女心は秋の空
「ふぅーっと」
瓦礫から抜け出し一息ついてレンドと向き直る。おもむろにレンドは息をついて手を差し出した。
「……ドM願望あったのか、お前」
「誰が背負い投げされたいっつー意思表示したよ。っつーかよく分かったな、俺。……俺の敗けだ。これからはお前らに協力する」
「……いいのかよ。祖国裏切る形になるぞ」
「元々、この侵略には俺は反対なんだ。いや、俺だけじゃない。レービルっつーデブ以外は反対だったんだ。レミールは皇帝に説得されて賛成側に回ったが」
「レービル?レミール?」
「両方俺と同じ四砲手だ。レービルはこっちに攻めてきてるデブ。レミールは俺らの国にいる、俺より年上の美人だ」
「へー」
「……微塵も興味なさそうだな」
「デブや年増に興味ないっすね」
「そうかい」
「……ちょっと、よろしいですか?」
オレらの会話の切れ目を待っていたのか、先ほど助けた女、マナが来た。
「おぉ、マナ。どうした?」
「……そこのアナタ」
「んぁ?」
オレを真っ直ぐ見つめる女、マナは少し赤らめ、真剣みを帯びた顔で一呼吸置いた後にこう言った。
「わっ、私の心は、そう簡単にレンド様から離れないんですからねッ!?」
……何を言っているのだろう、この年増。
「ま、マナ……?」
「で、ではこれで!」
シュバッと駆け足でいなくなる女、マナ。……オラ、面倒なことになってきた気がすっぞ!
「……。フウヤ、貴様に話がある」
ガシッと肩が掴まる。……ギャグ次元か。オーケー、オレに原因はないが付き合ってやろうではないか。
「今からお前をぶん殴る。慈悲はないってか?」
「残念。ぶん殴らん。……俺の腹心にして第一嫁の心を奪った罪、死をもって償え」
次回、フウヤ死す!デュエルスタンバイ!
「いやー、ヒドい目に遭った」
生きてたよ、俺!決勝前に生き返ってきたよ!とりあえずそれは置いといて。
「自業自得だバーカ。人の嫁たぶらかしやがって」
「たぶらかすもなにも、なにもしてないんだが……お前、さっき第一嫁とか言ってたけど、第二第三とかもいんの?」
「まだいないな。候補はここにいる面々だが」
あー、なるほど。腕の立つ部下かと思ってたけど、なんてことはない、ただの嫁候補かそっかー……。
「オレの左手が以下略!」
「落ち着け、同士。味方に手をあげるな」
「貴様は敵だぁぁ!!」
「落ち着けっつーに」
「……少しいいか」
隻眼のおっさんがレンドに近づく。殺気を仕舞わないまま。
「……本当に我々の側に回るつもりか」
「ああ。……疑ってんな。無理もないさ。ちょっとでも怪しい動きしたなと思ったら遠慮なく後ろから刺してもらって構わないぜ。フウヤもその点は覚えておいてくれ」
「……そんな必要はねぇよ。もう信じてる」
「……。ははっ、そうか」
「……」
隻眼のおっさんが睨む。それに真面目な顔で返すレンド。数秒して隻眼のおっさんが少し息をつき、目を瞑って言った。
「これでも人を見る目はあるつもりだ。……信じよう、貴殿のこと」
「……人が良い奴ばっかだな。魔封じの印ぐらいは覚悟してたんだが」
「さすがにそこまでせん」
「魔封じの印?」
「フウヤ殿はご存知ないか。……魔法を使用させなくする印だ。身体能力までは奪えんが……」
「……それをしない、とはな。……よし、みんなフードを外してくれ。ここまで気を許してくれたんだ。いつまでも被ってちゃダメだ」
「……レンド様がそこまでおっしゃるなら」
バサバサと一様に、既にフードが外れていたマナ以外がフードを外す。みんな年増。だが興味のないオレでもわかるほどにみな美人だ。男として趣味嗜好を差し置いてでも妬まずにはいられまいて。
「きーっ!!」
「……陰で僻む女みたいにハンカチ噛むなよ、萌えん」
「萌えても困るがな」
「……協力してくれるというなら尋ねたい。現在、この国に攻め込んでいる戦力についてだ」
「ざっと千人だな。確か……アイファルっつー街に逗留中のはずだ。予定ではあっちに気を逸らせてる間に俺が乗っ取る手はずだったからな」
「それ以外にこちらに向けてる戦力は?」
「今はない。……けど、ゆったりもしてらんねぇと思うぞ。アイファルにいる四砲手、レービルは率直に言って強いが気が短い。いつ気が変わるか分からん。本国の方もこっちに動きがなかったら行動指針を変えるだろうな」
「現在、アイファルにはレール殿とミレン殿に向かってもらってる。今、交戦中だろうか」
「レール……?もしかしてレール皇帝か!?」
くいつくレンド。……なんかあんのか?
「あの人、戦争止めに行くっつって一人、こっちに来たんだよ。性格上真っ正面から行く人だからてっきり……そっか、生きてたんだ。良かった良かった。……ミレンって?」
「年増だ」
「……。いやいや、そんだけ?他に情報ないのかよ?」
「暴力的な年増だ」
「……隻眼の人、その人、どんな人?」
諦めたな。まあ年増について深く語る気なんてさらさらないからいいんだが。
「フウヤ殿の姉でな、フウヤ殿は嫌っておられるがとても優しく厳しい人だ。時に真っ直ぐで危なっかしい面もあるが……そこも含め、とても愛らしい娘さんだよ」
「へぇ。フウヤの姉か」
「仮、だがな」
「仮?なになに、もしかして義姉とか?なにそれめっちゃ萌えんじゃん」
「……やっぱオレとお前の趣味嗜好ってズれてるよな」
「片やロリコン、片や年上好きだからな。ここまで意気投合してんのが珍しいくらいだ」
「……さて。用も済んだし、ハルちゃんのとこ行くか」
「ハルちゃん?お前好みの女の子か?」
「いいえ、天使です」
「フウヤさん!大丈夫でしたか、四砲手という方の……そちらの方は?」
ハルちゃんがいた広場に戻ってくると、ハルちゃんがテッテッテと駆け寄ってきて首をかしげる。抱き締めていいですか?
「きゃっ!」
抱き締めますた。え、ノータッチの精神はって?ナニソレクエンノ?
「はぁ~、2時間32分ぶりのハルちゃんの匂い~」
「細かいですね、数えてたんですか!?って、離れてください~!」
「お断り申す~」
「もぉ~!!」
「なにあの子可愛い」
「あれがハル殿です。……フウヤ殿がとても目にかけていて」
「分かる。アイツのタイプにぴったりだもんな。めっちゃロリだわ」
「ろ、ろりとは……?」
「あー、気にしなくていいよ。おーい、フウヤー。そろそろ離してやれー」
「このひととき、誰にも邪魔させんッッ!」
レンドがふざけたこと抜かすが、誰がこの楽園を手放すものか!
「ハルちゃん~」
「いい加減離してください~!」
「…………」
「マナ。……マナ、俺の事は気にしなくていいから、行ってこい」
「れ、レンド様!?なにを……!?」
「自分の気持ちの整理、つけたいだろ。行ってこい。気の済むまで。後悔ないように」
「……ありがとうございます」
全力でハルちゃんをモフモフ堪能する。ああ、チノちゃんを抱き締めたらこんな感じなんだろうか。などと考えていると、後ろから何かがまとわりついてきた。
脇腹付近に優しく手が添えられる。背中には、全人類が保護すべき財産たる少女が持ち合わせていないだろう感触……。
「っ!」
「わっ」
「あっ……!」
横へ滑り込んで受け身の体勢を取り脱出する。キッと後ろから抱きついてきたやつを見ると、やはり年増マナだった。
「おい年増ぁ……」
「ま、マナと呼んでくださいまし!」
「ほざけよ。オレの楽しみを奪うとはどういう了見だおぉ?」
「うっわー、荒んでんなぁ」
どこか楽しげにしているレンド。てめ、第一嫁とか言ってるやつがこんなことしてんのに放置でいいのかよ!?
「こっ、こんな年端も行かない少女に、公衆の面前で抱きつくなど不埒です!」
「不埒上等。こちとら互いの合意のもと愛し合って」
「ませんから!適当なこと言わないでください!」
「……くすん」
泣いたっていいよね。男の子だもん。
「フウヤ殿、気は済んだか?」
「くすん……済んでないけど済みましたぁ……」
「弱気になってやがる……」
「オホン。……レンド殿の話でこれ以上この国への脅威がないことが分かった。……フウヤ殿にはミレン殿と合流し、向こうの国、レーテリアへと打診を願いたい。……戦争の終結を」
「……ああ、分かってるよ。だからこそ、ハルちゃんに会いに来たんだしな」
何週間になるか分からない別れ、彼女で満たさずしてなにで満たすと言うのか……!
「……それ、俺も行っていいか?」
「レンド殿も?しかし……」
「戦力は多い方がいいだろ。こっちの国に危険がないならなおさらだ。……マナ達はここに残ってくれ」
「な、何故です!私たちも……!」
「連れてったらまず間違いなく途中で、コイツが嫉妬のあまり不意討ちする」
「来ても構わんぞ。天使連れてくから」
「行きませんよ!?」
「なん……だと……?」
「だってフウヤさん、人目がないときに二人きりだと何するか分かりませんし……」
「ははっ。信用ねぇな、フウヤ」
「……じゃレンド、コイツら置いてってくれ。目の前でイチャイチャされたら、おらぁ、何すっか分かんねっぺ」
「なんで急に訛ったよ。ま、いいさ。……マナ、みんな。待っててくれ。必ず戻ってくっから」
「レンド様……はい、いつまでもお待ちしてます」
マナ以外の奴らが異口同音で口を揃える。マナはというと、
「……」
何か声をかけてほしげにオレを見つめる。……はぁ。
「……マナ」
「はっ、はい!」
「……待ってろ。戻ってきたら対応の仕方、少ーしだけ考えてやる」
「……はい」
「フウヤがデレた。ツンデレか?男のツンデレほど見るに堪えないものは」
「埋めるぞ」
「じょーだんじょーだん。じゃ、早速行くか」
「おう。おっさん、ハルちゃん。こっちよろしくな」
「いい報告を待っていますぞ」
「……フウヤさん、必ず帰って来てくださいね。ミレンさんと一緒に」
「フラグかな?」
「フラグ?旗のことですか?」
真剣な表情から一転、キョトンとするハルちゃん。
そのあまりのいとおしさに抱き締めたオレは悪くない。