喧騒都市ーパミッタ
パミッタ。別名で喧騒都市と呼ばれているここは、その名の通り喧騒に満ちていた。
「なんでこんなことに……!!?」
「いいから逃げろ!今日だけでもう百人はやられてんだぞ!」
「ああ神よ、神よ……!!」
……違う。これは喧騒というより……!
「混乱、だよね」
「ああ。……おい、そこのアンタ」
「あぁ!?なんだ――!?」
「何でみんな逃げてんだ?何があった?」
「っ!その口ぶり……お前ら、余所者か?」
「そうなるな。隣の都市からってオイ!」
答えてる間に住民が逃げ出した。……追いかけたいが。
「なによ、なんで逃げ――」
「待て、年増」
「っ!変態!!」
「裾を掴んだだけで変態認定すんな。……今は放っておこう」
「なんでよ?情報得なきゃ」
「混乱しきってる奴らに聞いても、マトモな答えは返ってこないだろ」
「そうだね。他に話を聞ける人がいるといいんだけ」
アキハねぇが辺りを見回した、その時だった。
「ギャアアアアァァァ!!」
けたましい悲鳴が上がった。方角はさっきの……!
「くそっ!」
「フウヤくん!」
「フウヤ!」
たまらず駆け出す。都市の入り口の最初の角を曲がった先。悲鳴が聞こえた場所に着くと、
「……ぁ……たす、け……」
血塗れで転がるさっきの住民。その前には黒色の鎧を身に纏い、手に長い鎌を持った巨躯の大男が。
「ン?てめぇらも住民カ?……いや、違ぇナ。てめぇらか、侵入者ってのハ」
「……そいつから離れろ」
「ン?あぁいいゼ!」
「か……ッッ!」
瀕死の住民を踏みにじり、オレらに相対する巨躯の男。
「まとめて相手してやりてぇが、ここのルールがあるみたいなんでナ。一人一人相手してやるヨ。誰からくル?」
オレが前に出ようとするよりも先に、動き出した小さな影。
「ごめんね。ここは私がやる」
「アキハさん?」
「……ミレンちゃん、ライラちゃん。この人をお願い」
「……へェ。こんなのが相手カ。まあそこそこやるみたいだし、どうせ皆殺しにすっからいいカ。オレの名は七紅魔の一人――」
名乗りながらアキハねぇに襲いかかる巨躯の男。大鎌の矛先は既にアキハねぇを捉えていた。
「ザンガダ」
醜悪に笑い、大鎌が振り下ろされる。
「良かった。ダラダラ話されてたら、私がお約束を破っちゃうところだったよ」
大鎌の動きは、アキハねぇの指一本で止まっていた。が、それもコンマ数秒の間のみ。
パキッ……バラバラ。
「なン……!?」
大鎌が崩れ去る。何の前触れもなしに起きたその事象に巨躯の男の顔色が変わる。その間にもう勝負の趨勢は決まっていた。
ガンッ
「がっ……!!」
右から猛烈なスピードで繰り出される拳。巨躯の男がその一撃で吹き飛ぶ。が、
「っ!!」
「ぐがっ……!」
吹き飛びきる前に左足でハイキックし、元の位置へと無理やり戻しながら、
「……っっ!!」
右手のアッパーが炸裂。その衝撃で黒色の鎧が砕け散る。巨躯の男が宙を舞う。
「っ!」
軽々と、常人ならざる跳躍をしたアキハねぇは、巨躯の男の頭上まで飛び、
「はっ!!」
「っっ!!」
骨を砕けさせる音を立て、かかと落としで地面に沈めた。
「……アキハさん、化け物すぎない?」
「言ったじゃん。化け物だって」
「アキハさんに伝えておくわね」
「いや、お前も言ったよな」
辺りが騒然とする。勝負はもう決まった。そう思われたのに、
ガラッ
巨躯の男が立ち上がる。血で辺りを、自身を染めながら愉快そうに笑う。
「いいねェ。ここまでやるとは思わなかったゼ。もっと楽しま――……」
巨躯の男の言葉が虚無に呑まれる。
背後に回っていたアキハねぇが巨躯の男の首を真反対へと回転させ、巨躯の男の活動を停止させた。
その表情は、ドMの方でも拝みたくないだろう表情だった。
「……あ、アキハさん?」
「ゴメンね。グロテスクなの見せて。こうでもしないと“負け”って認めてくれないと思って」
「え……?」
「……そろそろホログラムでもいいから姿見せてくれないかな?キッシュちゃん、だっけ?」
アキハねぇの言葉に合わせ、赤毛の女がホログラム映像で現れた。
『あらら?もう二人目?早いね』
「そっちの人が暴走してたからね。早めにお会いできたよ」
『んー。ま、彼にその辺りの事期待してもダメか。それにしても残念。一人くらいは道連れにできるかなーって思ったのに』
ため息をついたキッシュ。同時に後ろの、肉塊と変わり果てている奴が動き出した。
「……なによ。あれ」
「き、キモいです……!」
「……」
コイスさんの表情が嫌悪感に溢れる。……コイスさん。アンタ、やっぱり。
「まだやれるゼ……止めんなよ、キッ」
巨躯の男が消える。発した言葉は霧散する。
『負け犬は引っ込んでなさいねー。完璧に負けだから。……フウヤくんと違って非情なのね、お姉さんは』
「アンデッドに変わり果てた人にはあれぐらいしないと」
「え、アンデッドだったんですか、あれ?」
ミレンの言葉に、アキハねぇが答える。
「普通、アンデッドに意思はないんだけどね。多分、さっきの人は特別な力で意思を植え付けられてたんだと思う。その意思は排他的で暴虐だったけど」
『よくわかったね』
「だって臭かったもん。死臭がしてた」
『なるほど。それはこっちのミスだね』
「……」
『……。ふふっ。その敵意、ちゃんと受け止めたよ。フウヤくん。じゃあ次、また頑張ってね~』
ホログラム映像が消える。……言いたいことは直接ぶつけよう。
「……ひとまず鍵、探さなきゃな」
「鍵ならここにありますよ」
チャラッとライラが鍵を手にしてる。
「なんでお前が?」
「この人が持ってました。……大丈夫ですか?」
「あ、ああ。助かった。……まだ痛ぇけどな」
「傷は思ったより深くないです。大丈夫、安静にしてれば」
「……なんでアンタが鍵を?」
「さあな。なんか抵抗した時に掴んだ気もするが……もう覚えてねぇや」
「……」
「フウヤ?」
「他のケガした人の手当てをしよう。話はそれからだ」
表通りに出ると、凄惨な光景が広がっていた。
抉れた地面。薙ぎ倒された樹木。崩壊寸前の家屋。傷つき蹲る人々。
「こりゃひでぇ……!!」
「……!」
「アレスタ・フォートレス、ヒーリング・ゴーレム」
「うっふぅん。お呼びで、ご主じ……なによ、これ?」
「見ての通り大惨事よ。診て回って。これ、包帯」
「OK。必要物資はその都度要求するわねっ」
去っていくナース服のゴーレム。……。
「ミレン。お前、シリアス苦手派?」
「なんの話よ」
「あのゴーレム、オカマじゃん」
「作った時からああなのよ。私にはどうしようもないわ」
「まあ、オカマに対する偏見とかはないんだけどさ……」
横目でゴーレムの奇行を見やる。
「噴怒!!」
自分の胸を思いっきり叩くゴーレム。叩くと同時にポコポコと小さな人形の物体が。
「じゃ、各自診て回ってね」
「あいあいさー、おやぶん!!」
「……私のことはママと呼びなさい」
「あ、あいあいさー、まま!!」
出てきたそのミニゴーレムは怯えながら離れていく。
「アレ、色物じゃないとは言わせんぞ?」
「い、いいでしょ。役に立ってるんだから」
「ま、そりゃそうだ。……オレらも動こう」
その後、ミニゴーレム達に指示されながら、慣れない手付きで応急処置をしていく。
……レンドやコイスさん、女性陣はともかく、年増、お前なんでそんな出来んの?ゴリラでしょ?
なーんて言ったらホモ・ゴーレムに襲われそうなんで黙る。うん、静寂は美徳。
「……ステンバーイ、ステンバーイ。……楽しみの我慢は大事だよなぁ」
「……」
年増、オレ黙ってたよ?見てもいないよ?なのになんでスタンバイさせてんの?ボクワカラナイ。
ちょっとしたギャクパートを終え、一息つく。幸いにも死者はいなかった。が、
「それ、本当か?」
「ああ。昨日、そしてアイツが現れた一昨日の被害はこんなもんじゃない。死者も大勢出てるって話だ」
「……」
一番最初に質問してた住民に話を聞いた。本来なら無傷の人に話を聞きたいが、皆家に閉じ籠ってしまった。
「今日も、アンタらが現れてくれなかったら何百人も死者が出てたさ。俺も含めてな。だから……ありがとう」
「……最初逃げたのはオレ達が外から来たからか?」
「ああ、そうだ。二日前、いなくなった領主の代わりと言って、アイツは外から来た。以来、怯えてんのさ」
「……」
「他の皆も恐らく似たような反応だろう。暫くアンタらがここにいて、献身的に見返りも求めず介護するってんなら、皆の見る目も変わるだろうがね。生憎、俺達はアンタらの求めてそうなもんは何も持ってないぜ」
「……前の領主は?」
「さあな。蒸発したかもしれん」
「名前を知ってるか?」
「ロレット、と名乗っていた。偽名かもしれんがね」
「ちょっと」
暴言年増が耳打ちする。やめて、聴覚を責めないでぇぇ!!
「……なに気持ち悪く悶えてんですか。黙って耳貸してください」
「返せよ」
「ばっちぃ耳なんてのしつけて返しますよ」
「ばっちくないわ」
渋々、暴言年増に耳を貸す。
「ロレットという名前、確か七紅魔の一人だったはずです。ハゲロリコン」
「……よく知ってるな。ってか、最後のいるか?」
「聞いて思い出しました。貿易ギルドにいるとその辺詳しくなるんですよ。最後のはアナタへの悪口として定着させようかと」
「すんな。紳士と呼べ。……そうか」
「フウヤ?」
「……多分、ここにいた領主が今、攻めてる。オレ達が守らなくちゃいけない国を」
「っ!」
「……でも、大丈夫だ。信じよう、あっちを」
「……事情は知らんが、アンタらも切羽詰まってるらしい。……これで充分だ。行け」
「だが」
「なぁーに。あのおっかない奴がいなくなってくれたんだ。堂々と街を歩けるし、それに看護の心得がある奴も何人かいる。どうにかなるさ」
「……ミレン」
「分かってるわよ。……あのヒーリング・ゴーレム、置いていくわね。指示に従うように言っとくから、好きに使って」
「ははっ。敬語を使わない奴らにしてはえらく気ぃ遣ってくれるじゃんか。ありがとな」
少し弱々しい彼に別れを告げて先に進む。……そうだ。進まなきゃいけない。被害をこれ以上出さないために。被害を無かったことにする事はもう、できないのだから。
「……」
フウヤ達が去り、ドカッと家の前に座り込み、持っていたライターでしおれた煙草に火をつける住民の男性。
火こそ灯ったものの、煙の出は悪かった。
「……あの時から、この国はイカれちまったなぁ。……ああいう奴らがもしかしたら救世主っていうんかね。……名前、ちゃんと訊いときゃ良かったな。……もしかしたら、お前らの、仇……取ってくれるかもしれない……っての――」
男性の右手がダラリと下がる。しおれた煙草が手から離れ、風に運ばれていく。
すぐ側のタンポポが楽しそうに、風をそよいだ。




