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愉快なゴーレムと勘違いナルシスト

「がっ……!」



一閃をマトモに受けたビードルがそのまま低いうめき声をあげ、地に伏す。



「はぁっ、はぁっ……ぐっ。やはり、寄る年波には勝てんな……」



「レール!」



出血が酷い……すぐに手当しなきゃ!



「救護班の人!今すぐ手当を!」



「おお、すまない。頼むぞ。……ビードルを」



「なに言って……!?アンタ、傷酷いのよ!しかも、なんで敵を……!」



「確かに、今は敵だ。だがそんな立場、時が経てば変わる脆いものだ。私にとっては……今も昔も、ただの戦友よ」



「レール……」



「救護班。私の命令……聞けるな?」



「……はっ」



救護班が動かないビードルを担ぎ上げ、応急手当を始める。多分、死んではいないと思う。レールにその気はなかったから。



「……はぁ。男っていうのはなんでこう、バカなのかしらね」



「ははっ。……マイハニーが見ていたら同じ事を言いそうだ」



「再現してあげるわ。ティファニーさんの前でね。アレスタ・フォートレス、包帯」



本当にこの魔法、便利。物資不足とか気にしなくていいんだもの。



「み、ミレン殿?」



「大人しくしてなさい。……心得はないけど、なにもしないよりマシでしょ」



傷の部分を包帯で強く縛り付けると、レールがぐっと低い声を出す。



「み、ミレン殿。少し手心を……」



「男がうだうだ言わないの。アンタは救護班の手が空くまでここで待機。分かった?」



「し、しかしレービルがまだ……」



「分 か っ た ?」



「う、うむ……。本当にマイハニーのようだ、ミレン殿は」



シュンと下を向くレール。部下にはあんなに威厳たっぷりなのに……女相手には弱いのかしら。



「救護班は手が空いたらレールの処置。他の兵士はレール達を守りなさい」



「ミレン殿は?」



「私は四砲手を叩きに行くわ」



「一人でですか!?何を無茶なことを!せめて兵士を連れて――」



「大丈夫よ。この子たち連れていくから。アレスタ・フォートレス、ホモ・ゴーレム、サラマンダー・ゴーレム、ガード・ゴーレム、スリーピィ・ゴーレム、スカウト・ゴーレム」



土塊からゴーレム達を呼び出す。兵士が絶句してる。魔法を使える人はごく少数って話だし、当然かもね。



「ま、待てミレン殿……!そんなに大勢のゴーレム精製には多大の魔力を使ったはず……!魔力を消費した状態であやつの相手は難しい。やはり兵士を……!」



「大丈夫よ、レール。秘策があるから」



「秘策……?」



「ええ。四砲手を打ち倒してくるから、見てなさいって」







「ぎゃあぁーー!!」



「いたい、いたいよぉー!!」



「オレ……なんだかとっても眠いんだ……」



「熱っ、熱ーーっ!!」



「結婚してくれーー!!」



「……なにこれ」



ゴーレム達を引き連れ、敵陣を駆け抜ける私。敵兵はほぼゴーレムの思いのままにさせてるんだけど……時折妙なリアクションが返ってくるのはなんでかしら。



「ひっ、怯むなー!レービル様は我々がお守りす……いゃああ~~!!」



「秘技、友人の盾!」



「ばっちょ!オレを盾に逃げ……あぁああ~~!!」



…………。



「ホモ・ゴーレム、ちょっとは自重なさい。盛りすぎ」



「スマンな。だが……悪くはないだろ?」



「その無駄なイケメンボイスはやめなさい」



「ご主人、喜んでくれると思ったのに……」



「はいはい。戦場なんだからしっかりね」



「おうともさ」



「……ご主人」



先行させていたスカウト・ゴーレムが戻ってきて、私にこう告げる。



「前方200mほどの所にテントを発見した。そこに敵の首領がいるとみられる」



「ありがとっ。助かるわ」



「……ご主人。今のウィンクは卑怯だ」



「ん、なに?」



「なんでもない。……周囲を見張ってくる。異常があったらまた報告する」



サッと離れるスカウト・ゴーレム。……呼び出した時からなんか変なのよね、彼。見た目は美少年でカッコいいのに。もったいない。



「ヒャッハァーッッ!大体焼きつくしたぜご主人ィヤァー!!」



今度は色黒の大男、サラマンダー・ゴーレムが戻ってきた。



「ご苦労様。周囲の家とか燃やしてないでしょうね?」



「無人の家をいくつかウェルダンにしちまったぜイェーッッ!!」



「分かったわ。あとでミディアムレアにしてあげる。覚悟しておくことね」



「手厳しいぜオゥアー!!」



サラマンダー・ゴーレムとホモ・ゴーレムの大暴れの結果、数百といた敵兵が四方へ散開していた。



「……ご主人、仕事終わり……?寝ていい……?」



「もうちょっと待って、スリーピィ・ゴーレム。これからが本番だから」



「……すやぁ」



「永遠の眠りに就かせるわよ」



「……ご主人、怖ーい」



儚げな美少女風のスリーピィ・ゴーレムが気だるげに瞼をこする。……私のゴーレム、なんでこんなにキャラが濃いのかしら。





「着いたみたいだぜご主人ヒャッハァーイェーッッ!とりあえず黒焦げにするぜッアー!」



敵の本陣とおぼしき場所に到着するなり、サラマンダー・ゴーレムが騒ぎ立てる。……はぁ。



「そうね。よろしく」



「あっさり許可下りると思わなかったぜヒャッハァー!遠慮なく、大火の業炎!」



サラマンダー・ゴーレムが口から業火をテントに向けて放つ。



「ククックゥルー!無駄クルー!」



燃え盛るはずの炎が一瞬にして鎮火した。……レールの言うとおりみたいね。



「オレっちの炎がー!ミストのようにスカイへバタフライしちまったぜーノゥ!」



「少し黙りなさい。……四砲手、そこにいるのは分かってるのよ。出てきなさい!」



「ククックゥルー。随分せっかちなお嬢さんだ。……よかろう」



テントから出てきたその男は、私の想像を越えた人物だった。



体全体の脂肪、細胞の70%はそこにいってるのかと疑う程に腹部が膨張している。有り体に言うとめちゃくちゃ太ってる。……日本の現役力士にもここまでの人はいなかったわよ。



「ククッルー。驚いているようだな。無理もない。……この私の美貌の前には何人もひれ伏したくなるだろうて!クルッルー!」



しかも頭がイタイ人のようね。ちなみに言うけどイケメンではない。決して。痩せていたとしてもいいとこ中の下じゃないかしら。



「ご主人ー」



呆れて四砲手を見ていると、スリーピィ・ゴーレムが私の裾を掴み、もう片方の手で四砲手を指差して、こう言った。



「あの人、めっちゃデブだね」





「……は?」



愉快そうに笑っていた四砲手の動きが止まった。



「ちょ、スリーピィ・ゴーレム?」



「しかも自分がカッコいいとかめっちゃイタイタしい……あのツラと体型でカッコいいアピールとかウザいよね」



「ここに来て毒舌連発!?アナタ、そんなキャラだったの!?」



「……ふふ」



雰囲気が変わる四砲手。先程までの楽しげなものとは一転、怒りと憎しみで顔が歪んでいた。



「これでも私、穏やかな気性で知られているんだ。それをこうまでコケにするとはな……許さん!」



四砲手が手をスリーピィ・ゴーレムに掲げた瞬間、



「消えろぉ!!」



スリーピィ・ゴーレムの体が消え始めた。



「……あ。やっちゃった」



「スリーピィ・ゴーレム!?」



「……ピィーでいい。……ご主人、私はここまで」



「なに言って……!」



「……最後に一言いい?」



「イヤよ、聞きたくない……!」



スリーピィ……ピィーは目を閉じて幸せそうな顔で私にこう告げた。



「……ようやく寝れるよ。やったね……!」



そのまま姿を消すピィー。



……うん、確かにゴーレムって作るのに魔力凄い使うけど、また同じゴーレムを作ったら記憶とかもそのままに復活する。だから死っていう概念がそもそもない。だからあのリアクションなんだろうけど……テンションは仲間をやられて怒りに燃える場面なのよね、私。なのに、あの全く空気を読んでいない発言……ないわー。



「クルックル。仲間が一人消えたなぁ」



あ。あっちは合わせてくれるみたい。すごい敵役かたきやくっぽい。……よし、仕切り直して。



「……アンタが四砲手ね」



「テンション合わせるのかご主人ッイェー!」



うるさいゴーレムは無視しよう。



「クルックル。その通り。私の名はレービル・ゼーハ。皇帝よりこの地に復讐するため参った。貴様か、この国の反乱を引き起こした者は」



「反乱……?皇帝を倒したのがそうなるなら、そうね」



「クルックル。我が皇帝は嘆いておられたよ。これでは復讐のしがいがない、と」



復讐……?



「その話、あとで聞かせてもらうわ!うるさ……サラマンダー・ゴーレム、やっちゃいなさい!」



「細かいことは気にせずファイヤー!!」



再び炎を吐き出すサラマンダー・ゴーレム。



「無駄なことを」



けど、奴が手を一振りしただけで炎はあっという間に霧散した。



「邪魔だ。消え失せろ」



続けて奴が立て続けに手を振った瞬間、



「……ありゃ。やっちまった。ご主人、アデュー」



「って俺も!?やだやだ!まだヤリたりな――!」



感動もなにもなしにあっさり消えていくサラマンダー・ゴーレムとホモ・ゴーレム。……ホモ・ゴーレムは完全にとばっちりね。



「私の魔法はあらゆる物を固体、気体、液体に変える……。なんて私にぴったりな魔法なのだろうか!クゥルークゥルックゥル!私の美の前に……全ての森羅万象は自然へと還るのだ!」



もう知ってるからいいけど……なーんでこういう敵役って自ら能力をバラすのかしら。私なら百パー黙ってるのに……ファンタジー界における永遠の疑問ね。



「おぉっと、無知な貴様に一つ忠告してやろう。私はこのイーベルスイダル大陸の魔術師でも三本の指に入るほど膨大な魔力を持っている。故に魔力切れなど起こさん。分かったか、貴様に勝つ可能性など微塵もないのだ!」



「膨大な魔力?膨大なのはそのお腹でしょ。デカいのはお腹だけにしときなさいよ、態度までデカいと疲れるわ」



「……なんだと?」



「勝つ可能性が微塵もない?やってみなきゃ分かんないでしょ。大体、無駄なカッコいいアピールしてるアンタが本当にカッコよくなる可能性に比べたら、まだこっちの方が可能性あるわ!」



「……。私にここまでの暴言を吐いたのは貴様が初めてだ。その死骸、私の前に晒してくれよう。液泡リキッド・ソープ!」



「アレスタ・フォートレス、防護水ガード・ウォーター!」



泡状の何かが襲ってきたのを、全てを防ぐ水で押し戻す。……水が溶けてる。守って正解ね。



「なるほど、召喚術か。ゴーレム精製のみならず、ここにない物体も呼び出せるとはな。腕は確かなようだが、この私には」



「アレスタ・フォートレス、マシンガン・ランチャー!」



「無駄無駄ぁ!」



マシンガンが一瞬で消え失せた。空気にされたってところかしら。



「アレスタ・フォートレス、音速刀ソニックソード!」



自動で音速の早さで切りかかる刀。これも瞬時に溶けた。



「……召喚術は魔力を多大に使う。今のもかなりの魔力を使ったことだろう。いずれは枯渇」



「アレスタ・フォートレス、凍れる太陽ブリザード・コロナ!」



太陽を模した、冷気を発生させる球体を出現させ、吹雪を巻き起こす。



「っ!うっとうしい、四方牢獄スクエア・プリズン!」



吹雪の一部は当たったっぽいけど、すぐに吹雪、そして球体がまとめて霧散した。



「……何故諦めない?貴様の魔法は私には相性が悪い。魔力の差も絶望的だろう」



「諦める?絶望?なに言ってんのよ。勝てると思ってるのに、諦めたり、ましてや絶望なんてする訳ないでしょ!」



「……これほどにまで無知とはな。……クク、クルックルー!よかろう、完膚なきまでに叩き潰してくれる!」







「……マジかよ。おい、あのおっそろしいゴーレム使いの女、一人でレービル様と戦ってやがるぞ」



「尻が……尻がぁ……っ!」



「……。そうだったな。お前は犠牲になったんだったな」



「お前に裏切られてな!ふつー、親友を身代わりにするか!?」



「悪かったって」



「詫びの気持ちが軽いなオイ!?てめーとは今日限りで絶交だかんな!」



「今度合コン開いてやるから」



「よかろう、許してやる」



「ふっ、チョロい」



「……なんか言ったか?」



「いや、なんでも。にしてもレービル様相手にタイマンとは命知らずだな。攻め一辺倒ならこの国ではレンド様の次に強いのに」



「オレ、レンド様に着いて行きたかった……」



「バーカ。レンド様が男連れてくわけねえだろ」



「そうだけどさぁ」



「文句言ってねぇで記録しっかりしろよ。レービル様、この手のうっせえから」



「わぁってるよ。私の戦闘を後世に語り継ぐのだーとか言って記録係作ってるぐらいだからな」



「面倒くせったらありゃしねぇぜ。……ん?」



「どうした?」



「レービル様の様子が変だ」



「本当だ。動きが覚束なくなって……」



「……まさか」



「ん?……ああ、そりゃねぇだろ。あの人に限って。魔力切れなんて」







「はぁっ……!はぁっ……!」



目の前の男、レービルが苦しげな表情を浮かべていた。……意外と早かったわね。



「アンタ、もう魔力切れかかってるんじゃない?」



「はぁっ……!何をバカな。私はまだまだ余裕だッッ!」



土埃を固体にして攻撃してくるけど、あらかじめ張っておいたバリアがそれを防ぐ。



「どうしたの?さっきみたいにバンバンバリアを消してみなさいよ」



「……何故だッッ!」



息を荒げ、苦々しげに叫ぶレービル。



「なぜ貴様は……そんなに魔法を使える!?貴様の魔法、一発一発が重い!なのに……なぜそんなに放てる!?」



「……。アレスタ・フォートレス、ホモ・ゴーレム」



「お呼びですか、ご主人」



「ひっ……!」



ゴーレムの登場に尻餅をついて後ずさるレービル。……魔力完全に切れたみたいね。



「あれ、好きにしていいわ」



「ご主人ー、オレっちこれでも食えるものと食えないものがあって」



「じゃ、一発ガツンとやってきて」



「……はぁ。ご主人の命令なら仕方ない。ノリ気じゃないんだけどなあ」



「ひぃっ!?」



シームレスに脱衣していくホモ・ゴーレム。……そういう意味で言ったんじゃないんだけどなあ。ま、どうでもいいけど。この組み合わせに興味はない。



「四砲手……いや、レービル。さっきの質問の答え、冥土の土産として教えてあげるわ」



「ひっ、く、来るな来るなぁ!!」



聞いてないみたいだけど語ってあげよう。気分良いし。



「まず一つ。私の魔法は召喚魔法じゃなくて、創造の魔法よ。そして、この戦いの前に一つ、魔法を唱えてたのよ。アレスタ・フォートレス、無限の魔力インフィニット・ウィッチクラスト。無限の魔力を創造してたって訳」



「アッ――!!」



「……スカウト・ゴーレム。近くにいる?」



「お呼びですか、ご主人」



「みんなに知らせてきて。四砲手は倒した。……私たちの勝ちだって!」



アイファルの戦いは私たちの完全勝利で幕を閉じた。


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