幼女の名は。
「うし、着いた!大丈夫かサウルちゃ……レンド!」
サウルちゃんの姿を確認。と同時に倒れ伏したレンドの姿を発見する。……負けたのか?
「……引き分け、かしら?」
ミレンが壁側を見て呟く。その視線の先には磔にされてる年増四砲手と思しき女。……いや、今はそれよりも!
「サウルちゃん、無事か!?変なことされてないか!?今から触診を……!」
「ぼ、ボクは全然大丈夫なのだ!それよりもレンドを!」
あ、はい。分かってます。冗談です。幼女の身体に触れていいのは親と医者だけです。そんくらいの分別弁えてます。……医者、かぁ。ありだな。
「……これは、見た目のケガの割には大丈夫じゃねぇかなあ。気絶してるだけっぽい」
「……あんた診察できるの?」
「いやいや。分かるとしたら骨折とかしてるかなー、ぐらい。内部までは分かんねぇよ。ただ息はしてる。……本当なら早く医務室に連れてく方がいいんだろうが」
「……今、それは難しそうね」
「ミレン、ちょっとここでレンド見ててくんねぇか?ちょっくら行ってくる」
「皇帝のところに?いいけど……さっきみたいなみっともない真似しないでちょうだいよ」
「相手がモノホンの幼女じゃなきゃ大丈夫。じゃ、ちゃちゃっと」
「待ちなさい!!」
壁に磔になっていた年増四砲手が叫ぶ。が、どうやら体は動かないようだ。どんな魔法でああなってんだ、アイツ。
おぉっとぉ、そこの男性読者諸君。動けない女相手によからぬ妄想はNGダゾ。HAHA。
「待ちなさいって言ってんのが聞こえないの!?」
笑って流しながら通り過ぎようとしてんのに年増が呼び止める。なんなんすか。
渋々振り向くと年増四砲手は剣呑な顔もちでこう切り出した。
「アンタ、私の可愛い子はどうしたの?」
「気絶させて、魔封じの印結んで転がしてる」
「……陛下に会ってどうする気かしら?今までの復讐でもするつもり?」
「んなのするか。和平交渉だよ。もう戦争しないっていう」
「…………は?」
年増四砲手がキョトンとした顔をする。やめろ、その顔は幼女だけに許された権利だ。
「なによ、それ……」
「俺たちは戦いたくない。この国と争いたくない。だから止める。そんだけだ」
「っ!!そっちから戦いを吹っ掛けてきたんでしょ!!あんな酷いことをしておいて!」
「酷いこと?」
「そうやってとぼける気!?陛下の……レーちゃんの家族を、事故に見せかけて殺しておきながら和平交渉なんてふざけないでよ!!」
「…………どういうことだ?」
「……あぁ、そう。アンタ何も知らないんだ。なら教えてあげる。アンタんとこの皇帝はね、領土拡大の野心から密偵を送り込んで、レーちゃんの奥さんと子供を、散歩中に事故に見せかけて殺したのよ!!」
「…………」
「疑ってる顔ね?証拠ならあるのよ。密偵が出頭してきて全部バラしたんだから!!何を狙ってか知らないけど、関係なく死罪にしてやったわ!!」
「ま、待ってくれそれはーー!フウヤ?」
サウルちゃんの発言を止める。
「サウルちゃん。ちょっと我慢してくれ」
「聞いてくれフウヤ!ボクはーー!」
「知ってる」
「えっ……?」
「……ごめん。語弊があった。今分かった。少し色んな可能性を疑ってたけど、今ので確信に変わった。……その言葉は彼女にぶつけるべきじゃない。もっと他に言うべき相手が、真っ先に伝えるべき相手がいるだろ。その時まで、我慢してくれ」
「フウヤ……」
「四砲手」
「何よ!アンタが何を言ったところでーー」
みなまで聞く気はなかった。やるべき行動は、変わらない。
「フウヤ……?」
四砲手に向けて頭をこすりつけ土下座した。その後、東、西、南、北と。幾度となく頭をさげた。
「な、何して……?」
「……許してもらおう、許してもらえるなんて思ってない。それでもオレ達は進む。……行こう、サウルちゃん」
「ま、待ちなさい!意味が分からないわ!」
「……アンタの言葉が本当なら許されざることをしたのはこっちだ。戦争をふっかけたのもな。それでも……オレはこれ以上、この争いで人を死なせたくねぇんだよ」
「…………」
「だから頭をさげた。気持ちを伝えるために。伝わるまで、いくらでもさげる。相手が誰であろうと」
「…………」
「……恨むなら構わない。ワガママなのは百も承知だ。けどそれを……何の罪もないやつにぶつけないでくれ」
四砲手に背を向けて走り出す。サウルちゃんと共に、皇帝のいる部屋へと向かって。
「……フウヤ。あの」
「いいよ。気にすんな。ちゃんと伝えりゃそれでいい」
「……ありがとう」
「へへっ。サウルちゃんにそう言ってもらえるだけで頭さげた意味あったな。っと、ここか」
一直線の廊下の先。黒を主体とした円錐の形をした扉。この扉の先に皇帝がいる。
「……不思議な感じだ。前にボクはここに居たのに」
「……。入ろう」
ギィィ……と軋ませながら扉を開ける。そこに拡がっていたのはーー信じがたい光景だった。
少なくとも、これまで積み上げてきたシリアスを全て壊す程度には。
「が……あ……」
死屍累々と転がる重装備の兵たち。辺りには夥しい血痕の跡。激闘が繰り広げられた形跡が部屋中に混在している。
その中で、異質の存在があった。
分厚い青のコートを羽織る男ーーがノびている隣で何かの本を読んでいる少女。
見た目は9歳ほど。開かれた窓から流れる涼風が、透き通ったその少女の黒髪を踊らせる。
整った顔立ち。ロリコンでなくても振り返るであろう容姿。将来美人になることが容易に想像できるその少女をオレは知らない。が、知っている。
身体が、心が。もう目の前に現れることのないはずの人物を導き出し、脳にその信号を送り届ける。
少女ははた、とオレ達の来訪に気づいたかと思うと、目を潤ませ、
「やっと……会えた……フウヤお兄ちゃーーん!!」
オレの胸に勢いよく飛び込んできた。サウルちゃんの困惑する声が聞こえる。
「会いたかったよぉ……フウヤお兄ちゃん……!!」
聞きたいことが山ほどあった。その数多ある質問のうち、オレが最初に問いかけたのはやはりコレだった。
「なんで……ここにいやがる……
秋葉ねぇ!!」
「てへっ」
秋葉。それはもう会うことのないと思っていた、オレの前世の姉の名。




