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第1.5話 その狐、のじゃロリにつき (その2)

 山に分け入ってしばらくして、はぐれウルフテイルを見つけた。

 ウルフテイルは狼が魔力を受けて進化した魔物だと言われているが、基本は狼と変わらない。

 木々に隠れながら移動して、射程に入ったので弓を構えて矢を番え、息を殺す。

 弦を思いっきり引いたところで──ウルフテイルの様子がおかしい。

 ふと顔を上げたかと思うと、耳を動かし、何かを探り始めた。

 遅れて自分のところにも『音』が届く。

 フィリアに渡した笛の音だ。

 長く、連続した音──逼迫した緊急事態を知らせる音だ。

 自分はフィリアに、自分と山に入った時に命に関わる問題が起きた時は息の続く限り笛を吹くのを繰り返すことと、ちょっとした用事で戻ってきて欲しい時は短く吹くのを繰り返すことをお願いしておいた。

 山に入る時は危ない獣に出会うこともある。やり過ごせるならそれに越したことはないのだが、笛を吹くということは何も構っていられない状況にあるのだ。

 構えた矢をしまってから弓を肩に掛けるようにして、来た方向へ戻る。

 つい先日家に招いたフォックステイル──フィリアはフォクシーと名付けていたか、が気掛かりであまり遠くへは来ていないはずだ。

 それでも、全力で走るには距離がある──。

 ──ちょっとした窪みをジャンプして正面に向いた瞬間、言葉を失った。

 フィリアの居るはずの方向から閃光が見え、火柱が上がる。

 遅れて熱波が辺りを薙いでいった。

 思わぬ熱気に両手でガードしたがそれほどの熱さはここまで伝わっては来なかった。

 止めていた歩みを、もっと早くする。

 もう息が上がっていたのだがそれも忘れてしまうほど、フィリアの身を案じた。

 所々で木々に服を引っ掛けたりして傷だらけだったが、痛みすら忘れるほどに夢中に走った。

 近くまで来て、目を疑った。背の高い木々の葉で隠れているはずの空に、ぽっかりと穴が開いていた。

 薄暗いはずの森の中に、突如として現れた光差す場所。

 光が差しているはずなのに辺りは黒く焼け焦げていた。

「──フィリア?!」

 黒焦げになっている地面の端にフィリアらしき少女が横たわっていたので、駆け寄って肩を揺するが反応は鈍い。

 つい先ほどまで辺りは燃えていたようで、フィリアの近くには未だに煙を上げ続ける黒い大きな塊と、呆然と立ち尽くすフォックステイルらしき人物がいた。

 フィリアがフォクシーと名付けた彼女だと思っていたばかりに、目を丸く見開いてしまった。

 僕の知っている彼女は、五歳程度の外見で約一メートルほどの身長で、尻尾が1本だ。

 しかし、ここにいる彼女は身長百三十センチくらいでフィリアより少し小柄な程度で、体付き(貧乳なところ)はフィリアに似ていた。人間でいうなら十二~十三歳程度だろう。お尻には二本の尻尾が生えていた。

 またしても素っ裸で突っ立っているので目のやり場に困る。

 フィリアの肩を揺すっていると、フォクシーが力なく地面に膝をつき、倒れそうになった。

 慌てて駆け寄り、彼女が顔面から地面に突っ込む間際に滑り込む。

「……良かったのじゃ、フィリアを守れたのじゃ……!」

 僕の顔を見たフォクシーはそう言い残すと気絶した。

 外見に似合わず『のじゃ口調』でしゃべる彼女には驚かされた。まだ彼女がフォクシーであると断定は出来ないが、今は焼け焦げて原型を留めていない魔物から守ってくれたことと、フィリアの名前を知っているという点で間違いないと思っている。

 守ってくれたのは良いが、フィリアもフォクシーも頬を叩いても起きる気配がない。

 とりあえず二人を担いで昼食をとった辺りの草むらまで戻ってきて敷物を広げ、そこに二人を寝かせた。

 あたふたしている内に日が傾き始めて、それが橙に染まり始めた。

 とりあえずフォクシーを全裸にしておくわけにも行かないので、肩から羽織っていたマントで包んであげた。これでとりあえず体温低下はないはずだ。

 一人だったら背負って町まで帰ることは可能だが、二人ではさすがに無理だ。

 先ほどは二人を担いだが、精々300メートル移動した位で音を上げた。

 一人を残して町に戻ることも考えたが、意識のないままではウルフテイルか森の獣に襲われる可能性が高いので選択肢から排除した。

 結果として、どちらかの意識が戻るのを待つか、誰かが通りかかるのを待つくらいしかできない。


 辺りが暗くなり始めて、僕は仕方がなく火を起こした。

 運よく枯れ枝や落ち葉が近くにあったため、暖を取るのと視界の確保には問題がなさそうだ。

 運が良いとは思ったが、人が通らないのは運が悪いというのでは?

「……まったく、困ったものです……」

 フィリアとフォクシーの頭を優しく撫でる。

 突然妹が二人に増えてしまったようで、二人を連れてきてしまったことを少し後悔している。

 あの時僕が家に居て欲しいと言ったら結果は変わっていたかも知れない。

 フィリアもフォクシーも危険な目に合わせずに済んだかも知れない。

 ──遠くに明かりが揺れるのが見えた。

 結構早く近付いてくるのを見る限り、馬車のように思える。

 パカラッパカラッと小気味よい足音が聞こえ始めて馬車がはっきりと見えた。

 その御車台にはケイスと数人が座っていた。

「──やっぱりお前らか!」

 目の前に着くなり、ケイスの怒鳴り声が響いた。

「申し訳ないです」

「まあ、その様子だと全員無事なんだろ? なら良いさ──と言いたい所だが、何があったか白状してもらおうか」

 ケイスは御車台から降りて目前に来ると、腰の剣を鞘から抜いて僕に向けた。

「──場合によってはお前らを拘束、連行することになるかも知れない。正直に話せ」

「……はい」

 僕はちらりとフォクシーを見てから、ケイスに向き直った。

「何があった?」

「僕が見た限りでは、フィリアとフォクシーが魔物に襲われて、それをフォクシーが退治したようです」

「フォクシーとは誰だ?」

「ここに寝ている、獣耳と尻尾を持つ少女です。昨日ケイスが『獣耳尻尾付きの全裸幼女』と呼んだ彼女です。フィリアが名付けました」

 フィリアと並んで横たわっているフォクシーを指す。

「昨日と容姿が違うが?」

「僕にも詳細はわかりません。ですが、フィリアの側に居て、フィリアの名前を知っていて、フィリアを守ってくれたことを話していました。すぐに気絶してしまいましたが」

「昼間の火柱はなんだ? 町の監視台から報告があった」

「フォクシーの魔法のようです。大きな体の魔物が黒焦げになって倒されていました」

「その雌狐も魔物ではないのか?」

「それは僕にはわかりかねます。ですが、フィリアを守ってくれたことだけは確かです」

「ふーむ……」

 僕がまっすぐにケイスに見つめながら答えると、彼は剣を収め、顎に手を当てるポーズを取った。

「最初から厄介な狐だとは感じていたが、ここまでとはな」

「敵意があれば、最初に僕とフィリアが殺されていたはずです。だから彼女に危険はありません」

「その辺を決めるのは俺らじゃないさ。この件を追加で報告して、結果を待つしかないかね」

「──────」

 ケイスに言われて、僕は言い返す言葉が見つからなかった。

 単純に考えて、人型の魔物である可能性が高い。それに加えて高威力の魔法を操るのだから、上が黙っていないはずであった。

「とりあえず、もう夜も遅い。今日はこの辺で野営して、明日の朝にここから引き上げる。引き上げる前に現場の確認もしないとな」

「……はい……」

 弱々しく返事をすると、ケイスに背中をバンと叩かれた。

「な、なにをするんですか!」

「フィリアを守ってくれたんだろう? 悪いようには報告しないさ」

「ケイス……」

 親指を立ててウインクするケイス。

 物事を公平に見ようとするその姿勢には昔から頭が上がらない。

「おい、お前たち!」

 ケイスが言うと、馬車から数人が降りて来て、野営の準備を始めた。

「とりあえず、今日は妹の無事を祝おうじゃないか。それでいいだろう?」

 森の夜が更けていく──。

突然現れた未知の存在に対して、どんな反応をするのが「人間らしい」のだろう?


追記:

現在の主人公の容姿に関わる重要文を書き忘れたので、追加しておきます。

1.5話終了段階で2尾の狐娘に。(歓喜)

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