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フウヤによる考察

「では、軍法会議を再開する」



先程のイサコザを無かったように、仕切り直す隻眼の兵士。彼の口から出るのは、もちろんこの国についてだった。



「現在、隣国レーテリアが攻めてきている。我らとしては……迎え撃とうと思っている」



ザワつく会場。それを諌めたのはレールだった。



「その判断は正しい。もしあの国の提案通りに従っていれば……間違いなくここは、戦争における使い捨ての道具とされるだろう。恐らく大部分の諸君はそれに気づいているとは思うが」



静まり返る場内。その空気で兵士の一人が言葉を発する。



「で、ですが我らで勝てるのでしょうか……?我らの切り札であった三連凶は投獄の身分。レール殿や三連凶に打ち勝ったお二人がついているとはいえ……」



「勝てるのか、ではない。勝つのだ。でなければ未来はない」



レールの断言に、兵士は言葉を失って着席する。他の兵士も黙ってはいるけど、レールの覚悟は伝わったらしく、隻眼の人の発言にこれ以上、誰も何も言わなかった。



「……同意してくれたようだな。レール殿、感謝する」



「当然の発言をしたまでだ」



凄い、さっき正座してた人とは思えない。



「レーテリアについて説明しておこうと思う。新しい情報もあったものでな。……フウヤ殿、なにか?」



隣の変態が手を上げていた。隻眼の人が不思議そうに変態に尋ねると、フウヤは前置きをしたのちに話し始めた。



「レーテリアについてオレでも調べたんだ。情報確認の意味も込めて話したいんだが……構わないか?」



「か、構いませんが……」



「サンキュ。……レーテリアはこの国の西側の国境に接している国で、こちらの兵力がおよそ1万に対し、向こうはざっと10万人ほど。既に隣国は視察という名の進軍を始めていて、リーゼル、アイファルといくつかの街が落とされている。被害自体は大きくはなく、住民が人質に取られている、といったこともない。首都であるここへはまだ時間はかかるが、逆説的に言えば時間の問題。まずは進軍を止めるのが優先事項だが、四砲手と呼ばれる魔術の使い手の一人が軍を率いているため、一筋縄ではいきそうにない。……合ってるか?」



おぉ……!と低い驚嘆の声が響く。合ってるみたいね。……いつの間にコイツ、調べてたのかしら。



「驚きましたな。アイファルが落ちたのはつい昨日のこと。私も伝令を受けたのは今朝方のこと。どうしてそれを?」



「その伝令役から聞いた。少し顔見知りだったもんでな」



……なんか置いてかれてる気分。よし、後でコイツ殴ろう。



「顔が広いのですな。今、フウヤ殿が仰ったように敵は西から攻めている。まずはそれを打ち崩す。フウヤ殿とミレン殿にはそこに行ってもらい、迎撃を任せたいのだが……よろしいか?」



「それなんだが……ミレン。お前、レールと一緒に行ってもらえないか?」



「アンタ、残るっていうの?何か考えでも?」



「……。ハルちゃんと離れたくない。イチャイチャしたい」



ドゴォッという轟音が響く。変態が壁に埋まった。



「……隊長さん。そういう訳だから、私とレールで向かうわ」



「う、うむ……。行動と言葉が伴っていない気もするが、君たちに考えがあるならば、それを優先しよう」



「と、いうよりだな、私がさっきから呼び捨てにされているのだが、それには触れないのか?」



レールが何か言ってる気がするけど放置する。……この人に対して扱いがぞんざいになっていきそうで怖いわ。隊長さんぐらいの扱いはするようにしよう。薄情に見られたくないし。



「では早速だが、明日、ミレン殿とレール殿には向かってもらう。この場にいない兵達にも伝達を。1~5班はミレン殿とレール殿に同行、残りは城にて待機。以上だ。解散!」



隊長さんの言葉で散開し始める兵達。



「……では、私は愛しのマイハニーの所へ行くとしよう。気が乗らないがな」



「あとで一杯付き合いましょう。戦前の景気づけも兼ねて」



「ありがとう、戦友よ。……はぁ」



肩を抱き合って二人で部屋を後にするレールと隻眼の人。……雰囲気が険悪そうだったけど、戦友ってことは仲は良いのかしら?



……初老とはいえ、男性二人が肩を抱き合って部屋を後に……。



「おーい、年増。オレらも帰ろうぜ。ハルちゃんの所に戻りたい。そして一刻も早くあの年増のおぞましさを忘れたい……!」



「わっ、分かってるわよ。ほら、行きましょ!」



「……ミレン。なんで顔赤いんだ?なんか妄想でもしたか?」



「うっさい!!」



コイツ、本当に……!まあいいわ、こらえましょう。それより。



「アンタ、もう話してもいいんじゃない?」



「年増が嫌いな理由か?……あれはオレが生前の頃」



「そっちじゃないわよ。アンタが残る理由よ」



「ああ、そっちか。……今から話すのは予想というより想像だ。被害妄想といってもいい。それを前提に置いた上で聞いてくれ」



壁に埋まっていた変態は、自力で壁から出た後、その場にあぐらをかいて座って、言葉を続けた。



「ミレン。お前が仮にレーテリアの偉い立場……皇帝だったとする」



「ええ」



「お前はどうしてもこのディブトーニを征服したい。そこで取ったのは正面突破だ。小規模の人員、およそ1,000人と四砲手と呼ばれるやつを一人使った。……これだけで征服できると思うか?前情報としてオレらの存在を知ってるとして」



「無理でしょ。国一つ落とすつもりなら……しかも私たちの存在を知った上なら、もっと警戒して人員を増やすなりしないと」



「正にその通り。にもかかわらず敵は、正面突破作戦に兵を1,000人、四砲手1人しか使ってない。四砲手って名前からするに4人いるはず。万が一の時のためにそのうちの一人、二人残すんならまだ分かるが、3人も残す理由がない。つまり」



「……別でもう一人行動してる?」



「恐らくな。1,000人とはいえ、派手な動きをすれば目立つ。そっちに注意を向けさせて、もう1つの小隊が動くと考えるなら、その小隊の動きを掴むまではオレが残ってた方がいいだろ」



「……なーんかアンタ、その小隊が何するかも見透かしてる気がするんだけど」



「まさか。さすがにそこまで分かんねぇよ」



肩をすくめる変態。……勘繰りすぎかしら。



「ねぇ。その理論だと私が残ってもいいんじゃない?要はどっちか残ればいい訳でしょ」



「……ミレン。お前は自分の性格をよーーく見つめ直してからそういう事言え」



「えっ、お淑やかで可憐で、優しくて美人で綺麗で……」



「はっ」



鼻で笑った変態を轟音と共にもう一度壁に埋める。



「アンタ、今日家に入れないからね。今の嘲るような態度を猛省しなさい。ふんっ!」



踵を返し、その場を後にした。






という訳で明朝。ハルちゃんの家から王宮に向かうと、ズラリと並んだ兵たち。その一番前にはレールの姿。



「来たか。それでは参ろうか」



「ミレンさん……ぐすっ」



「いや、別に永遠のお別れじゃないんだから」



ハンカチで次から次へと溢れだしてくる涙を拭うハルちゃん。……戦地に向かうんだし、ハルちゃんの気持ち的に泣かずにはいられないかしら。



「年増の言うとおりだぞーハルちゃん。あ、年増。可憐な少女がいて、もし天涯孤独だったら連れてきてくれ。養うから」



「永遠に眠れ、変態。アレスタ・フォートレス、スリーピィ・ゴーレム」



「あっ、おいバカやめろ。今寝たらハルちゃんとイチャイチャする時間がっ……ぐー」



「隊長さん。このバカ、ここに置いてっていいからね。身ぐるみも剥がして構わないわ」



「すまない、さすがにそれは構う。後で医務室に連れていこう」



「ちっ」



軽く土産感覚で変態的言動をするこの変態に、そんな配慮いらないのに。



「ミレンさん……っ。お元気で」



「ええ。必ず会いましょう。それまで変態をよろしくね」



「…………。はい」



今の長い間は気にしないことにしよう。



「挨拶は済んだか?」



「ええ。レールは奥さんに挨拶……されたみたいね」



「手厳しいものを一発な」



軽装備のレールの頬には見事な紅葉が。



「昨日の一件もあるだろうが、叱咤激励する事で鼓舞する目的もあるんだろう。……あるといいなあ」



「最後に願望が入ったわよ」



「……。では参ろうか、者ども!」



うぉー!と野太い声が上がる。およそ1,000人の旅。人数的には互角。あとは四砲手の実力次第、か。



列をなして歩き始める私たち。ハルちゃんたちに見送られ、国を出る。遠さがる国に後ろ髪引かれる気持ちはある。けど、その国を護る為にも、私たちは進まないといけない。……必ず、帰ってくる。



「……そっちは頼んだわよ、フウヤ」



「ミレン殿、なにか言ったか?」



「なーんにも」

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