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真剣勝負

「――ではこれより、軍法会議を始める。今日は国を救ってくれたお二方もお呼びした。これよりの方針について意見のある者は手を挙げよ」



隻眼の人に連れられて、私たちは王宮の一室に集まった。同じく集められた階級のあるらしき兵士の人たちが隣の変態を見る。



「た、隊長殿」



「なんだね?」



「その方、本当に国を救ってくれた方なのですか?若いし、その……顔が」



進言した兵士の言うとおり、変態は先程の件で顔が見事なまでに腫れ上がっていた。



「間違いなく国を救ってくれた方だ。顔については触れてはならぬ。よいな?」



「は、はっ!失礼しました!」



誤魔化したわね。まあ隣の可憐な美少女にボコボコにされたなんて言えないわよね。



「自分で可憐ってでっ!!」



「黙りなさい。会議は真面目に」



「……覚えとけよ、年増」



変態と火花を散らしていると、一人の人物が手を挙げた。



「隊長殿、一つよろしいか?」



「レール殿……。なんでしょう?」



長い白髪の髪に、立派に整えられた白髭を蓄えた人物が手を挙げた。……レール、どっかで聞いたような。



「私は猜疑心が強くてな。あの多少クセがあるものの、歴とした強者だった三連凶をこの小童たちがくだしたとは俄には信じがたいのだよ」



「……何を仰りたいのでしょうか?」



「はっきりと言おう。私は彼らがスパイではないかと疑っている」



ざわつく兵士たち。場を諌めるように隻眼の人が言う。



「レール殿、確信のない発言はやめていただきたい。無用の混乱を招くだけだ」



「確信は確かにない。が、隊長殿は確信を持って言えるのかね。この者たちがスパイでないと」



「この二人の意思と働きを間近で見た者が疑う訳がない。第一、スパイがこんなに目立つことをするわけがない」



「……と送り込まれた者かもしれん。他ならぬ、皇帝ディゼーニが」



「バカバカしい。なぜディゼーニが自分を倒させるようなマネをするのだ」



「近頃、皇帝の圧政に耐えかねた国民が、各地で暴動を起こしていた。そして、貴君も知っての通り暗殺未遂も発生した。このままここに居たのでは危ない、と判断した皇帝が、自らの息がかかった者を、皇帝に反旗を翻した者として祭り上げ、政治の中枢に置いた……とも考えうる。可能性を広げればいくらでも例を挙げられる。隊長殿、貴君の信頼だけでは些か不安なのだよ」



そうだそうだ、と野次が飛び始める。



「……面倒なことになってきたわね」



「そーだなー」



「鼻をホジるのをやめなさい。汚い」



「腐女子にそれを言われるとなかなかクるものがあるなごふぅっ!!」



蹴り飛ばしたけど、許されるわよね。今のは。



「ではレール殿、なにをもって信頼に値するか提示してもらえぬか。証だての機会ももらえないのではあんまりだ」



「簡単な話だ」



スッとレールと呼ばれる男が抜刀した。



「要は私と力試しをして頂きたい。本当に三連凶を倒す程の力があるのか否かを。私にすら敵わないようなら、それは絵空事。即刻、この国から立ち去ってもらおう」



おぉ……!と兵士たちがどよめく。……余程の自信ね。なにかやってたのかしら。



「へー。レーテリアの元皇帝にして、剣技は雷の如くなんて言われた雷帝レールさんが直々に相手とは……やれやれ、面倒なこって」



レール……どこかで聞いてた気がしたけど、隣国レーテリアの……。てか。



「ちょっと変態。なんでそんなに詳しく知ってるのよ、彼のこと」



「隻眼のおっさんに色々聞いたんだよ。これからの戦いに備えて兵士の能力についてな。そしたらこのおっさんの名前が真っ先に上がったんだよ。実力は確かだが、扱い要注意ってな」



……本当に一見お茶らけてるのに、やる時はやるわね、コイツ。ますます腹立たしいわ。



「アンタ、あとでスクラップ・ゴーレム3体ね」



「何でだよ。っつーか、そろそろ来るぞ」



変態の言葉でレールの方を向くと、こちらを愉快そうに見ていた。



「いいねぇ、すっかりやる気のようだ。……老体と舐めてかかると痛い目を見るぞ。若人たちよぉ!!」



声高にそう叫んだ彼は、私たちに向かって真っ直ぐ駆けてきた。



「っ!アレスタ・フォートレ」



唱えてる時点で気づいた。これは間に合わない。剣が振り下ろされる方が圧倒的に早い。反射的に目を閉じた。





「どうやら本当に本気らしいな。……手は抜かないぜ?」



次に目を開いた時には、頭上スレスレで鍔競り合っている刀が二本。一本は好戦的な顔をしたレール。もう一本は本気の表情をしたフウヤだった。



「フウヤ……?」



「ちょっと退いてろ。……いや、退かした方が早いかっ!」



「ぐっ……!」



ガキィン!という音が響き、レールが後ずさる。フウヤが刀で跳ね返していた。



「……ほう。魔術の使い手と聞いていたが、剣も使えるのかね?」



「昔、ちょっとな。……おい、ミレン」



「な、なに?」



「オレが相手するから、離れてろ」



「はぁ?何言ってんのよ。アイツ、私を狙ってきたのよ!なら私も――!」



「喋る暇があるとは余裕だな」



「っ!」



再び交わる二本の剣。



「……おい、ミレン。お前、男の勝負を遮る気かよ」



「へ?」



「男同士の、一対一を遮る気かって言ってんだよ……っ!」



再び剣を跳ね返すフウヤ。



「な、なによそれ。意味が分からな」



言葉の途中で、誰かに後ろから引っ張られた。隻眼の兵士だった。



「ミレン殿、ここは退いてやってもらえぬか」



「な、なによアナタまで……!だってアイツ、私を狙って」



「ミレン殿を狙えば、フウヤ殿が本気を出す。……恐らく、レール殿は見越していたんじゃなかろうか。そうなる事を。フウヤ殿もそれに気づいて、この対戦に持ち込んだ」



「……意味が分からないわ。それなら口で言えばいいじゃない。一対一がしたいって」



「言葉よりも行動で語るもの。男というのはそういうものです。本能、互いの本能が目の前の者と一対一で戦いたい。そう訴え、言葉よりも行動を優先したのでしょう。……男というものは単純なのです。私にも覚えがある。一対一で戦いたいと思った事が」



「……理屈は分かったわ。到底納得できないけど」



少しブスッとする私を、隻眼の兵士は微笑んで見守る。その間にも二人の剣戟の音は止むことなく、響き続ける。



「ははっ!!楽しい、楽しいぞ少年!よもや君のような齢の者と、こんなに楽しい勝負が出来ようとは!」



「あーそうかい。そりゃ良かったな」



「しかも底無しの実力と見た!まだ本気を出しきっていないな!」



「……バレてーら」



「その本気をそろそろ出した方がいいのではないか!?でないと……首が飛ぶぞ!」



レールの鋭い一閃がフウヤの首を襲う。フウヤはそれをすんでの所で交わし、反撃と言わんばかりに蹴りを入れる。



両者共に後退り、距離を置く。



「……少年よ。名を名乗れ」



「……フウヤだ」



「覚えたぞ、その名。……好敵手の一人として!」



レールが再び一気に距離を詰める。二人の勝負は、佳境を迎えていた――







「ちょっとアンタ!何やってんの!!」



剣が交わらんとしたその時、グラマラスな美女が大声を出し、乱入した。



その声に反応し、動きを止めたレールは、先程までの好戦的なそれを潜ませ、



「ま、マイハニー……ど、どうしてここに?ここには来るなとあれほど……」



イタズラが見つかった子供のように震えていた。……え、この美女、レールの奥さん……?何歳差よ……。



「ああ、来ないつもりだったさ。けど、ここから剣の音が聞こえてくるから何事かと思ったのよ。で、来てみれば……こんな小さい子相手に真剣振り回すなんて、何考えてんの!?」



ギューッと変態を抱き締めるグラマラスなレールの奥さん。豊かな胸に埋もれてる変態は偶然といえ幸せだったわね。



「……」



あ、違う。イヤみたい。なんか……この世の絶望を見た、と言わんばかりの表情になってる。そんなにイヤなのね、年上の女性。



「ティファニー、やめんか!その……はれんちだぞ!夫の前で!」



「なぁにがハレンチよ。そんな邪な事考えてる方がハレンチだわ。ねぇ、坊や……あら、気絶してる。ほら、あなたが狂気じみた顔で刃を向けてるから」



「いや、あの……コイツ、気絶してるのは別の理由なんで、その……気にしないでください」



「うん?あなたは……?」



私の方を見て首をかしげたレールの奥さん。すると、変態を置いてツカツカとこっちに歩いてきて、



「かぁわぃい~~!!」



その圧倒的な包容力で私を抱き締めた。私の顔を自身の胸で包み込むように力強く。……この敗北感はなんなのかしら。いや、私もある程度はあるのよっ。決して貧乳とかじゃないのよ!けど……悔しい。なにこれ。



「ちょっと、誰よこの子たち!特にこの子!こんなに可愛い子、この国にいたの!?ああ、でもダメよ。ここは軍法会議の場。子供たちが来ていい場所じゃないわ。ほら、帰りましょ?」



「お、お待ち下さいティファニー殿!この子らはただの子供ではないのです。この国を救った者たちなのです!」



「…………へっ?」







隻眼の兵士による懇切丁寧な説明を受けるレールの奥さんことティファニーさん。



「年増怖い年増怖い……」



一方でガタガタ震えてる変態と、



「おぉ……マイハニー。そろそろ姿勢を変えても構わないだろうか?私も年でな……辛くなってきたぞ」



ティファニーさんの命で正座をし続けるレーテリア。アンタ、さっきまでの貫禄はどこに行ったの。



レールの訴えを完全に無視し続けて説明を聞いていたティファニーさんは、説明が終わるなり、感嘆のため息をついてこう言った。



「へー、なるほどねぇ。……アナタたち、すごいじゃない!国を救うなんて!しかもこんなに若いのに!立派なものだわ……お礼にもう一回ハグしてあげる!」



「……!」



「あ、すみません。私は結構です。代わりにあっちに思う存分やっていいので」



「……!!」



「もぅ、つれないわねっ。はい、坊や。お姉さんからのハグよっ」



「~~っっ!!」



……相当イヤみたいね。未だかつて見たことがない表情で、変態が私を睨んでるわ。歪んだ性癖って怖いわね。



「この子たちについては分かったけど……なんで私の主人とこの子がバトルしてたのかしら?」



「おぉ、マイハニー。聞かないでくれると嬉しい」



「あなたのご主人が、私たちをスパイだーと疑って、違うというなら実力で証明してみせろーって勝負を挑んできました」



「わ、私たちの真剣勝負がたった一言で……!」



「見事に簡潔な説明でしたな」



レール、一応こっちは狙われた恨みがあるからね?私は手を下さないけど、奥さんに下してもらうわ。



「……隊長さん」



「なんでしょうか、ティファニー殿」



「ウチの主人のご飯、一週間抜きで。あと、この子たち借ります」



「前者は了解しましたが、後者は……」



「隊長殿!?」



「仕方ないわね。……じゃ、ある程度の休暇がこの子たちに与えられた時に借りるわ。それならどう?」



「それならば……」



「……!…………!!」



変態。イヤなのは顔見たら伝わるけど、声に出さないとハッキリ伝わらないわよ。



「よし、交渉成立ね。そろそろお暇させて頂きますわ。アナタ、軍法会議が終わったらまっすぐ私の所に来なさいね」



「…………」



「返事は?」



「OKだよ、マイハニー……」



事態を収束させたのか、それとも引っ掻き回したのか。ティファニーさんは部屋を後にした。



「……レール殿。実力は見極めた、ということでよろしいか?」



「……そうだな。疑ってすまなかった」



「いや、今さら真面目にやっても無駄よ、レールさん。私の中でのあなたのキャラは確立されましたから」



「……うむ。まあ、構わぬよ。他の者もそれで異論はないな?」



レールが話を振るけど、異論は出なかった。実力は示せて、疑いも晴れた、ってことかな。



「では、軍法会議を再開する」



隻眼の兵士の言葉を合図に、会議は再開された。

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