破壊ってやっぱりチート
「はぁっ……はぁっ……!!」
オレです。颯谷です。まだ捕まってないよ。幼女の希望、オレの貞操も無事だよ。かろうじて体力もまだ残ってるよ。……じきに無くなりそうだけど。
一方、オレを追いかけてるゴリラはと言うと、
「うほっ、うほっ、うほっ!」
スピードや体力が衰える気配はなく、わずかに理性が残っているのかパンツ状態で走ってる。
「ち、ちくしょう……どっか行けよぉっ!?」
足が上がらなくなってきていたのか、地面の石に躓き、派手に転んだ。
「ってて……うぉっ!!」
痛めた足を押さえていると、両手を地面に押さえ込まれた。
「やっと追いついた……うほぉ」
「ぎぃやぁぁぁ!!!」
いやぁ!目の前にゴリラぁ!!めっちゃ荒い息してるぅぅ!!
「さ……やろうか」
「ま、待てゴリラ!落ち着くんだ!オレは人間で、お前はゴリラだ!よって種の存続はできない!OK?」
「うほぉ。安心しろ、俺も人間だ……」
「ぜってぇウソだよ!純然たるゴリラだよ!学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだよ!」
「うほぉ……俺が人間かゴリラか。そんな些細なこと、この際、どうだっていい。さぁ、楽しいコトしようぜ……」
「あぁ!いや、助けてママー!ミレンー!地神さまー!!」
「……ようやく、きちんと呼んでくれましたね」
「へっ?」
時間が一時停止したかのように、ゴリラの動きが止まった。と同時にどこからか痴神が現れた。
「…………」
「あぁウソ!ウソですちゃんと呼びます!だからどっか行かないで地神さまー!」
「……いいでしょう」
はぁと溜め息をつきながら戻ってくる地神。地神は真っ直ぐオレを見据えて言った。
「颯谷さん。あなたもようやく人を敬う気持ちが出てきたようなので、今から魔法を授けます」
「え、オレが魔法使えなかったのって……もしかしてそういう理由?」
「だって人を、というか神である私を敬えない人に魔法を教えたくなかったんだもーん」
ぷくぅと頬を膨らませる地神。……可愛くねえ。
「…………」
「あぁウソ!めっちゃ可愛いです!いやぁ天使みたいだなぁだから魔法教えてお願い!」
「それでいいんです」
フフンとふんぞり返る地神。おい、キャラ変わってんぞ。
「では、今から魔法を授けます。その魔法は破壊。ぶっちゃけさじ加減で何でも壊せます」
「物凄くぶっちゃけたな」
「使い方次第では良いようにも悪いようにも働きます。世界を救うことも壊すこともできます」
「ふーん」
「……興味無さそうですね」
「世界とかどうだっていいし。自分さえ良ければいい」
「限りない自己中心的発言ですね」
「ただ……身近な人は守りたいかな」
「颯谷さん……あなた、美恋さんのこと」
「やっぱ幼女は保護してかなきゃな!その為にはまずハルちゃんのお願いからだ!」
「……やっぱ変態だった」
「地神さん、もう一度聞くけど、何でも壊せるんだよな?」
「ええ。目の前の薄汚いホモ野郎も体ごとぶっ壊せますよ。てか壊して。お願い」
「さすがにそこまではしねぇよ。ちょっと考えがある」
「……分かりました。では、私も戻りますね」
「あれ?コイツ、離してくれないの?」
「触りたくもないので。あと、よろしくお願いします」
「……分かったよ。ありがとう」
「ええ。これから頑張ってくださいね」
意味深な言葉を残し、地神が離れる。そして世界が動き出した。
「うほぉ……うほぉ……」
目の前のゴリラの荒い息も蘇る。っつーか、これ以上はホントにヤバいな。
脳内に魔法のやり方が浮かぶ。小さい頃から慣れ親しんだように、スムーズに。そして目の前のゴリラを見て、魔方陣を描く。
「わりぃな……心淵崩落」
「っ!?うぉ、な、なんだ……?ぐ、ぐぉぉ……!!」
ゴリラが胸を抑える。自分の体内の変化に気づいたらしい。どうやら本来ならパッと効力の出る魔法らしいんだが、ゴリラがずっとうめいてるって事は効き目が悪いようで。
手ぇ抑えられてたのが関係してんのか、俺がまだ未熟なのか……きっと前者だな、うん!
「こ、これは……!?」
隻眼の兵士とその他の兵士が近くにいたのか、こちらの様子を近くで窺ってる。丁度いいや。隻眼の兵士にさっきの仕返し、させてもらおうかね。
「ぐっ……ぐぅぉぉぉぁぁぁぁ!!」
野獣の最後の叫びがこだまする。兵士が事態を飲み込めないまま、こちらに武器を向ける。
「ああ……ああ……!!」
弱々しい声がゴリラの口から漏れ出る。しばし放心状態だったが、やがて自分の格好を見ると、
「きっ……きゃああ~~!!」
まるで乙女のように悲鳴をあげ、衣服をかき集めてその場から逃げ出した。
……ああ、最後にキモいもん見た。早くハルちゃんで癒されなきゃ。
「きっ、貴様あの時の……!何者だ!ウンバ様に何をした!」
兵士が取り囲む。隻眼の兵士が声高にオレに問いかけるので、優しいオレは律儀に答えた。
「オレはフウヤ。とある事情により、この国を救いに来た。あのゴリラには、心の根幹にあった男の衝動を壊させてもらったよ。じゃないとオレが危なかったんでな。これでヤツはもうホモじゃない。ただのオカマだ」
兵士たちがザワザワとざわつく。隻眼の兵士だけは、毅然とした態度を崩すことなく、オレに吐き捨てるように言う。
「男の衝動を壊す?何をバカな……そんな事できるはずあるまい。この国だってそうだ。そんな簡単に救える国ではないわ!」
「……ふーん。ま、信じないならそれでいいさ。あ、ところでアンタ、今日出会い頭にケンカ売ったよな?借りは返させてもらうぜ……武器崩落」
バキバキッという小気味いい音とともに、隻眼の兵士の武器が壊れる。オマケで周りを囲んでた兵士のも。
「な…………!」
兵士、そして隻眼の兵士が黙りこむ。ん、じゃあこんなとこかね。
「んじゃま、オレは用事があるんで通させてもらうぜ。……待ってろ、あのくそ年増」
「まっ、待て!」
再び隻眼の兵士が言葉を発する。振り返ると、兵士が土下座していた。なんだ、何事だ?
「……徴兵されてはや三十年。こんな時を願わなかったことはない。貴殿の実力、決意、しかと見た。その上で頼みたい!我らを……この国を、救ってくれ!」
「え、やだ」
「なっ……!」
「オレはすでに、とある愛らしい少女にそう頼まれてんだ。今さらアンタらの頼みを聞く気はねぇよ。結果的には、アンタらの望み通りになってるかもだけどな」
「…………」
「もういいか?早く癒されたいのと、くそ年増をボコって、ついでに皇帝とも話してぇんだ」
「……兵士たちに伝令しておく。救世主が来た。邪魔するなと」
「救世主になるつもりはねぇよ。あくまで愛らしい少女のためだ」
「……三連凶には気をつけろ」
「三連凶?」
「キミが先ほど倒したウンバとも肩を並べる魔法を使う者だ。……実力は確かだ」
「忠告サンキュー。じゃな」
「……どうかご武運を」
兵士たちと別れ、ミレンたちが向かったであろう王宮を目指す。待っててミレンちゅあーん!……それと、
「待ってろ、くそ年増……!」