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ディブトーニ・レーテリアの日常 1

「…………」


今日は朝から誰かに見られているような気がしてた。フウヤさんじゃない。フウヤさんならとっくの昔に飛んできてる。誰だろう?


「どうしたのよ、ハル?ずーっと後ろ気にして」


「うん……。なんか誰かにずーっと見られているような気がして」


「まさか、あの変態じゃないでしょうね!?」


「ううん。フウヤさんだったらとっくに飛んできてる」


「……誰なんでしょうか?」


「見たら分かるでしょ。……そこに隠れてるのは分かってるのよ!今すぐ出てきなさい!!」


ビクッと草陰が揺れたような気がした。


「我が名はサヴェズダ=マキニ!灰と黒交わりし混沌カオス瞬隙すきまより生まれし存在モノ。我が烈華れっかの炎に散りたくなければ、その正体を白日の元に晒しなさい!」


「れ、れっか……?」


「そこ引っ掛からなくていいのよ!……って、女の子の声?」


「むっ、バレてしまった。……」


おずおずと出てきたのは桃色の髪をした、私達と同い年くらいの女の子。


「…………」


「アンタ、誰?なんでハルを見てたの?」


「そ、それは……」


「……あ」


カリットちゃんが小さく言葉を発した。


「確かこの人……この間くっついたレーテリア王国の……お姫様」


「お姫様!?」


ビクッと反応する女の子。……レーテリア王国のお姫様って、確か。


「なに、そのお姫様がなんでハルを?」


「そ、その呼び方はやめてくれ。苦手なのだ。……で、用というのが、だな」


「もしかして、フウヤさんの事知ってる?」


「!!」


やっぱり、と嬉しそうに見るお姫様の女の子。


「う、うむ。やはりそうか。お主がフウヤの言っていた、ハルか」


「うん。ハル=ミレッタ。あなたは?」


「う、うむ。サウダール=トラジール。皆からはサウル、と呼ばれている」


「サウル……え、なに?お姫様、あの変態と知り合いなの!?なんで!?」


「……二人はハルの友人か?」


「うん。紹介するね。サヴェズダ=マキニちゃんとバーシェ=カリットちゃん。マキニちゃん、フウヤさんはね、変態さんだけどそれだけじゃないんだよ」


「超がつくってこと?」


「間違ってはいないけど……あの人はね、世界を救おうとしてるの」


「……は?」

「……え?」


フウヤさんは嫌がるかもだけど。私と、それからサウルちゃんでフウヤさんの冒険譚を互いに補いあいながら語った。





「へー、レーテリアの方ではそんなことがあったんだ」


「うむ。変態だけど凄かったぞ、彼は」


「私もそう思う。変態さんだけどやる時はやってくれて……人の事を一番に想ってくれてるんだよね」


「……うむ。凄いのだ」


「……話聞いても信じられないわ。本当に同一人物?あの変態と」


「……でも、二人とも、変態さんっていう共通認識があるから……多分、同じ」


「んー。けど、私は二人みたいに高評価は出来ないわね、あの変態には」


「それは仕方ないよ。フウヤさんが悪いから」


「うむ。フウヤが悪いのだ」


「……お二人のフウヤさんへの認識、よく解らないです」


「で、サウルは私達の所に何しに来たの?フウヤ、とやらの話をしに来たの?」


「う、うむ。あ、いやそれだけじゃなくて、実はな。……」


モジモジするサウルちゃん。……。


「もしかして、一緒に遊びに来たの?」


「っ!!」


驚いて、四、五歩後退りするサウルちゃん。


「え、エスパーか、ハル……」


「占術師ではあるけど……占わなくても分かるよ」


サウルちゃんにスッと手を差し出す。


「遊ぼう!」


「……うむ!!」





「……平和ですねぇ」


「……そうだな」


広場にて戯れるハル達を横で見ながら、隻眼の兵士とハドソンが巡回している。


「レーテリアとディブトーニ、最初こそ近くなったことでいざこざが絶えませんでしたが」


「レール殿やレーテリオン殿の尽力、フウヤ殿やミレン殿の発言、そしてハドソン。キミの情報が活きたな」


「よしてください。ボクなんて大して何もしてないんですから」


「……少し前までは、考えもしなかった景色だ」


「ですね」


青い空がどこまでも広がり、植物は少しずつ芽吹き、鳥が安らかな鳴き声を奏でる。


「かと言って、気も抜けんがな。いつクラットスが仕掛けて来るかも分からん。巡回は必須だ」


「なんて、事務作業から抜け出したかっただけでしょう?」


「分かってくれ……。今まで戦場に赴いていた老兵にあの量は堪えるのだ」


「だから付き合ってるじゃないですか。息抜きに」


「ははっ。言うじゃないか」


「へへっ」


「……にしても意外だったな。キミはその……最近まで実直で堅物なイメージがあったので、こんなに気軽に話せる青年だったとは」


「それ、ボクも同じですよ。アナタはもっと真面目で厳しい方とばかり」


「互いに見栄……いや、外っ面を演じざるを得なかったというわけか」


「ええ。……フウヤさんのお陰です。こんなに自分をさらけ出せるようになったのは」


「うむ。しかしキミの場合さらけ出しすぎではないか?度々上層部の会議でキミの奇行が話題になるぞ?」


「そこはフウヤさんの悪影響ってことで、一つ」


「フウヤ殿のせいにしても逃れられんぞ。そろそろ減給処分にまで至るかもしれん」


「それはご勘弁を!!」


「なら奇行を改善することだな」


「……善処しまーす」


「うむ。さて、そろそろ戻ろうか」


「はい」


共に歩む二人。戦時を知っている二人だからこそ、この平和を何よりも尊く噛み締める。





――ところ変わり、レーテリア王国城内の一室。


「……」


「……」


「……」


レール、レーテリオン、レミールが互いを見、気まずそうに視線を逸らす行動を幾度も繰り返し、無言を保っていた。


この状況になったのは一時間前、レビィの発言からだった。


「アンタら、よそよそしい」


「は?」

「は?」


今後の相談をしていたレール、レーテリオンに対し、キパッとレビィが言いきった。


「……よそよそしいのも当然でしょ、レビィ。レールはディブトーニ側として来てるんだから」


「……う、うむ。そうだな」


「この場にいるのアタシらだけなのに、そんなかしこまった言葉を使う必要あるの?アンタら、家族でしょ?」


「……アイツなんか、家族じゃないわ」


「レミール……」


「呼び捨てしないで。私の中ではもう、アンタはいない存在なの。分かる?」


「……」


冷たく言い放つレミールに、どう言えばいいのか言葉を悩むレール。口を挟むか否か悩むレーテリオン。


「…………」


不意にレミール、レール、レーテリオンの体が浮かぶ。


「ちょ、ちょっとレビィ!?何してんのよ!?」


「……」


有無を言わさず、会議室に三人をぶちこむレビィ。直後に会議室の鍵をかけた。


「ちょっとレビィ!?」


「……腹が立つのよ」


怒りの色で、言葉を発するレビィ。いつもの飄々とした声色ではない事に、レミールの反論が止む。


「……家族がいるのに、いてくれるのに……そんなよそよそしい態度取られるとイラつくのよ。……家族がいない身からすると余計にね」


「……レビィ」


「……一時間、誰も入らせない。アンタらも出させない。……後は好きにして」


扉越しの声が遠ざかっていく。


互いに顔を見合わす三人だが、交差する視線はすぐに平行線を辿る。


――それから一時間。三人がそれぞれ普段座る席に腰かけるも、互いに発言はなく、無言の空間が永劫に感じられる程続いていた。


『……』


無言のまま、一時間が終わるのか。二人がそう思った時。レールが重い口を開いた。


「……今さら謝っても取り返しはつかない。私のした事は国を、そしてお前達を捨てたのと同義だ。それでも、言わせてほしい。……すまなかった」


「……すまなかった?」


その一言に、神経を逆撫でされたのはレミールだった。


「……たったその一言で済ませる気?私達を置き去りにした、この数年間を!レーくんの苦しみを隣で分かち合わなかったことを!!」


「……」


「レミール。私は」


「ごめん、レーくんは黙ってて。……唐突にディブトーニを止めてくるって出て行って、帰ってこなかったのは誰?母さんまで巻き込んだのは誰?皇帝になったばかりのレーくんに心労をかけたのは誰?……心からアンタを信頼してた私を裏切ったのは……誰だと思ってるの?」


感情的になり、この年月溜め込んでいた分を流すように、レミールの双眸から雫が滴り落ちる。


「……」


そんなレミールに何も言い返さず、見つめるレール。


そんな態度に、レミールの感情が激情となり迸る。


「そうやって黙ってるつもり!?逃げるつもり!?アンタはそうよ、ずっと!!ここに私達が来てからもずっと、アンタは逃げてばかり!!私達の気持ちを知らずに!!私達の追及を受けたくないばっかりにそんな――!!」


「それは違う」


「っ!」


低く、ハッキリと聞こえる言葉でレミールの話を止めるレール。一瞬目を閉じ、ゆっくりレミールに近寄る。


「……追及は、受けるつもりだった。いや、受けなければならなかった。……だが、人前ではできない」


「人前で自身のプライドが傷つくのを恐れたって訳――!!」


「それも違う」


感情の抑制がしきれず、震える声で皮肉るレミールに、少し優しく、レールは言葉を選びながら返す。


「……人前では、お前はブレーキをかけてしまう。私への追及の手を緩めてしまう。……それはしてはならない。父として子にした行いは、決して許せるものではないだろう。だからこそ……心から憎み、ぶつけてほしい。その怒りを、悲しみを」


「……何よ、それ……っ!!何よッッ!!」


レミールが大きく叫び、扉を壊す。その壊れた扉に一瞥もくれず、レミールが去る。


「…………」


「父上……」


「そう呼ぶな。どんな理由があろうと、私のした行いは消えん」


「……」


「……お前は、憎まないのか?」


「……憎まない、と言えばウソになります。……でも私は、アナタのした事を誇りに思っている。単騎で敵国に乗り込む。そんなマネ、私にはできない……。恨みと誇り、そして謝罪の気持ちがトグロを巻いている。そんな感じです」


「……。ああ、そうか。……素直な気持ちが聞けて、良かった」


「……父上はどう思われるのですか?……戦争を広げた、私達の事を」


「恨みなどすまいよ」


レーテリオンに向けるレールの眼差し。それは慈愛に満ちた、父親の目。


「子を恨む親などいまいよ。子が誤った事をすれぱ正すまで。……その逆もしかり」


「……」


「……今さら元に戻れる、などとは思っていないが、それでも言わせてほしい。私はお前達を愛している」


「……。ええ。その言葉が聞けて、とっても……嬉しいです。父上」


涙を流すレーテリオン。父子おやこの和解。それにはまだ至れていないが。きっと、これから――

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