入者。よくもまあザンガを倒したものだ」


「……侵入、ねぇ。アンタが招き入れたように思うけど?この空間」


「左様。主ら二人こそが諸悪の根源。あの方の邪魔となりうる存在と、これまでの経緯より判断し、招いた」


「……どうなってるの?」


「オレ達はもう、この部屋に入っていたんだ。オレ達がさっき見た扉とかの光景は幻だったのさ」


「流石、聡明であるな。我らの側であればどれほど重宝したか」


「しかもレンドやアキハねぇ達は入れないよう、ロックかけたな?結構難儀するタイプの」


「……そこまで看破するとは」


「ここまでご丁寧に招待したんだ。それぐらいはやるだろうと読むさ」


「……益々惜しい。どうだ、我ら側に降らんか?」


「冗談。降ったら利用されるだけされてポイな気がするぜ」


「……まあ、この程度で降るならば苦労せんか。よかろう、我が相手だ」


「ミレンは下がってろ」


「はっ!?ちょ何――!」


「いーからいーから。な?」


「……何か考えがあるの?」


「いーや、単純に相性の問題だよ。あーいう敵側の学者タイプは陰険な奴ってのが相場なんだよ。真っ直ぐなお前には不利だ」


「……。分かったわ。確かに陰険な奴には陰険な奴をぶつけるのが一番よね」


「誰が陰険だコラ。……で、アンタに聞くが、ここも例の一対一のルールは適用されんのか?」


「無論だ。このミジェが貴様らに鉄槌を下す」


……ミジェ、ね。雰囲気とやり口で察してたけど、多分コイツ――





『おまっ、ちょ……ウッソだろぉぉぉぉ!!?』


「!?」


頭上から声がした。上を向いても無機質な灰色の天井……だったのだが。


ドッゴォォン!!という轟音と共に天井に大きく穴が空き、


「ぐべしゃっ!!」


一人の男が落ちてきた。その男の傍らには、昔よく見た模造刀に似た真剣も落ちていて。


「ってて……あんの鳥、ぜってー許さねぇ……!!」


衝撃の大きさからして、相当高い場所から落ちてきただろうに、その人はピンピンしていて。


「……ん、あれ?……お取り込み中、みたいだな」


オレとミジェを交互に見た後、その真剣を抜き、


「少年よ。この場は請け負うから、後で食い物とこの世界の事、そして人探しを手伝ってくれ」


唐突に恩を売り付けようとするその姿は、オレにある人物を思い起こさせた。





「……水、にぃ?」


オレにとっての兄弟子。強さも変態性も折り紙つきのド変態を。

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