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父娘の邂逅

「……ん」


深く沈んでいた意識の底から目を覚ました。


「ここは……?」


見覚えのある部屋。散らかってるゲームソフト。間違いない、レビィの部屋だ。


「レンド。気がついた?」


目を開けた俺にそう問いかけたのは愛しの少女、ミレンちゃんだった。


「ミレンちゃん……無事だったのか。良かった」


「アンタよりはね。三日も寝込むなんて思っても見なかったわよ」


起き上がる俺に倣うように、ベッドの隣の椅子に腰かけるミレンちゃん。


「……俺、なんでここに?確か俺……」


レミールと戦って……。


「引き分けだったみたいよ。彼女、レミールと」


「……引き分け?」


「私達が着いた時にはアンタは倒れてて、レミールは壁に磔にされてたわ」


「……そっか」


また、助けられたのか。……なっさけねぇなあ。


「パンとコーヒー置いとくわね。少しゆっくりしてて。ゆっくりしたら、みんなで話があるらしいからそれの準備を」


立ち去ろうとするミレンちゃんの裾を掴む。


「レンド?」


「なんかさ……今はちょっと、誰か隣にいてほしい気分なんだ」


「~~っっ!?」


「……ダメ、か?」


「ししし仕方ないわね!いてあげるわよ!」


「ありがとう」


ミレンちゃんが用意してくれたパンとコーヒーをゆっくり咀嚼しながら他愛ない話をした。






「ーーさて、食べ終わったみたいね。そろそろ準備しましょっか」


「話があるって言ってたね。何の話を?」


「皇帝との面談。そこで色々話すことがあるからレンドも来るようにって。動ける?」


「うん、それは大丈夫」


「……そう。なら良かっ」


バタンと勢いよく扉が開かれ、二人の人物が現れた。一人は、


「たっ、助けてくれ~!!」


なぜかルパ◯をチョイスした半裸のフウヤと、


「なんで逃げるのフウヤお兄ちゃん!!お着替えさせてるのに!!」


可愛らしい幼女。……この子、どっかで。


「あっ」


この子、あん時の……!


「逃げる理由なんて決まってんだろうがアキハねぇ!あちこち触ってきやがって!それに一人でできるっつーの!」


「一人でできても私がやってあげたいの!久々なんだもん、触れあいたいよ!身体の隅々まで!」


「いぃやぁあ~~!!」


半裸のまま、俺の後ろに逃げ込むフウヤ。待て、この状況はなんだ。


「フウヤ、あの子は?」


「……オレの、姉です」


「……は?」


ーー……。


「……なるほど。転生してきた姉。親衛隊と皇帝をフルボッコにした所で再会した、と」


「そういうことだ」


依然として俺の後ろに隠れながら、アキハ……さん?ちゃん?どう呼べばいいんだ……さんにしておこう。アキハさんを見続けるフウヤ。


一方でアキハさんはギリギリと近寄っている。……見た目が幼女じゃなくて同い年くらいの女の子で、後ろにフウヤがいなければウェルカムなんだけどなぁ。


「凄い話があったもんだ。……っつーか、親衛隊の件はさすがに盛ったろ?こんな女の子があの親衛隊をフルボッコにできる訳」


「レンド。戦ったら分かるわ。……アキハさん、強いわよ。相当」


「え、ミレンちゃん戦ったの?」


「その節はごめんね、ミレンちゃん。フウヤくんのお姉ちゃんって聞いてちょっと動揺しちゃって……」


「いいですよ。大事になる前に引いてもらえましたし。……それよりフウヤ。皇帝と話するんでしょ?行くわよ」


「うんそうだなすぐ行こうやれ行こう!」


フウヤが早口でそう言うが……俺の後ろから動かない。


「アキハさん。お話が終わったら好きなようにやっていいので、今は我慢してください」


「や、ヤりたいようにヤっていいの!?……うん!なら私、我慢する!」


アキハさんが納得して退く。……一方でこれに黙ってられないやつもいる。


「待て!おまっ、おまっ!たった一人の大切な弟がどうなってもいいってのか!?」


「ええ。さ、行きましょ、アキハさん。フウヤ、着替えてくるのよ~」


「うんっ!……ふふっ。今夜は頑張らなきゃ♪」


無情にも閉まる扉。フウヤは顔面蒼白になりながら絶え絶えな声で言った。


「……レンド。お前はオレの味方……だよな?助けてくれるよな?」


「……微力ながら助けるよ」


なに、このテンションで何か大事な話すんの、俺ら?


ーー……。


フウヤが着替え終わり、陛下を軟禁してる部屋に向かう。


「……レンド、一つ聞いていいか?」


「なんだ?」


「……皇帝の奥さんと子供の件、お前は知ってたのか?」


「……意外なことを聞くな。ああ、事故死のことだろ。……陛下のあの時の憔悴さは見てて辛かったのを覚えてる。思えばそのぐらいの時期だな。陛下の様子が変わり始めたの」


「……事故死、か。……レンド、あくまでレミールの話だが、その事故、こっちが関与しているかもしれない」


「っ!?」


「……あくまでレミールの話を鵜呑みにしたらな。ディブトーニが密偵を送って殺した、って言ってる。……けど、反論材料は見つけた。……それらの話を前提として、これから向こうでする話を聞いてほしい」


「……。分かった。信じるよ、お前を」


「サンキュ。助かる」


……けど、気になるな。なんでレミールの奴……。


「む、フウヤ達。待ちくたびれたぞ」


陛下を軟禁してる部屋の前でサウルちゃんが待っていた。


「お待たせしました。遅れたのはひとえに私のせい。罰として頭を踏んでいただきたく」


「それはお主の願望が入っておらんか、フウヤよ!」


「冗談だよ。さ、行くか」


変態性をあっさり引っ込め、扉に手をかけるフウヤ。面食らったサウルちゃんだがすぐに気を取り直し、部屋に入るフウヤの後に続いた。


「…………」


部屋の奥。両手を後ろ手に縛られた状態で、陛下はそこにいた。


「陛下……」


「レンドか。……裏切った気分はどうだね?さぞ痛快だろうて」


「……話は聞いた。奥さんと子供の件。……けど、分からねぇ。憎しみからは何も生まないって、レールのおっさんの教えを継いで実行し、みんなに説いていたアンタがどうしてこんな……!」


「お前には分かるまい。いかに心中からそう信じ、行っていたとしても……愛する者をいざ目の前から奪われた時、その空虚、絶望は理性やそれまで信じてきたものを容易く凌駕し、私を蝕む。……私は憎み続ける。あの国を。……奇跡的にあの子が無事だった、と分かってもだ」


陛下が視線を一つ処に捉える。その先にはーーサウルちゃん。


「サウル、ちゃん……?」


「……すまぬ、レンド。隠すような真似をして。身分を明かせば狙われる、そう言われていたものでな。とはいえ、フウヤには見透かされていたようだが」


サウルちゃんが陛下の前に座り込む。陛下が目を潤ませながら目を伏せ、自嘲気味に笑う。


「サウダール、我が子よ。よもや再会がこのような形になるとはな」


「父上……」


「お前が生きてくれていたこと、本当に喜ばしい。……ああ、本当だとも。子の無事を喜ばない親はいない」


「……父上が息災であったこと、ボクも嬉しい。……けど、ボクは!復讐に身をやつし、国の宝たる民を私利私欲に使う父上の姿をボクは!見たくなかった……!母上だって、きっと……!」


「……であろうな。あやつもそれは望むまいよ」


「ならば何故……!」


「幼少より言い聞かせられた教えよりも、正常であろう判断や思考よりも、感情、復讐心がその全てを塗り替える。……たとえ、お前が無事と分かっても、妻は……ハナはもう、戻ってくることはない。それはお前も分かっていよう。ハナが生きているのなら、お前はそれを真っ先に教えるはず」


「……」


「私は憎む。あの国を。決して癒えぬ、この傷……いつまでも」


「……父上、ボクは」


サウルちゃんが話そうとするのを、フウヤが制止した。


「サウルちゃん。これ以上はもう無理だ」


「フウヤ……ボクは、ボクは……っ!」


「……気持ちは伝わったはずだ。伝えたいことも、伝えたはず。……後はオレに任せてくれ」


「……フウヤ?」


フウヤが陛下の前に立つ。誰にでもハッキリと聞こえる声量で、陛下に告げた。


「アンタの奥さん……ハナ=トラジールは生きてる」


「…………」


驚きといぶかしみの混じる表情でフウヤを見る陛下。みんなも一様な反応で、声をあげたのはミレンちゃんだった。


「フウヤ、どういうことよ。生きてるって……?なんでアンタがそんなこと知ってんのよ」


「ミレン。レンドが寝てた間に通信機とゴーレム作ってもらったろ?」


「え、ええ。速さに優れたゴーレムと通信機……まさか、それで?」


頷き、陛下に向き直るフウヤ。


「ウチの国に、ハドソンっていう優秀な情報収集能力を持つ奴がいてな。祭りだなんだのと騒がしかったが調べさせたんだよ。……生きてるよ、アンタの奥さん」


「……。は。はは。そうやって謀るつもりか。証拠はどこにあるのだ!?」


「……証拠、か。目の前にあるだろ」


フウヤがそう言ってサウルちゃんの肩に手を置く。


「ぼ、ボク?」


「……事故の詳細を聞いたよ。馬車で山道を歩いてる時に落馬して崖の上から、だったな。馬は奇跡的に見つかったが、サウルちゃんと奥さんの行方は不明。だが、密偵と名乗る者が暴露し、死亡したと判断、だったな?……でも、サウルちゃんは生きてる。この時点で密偵とやらの話の信憑性が崩れ落ちる」


「…………」


「ま、待ってくれフウヤ!確かにボクは生きてる。……が、ボクを救い、あの街に連れていってくれた人がこう告げた。……ボクの母上は死んだ。あまりに酷い状態だから見せられない、と……」


「……。その人の特徴、言えるか?」


「え?……あれ。なぜだ。全く思い出せない」


「男性か、女性か?年のほどは?」


「……分から、ない」


サウルちゃんの答えを聞いたフウヤは再度、陛下に向き直り、こう言った。


「オレはこう見てる。……サウルちゃんを助けたその人物は、アンタの奥さんも助けてると。……そして恐らく、この事故を引き起こした本人だと」


「……はは、はははは!!何をバカな!そんなことをしてなんになる!?レーテリアとディブトーニが争う理由を作って、その人物に何のメリットがあると言うのだ!!」


「……クラットス」


一言、そう答えたフウヤに、陛下の眼が見開き、固まる。


「軍事国家、だよな。レーテリアもディブトーニも、そこから武器を調達してる」


「……まさか」


「そのまさかだ。両国を争わせた理由は恐らく……武器輸出による金銭だ」


「…………」


陛下の力が抜けていく。フウヤはそっと労るように近寄った。


「……ディブトーニにいた時に貿易に関する資料を読んでいたら、その国の名前が上がった。他国に比べて取引量が尋常じゃない。……こっちでアンタを捕らえてる間に勝手に見させてもらったよ。この国も取引量が尋常じゃないな」


「…………」


「……これはその国で撮られた画像だ。これでアンタも納得するだろ」


一枚の写真を手渡すフウヤ。陛下は無言で受け取り、


「……お……おおぉ……!!おぉ……!ハナ、ハナ……!!」


崩れ落ち、床に咽び泣いた。


「母上……無事、だったのだな……!!」


サウルちゃんも大粒の涙を、床へと濡らしながら陛下と共に、泣いていた。





「アンタ、探偵にでもなりたいの?」


「は、なんで?」


「情報の出し方、説得の仕方がまるでアニメや映画のそれよ」


「フウヤお兄ちゃん、一時期探偵目指してたよー」


「それは言うなよアキハねぇ……」


「……なぁ、フウヤ。さっきの話からして、クラットスが敵ってことになるのか?」


「……恐らくな」


「恐らく?」


「推測だけで物事は語りたくないのだよ、ワトソンくん」


「めっちゃ意識してんじゃねーか。世界一の探偵を」


「初歩的な事だ、友よ」


「うるせーよ」


「……さて。いつまでもそこにいないで出てこいよ。レミール」


「え?」


フウヤの発言で後ろを見ると、レミールがそこにいた。


「……なんで私を出したの?」


「お前にも話を聞く権利があると思っただけさ。違うか?」


「……礼は言わない。今の話では解明できてない部分があまりに多いから。だから、信頼も信用もしない。……レーちゃんの奥さんが無事に帰ってくるまでは」


「……ああ。分かってるさ」


「……」


レミールが鋭く俺を睨む。暫くすると短いため息をつき、踵を返した。


「私はここに残る。アンタは好きにしなさい。この国にアンタは必要ないわ」


「……ああ、分かった」


「……全部終わったら帰ってきなさい。またボコボコにしてあげるから」


「されないよう、鍛えてくるよ」


「……ふん」


立ち去っていくレミール。……やっぱいくら邪険にされても嫌いになれねぇなあ。


「ねえ、フウヤお兄ちゃん」


「なんだ、秋葉ねぇ」


「もー、妹なんだからアキハって呼んでよ!」


「なんだ、アキハねぇ」


「もー、頑固なんだから。……そんなところも好きだけど」


フウヤが身震いする。身の危険でも感じたか?


「この後どうするつもりなのかなーって」


「……一度ディブトーニに帰ろうと思う」


「ハルちゃんに会いにかしら?」


「……テレパシーでも開眼したか、年増?」


「本当にその目的なら岩を三つぐらいアンタの上に積み上げるけど」


「冗談だ。まあハルちゃんにも会いたいが……ちょっと、な」


「……他に何かあるのか?」


「まあまあ。その辺はおいおい」


「アタシも着いていくわよ。アンタ見張ってないと何するか分かんないし」


「何を言うか。ただ幼女という幼女をクンカクンカして抱きつくだけだぞ」


「決定ね。異論は認めないわ」


「なん……だと……」


「むしろアレで何故通ると思ったのか。俺も着いていくぞ。マナ達いるし、どうでもいいがレービルの解放も頼まなきゃだしな」


「いたわね、そんなの」


「忘れないでやってくれ、ミレンちゃん……」


「あっ。もちろん私も行くよ!フウヤくんとは永遠に一緒だもの……!」


「早急な弟離れを望む」


「無理だよっ。……それより、フウヤくん?」


「え、な……に?」


アキハさんの顔は笑顔のまま。ただ雰囲気のみがその壮絶さを増していく。……どこかでこれを経験したような?


「さっき名前の出たハルちゃんって子……どういう仲なのかな?答えによってはお姉ちゃん、穏やかじゃなくなるかも?」


「いやその……ただのロリッ子で……な、仲は良いけど、良いですけど……お姉様が思ってるような仲じゃありませんよ?」


フウヤが下手に出てる。……アイツが敬語使ってるの、初めて見たかもしれん。


「ホント、ミレンちゃん?」


「ええ、そうですね。抱き着いたり、タンスを物色して下着を見て色に文句を言うなんてハレンチ極まりないことしたり、あわよくばお風呂覗こうとする下衆の極みじみたことするくらいですよ」


「そ、そうそう。恋仲とかじゃないよ?……いずれはそうなりたいけど」


「……へー」


「しまっ!!」


後悔先に立たず。口は禍の元。東洋の言葉だが、その言葉から生まれる教訓をフウヤが身をもって、俺にしらしめた。……俺も気を付けよう。

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