デッドレーススタート!
「また戻ってくることになるとはね……しかも侵入者として」
国のトップと話して問題解決を図ろう。そう決まったオレらは、再び王宮付近に来ていた。今は草むらに隠れている。心なしか、警備が多いような気がするな。
「警備が多いですね……」
「年増が逃げたからじゃないかな?」
頭に容赦ない一撃が入った。コイツの体のどこに……こんな、力が……!
「私が逃げたから、じゃなくてアンタが逃げたからってのもあるでしょ」
「それって結局、お前のせいじゃ」
もう一撃入った。やめて、頭割れちゃう。
「助けなきゃよかった。本当に口が悪い変態だわ」
「変態じゃない。紳士だ」
「アンタみたいのが紳士なら、他の人は聖人ね」
「あ、あの二人とも。ケンカはダメですよ?」
「そうね。してる場合じゃないわ」
「と……ミレン。何か良い魔法ないのか?」
年増、と言いかけたら握り拳を作っていたので渋々やめる。
「アンタは魔法、まだ使えないの?」
「使うやり方も、知識も何も頭に入ってきてないな」
「あの神、ちゃんと仕事してるのかしら……良い魔法があるなら、とっくに使ってるわよ」
「お前、どういう魔法が使えるんだ?」
「簡単に言うと、創造ね。ここにない物を創れるの。例えば……」
少し言葉を途切らせ、ミレンが目を瞑る。
「アレスタ・フォートレス、フラワー」
意味の分からない言葉を唱えたかと思うと、ミレンの手元に小さな花が現れた。
「す、すごい……!」
ハルちゃんが驚いてる。くっ、オレだって魔法が使えればこのくらいっ!
「こんなもんよ。ま、アニメやマンガで想像力を鍛えた私にはうってつけの魔法って訳」
「なるほど。日頃の想像、もとい妄想の賜物と。やっぱり腐女子じゃないですかやだー」
ベキッと鼻から音がした。あれ、鼻からこんな音って鳴ったっけ?
鼻からボタボタ血が流れる。図星だったからって殴るなよ、年増が。
「?」
不思議そうにオレらのやり取りを見るハルちゃん。うん、君はそのまま、純粋無垢なままでいいんだよ。
「魔法に頼らないとなると、一つしか手はないかしらね……」
「あるんですか?どんな方法を?」
「コイツを囮にする」
真顔でオレを指差す年増。ふぅ、やれやれ。
「リーサルウェポンたるオレを囮とは……やめとけ。死ぬぞ?」
「アンタがね。だからこの案以外で考えてるところよ。仮だけど弟になってる以上、見捨てる訳にはいかないし」
「か、仮?」
「ああ。こっちに来る時にとある神様に姉弟設定されちゃってね。まったくひどい話だよ。ただでさえ姉なんて存在がイヤなのに、その姉が年増で腐女子と来たらもうっ!?」
年増、渾身の後ろ蹴りが、オレの腹に鋭くヒットした。
その一撃の強さで、隠れてた草陰から飛び出てしまいまして。痛みを堪えながら目を開けると、そこにはたくさんの兵士の方たちが。
「…………」
唖然とする兵士の方々。そんな状況でオレの取れる行動は一つだった。
「あ、アイムファイン。テンキュー」
「侵入者だぁぁ!!」
友好的に接したのに!
声を揃えて言った兵士たちは、一斉に警笛を鳴らす。
「くっそおおぉぉ!!覚えてろあの年増ぁぁ!!」
追いかけてくる兵士たちから、オレは全力で逃げ出した。
「……囮作戦、開始よ」
「えぇっ!!?」
「アイツが自分を犠牲にしてまで作ってくれた時間、無駄にする訳にはいかないわ!」
「いや、自分を犠牲にしたというか――」
「行きましょう、王宮へ!兵士たちの気が逸れてるうちに!」
「は、はい!!」
「ちっくしょおお!!」
キツい!苦しい!死ぬ!激しく息切れなう!でも、やめられない止まらない!
止まったらまた牢屋に行くはめに――!
「……別にいいんじゃね?後で助けてくれるだろ、アイツ。なんだかんだお人好しっぽいし。いやでも、ハルちゃんにオレの勇姿を見せるためにはやっぱ頑張った方が……?」
息切れしていると言いながら割と余裕です、オレ。伊達に幼い頃に鍛えられてないキリッ。むしろ息切れしてからが本番です。
今後どうしようか悩んでいると、
「んあ……何事だ?」
「ウンバ様!」
走り抜けようとする草むらから、ゴリラが現れた。人間の言葉を話してるが、純然たるゴリラだ。さすが異世界。ゴリラも人間の言葉を話せるんだな。
「ウンバ様、侵入者です!!」
「侵入者ぁ?……おっ」
ゴリラとオレの目が合った。そしてゴリラは愉悦の表情を浮かべ、
「や ら な い か」
身の毛もよだつ恐怖の一言を言い放った。
「……は?」
言葉が飲み込めず、困惑するオレ。そんなオレに構うことなく、事態は最悪の方向へと動いていく。
ゴリラはオレの反応を見て嬉しそうに笑い、コートを脱ぎ始めた。
「ぬおおぉぉっっ!!」
事態飲み込んだ、オレ!やばいぞ、オレ!
いかん、捕まる訳にはいかん!全世界の幼女の為に、オレの貞操の為に!オレは、純粋無垢でなければならぬぅぅ!!
「うほっ。逃がさんぞ、オレの獲物っ。お前らは下がってろ。俺がヤる」
オレを追っていた兵士が下がり、ゴリラがオレを本気で追いかけ始めた。……シームレスに脱衣しながら。
「うぉぉおお!!」
絶対捕まったら死ぬ(男として)!!
かくしてここに、オレとゴリラのレースが開始された。