因縁の相手
「ブェックシュ!ブェックシュ!」
「きったな。なに、風邪?」
「……どっかの誰かさん達が半裸でしばらく放置したからな」
「自業自得でしょうが、覗き魔」
「やりすぎって言葉知ってるか?どーすんだよ、今日だぞ?話し合いすんの」
「アンタ抜きで進めればいいでしょ」
「どこの世界に主人公抜きでストーリー進める物語があるんだよ」
「主人公?はっ!」
「鼻水つけたろか」
「そんな真似したら首へし折るわ」
「唐突なグロやめーや」
「フウヤくん、大丈夫?」
「今んとこ。……いやー、ありがとな、アキハねぇ。看病してくれて。しょーじき、アキハねぇが側で寝てたのを理解した瞬間、さよなら童貞……って思ったけど」
「さすがに病人にはしないよー。……病人には、ね」
「やだボク怖い」
「……さって、そろそろ行くか」
のんびりとした会話を切り、立ち上がるレンド。それに倣い、オレも立ち上がる。……だるい。
「困りましたね。フウヤさんがこの調子というのは……万一、戦いになった時が」
「大丈夫よ、コイスさん。コイツ、私達の中でも最弱だから。四天王なら真っ先にやられる奴よ」
「と言いつつ、ツンデレ年増は内心焦っていたのだ。大きな戦力ダウンに。声に少しでもツンデレさを出さないと伝わんないぞ、年」
ゴキッ
「……アレ?首があらぬ方向に曲がってる気がするぞ。あれれ~?」
「そういやミレンちゃん。ライラさんはどうしたんだ?」
「先に向かったわ。私達と副市長が会う手続きを済ませるって。意外と勤勉なのね、あの人」
「ミレンも見倣えよ、そこだけ」
首をガチッとはめ直す。ギャグ次元だからこそ許された高等テクニックだ。画面の前の皆は真似しちゃダメだぜ☆
「その言葉まんま返してあげるわ。ド腐れ覗き魔」
……うん。もうボク諦めた。いいもん、愛おしい幼女にさえ兄さんって呼ばれればそれだけで!
「あれ、レンドくんと覗き魔さんたち、行っちゃうの?」
「覗き魔さんはともかく、レンドくん、もっと居ようよ~」
「旅に出ます。探さないでください」
ガシッ
「ほーい。ショック受けんの分かるけど、面倒事起こそうとすんなー」
入口出て幼女達にあんな言葉投げ掛けられるなんて、あたい耐えられない!けど、そんなオレをレンドが逃がしてくれる訳もなく、片手でオレを掴んだまま、カザちゃんとヒナちゃんに話しかける。
「ごめんな。カザ、ヒナ。俺、行かないといけないんだ」
「ならヒナも行く!」
「ちょっとヒナ!カザも行く!」
「いや、あのな」
幼女相手にタジタジ(妬ましい)なレンド。そんな幼女を諭すようにでっかい人影が。
「はーい、アンタ達。そこまでだよ。レンドくん困ってるじゃないか」
「お母さん……」
「何するかは聞かないよ。でも、ちゃーんと無事な姿見せんだよ、アンタ達。ここに泊まったならもうみんな、アタシの子さ」
オレは怪物の子だった……?
「アキハさん。後できつーいお仕置きを覗き魔にお願いします」
「うん、大丈夫。しようと思ってた」
なんでや服部。……オレは誰だ?
「ゲツさん……。はい、必ず戻ってきます」
「いい返事だ。アンタらも元気でね」
「大変お世話になりました」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
みんな口々に感謝の意を述べる。……こーいうの苦手なんだよな、オレ。
「……世話んなりました」
「はい、じゃあね!」
肩をドンドンと叩かれ咳が悪化するも、そのままオレ達は宿屋を後にし、貿易ギルドに向かった。
「ようこそいらっしゃがりましたー。けっ!」
「……。約束の件で来たんだが」
毒舌で迎える年増に素知らぬ顔して尋ねる。知り合いなのがバレると面倒だ、とオレの第六感が告げている。ふっ、風邪でも衰えぬ我が灰色の脳細胞が恐ろしいよ。
「奥になりますー。有り金ぜーんぶ落としてくださいねー」
「……」
昨日より罵倒が優しい……?気のせいだな、うん。
「おっ、おっ、お待たせしました~!!ふぅ……!」
不意打ちだった。一度会ってるのに、昨日色々ありすぎて忘れてた。頭に温泉マークの毛を立派に生やした眼鏡の太ったおっさん。渾名、温泉さんのご登場だ。
オレ、ミレン、レンド、ダウン。
「げっほげほ!げほげほ!!」
「か、風邪ですか?大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思います、ええ……。あの、副市長様は?」
「こちらにいらっしゃられます。中へどうぞ」
よーし、本番だ。腹筋よ、静まれ、静まりたまえ……。
「……」
よーし、見ない。オレは温泉を見ない。
なんとか呼吸と笑いを整え、シリアスな表情になる。
コンコン。
「ブレイさま、例のお客様達が参られました」
「通したまえ」
ギィー、と低い軋む音を奏で、温泉が扉を開ける。中には洋室のような、少し色褪せた白の壁で囲まれた部屋。中央に設置された素朴な机とイス。イスは左右にそれぞれ置かれ、入口から見て左側には男が座っていた。
小狡そうな眼。口は酷薄に閉じられ、口元は無精髭一つない、一見すれば身なりの整った老紳士だ。
「ギルン、下がりたまえ」
「は、はっ!」
オレ達が入ると同時に、温泉が飛び退いて出ていく。……これ、迂闊に小粋なトーク挟める相手じゃないな。ただただ単純に効率化を求める、無駄話が嫌いな奴だ。
「……キミ達がコイール王国から来た貿易商。違いないかね?」
「は、はい!」
コイスさんも少しどもる。……前評判とは売って変わった雰囲気だな。もう少し話す余地があるかと思ったが。
「全員いるかね?」
「はい!」
「よろしい。ならば奥へ進みたまえ。奥にこのグゲンの指揮者がいる」
……?なんか言い方が?
引っ掛かりを覚えたか否かのタイミングで、突如として老紳士が消えた。まるで夢幻でも見せられていたかのように。
「……今、何が起きました?」
「……多分、瞬間移動かな。幻術にしてははっきりしてたから」
「瞬間移動?でも出れる所って、私達が入ってきたとこと奥しか……」
「……来いっていう暗示なのかもね」
「目的ははなからトップだ。行こうげっほごほ!!」
「緊迫感なくなるから咳止めるか息止めてくれる?永遠に」
「死ねと申すか」
「ええ。覗き魔」
「いつまでもしつこいとモテないぞ、年m」
顔面スレスレに拳が飛んできた。病人相手にやるべき事じゃないと思うの、ボク。
「……行こう。あの二人のやり取りに付き合ってたらキリがないし」
「そうだね。フウヤくん、ミレンちゃん。先行くよー」
「待ってください、行きます」
「オレは休m」
「は?」
「冗談に決まってるだろ。じゃなきゃこんなバッドコンディションでこんなとこまで来ないわ」
「ならいいけど。皆まで言い切ってたら息の根止めてたわ」
「バイオレンス過ぎん、今日のお前」
「なーんか朝から妙にイライラすんのよ」
「ああ。いわゆるせいr」
ぶちのめされました。
「随分長い廊下だね」
奥へ、という言葉に偽りはないようで、割りと長い。しかも薄暗いし。
「ですね。少し明かりが灯っているのが救いです」
「これで真っ暗だったら設計者、出てこいやぁするとこだげっほごほ!」
「…………」
「どうしたのよ、レンド。難しい顔して」
「ん、ああ。いや。なんでも」
「……そーいやなんか因縁の相手がいるっぽい話あったな。このエリアを仕切る七紅魔と。ガース、だったか?」
「……隠し事する意味ねぇな。そうだよ、ソイツの気配がする」
「……居るのはじゃあ確定か」
「まだ生きてるってんなら、今度こそ俺の手で仕留めなきゃなんねぇ。アイツだけは許さねぇ……!」
「……。オレを半裸で放置しやがった年増だけは許さあっづあづー!!」
特別なスープをー、あーなたーに、あーげる♪あったかいんだからぁ~♪……いや熱いわ!!(ノリツッコミ)
「空気を和まそうとしたんでしょうけど、私に矛先向ける必要はないでしょ、覗き魔」
「だからって病人に熱湯注ぎ込むかフツげっほげほ!!」
「大丈夫、フウヤくん?……ミレンちゃん。今のはダメだよ」
「うっ……」
「……和まそうとしてるとこ悪いけど、着いたみたいだ」
そこはドーム状の部屋だった。いやに近代的な施設を思わせるそれは中央にある筒状の柱で支えられているかのよう。その柱を背に、男が一人立っていた。
「ぐふふふ。来ましたね、レンド」
「……ガース」
「何故生きているのか、といった顔ですね。答えは簡単にござるよ、レンド氏。紳士は死なぬもの。そこにいるフウヤ氏もご存知のはず」
「……オレの事も知ってんのか。っつーかこれ、まるでオレ達が来た目的がバレバレみたいなお出迎えだな?」
「ええ。この国の掌握、でしょう?」
「……違う。オレ達は守りたい。そして取り戻したいだけだ」
「まあ、その為にはこの国を倒すしかありませんから、結果は一緒です。いやー、兵士を大挙して物量に物を言わせるかと思いましたが……彼女の言う通り、本当に人死にを出したくないようでござるな。甘い!付き合いたてのイチャラブカップルのように甘い!」
彼女……?
「御託はその辺でいいか?」
躊躇なく発泡するレンド。標的となったガースは、食らったにも関わらず飄々として答える。
「いったぁ!いきなりの攻撃は反則にござるよ、レンド氏!!」
「……なんかの魔法の類いか?銃弾が当たったリアクションとは思えないが」
「ふふふ。そこからの射撃など拙者に効かぬでござるよ~。悔しかったらここまでおーいで!」
「……上等だ」
「おい、レンド」
「止めないでくれ。……奴とは一対一で決着をつけてぇ。他のみんなも手を出さないでくれ」
「しょ、正気ですか!?」
コイスさんが慌てる横で、ミレンがそのまま真面目な顔つきでレンドに言葉を送る。
「……必ず、戻ってきなさいよ」
フラグかな?
「当ったり前だ。約束する」
フラグですね。
ニカッとミレンに笑いかけて、ガースの元に向かうレンド。
「おやおやぁ~?オレが知らぬ間になにやら親密な間がげっほげほ!」
「煽るなら最後まで煽んなさいよ、覗き魔」
チラッと横目でオレを見て溜め息をつくミレン。あれ、哀れまれてる?いや、殴られんのよりは百倍いいけど。
「……レンドくんとフウヤくんが仲良いの、分かった気がする。そっくり」
「え、マジ?オレ、あんなにイケメンだった?アキハねぇ」
「外見は月とすっぽんよりも酷い差だけど」
「ひっじょーにキビシー!!」
「……うん。やっぱり似てる」
「さいですか。……勝てよ、レンド」
「にょほほほ~。ホントに来てくれるとは。いやはや拙者好かれてあうちっ!?」
躊躇なく、再度ガースに銃弾を撃つが、効いてる感触がしない。リアクションはしてるが、痛くも痒くもないだろう。そんな感じだ。
「……何の魔法だ?」
「ぐぬっふっふ。拙者は何の小細工も弄じてないにござるよ、レンド氏。これは彼女が作ったルールによるものなりけり」
「彼女……?」
「そして今!役者は揃った!!さあ、拙者とレンド氏、雌雄を決する時があいたぁ!!」
バンバン!!
「撃ってりゃいつかは効いてくるか?」
バンバンバンバン!!
「ちょ、レンド氏!?説明させて!ってかそこの兵達も拙者とレンド氏の因縁を知りたいにござるよ、きっと!拙者には分かる!彼らの信教がぁうち!!」
「……これ以上は時間の無駄か」
銃撃をやめ、コツコツとガースに向かう。
「よ、ようやく対話する気になったでござるか、レンド氏。……ならば語り合おう!拙者らの争いの火だってアレ?レンド氏、近い。近いにござるよ。もう対話の姿勢にあらぁぁ!!」
ギリギリと間接技を決めにかかる。……が、人間にやってる感触がない。まるで軟体動物にやってるかのようだ。ガースも痛がってる声はあげてるが、苦悶の表情を微塵も浮かべていない。
「……気味が悪いな」
さっと離れ、距離を取る。野郎にいつまでも組み付くような趣味はない。効かないなら離れて様子を見るまで。
「……やっと気づいたようでござるな、レンド氏。このステージ、トリガーを引かない限り、拙者もレンド氏も互いに傷一つつけることはできないにござるよ」
「トリガー?」
「レンド氏。お主は拙者とガチンコで対決する。相違はないにござるな?」
「当たり前だ。今度こそここでお前をぶちのめす」
「その心意気やよしでござるよ!では、ポチッとな」
ガースが柱に触れた。と同時に何かの気配を感じた。
「これは……っ!?」
「ぐふふ。拙者とお主のタイマンを成立させる為、半径10mに特殊なシールドを張ったにござるよ。これで拙者とお主の戦い、誰にも邪魔させないにござるよ~」
「シールドだと……?」
「……レンドくーん!このシールド、外側からの干渉を一切受け付けないみたいー!」
「……!」
「簡単に言うと、私達何にもできなくなっちゃった!」
「ぐふふ。そこのso coolな美幼女の言う通り」
「えっ?」
「フウヤくん?」
「……これで誰にも邪魔させない試合の完成、ということにござるよ」
「……美幼女?……幼女は外見仕方ないにしても……美幼女?」
「フウヤくん、口開けよっか」
「って何その液たげっほげほ!やめて!流し込まないで!」
「……お前らなぁ……!!」
頼むからシリアスにやらせてくれ!!
「楽しそうな仲間にござるなぁ、レンド氏。そんな仲間の声が……今から絶望に変わると思うとワクテカで夜しか眠れないにござらよ!!」
「っ!!」
ガースが手を振り上げた瞬間、底から異形の者達が地表を破り這い出てきた。これは……!!
「この地に眠りし兵士達の成れの果てにござるよ。拙者、死霊魔法を使いこなせるようになり申してな、このぐらいお茶の子さいさいにござるよ」
「……!」
「あの時と同じではない。あの時の繰り返しになってはならない。今度地に沈みしはレンド、貴様だ。そして拙者こそが正しいのだ!」
「ちっ……!」
ゾンビに銃を撃つのは気が引けるが……やるしかねぇ!
バンバンバンバン!!
「くそっ……!」
撃っても撃っても起き上がってくる。シューティングゲームだったらあっさり沈んでくれんのによぉ!
「さて、ゾンビ共に任せている間に……仲間達に分かりやすく話しましょうか、レンド。我々の因果を」
「……っ!」
「あれは数年前、レンド氏がこの地に来た時のことでござる――」




