ドラゴンに属性とかいらないと思います
「フウヤ、大丈夫か?また気分が悪くなってなどないか?」
「ああ、サウルちゃんに心配してもらえるなんて……結果的にだがあの年増、良い仕事した」
「潜入させてもらえただけ御の字だな。普段のアイツはもっと動かんし」
「……それでよく四砲手など努められるな」
走りながら会話してるオレら。うん、時間短縮とかの意味も込めていいと思います。……ただ、サウルちゃんの望みとはいえ、オレじゃなくてレンドがおぶってるのがこう、悲しいというか寂しいというか羨ましくて憎くてニククテ……。
「っ!?おい、何だよその怖ぇ表情!」
「サウルチャン……ヨコセ……」
「怨霊かよ!しゃーねーだろ、サウルちゃんがこっちがいいって言うんだから!」
「す、すまぬ。その……フウヤにおぶってもらうのは、その……身の危険を感じるのだ」
まず右足が崩れ落ちた。時間差なく左足も崩れ、両足の膝が地面に着く。
そのままの勢いで両手の平を地面に着け、
「おぉ……おぉおおぉ……!!」
激しく慟哭した。
「いや嘆いてる場合か!とっとと向かうぞ!!」
「どこに行くのかしら?」
「っ!」
どっからか聞こえてきた妖艶な年増の声。うん、これは年齢を感じさせる声色っすわー。なんて思ってたら横っ飛びにぶっ飛ばされた。窓が割れ、オレの体は宙を舞う。
「フウヤっ!!」
レンドの声がする。……ああ、バトルフェイズね、はいはい。じゃ敵を確認しますか、なんて軽い気持ちでオレを襲った奴をみる。そいつはご丁寧にも後を追いかけ、オレと同様宙を舞っていた。……いや、飛んでいた。
小柄なんて冗談でも言えないスケール。緑色の皮膚、鱗。背中には大きな皮膜。両手足には鉤爪。後ろ足の間から尻尾がこんにちは。ああ、ファンタジーのお約束、鉄板ってやつかハッハッハー…………。
「ドラゴンんんんん!!?」
全力で叫び落下していく。ここ、二階だったんだな。とか現実逃避をしながら。
「レンド、ふ、フウヤが…………!」
「わりぃ、サウルちゃん。それどころじゃねぇ。……マジかよ。アンタと一対一とかイヤなんだけど」
「実力自体は拮抗してるわ。私の可愛い秘密兵器もいないし、いい勝負するんじゃない?そっちが手を抜かなければ、だけど」
「……レールの親父さん、元気してたぜ。レミール」
「それが何?私はもう彼とは縁を切ったの。……あの人がこの国を捨てた時からね!!」
四砲手、レミールがレンドに迫る。サウルは一人、それを眺めることしかできなかった……。
「てな感じなんですかね、上は」
なんかでっかい広場の真ん中で寝っ転がってるオレ。やれやれ、強いものはハイターされる時代なんすかね。
「ぐぉお~!!」
「と、そろそろ現実見ますかねっと」
ドラゴンが咆哮し、オレを睨む。RPGぐらいでしか見たことないから、実物ってこんなに迫力あんだな。
シュンッッ!!
「ぐぁっ……!」
横っ飛びにぶっ飛ぶ。ドラゴンの前足がオレの脇腹を薙ぎ払ったのだ。
「ぐぉお~……!!」
「ってー。ったく、人が解説してる時は黙ってるもんだろーが。ファンタジーや異世界転生もののマナーも知らないお子ちゃまかよ」
ドラゴンが両翼をはためかせ、宙へと飛ぶ。
「……空飛ぶのやめない?秘技、落とし穴~(ダミ声)使えねぇんだけど」
「ぶぉお~~!!」
赤い光、ブレスが飛んでくる。相変わらず人の話を聞かないどらご……。
「ってあぶねぇ!!」
間一髪でかわす。あんにゃろ……!
「雷纏わせたブレスとか属性盛り盛りかよ!あと、なんでブレスに魔法効かねぇんだよ!」
ブレスだろうがなんだろうが効くはずなのに……!まあ、とにもかくにも。
「空中崩落!」
飛んでる事実そのものを無くす魔法。これでイーブンに戦える……はずだったのに。
「ぶぉお~!!」
効かない。それどころか魔法を使われたことに怒ったのか、ブレスが再び放たれる。
「ちっ……!」
多分、アイツに魔法は効かない。避けんのも……難しそうだな。
「…………」
心を落ち着かせる。目を閉じる。隻眼のおっさんから借りパクした刀を掴む。
『ーーいい、フウヤくん。いざってときに使えるから、きちんと勉強するのよ。まずは基本の型からーー』
もう二度と聞くことがないだろう姉の声が脳内に再生される。
『フウヤくんの身体能力じゃ勝てない相手が現れるかもしれない。そんな時はこの技を使ってね』
ーーああ、本当に使うとはな。破壊なんてぶっ壊れた魔法貰っときながら、姉に鍛えられた身体がありながら。こいつには勝てない。ドラゴンには、勝てない。
今まで剣技を使った時は、相手の流儀に則るため、あるいはその方が傷つけずに済むからだった。ーー今は、どちらでもない。
勝つために使う。このブレスをまともに喰らったらオレは死ぬと感覚的に分かるから。ブレスを喰らう前に勝ちに行く。
負けたら色んな奴に迷惑かかるからな。一人で戦ってる訳もなし。ーー仲間のために、勝つ。
「霜月流剣華、凪の型」
動の型である一の型、二の型ではブレスは切れない。ブレスを、空気を、見えないものを切るのはこの型のみ。
「ーー釈花空乱」
空気の流れが乱れる。空気の風圧が変化する。空気の色が、一変する。
切り裂かれたブレスはオレに当たることはなく、オレの足元に上昇気流となって運び込まれる。
「重力崩落」
自身に対する重力の概念を壊す。上昇気流は無重力状態となったオレを上に、上にと運ぶ。ドラゴンが羽ばたいてる位置よりも高く。
「ぐぉぉ……!」
ドラゴンが見上げ、ブレスを放とうとする。が、そのモーションよりも先にオレが動いていた。
「霜月流剣華、二の型」
「ぶおお!!」
「ーー艷花百傑」
火の字を描き、剣閃が走る。ドラゴンの眼が驚愕の色で染まる。もう全てが終わったあとに。
「……ぶ……お、おぉ……!!」
ドラゴンを切り裂いた傷口が発火する。苦しげな断末魔を上げ、墜落していく。
「墜落崩落」
かかるかどうか分からないが、かけた。墜落する事実を消す魔法を。殺すつもりはない。ただ勝って進みたいだけだから。
「……ぐおぉ」
地面スレスレでふわっと落下速度が低下し、風に乗せられたようにソッと地面に転がるドラゴン。……効いたみたいだな。
「っと。空中崩落と墜落崩落」
いつまでも浮いてる訳にもいかないんで、落ちて、墜落を無かったことにしながら地面に着地する。
「勝負は決まった、でいいよな、ドラゴン。……って、話が通じる訳もないか」
「なぜ……」
「え?」
「なぜ……私を助けた」
「喋れるんかい。……手が勝手にーってやつさ。気にしなくていいぞ」
「……そうか」
「んじゃ、オレはこれで」
「……まったく、愚かよのう、人間はいつまでも」
……あ、やっぱり?こんな程度では倒せませんか?仮にもドラゴンだもんな。……どうすっかなー。穏便に済ませたいところなんだが。
「……しばらくは飛べぬ、か。まあよい。我が主、レミール様に禁じられた形態を見るがいい……愚かで浅はかな人間よ!!」
目の前のドラゴンが収縮していく。巨人サイズ、建物サイズ、そして人型……のさらに小さな姿でサイズが固定化される。人間で例えるなら子供くらいのサイズ。
黒く蠢いていく物体。オレは神話生物を(イラストで)見たことあるからSAN値減らないです。なので助けてください、探索者の方。(SAN値減少中)
SAN値がびっくりするぐらいあっという間に減っていく中、それは姿を現した。
「くっくっく……待たせたな、人間。律儀に我の最終進化を見届けるとは……打ち倒せる自信でもあったのか?それが人の浅ましさ、浅慮さ、傲慢よ!」
「…………」
手から刀がこぼれ落ちる。足が震える。手が震える。自分が手を出してしまったものの恐ろしさに、自分がした愚かな行為に打ち震えた。
「ふっ。恐れをなしたか。武器を手放すとは……。まあ、仕方あるまい。主もこの姿の我を見た者は戦意を失う、と聞く。当然の帰結か。自らの行いを悔いて恥じよ」
なんで、なんで……
幼女になってんだよぉぉぉ!!
落ち着いて聞いて欲しい。オレはさっきまでドラゴンと戦っていた。が気づけばドラゴンじゃなくて幼女になっていた。な、何を言ってるのか分からねーと思うがオレも何が起きてるのか分からなかった。変装だとかなりきりだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。とんでもなく恐ろしい事実の片鱗をオレは今、味わっている。
……よ、よし落ち着いて状況整理だ。ドラゴンは変形して、幼女になった。つまり、ドラゴン=幼女……?………………あぁぁあぁああぁぁ!!
「お、オレは……オレは!なんて、なんてことを……!!」
グシャッ
「後悔と共に地獄に堕ちよ、罪深き人の子よ」
マジで罪深いよオレ……。今、幼女にグシャッと顔踏み潰されてる最高のシチュエーションなのに、何も喜びの感情が湧いてこないよ……。
「この姿になったが最後、三時間は戻れぬ。我を怒らせた罪、とくと味わえ」
「……いっそ」
「ん?」
「いっそ……殺してください……」
もう、生きてる価値ないっす。
「殺しはせぬさ……。貴様には生き地獄を味わってもらう。我の側でな」
「いいんですか……?それ、オレにとっては天国っすよ……」
「い、意味の分からぬことを……貴様、言っている意味が分かるか?我の奴隷として一生を過ごすのだぞ?監禁され、外に出れぬ不自由さを味わうのだぞ」
「やっぱ天国っすわ」
「な、なにを……?」
困惑する幼女。絶望する中喜びを見いだすオレ。そんな空間に一人の破壊者が。
「天国だか地獄だか知らないけど……アンタには痛い目を見させてあげる」
「っ!ぐっ……!!?」
オレの顔を踏んでくれていたおみ足の重圧が消えた。代わりに視界に入ったのは水縞模様の布と足。そして、
「なに無様な格好してんのよ、変態」
聞き慣れてしまった年増ーーミレンの声だった。
「…………」
「なによ、死んだような顔して。いつものアンタらしくないわよ。それに聞くことあるでしょ?なんでーー」
「ミレン……オレの旅は、ここまでだ。オレは、オレはとんでもないことを……」
「なに言ってるか分からないけど、アレと戦う気がないなら退きなさい。邪魔だから」
「たたかう……?なに言ってんだミレン!!お前、全世界の至高の財産と、幼女と戦うつもりなのか!?やめろ、死ぬだろ幼女が!」
「……ああ、そういうことね。アレスタ・フォートレス、バリア・ディスペル」
ミレンが魔法を唱えた瞬間、パリィンとなにかが割れる音がした。
「よく見なさい、アレを。今なら分かるでしょ?」
「……」
飛ばされ尻餅をついた幼女を見る。……一見すれば確かに幼女。だが、これは……!!
「……幼女じゃ、ない……!?」
「あのドラゴン、アンタと戦ってる最中に高度の認識阻害魔法をかけたんでしょうね。見かけは確かに女の子なのは変わらないけど」
「……年増、だと……?」
「ドラゴンだしね。ゆうに100歳越えてるんじゃない?」
「単体崩落」
ありったけの憎しみを込めて放った。地球に残さないくらいの気持ちで。だが。
「くく……効かぬわ」
まったくの無傷。……ミレンの件といい、もしかしてオレの魔法、年増には効かないのか?
「ミレン、頼む」
「アンタがやらなくていいの?騙されてさぞお怒りだろうと思ったけど」
「オレの魔法、どうやら効かないみたいだ。剣で斬るのはさすがに夢見が悪いし……頼む」
「……珍しく素直ね。いいわ、やってあげる。アレスタ・フォートレス、高速靴」
ミレンが姿を消した。……厳密には見えない速度で移動した。
「ぬっ、どこへ……!」
「ここよ」
「っ!…………きゅう」
幼女の背後に現れ、手刀が炸裂。幼女はあっという間に気を失った。……幼女形態になると戦闘力落ちんのな、アレ。
「フウヤ、片付いたわよー」
「サンキュー。さて……念のため魔封じの印刻んどくか」
「魔封じの印?」
「魔法とかの魔力を用いた行動を封じる印だ。効くかどうか分かんねーけど、やっといた方がいいだろ」
印を幼女に刻む。あとは縄でぐるぐる巻きにすっか。……。
「ミレン、このドラゴン縛っといてくんねぇか。オレがやったら犯罪臭が」
「はいはい。アンタに言われなくてもやるわよ」
縄を想像して、縛っていくミレン。ドラゴンの方を見ないようにしながら切り出した。
「……悪かった」
「いきなり何よ」
「不意とはいえ、事情があったとはいえ……お前を置いて逃げて。悪かった」
「……ガラにもなく素直だったり年増呼ばわりしないと思ったら、そういう訳」
小さくため息をついたミレンは、縛り終えた後にオレの額にデコピンをした。
「らしくない事言わないの。気にしてないわよ、そんなの。第一、見捨ててどうこうなら、私にも覚えがあるんだから」
「……それもそうだな」
「これで貸し借りはなし!次置いてった方はぶん殴られるってことでいいでしょ?」
「……ああ」
胸の支えが取れる。……これでも気にしてたんだ。隠してただけでな。
「…………」
「ミレン?」
「あのね、フウヤ。私……捕まってた地下牢である人に会ったの」
「ある人?」
その時、上階で轟音がした。やべっ、そういやあっちが……!
「ミレン、その話後でいいか?今、上でレンドが四砲手と戦ってんだ」
「っ!分かったわ、急ぎましょう!アレスタ・フォートレス、高速靴」
さっきの魔法がかけられる。今度はオレにも。
互いに顔を見合わせて頷き、上階へと急ぐ。
「無事でいてくれ、レンド、サウルちゃん……!」
壁が崩れ落ちる。サウルちゃんの泣き声が響く。体が言うことを聞かない。
ーーああ、やっぱ俺。コイツ、苦手だな。
「性癖が仇になったわね、レンド」
つくづく自分が憎い。力があるのに、それを振るえない自分が。




