出発前にアレコレ 2
会議も滞りなく終わった翌日、出発の準備に取りかかる。出発は明日の朝の予定だ。
……が、行く前にせねばならぬ事がある。
「すぅー……ハールちゃーん!カリットちゃーん!サヴェズダ=マキニちゃーん!」
「へっ?」
「きゃっ!?」
「な、なんなのよ!?」
三人仲睦まじく遊んでる幼女達をハグ。ええ、疚しい気持ちなんてありませんとも!疚しい気持ちなんてありませんとも!
「ふ、フウヤさん!離してください!」
「あ、あのっ……!」
「離しなさいぃぃ!!」
「ふふ。今のオレに何を言っても無力。幼女に長いこと触れ合えなかった分、ここで相殺する!!たとえ国家権力だろうがなんだろうがムダムダムダぁっ!!」
「っこの手は使いたくなかったのだけれど……!アンタ!死呪を奏でられたくなかったら離れなさい!」
「ふっ。オレにその手のは……!!」
サヴェズダ=マキニちゃんのお手てに握られしは幼女最高警報装置。
「…………」
ゆっくり離れる。やだボク、まだ社会的に死にたくない……。
「落ち着いたみたいね……。ハル、コイツ誰?知り合いみたいだけど」
「……私、知ってる。……この前、審査員してた人」
「……ああ。いたわね、こんなの。よく覚えてたわね、カリット」
「……変な人だったから、印象強かった」
「あの、麗しい幼女の方々。つい、あの、テンション上がってやった若さ故の過ちなんです。運河のごとく広い心でどうか先程の事は水に流していただけないでしょうか?」
「……どうします?私だけならまだ、フウヤさんの奇行は許せるんですけど」
「……私は、いいよ。……反省してるし」
「ふっ。私の崇高なる神身に触れて、反省ひとつで許すとでも思っちぇ……思っているのかしら?」
土下座するオレの前にサヴェズダ=マキニちゃんは嗜虐的な笑みを浮かべ、右足を上げて言った。
「まずは靴を舐めなさ――」
「ペロペロペロペロ!!」
「……」
すっと右足を下ろすサヴェズダ=マキニちゃん。あれ、対応間違えたか?
「あの……ホントに舐めるなんて思ってなかったんだけど。なに、ハル、何者なのコイツ?」
「どうしようもない変態さんです」
「わんっ!」
「今度は犬になったわよ!?」
「おっといけない。眠れし我が衝動が」
「うわ……」
なぜだ。完璧な対応のはずなのに、完全にサヴェズダ=マキニちゃんとカリットちゃんから引かれたぞ?
「それで、どうしたんですか?フウヤさん」
「ちょっと幼女成分を補充にね。お陰で満たされたよ」
「……行きましょ、カリット、ハル。コイツ、危険人物だわ」
「いいえ、紳士です。ま、オレも長らく幼女たちの憩いの時間を邪魔するつもりはないよ」
「ほら、行きましょハル」
「あっ……」
サヴェズダ=マキニちゃんに手を引っ張られてこの場から立ち去ろうとするハルちゃん。けど、顔はずっとこっちを向いていて。
「……フウヤさん!」
「ん?」
「……絶対に、絶対に帰ってきてください!!」
「……おう!」
ハルちゃん達が見えなくなるまで、その場で見送った。……さて。
「あと二人、か」
「……」
「よう」
「……」
下宿しているという家に行くと、部屋でソイツが枕に顔を埋めていた。
「……明日にはクラットスに行く」
「……」
「想いを寄せてくれてるらしいから最後に、と思ったがわぷっ」
我ながら変な声が出た。発言中に枕を投げられたからだ。
「最後なんて……最後なんて言わないでくださいまし!」
声を震わせ、泣きじゃくるマナ。……やーっと顔見れた。
「なんで……なんで来てしまいましたの!このまま行ってくださればよかったのに!そうしたら、この切ない気持ちも……!」
「変わんねぇよ。黙って行ったら余計に辛くなる。だから来たんだ」
「……」
涙を堪え、見つめるマナ。
「レンドから伝え聞いてビックリしたわ。メシ食ってないんだってな」
「あ、アナタより年上の私がどうなろうと、あなたの知ったことではありませきゃうっ!?」
感情的になってるマナにデコピン一発。
「あんな、確かに年上は嫌いだ。年上がどうなろうが知ったことじゃない」
「……」
「けどな、もうお前は年上とか、そーいうカテゴリーに属してないんだわ」
「はっ……?」
意味がわからない、というリアクションをするマナ。うん、もっともな反応だね。正直オレも半分そんな感じです。この手の事の頭がごっちゃです。でも、今思ってることありのまま伝えます。
「最初は紛れもなく年増だった。これは揺るぎない事実だ」
「……」
「でも、久々に会ってコンテストで見て、あれ、コイツ同い年なんじゃね?と思ったんだ」
「……」
「で、その後のあの戦いで、あ、コイツは幼女だな、と思った訳だ。ドーユーアンダスタン?」
誰か、翻訳機を持ってきてくれ。コンニャクでもいいぞ。言ってて意味が分からん。目の前の奴もさぞ同じだろうと思っていると、
「ぷっ……あっははは」
笑っていた。雨上がりの虹のように晴れやかに。
「そ、それは……私に少なからず好意を持ってくれている、という解釈でいいんですのよね?」
「……いいんじゃねぇか?」
「ふふっ。素直じゃありませんのね、フウヤ様」
「へーへー。それでいいですよー」
「……。私は断言できます。フウヤ様。私、あなたの事が好きです」
「……」
「だから……だからでしょう。辛くなってしまったのです。フウヤ様がクラットスに攻めに行くと聞いて。私が同伴できない事を知って。……無事に帰ってこれる保証がありませんもの」
「何言ってんだ。保証ならあるだろ?」
「え……?」
マナの頭の上をコンコンと叩く。
「お前が無事に帰って来ると祈りゃ、それで充分な保証だ。しかもお前だけじゃなく、皆も祈ってくれる。それで保証なしな訳がないだろ」
「……」
「絶対、無事に帰ってくる。約束してやるよ」
あー、おっかしいなあ!オレ、こんな甘々なラブストーリーそんな好きじゃないんだけどなぁ!イチャイチャラブコメとか反吐が出るんだけどなぁ!なーんで今、それを自分自身でやってるんだろうなぁ!オレ、こんなキザなキャラじゃないはずなんだけどなぁ!アレか、雰囲気か!?雰囲気がそうさせるのかぁ!?
「……約束です」
微笑み、小指を差し出すマナ。……こっちの世界にもそーいうのあんのかよ。まあやりますけど。
「……ああ」
イヤだなー。この現場誰にも見られたくないなぁ。特にレンドとアキハねぇには。レンドはまだ八つ裂きで済ましてくれるだろうけど、アキハねぇは……。やめよう、考えない。オレ、これ以上考えない。
「……フウヤ様、この事はアキハ様には知らせた方がいいですか。私の勝ちだと」
「それしたらオレが帰らぬ人になるからやめてくれ。……ってか、今さらながらいいのか?お前元は、レンドの嫁候補だろ」
「レンド様は以前よりこう仰ってくださってました。自分よりいい人が見つかったなら、その人の所に後悔のないように進め、と。……レンド様も分かってくださいます」
「……レンドにはオレから伝えるよ。ケジメとして一発は殴られるさ。ミレンとかには知らせるな。面倒だから」
「ふふっ。はい」
「それが残念ながら聞いちゃったのよね~」
年増っぽい悪どい笑い方と共にミレンが現れた。……最悪だ!
「てめ、いつから……ってどっから!」
「レンドに頼まれたのよ。女同士なら話せるかもしれないからマナの様子見てきてくれって。……まさかこ~んな面白場面に遭遇するなんて夢にも思ってなかったわ」
「記憶破壊!!」
衝動に身を任せ魔法を放つ。……やったか!?
「本当に私に魔法通じないわねぇ、変態。大方記憶を消そうとしたんでしょうけど。……じゃ、アキハさんと他の人に伝えてくるわね~」
「てめっ、待ちやが――!」
「あははは~!!」
ゴーレムに乗って行きやがった。……ダメだ、追い付けねぇ。
「……」
「フウヤ様……御愁傷様です」
「せめて、せめてレンドには先に伝えよう。ちょっと行ってくる」
「……行ってらっしゃいませ、フウヤ様」
「……おう!」
ニカッと笑いかけ、走り去るオレ。……おかしいなぁ!おっかしいなぁ!どこで踏み違えたオレのキャラ!!
「……いたっ。レンド~!!」
「おん?……フウヤ。どした、そんな血相変えて」
「ち、ちょっとな。……ち、ちょっと待って。息切れた……ぜーぜー」
「どうしたんだよ。……何かあったのか?」
「いやそんな、大事ではなくて……けどお前にとっては、大事なことで」
「ほら、水」
「か、忝ない……んくっ、んくっ。ぷは~!!」
生き返った~!!
「で、どした?」
「……マナに会ってきた。話を聞いてきた」
「……」
「……当初はお前から奪うつもりなんてなかった。コレは本当だ。……けど、一緒に色んなことして気持ちが変わっちまった。……長年のロリコンのアイデンティティーが崩れ去る程に」
「……要は?」
「……オレ、マナのことが好きだ。……マナからもオレに対する想いを聞いた。想いは一つだった」
「……」
「認めなくてもいい。ぶん殴って構わない。侮蔑しても構わない」
「そうか。じゃ歯ぁ食いしばってもらおうか」
言葉通り歯をくいしばった。正拳突き、フック、ハイキック、金的。その全てを覚悟した。が、
「おりゃ」
「あうっ」
飛んできたのは予想外の一発。デコピンだった。
「……?」
「あのな、お前らの想いが一つになってることくらい見てりゃ分かるんだよ。俺は予め言ってんだ。気になる奴がいたらそこに迷わず行けって。男の夢、ハーレムを形成してる以上、それは覚悟しないといけない。束縛するハーレムは、互いに不幸になるだけだ」
「……ダメだ。ハーレムのワードが強すぎて内容が入ってこねぇ」
「要は、気にすんな。取られた、なんて女々しいことは言わねぇ。俺が不甲斐ないだけだからな……」
「レンド……お前」
「今回のを教訓に、皆が満足するハーレム作りを胸に日々精進してくわ」
「よかったな。最後の一言でクズに昇格だ」
ったく、強がりやがって……。マナの気持ちがオレに傾き始めた日からお前、人知れず泣いてたじゃねぇか。
「……お前が出来なかった分まで幸せにする。約束する」
「…………」
「なんだよ、その目は」
「お前、そんなキザなキャラだったか?」
「今日は風が騒がしくてな……ほらこの風、泣いてんだぜ」
「ざっつなネタを放り込むなったく……。挨拶済ませたのか?」
「一通りな。お前は?」
「俺も終わってきたとこだ。……お前にもしといた方が良さそうだな、挨拶」
「は?なん」
シュタッと後ろから軽い着地音。どっから着地したのか知らないし、知りとぅない。
一瞬の無防備の隙を逃さなかったその人物は、オレの両手に手錠をかける。
「……無事に、生きて帰ってこいよ」
「いやお前さ、止めるとか助けるとかそーいう行動してもいいんじゃないの?」
「アキハさんが瞳で言ってんだよ。邪魔するなと」
「ふふっ」
背後の人物――アキハねぇがニコヤカな返事をする。やー、和やかだな。はっはっは。
「……レンド。頼みがある」
「辞世の句として聞いてやるよ」
「故郷のマリーに伝えてくれ……愛していた、と」
「フウヤくん、他にも浮気してたんだぁ。ふぅ~ん」
……ネタが余計な仇となったッ!!
「あの、待ってアキハねぇ。今のネタだよ、知らない?それに浮気ってオレ、さっきまで誰とも付き合ってなかったし、そもそもアキハねぇは姉であり妹で、あの、ねぇ、引きずるのやめない?あの、どんどん人気のない場所に連れてくのやめない?何する気なの、ねぇ――!!」
「……次回、フウヤ死す」
デュエル、スタンバイ!!




