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凱旋。そして渦巻く陰謀

翌日。レーテリオン皇帝から話があると呼び出されるオレたち。


呼び出されたのは皇帝の間。以前来たときは散々たる有り様だったが、今はその全てが改善されている。……一部見える赤い痕には目をつぶろう。


「よく来てくれた。君たちには色々伝えたい事があるが、まずは……妻の無事の確認を、そして我が娘、サウダールを無傷で連れてきてくれたこと、改めて深く、深く感謝の意を示したい」


頭を深々と下げるレーテリオン。……んー。


「オレとしては感謝の意よりサウルちゃんの熱い抱擁をっ!?」


右足が強く踏まれる。ミレンの仕業。背筋が凍る。アキハねぇの仕業。……なんだよ、冗談飛ばせねぇじゃんか……!


「このバカは気にしないでいいです。あと感謝の意も程ほどで。照れくさいので」


「そうか。……君たちがここに来た目的を、レンドから聞いている。そして私たちを打ち負かした実力も、捕縛しながらもすぐに私たちを解放した器量の大きさも。私たちは知った。この国の掌握も可能にも関わらず、それを放棄した欲のなさを。君たちの、意思を。……ここに誓おう。私たちはディブトーニとの争いをやめ、以前のように良い関係を築いていくことを。たとえ長い年月をかけようとも、永久に平穏の時を築くと」


「……その言葉が聞けてよかった。きっとアンタの父親も喜んで戻ってくるだろうよ」


「あ、いやその、父には色々と迷惑をかけたので……会うのは」


「会わせるわよ、意地でも。弊害もないでしょ?」


「……まあ、それは追々と」


誤魔化し方!……レールのおっさんもこんな感じなんだろうか。


「それはともかくとして。クラットスの件だが……フウヤくん。キミの言う通り、クラットスへの偵察等の行為は少し待つ。本音を言うと今すぐ行きたい気持ちだが、軍を万全の状態にするためと、キミの直感を信じ、キミからの指示があるまで軍は動かさない」


「わー……フウヤお兄ちゃん、一国のトップにすっごい信頼されてる」


「そろそろ責任の重さで肩がががが」


「アンタはそんなので音を上げるタイプじゃないでしょ」


「まあな」


「それと、この書状をキミに預ける。戦争中止の旨と、兵解放の嘆願書だ。向こうの皇帝……は失脚しているのだったな。信頼できる幹部に渡してもらいたい」


「了解っす」


「もう一つ、レンドが同行したいとの申し出があったが、構わないか?」


「もちろん。けど、こっちが万が一の時の戦力とか大丈夫か?」


「仮にもこの大陸における大国の一つだ。大丈夫さ」


「……ところでサウルちゃんは?さっきから姿見えないけど」


「あー……サウダールはキミ達との別れが悲しいようでな、今は席を」


「サウルちゃん泣いてる!一刻も早くペロペ……慰めなくては!」


「フ~ウ~ヤ~く~ん?」


思わず漏れた本音に瞬時に反応するアキハねぇ。……目が笑ってないにござるよ?


「……とはいえ、キミ達が出立するときには流石に顔を見せるだろう。いつ行くのだ?」


「そろそろ行こうと思ってたとこだ。色々準備も済んだしな」


「それはまた……随分と急な。待ちたまえ、サウダールを呼んでこよう」


「じゃ、レンド呼んでくるとするかな。サウルちゃんよろしく頼むわ」


ホントはいの一番にサウルちゃんに会って、頬擦りして、なでなでして、抱きついて、としたかったがそんな真似をしたら俺は五体満足ではいられないだろう。なので我慢する。……泣く泣くな!


「いいの、フウヤくん?サウルちゃんなでなでして抱きつきたかったんじゃない?」


「頬擦りもしたかったけど諦めるよ。アキハねぇが怖……い……」


思わず反応してしまったときには時すでにお寿司。


アキハねぇの小さな手がオレの頭に触れていた。……さらばだ、今世。次生き返る時には、そうだな……幼女の膝で頼む。


思った直後に、オレの意識は暗転した。





「ーー本当に懲りない男ね、コイツ」


レンドを呼びに来た私たち。ゴミを見る目で変態を見下ろしながら考える。……置いてこうかしら、コイツ。


「…………」


「ストップ、アキハさん。ここ、廊下。人、通る」


ダメだ。フウヤ置いてったら風俗観点の意味で危なくなる。


「冗談だよ~」


「冗談ならブラウスのボタン全部外したりしませんよ……。とりあえずフウヤは誰かに運んでもらって、レンド探しましょ」


「りょうかい!」


暫く探し回っていると、兵士からレビィちゃんの部屋に行った、って情報が。……レビィちゃんの部屋か。


「レビィちゃんの部屋ってどこかしら……?」


「こっちだよ」


「え、分かるんですかアキハさ……って、ここ?」


通りすぎようとした部屋を指差すアキハさん。そのまま開けて入るかと思いきや、何故か慎重に鍵を開ける。


「あの、アキハさん。何して」


「静かにっ。……鍵かかってない。うん、言ってたとおり。ミレンちゃん、ちょっと中見て」


「え、は、はぁ……」


覗き見なんていいのかしら……なんて思いながら隙間から覗くと、


「えっ……!」


中にはレンドと、上半身裸のレビィちゃん。……えっ?何?どういうこと?どういう状況!?


「レビィ……」


混乱する私は、中の様子を食い入るように見ることしかできない。


そんな中、深いため息をついたレンドは、少し大きい声で言った。


「何十回でも、何百回でも言うぞ……服を着ろぉ!!」


……えっ?


「何よー。あたしのアイデンティティーに文句?」


「裸族の誇りなんてアイデンティティーには文句しかでないわ!もう一度言う、服を、着ろ!」


「やって来て早々うるさいわねー。そんなに血管浮き上がらせてると早死にするわよ?」


「っ……誰のせいだと……」


「わーかったわかった。キース」


「はっ」


キースさんがどこからともなく現れ、レビィちゃんに服を渡す。そのまま袖を通すレビィちゃんだけど……着た途端になんとも言えない表情に。


「レンド」


「あー、ようやく話ができ」


「暑いから脱いでいい?」


「話をさせろぉ!!」


……レンド、苦労してるのね。幼馴染みなのよね、確かレビィちゃんと。そりゃツッコミ力鍛えられるわ。


「はいはい。話終わったらすぐ出てってね。服脱ぎたいから」


「てめっ……ホンットマイペースだよな……!」


「マイペースだから話聞く前に追い出すかもよ~?」


「分かった話す。話すよ。……ありがとな」


「何が?」


「オレとレミール戦ったとき、助けてくれたろ。そん時のお礼、まだ言ってなかったから」


「……ああ、あれ。大したことしてなかったからすっかり忘れてたわ」


……そっか。あれ、レビィちゃんがやったのね。


「ったく。恩着せがましくやいやい言えば良かったのに、何も言わねぇから今日までタイミング逃したじゃねぇか」


「用ってそれだけ~?」


「おい、追い出す準備始めんな。まだある。……お前さえ良かったら、一緒に来ないか?」


「イヤよ」


「……断んのはぇー」


「アンタはもう、あたしの気持ちに答えてるでしょ。……それで充分よ」


「……そっか」


「ただ一つ言っとく。アンタが誰に恋しようと、結ばれない限り諦めるつもりはないわ。覚悟しておくことね」


「……おう。肝に銘じとく」


「それと、あたしの裸族の誇りは生涯失われず治ることはないわ。覚悟しておくことね」


「そこは直せ!……じゃな」


「怪我すんじゃないわよー」


「善処するよ」


レンドが扉を開け、運良く私たちに気づくことなく去っていった。……レビィちゃん、レンドのこと……。


「さて……これで満足した、アンタ達ー?」


「へぁっ!?」


すごく近くから聞こえてきたレビィちゃんの声に驚いて両手両足を着けながら後ずさった。


振り返ると、扉のすぐ近くにレビィちゃん。


「うん、満足したよっ。ありがとね、レビィちゃん!」


「え……え?」


困惑してる私に、レビィちゃんがため息まじりで答えてくれた。


「あたしとレンドの仲が知りたいって言うから見せてあげたのよー。まさかもう一人来るとは思わなかったけど」


「え、あ、その……ごめんなさい」


「あんたが謝ることじゃないわよ、ミレン。責めるとしたらこっちでてへって顔してるロリ詐欺師ね」


「ロリ詐欺師って!?何も騙してないよ、私!!」


「今のところはね。……世の中のロリコン共は騙されていくと思うわよ~。気を付けることね」


「私の貞操のこと?大丈夫だよ、フウヤお兄ちゃんが守ってくれるから!」


「そう。アイツに守られるような人には見えないけどねー。……ミレン」


「な、なに?」


「……あたしとレンドの関係のことは気にしなくていいわ。アンタはアンタの気持ちに正直にね。……後悔しないようになさい」


「レビィちゃん……ありがとう」


「さ、行きなさい。レンド連れに来たんでしょ。見失うわよ」


「……うん。……レンド、ちょっと待ちなさーい」


レンドを追いかけながら後ろを振り返る。レビィちゃんはもういなかった。




レンドを捕まえ、フウヤを叩き起こして王宮を出ると、王宮の入口から町の門までの道が兵士による列で埋められていた。……卒業式の花道を思い出す光景に、目が点になる。


「敬礼ー!」


一人の兵士の声で、全員が姿勢を正して敬礼する。……こんな大々的な見送りなんて聞いてないわよ!?


「両国の紛争を止め、平和的な解決をもたらしてくれた恩人達に感謝の意を示すと共に最大級の送迎を!」


「…………」


「……レンド」


「すまない。……うちの兵士達がすまない……」


レンドが思わずイケメンなすまないさんになってる……。


「とっとと抜けよう。で、レーテリオンに一発だ」


「了解」


私とフウヤは不自然にならない程度の早さで歩き始めた。


「ミレンちゃんとフウヤくん、照れ屋さんだなー」


「アキハさんは平気なんですか?」


「前は日常的に見てたし。何とも思わないかなー」


「……前のアキハさんって一体」


「とりあえず、置いてかれないように行こっ」


「そうですね」


「…………」


「アキハさん!?あの、すっごいお嬢様風に歩いてるとこ申し訳ないんですけど、それファン増えるだけなんで!ウチの兵士達、軒並みそーいうの弱いんでやめてもらえますか!?」






「来たか、フウヤくん達。すまぬな、ここまで大仰にするつもりはなかったんだが……兵士達がどうしても、と」


「……心読んだ?」


「いや、こういう派手なのは苦手と言っていたから気がかりでな。……表情から察するに迷惑だったようだ。重ね重ね申し訳ない」


「もし次来る事があっても、こうなってないことを祈るわ」


「うむ、言い聞かせよう。……サウダールよ、いい加減前へ出ぬか。もうすぐ彼らは行ってしまうのだぞ。別れの挨拶を」


レーテリオンの後ろに隠れてたサウル。レーテリオンが半ば無理矢理に私達の前に出すと、


「ぐすっ……ぐすっ……」


泣いていた、なんて表現が生ぬるいほどに号泣していた。


「サウル、ちゃん……」


フウヤが放心状態で近づくのを遮る。這い寄ってきたアキハさんにフウヤを託して、私はサウルに近寄る。


「サウル……」


「ぐすっ……ミレンは、素性の知れぬボクを温かく迎えてくれた。……フウヤも、独特だが気兼ねすることなく接してくれた。……レンドは頼り甲斐があって、とても心強かった。……楽しかった。短くとも、一緒に過ごした時間ときはボクにとって……っかけがえのない……宝物で……っ!」


「サウル……」


サウルの頭に優しく手を置き、撫でる。


「ミレン……本当に行ってしまうのか……?」


「私達にもね、待ってるんだ。私達の帰りを待ってくれてる人達が」


「……」


「サウルは、お父さんに会えた。お母さんにだって、きっと会わせて見せる。元の家族の生活を送らせる。……サウルはもう、一人じゃないよ」


「ミレン……っ!!」


「それに、これが今生の別れじゃないんだから。ちょっと遠いけど、会おうと思ったらまた会えるんだから」


「……」


「また会いましょ、サウル」


「……ミレンーーっっ!!」


抱きつくサウル。……本当に寂しがりやなんだから。


「……彼女を見てると、妻を思い出す」


「あー、分かります、それ。サウルちゃんのあやし方なんかまさにそれでしたもんね」


「……レンド。キミにも迷惑をかけたな……すまん」


「よしてくださいよ。全部丸く収まったんですから、万事OKです」


「……そうか」


「レミールとレビィ置いてくことになるんで、また胃が痛むでしょうけど、よろしくお願いします」


「……それは大丈夫だ。胃薬は常備している」


「出来るだけ早く戻ってきます」


みんなとの別れを済ませて、王宮を出る。外の町も、人で埋め尽くされていた。きっと兵士の誰かが吹聴したのね。


慣れない、けれど賑やかなこの国。照れ臭いけど居心地の良い国。きっとまた来たい。そう思った。





ーー同時刻、クラットスーー


空は悪天候だった。曇天が広がり、室内を暗く灯していた。


蝋燭が円上のテーブルを囲む。7つの席の内、6人が座っている。


アクセサリーをジャラジャラ鳴らしながら男が口を開いた。


「おいおい、マジかよ。レーテリアも落ちたのかよ。で、こっちの仕業って割れてるワケ。うっわー、こっち来んじゃん。超ヤバくね?」


「……口を閉じて、ロレット。アナタの声、うるさい」


物静かに、白髪の美少女が口数少なく返すと、ロレットと呼ばれた男が喚く。


「うっわー、存在全否定!!泣きそうー、相変わらず辛辣ー、ウィルちゃん」


「ニョホホホ。ウィルの罵倒は今に始まったことではないでしょう」


顎髭を乱雑に蓄えた男が独自の笑いをあげて愉快そうに笑う。


「……ガース、あなたの笑い声もキモい」


「ニョホホホー!!拙者にまで飛び火してきたにござるー!……だが、それがいい」


「くだらない雑談はそこまでにして。ガース、どう見る?」


桃色のポニーテールに眼鏡をした女性が、ガースと呼ばれた男を一睨みすると、ガースは肩をすくめて返す。


「それはロレッタ氏の言った通り激ヤバでしょう。なので拙者、既に準備を済ませたでござる」


「……そうか。ガースが手配しているなら我が手を下すまでもないか」


椅子に深く座り込んだ黒髪の男。少し目を開いたがすぐに閉じた。


「ま、ガースの部隊が攻める前に、こっちに攻めてくる可能性は考えといた方がいいと思うよー。……ディブトーニの三連凶、レーテリアの四砲手。“一人”を除いてボクら七紅魔の足元にも及ばないとはいえ、この大陸だとボクらの次に強かったんだから。それをたった二人で打ち破ったんでしょ?ね、サクラさん?」


赤毛の女が人当たりの良い笑顔で、レーテリアにて占術師と呼ばれていた黒服の女性に話しかける。女性は頷き、言葉を紡ぐ。


「はい。周囲の助けを得ながら、着実に味方を増やしています。彼らの魔法の能力の高さは勿論、その周囲を魅了する力にも注意を払った方がいいでしょう」


「……我らでも注意を払うべきと申すか?」


「足元を掬われる恐れがあるため、ご無礼を承知で申しております」


サクラと呼ばれる占術師を睨む黒髪の男。その険悪さを破ったのは赤毛の女。


「まーまー。サクラちゃん、悪気があったワケじゃないから。落ち着こ?」


「……お前もそう思うか、キッシュ。我らでも注意を払うべきと」


「油断は禁物だと思うなー。……万一油断して負けちゃった、なんて言う奴は」


突如、赤毛の女の目が血走り、牙が生える。先ほどまでの人の良さそうなそれはもう、面影を残していなかった。


「ーー骨まで食べちゃうかも」


その言葉で、沈黙が訪れた。……少し経ち、それを破ったのは桃色のポニーテールの女。


「では、ガースの部隊に先陣を切らせます。第二陣についてはタイミングを見て。先に攻めてこられた場合は、各々エリアを死守するように」


「クミル氏、それは投げやりにござらぬか?」


「その方が都合がいいでしょう。……ああ、一つ付け加えるのを忘れました。……くれぐれも味方を殺さぬように」


「あー、それは大事っすわー」


「……ルール、大事」


「拙者、死にたくないでござる」


「うん、その方がいいねー」


「……ふん」


「では、この件に関してキッシュさん。彼に報告をお願いします」


「はーい。……」


空白の席を見やるキッシュ。少しして愉快そうに笑った。






ーー少し前、ゲーハ砂漠ーー


『もしもーし、聞こえてますー?』


「ああ、聞こえているとも。しかし……酷い砂塵だね」


『ホントに行くんですか?どうやらフウヤくん、あなたの正体に気づいたみたいなのに』


「さすがだ。そう来なくては」


『何嬉しそうにしてんですか。そんなに彼の成長を感じられて嬉しいんですか?』


「ああ。ーーーーとしてこれ以上ない喜びだよ」


砂塵で老人の声が飛ぶ。何と言ったか相手には聞こえていなかったが、老人をよく知る女性には伝わっていた。


『今回も牢屋だと100%バレるので、町中に、自然に、見つからないように彼らをサポートしてくださいね』


「なんだかんだディースも心配性だな」


『そりゃそうですよ。送り込んだ身としては』


「ふふ。……そろそろ通信を切ろう。見えてきた」


『じゃ、無理をなさらない様にしてくださいね。








ーー“天神様”』

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