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ディブトーニ・レーテリアの日常 2

「……」


小高い丘。辺り全てを、とはいきませんが、遠くの方を見つめる事のできる場所。


「……」


あの方の無事を今日も祈り、その場から去る。その帰り道の事。


「そこのお方」


大通りから少し離れた場所で、私は呼び止められました。


占術屋、と幟のあがる屋台で、幼い印象を受ける声の方は続けます。


「よろしければその悩み事、解決しましょうか?お代はいりません」


「……なぜ、悩み事があると?」


「わかりますよ。占術師ですから」


「……すみません。これはもう、どうにもならないので」


「でも、抱え込んで辛いご様子」


「……」


「……悪いようにはしませんから。さあ」


不思議な事に、どこか信頼の置ける方と思った私は、その屋台の暖簾をくぐります。


「……」


妖しげな占い……ではないみたい。中央に水晶玉一つ置かれてるだけの空間。


「……」


席に着いた占術師は、私が話をする前に水晶玉に手をかざして、こう仰いました。


「あなたは……大切な人の無事を心配していますね。……その大事な人は今、遠く危険な場所にいる」


「っ!」


「……その人は、あなたに大丈夫だから、と行って去った。……けれど、それでもあなたは心配でたまらない」


「な、何故……」


「……。ふふっ。わかりますよ。だって」


占術師の方がフードを外す。その方はイタズラっぽく笑って見せた。


「私みたいな顔してますから」


「あ、あなたは……」


「こうして話すのは初めてですね。私はハル。フウヤさんの……何て言うんですかね。上手く言い表しづらいですけど……友人ですかね。きっと。フウヤさんにとって」


「……天使、では?」


「あはっ。そうかもしれませんね。私のこと、ご存知でしたか」


「フウヤ様が度々仰ってましたわ。一緒にいるのをお見かけしたこともあります」


「なるほど。……マナさんでしたよね。聞きましたよ。フウヤさんの恋人になられたそうで。よくフウヤさん落とせましたね。あんな変態さんなのに」


「……私も不思議に思ってますわ。けれど、あの時のフウヤ様の言葉に嘘偽りはありませんでした」


「フウヤさんはそういう時に嘘をつける人じゃありませんから」


「ええ」


「……不安、ですよね。いくら大丈夫って自分に言い聞かせても。言われていても。無事か確かめられないから、どうしても」


「……」


「……帰ってきます。約束しましたから。マナさんも、フウヤさんとしたんじゃないですか?」


「……はい」


「大丈夫。フウヤさんを、そしてフウヤさんを信じる自分を信じましょう。……なんて、まだ不安な私が言えることではありませんが」


「……あの」


「なんでしょうか?」


「その水晶で占う事は出来ないんでしょうか?……占術師、なのですよね?」


「私、身近な存在であればある程占えなくなってしまうみたいで。……フウヤさん達が来てから知りました。恐らく母は違うんでしょうけど。……優秀な占術師だった、と聞いてますから」


「……」


フウヤ様の言葉を思いだし、口をつぐみます。


「……一つ、お聞きしていいですか?ハル様」


「ハル、でいいですよ」


「……ハルさん。では、お一つ。……あなたにとってのフウヤ様は、どのような方なのでしょうか?」


「んー……近いのは……頼れるお兄ちゃん、ですかね。本人にはとても言えませんけど」


「……ですわね。嬉々として飛び上がりそうですわ」


「い、今のは絶対フウヤさんには内緒にしててくださいねっ」


「分かりましたわ。秘密です」


青空が少しどんよりとし始める。一雨来そうな風を、ほのかに感じた。






「……」


「……」


レーテリアの兵士がオロオロとしている。ふむ、それもそうだろうな。


私、レールが今いるのはレーテリアの城。目の前にいるのはかつての同士、ビードル。……恐らく私とビードルの顛末を知っているのだろう、この者達は。


「何か用か、ビードル」


「……その、あんときは……悪かったっす」


ついこの間対面した時と打って変わって萎縮しているビードル。……なるほどな。


「謝罪するためにワザワザ呼び止めたのか」


レミール達との対談を終えたばかりというのに、やれやれ。身から出た錆、というやつか。


「……っす。あんとき、アンタをバカにした発言して……アンタに酷い傷を負わせたっす」


「それは否定しようのない事実だな」


「うぐっ」


「あの傷さえなければ、私はあの時、フウヤ殿達に同行できたし、もう少し事を穏便に運ぶことができたかもしれん」


「…………」


すっかりうなだれるビードル。……悪ふざけもこの辺にしておこうか。


「……が、あの時、お前と腹の底から会話ができた。それは大いに意義のある事だ」


「れ、レール……さん」


「互いに本音をぶつけた。ああいった事でもなければ、お前はずっと抱え込んでいたに違いない」


「…………」


「……これからまた、前のように、共に戦ってくれるか?」


「~~っ!!も、勿論っす~!!」


泣きついてくるビードル。……やれやれ、すっかり以前の調子だな。


ビードルの頭を乱雑に一撫でし、ビードルから離れる。


キョトンとしているビードルに、私は持参している木刀を放って投げ渡す。そしてもう一本、脇差しから取り、構える。


「へっ?な、なんっすか、これ?」


「なに、仲直りの印として立ち会うのも悪くないと思ってな。……少しやり返したいし」


「へっ?今、なんて……」


「ふっ。……さあ、構えろ……!」


「れ、レールさん。もしかして怒ってるっすか……?」


「怒ってなどいない。ただ借りを返しておきたいだけだ」


「いやコレ絶対怒って」


「問答無用ぉぉ!!」


「ぬわーーっ!!」


……うむ。やはりこの方が、私の性に合っている。





「む、ここにいたのか」


レミール達を放り込んで、気晴らしに陽の当たる廊下で寝転んでると、声をかけられた。


「あら、サウル。なに、なんか用~?」


「……少し話をしたくてな」


廊下の、邪魔にならない端の方に座ってサウルが問いかける。


「レミールから聞いたぞ。お主とレンドの事」


「ふーん」


「……良かったのか?」


「なにがよ」


「……レンドと共に行きたかったのではないか?」


……ああ、そういう。


「そりゃあね。あのバカ、放っといたら真っ直ぐ感情的に進みかねないし、傍で手綱でも引いてやりたかったわよー。……でも」


浮かんだのはあの娘の姿。


「……もう隣に、代わりに手綱を引く人がいるから……私はいいのよ」


「……レンドは、周りの女性にこう言っているそうだ。後悔のないように進め、と」


「……」


「余計なお世話だと承知している。それでも……お主は、このままでいいのか?」


「……サウダール。アンタ、ミレンにべったりじゃなかった?いいの?そんな人に恋敵を作るようなアドバイスして」


「このまま見て見ぬフリしてる方がボクはもっと辛い。……ボクが思ってるよりも悲しいことになってしまうかもしれない。それでもボクは、当人達にとって最良の選択をしてほしいのだ」


「……ふふっ。大人ねー。レーテリオン皇帝よりも大人なんじゃないー?」


「わ、わっ」


サウダールの頭を乱雑に撫で、ポツリ呟く。


「最良の選択、か。……自分ではしてるつもりだったんだけど、そっか。してないように見えたか」


「……」


「レミールからなんて聞いたの?私とレンドの話」


「……昔、レビィがレンドに告白したが、断られたと。……レミールが好きだから、と」


「そうね、その通りよ。当時のアイツはレミール一筋だったから」


あの頃のアイツは純心だったわね。……心はもう汚れてるけど。私も人の事は言えないけどね。


「少ししてレミールにフラれたアイツは、何の影響か、ハーレム作るって言い出して。……私は乗らなかったけどね。ハーレムの一員に」


「……何故なのだ?」


「そりゃそうでしょ。だって、好きな人にとっての一番でありたい。そう思ってるんだから。他の人と同じなんて思って貰っちゃイヤだったのよ」


「……」


「……ハーレムなんていつか壊れるに決まってる。その時に、もう一度……なんて思ってたけど、そこにミレンが現れたのよ」


「……」


「あっさりレンドの心に入っていって。感心する反面、悔しかった。レンドの好みのタイプっていうのもあったんでしょうけど、あまりに息が合ってた。……まるでそう運命づけられてるみたいに」


「……レビィ」


「……。アイツが帰ってきたら、もう少しアピールしてみるわ。積極的に」


「えっ?」


「もっと魅力的になる。それこそ世の男共が放っておけない程に。後悔も振り切るくらい全力で。これでダメだったら、キレイさっぱり諦める」


「……」


「……分かってたのよ。このままじゃ苦しいだけって。……でも、決心がつかなかった。……あなたのおかげでついたわ。ありがとね、サウル」


「い、いや。ボクはただ――」


「謙遜はなーし。いい、アンタは悩める乙女を救った。その事実だけ受け止めればいいの」


「……」


「返事は?」


「……うむ!」


「よし」


もう一度、頭をクシャクシャと撫でる。


「や、やめるのだ~!」


「撫でられやすい頭してるアンタが悪いのよー」


「な、撫でられやすい頭ってなんなのだ~!」


ちょっとずつ変化していく平和な日常。今日もそのはずだった。




ドォーン……。




遠くの方で轟音がするまでは。


「な、なんだ?」


「……。サウル。広間にいて。いい?絶対に外に出ちゃダメよ」


「……わ、分かった」


起き上がりながらサウルに指示し、見送る。直後にキースを呼んだ。


「キース」


「はっ」


「国中の老人や子供、女性を城とか安全な場所に集めて守り抜いて。兵士にも周知を」


「了解しました。ご武運を」


キースがいなくなり、レビィも走り出す。ほぼ同時に放送が流れた。


『ディブトーニ・レーテリア両国民の皆様にお伝えします。大規模な襲撃を確認しました。直ちに強固な建物に身を隠してください。繰り返します――』


防衛戦の幕が切って落とされた。

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