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たとえかなわなくても

遡ること、数十分前。城内二階のレミールの部屋の前で、俺とレミールは相対していた。


「なあ、話し合いで解決しないか?」


「それは無理な相談ね。だってそっちの主張とこっちの主張は入り交じることはない。互いに対立しているんだもの」


……フウヤがいれぱ渡り合えると思ってたが、ここで自分の奥の手放ってまで追い出すかよ。


「それにね、陛下から追加の指令を受けたの。その子を無傷で連れ帰るように」


「サウルちゃんを?へぇ、陛下いつの間にそんな趣味を」


瞬時に頭上で構えた右手に激痛が走る。レミールが瞬時に俺に迫り、ハイキックを見舞っていた。


「陛下を侮辱なさるなら生かしておかないわ。覚悟なさい」


「覚悟?んなもん……こっち側についたときからしてるっつーの!」


足を掴み、背負い投げの体勢に入る。が、レミールの姿はなく、そこにいたのはぬいぐるみ。空回った力を発散させ、ぬいぐるみを投げ飛ばしながら、元いた位置になに食わぬ顔で立ち尽くすレミールを見る。


「ちっ!」


ワルサーPPKを乱射する。サウルちゃんには当然当たらないように。だが、弾丸は全てむなしくぬいぐるみに当たる。


「どこに……ぐっ!」


正拳突きが脇腹にクリーンヒットし、横にぶっ飛ばされる。


「レンド、大じょわっ!」


「っ!サウルちゃん……!」


無様に倒れている間に、レミールがサウルちゃんを捕まえる。……抵抗はしてるけど、多分振り払えない。


「魔法の相性は本当に悪いわね、レンド。転位変換魔法……物体と私の位置を入れ換える魔法。銃を召喚して撃つあなたには本当に相性が悪い」


「……元々、大体の魔法相手に強いだろが」


「そしてもう一つ」


「っ!がっ……!」


鋭いトゥーキックがガードした腕ごと腹部の骨に響き、再び吹っ飛ばされる。


「レンドぉ!」


「格闘技において、あなたは私より弱い。寝技だけはあなたの方が上だけどね。……このままトドメを刺してあげる」


「まだ……まだぁ!」


「……ああ、もう一つあったわね。致命的なものが」


勢いよくレミールに迫り、拳を振りかざす。……余裕の現れか、何か策があるのか、レミールは避ける素振りを見せない。


その余裕さを考えてる暇はない。敵の隙はつくまで!……そう、この時、レミールは本当に何もしてなかった。俺が拳を振るえば、この劣勢を覆せたかもしれない。……ああ、それなのに。


「…………」


「レンド……?」


俺の拳は、止まってしまう。レミールに当たることなく。


「……終わりね」


「っ!!」


重量の乗った一撃が、俺の腹部に入る。


「がっ…………!!」


辛うじて踏みこらえた俺を嘲笑うように、レミールは次のモーションに移っていた。左側頭部への膝蹴り。中心部を穿つように繰り出されたその威力に耐えきれず、俺の体はそのまま壁に激突した。


「レンドーー!!」


サウルちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえる。受けた技のダメージ、精神的なダメージ……体が言うことを聞かない。


「性癖が仇になったわね、レンド」


ほとほと自分が情けなく、憎かった。見下ろすように告げるレミールに何も言い返せない。


「女性は殴らない。ましてや年上、しかも、好きだった相手ならなおさらかしら?……自分の信条が、この結果を招いたのよ、レンド。あなた達にとって最悪の、ね」


「…………」


「さっきの子は今頃、私の可愛いペットに潰されている事でしょう。捕まった女の子は今はこちらの手中。……この国に攻め込もうとしてた戦力はこれで全部。希望は潰えた。自分の信条に後悔してなさい」


「…………」


痛みに喘ぐ手を動かす。震えた足を奮い起こす。身体中の痛みを知らせるがごとく血を吐いた口を、懸命に動かす。


「フウヤが……アイツが、そんな簡単に死ぬタマかよ。ミレンちゃんにしたって、そうだ。……黙って捕まってるような娘じゃない」


「……まだ立つの?」


「希望はゼロ?アイツらが諦めてないのに、諦められっかよ……ゼロにしてたまるかよ。たとえ、アンタとの相性が悪かろうが、惚れた相手だろうが、殴れなかろうが……ここは通させてもらう」


「…………」


レミールが消え、代わりにぬいぐるみが出現する。瞬間、顎が下から強い衝撃を受け、脳が揺れる。


「やれるもんならやってみなさいよ……アンタにその力があるならね!」


意識が飛ぶ。……脳裏に、フウヤと交わした会話が思い返された。





「フウヤ。お前って、なんで戦ってんだ?」


ミレンちゃんと合流するべく、フウヤと少し旅をしていた日の夜。フウヤに尋ねた。


「なんでまた急にそんな事を?」


「いや、破壊なんて魔法持ってんなら、よその国行きゃ厚待遇間違いなしだぜ?なのに、この国に居て戦う理由が、イマイチ分かんなくてな」


「……助けを、求められたんだよ」


パチッと焚き火が木々を燃やして爆ぜる音がする。薪を追加しながら、フウヤが続けた。


「ハルちゃんにこの国を……世界を救ってほしいって」


「…………」


「しょーじきな話、世界を救える、なんて思ってないさ。そんな大それたことをするつもりもない。ただ……この国に大切なモノが増えたんだよ。大切な人達が。……そいつらを守るためなら、オレはなんだってする。それこそ、土下座でもなんでもするし、炊事洗濯買い出し」


「待て。後半なんか違う」


「ジョークさジョーク。土下座ぐらいならいくらでもするけどな。守れんなら。……世界どうこうはどーでもいい。他の奴に丸投げする気満々さ。今戦ってんのもこの国のやつら守るため。ただそんだけだ。……薄情か?」


「……いーや。立派な男だよ、お前は」


「今のセリフ、ロリッ娘に言われてぇなぁ」


「悪かったな、ロリじゃなくて」





「…………」


「……まだ立つの?」


「俺は……俺も大切な奴らのために戦いたい……フウヤ、ミレンちゃん、サウルちゃん、マナ達、そして……レミール、お前のために戦いたい。たとえ敵わなくても」


「……レンド」


「……御託は聞き飽きたわ」


レミールの姿が消える。次の瞬間、俺の意識は落ちた。





「……なんのつもり?」


レミールが尋ねた相手ーー気絶したレンドの真後ろにはキースがいた。


「申し訳ありません。ご命令を受けまして。レンド様を気絶なさるようにと」


「……誰がそんな命令を」


「あたしに決まってんでしょー」


コツコツと足音が響く。小さな姿が鮮明になる。


「……レビィ」


「久しぶりね、レミール」


暗がりから姿を現したレビッチェルに対し眉間に皺を寄せながら、訝しげにレミールは尋ねた。


「私に加勢したつもり?それとも褒章目当てかしら?」


「んなのどっちでもないわよ」


「っ!!」


レビッチェルが手を振った瞬間、レミールの身体が宙に浮かび壁に激突した。


「わっ」


その予兆を見逃さなかったキースがサウルを救出し、抱き抱える。


「…………」


レビッチェルが再び手を振ろうとした時には、壁際にいたレミールの姿はなかった。


「っ」


ガキィン!と金属の音が響く。勢いよく振り抜いた拳を素早く引っ込めながら、レミールが苦々しげに吐き捨てた。


「裏切り……!レンドに続いてあなたもなの、レビィ……!」


「……裏切ったつもりはないわ。アイツだってそうよ、レミール」


倒れてるレンドを見やり、レビッチェルは続ける。


「アイツはこれ以上、争いたくないだけ。これ以上誰にも死んでほしくないだけ。あたしも同じ気持ち。ただそれだけ」


「……なるほど。絆されたってわけ。それとも憎くて仕方なかった私を消す口実が見つかったって所かしら?好きな相手の初恋の相手を消すチャンスを」


「…………」


「おバカよねぇ。大方、私から迂闊な言葉が出る前に気絶させたんでしょうけど、ただでさえ少ない勝利の確率を自ら減らすなんて。ま、レンドがいた所で1%程度しか変わらなかったでしょうけど」


「……そうね。その通りよ。アイツがいた所で変わらないわ。……あたしが勝つことには」


「……は?」


レミールの額に青筋が浮き出る。瞬間、レミールの姿が消えた。


「………」


視線を飛ばし、索敵するレビッチェル。至る所にぬいぐるみ。そう認識したと同時に衝撃がレビッチェルを襲う。


「……!」


ガードした右手をブラブラさせるレビッチェル。苦々しげにレミールが吐き捨てた。


「……防具、しかも生半可なものじゃなさそうね。鍛えてないアンタが食らってピンピンしてるなんて」


「そうよー。オリハルコン製ー。前に通販で遊び半分で買ったものだけど、役に立ったわねー」


「……仮に防衛が完璧でも、それだけよ。アンタに私は倒せない。さらに戦意を削がせるなら、そうね。……例えアンタがここで善戦しようとも、レンドの心がアンタになびくことはない。決して」


「…………」


俯き、手をダランとさせ無気力を思わせる状態になるレビッチェル。その隙を、レミールは逃さず攻め込む。


「……確かにそうね。レンドはもう、あたしを見ることはない」


わざと作られた隙の可能性が高い。そう視野に入れて行動したレミールに油断の文字はなかった。が、


「でも……それでも。





たとえかなわなくても、アンタはあたしが倒す」


「っ!」


決意を秘めたその瞳に、今まで見たことのないその瞳に、レミールは一瞬たじろいだ。その時にはもう、勝敗の趨勢は決まっていた。


「天のそらを駆ける星ーー星罰天透グラッド・エクスファクション


レミールが、辺りに散乱していたぬいぐるみと共に壁にはりつけられるように激突した。


「がっ……!!」


磔にされたまま、動けないレミール。詠唱を終えたレビッチェルは一息つき、キースに告げた。


「足音がするわ。さっきの変態と捕まってた子。ここは彼らに任せましょ」


「かしこまりました」


「その子は置いていきましょ。……いい?今のこと、レンドに話しちゃダメよ」


「う、うむ。……よいのか?」


「……いいのよ、これで」


「まっ、待ちなさい……!!」


行かせまいと体を動かすレミール。が、体は固定されたように動かない。


「レミール。アンタの正義も分かる。正義の形は一つじゃない。アンタの国を守るって決意も分かる。……けどね」


レミールに振り返ったレビッチェル。その顔は少し微笑んでいた。


「仲間を……レンドを信じなさい。変態だけど筋が通ったアイツの正義は、いつだって真っ直ぐで、眩しいんだから」


「…………」


黒穴に消える二人。レミールとサウルはその後ろ姿を最後まで見ていた。

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