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第0.5話 その狐、夢心地につき

 彼女が眠って暫くしてから、僕もフィリアも眠ることにした。

 ソファーの毛布を覗き込むと、天使のような笑顔で眠りに就いている獣耳尻尾幼女がいる。

 名前もわからない。

 どこから来たのかもわからない。

 彼女は一切言葉を口にしなかった。

 最初こそ僕が彼女に怪我をさせてしまったことで警戒されてしまったが、今ではもう慣れたようだ。

 ──フォックステイルが人に変身……?

 今まで聞いたことがない。フォックステイルは人間に簡単に狩られるほど弱い魔物の一種だ。狐が魔力を帯びて進化したものと言われている。

「お兄ちゃん、この娘と一緒に寝るから部屋に運んで」

「んー、まあ大丈夫でしょう。この寝顔が危険とは思えませんしね」

 せがまれて妹の部屋に運ぶべく、彼女の背中と膝裏に手を差し入れて抱き上げる。年相応の重さがそこにあった。

「耳と尻尾がなければまるっきり人間なんですけどねぇ?」

「そだね」

 抱き上げた僕の腕を、彼女の小さな手が掴む。 

 自分の親指なんかしゃぶってて、かわいいものだ。

 妹の部屋に来て彼女をベッドに下ろそうとしたところ、ガッチリと掴まれていて引き剥がすことができなかった。

 妹が軽く頬を叩いて起こそうとしても夢の世界にいる彼女はこちらの世界には帰って来なかった。

 仕方ないので僕が一緒に寝ることにした。

「お兄ちゃん! 襲ったりしたら許さないんだからね!」

「そんな趣味はないですよ!」

 結構な大声を出しても彼女は目を覚まさなかった。本当に明日目覚めるのかと思えるほどに。

「それじゃあ、おやすみなさい」

 吐き捨てるように言って自分の部屋に来て、ベッドに彼女を下ろす。

 小さい頃の妹の服を着ているだけあって、昔を思い出す。

 妹もこんな感じで眠ってしまってベッドまで運んであげたことが何回もあったのを思い出した。

 あの頃の妹と違うのは頭に三角錐状の耳とお尻にもふもふ尻尾が生えてるくらいだ。

 僕に殺されそうになったのに、今ではすっかり気を許してくれているようだ。

 優しく彼女の頭を撫でてから、僕も体を横たえる。

 小さな、だけど幸せそうな吐息が聞こえてくる。

 ──もしあの時彼女を殺してしまっていたら……?

 考えただけで手が震えた。

 生活の為とはいえ、何匹のフォックステイルを仕留めて皮を剥ぎ、売ってきたのか思い出して、ぞっとした。

 震える手に、彼女が抱き付く。

 彼女は意外と寝相が悪いようで、眠っているのに結構動き回っていた。

 今はとりあえず、罪滅ぼしではないけれど彼女と過ごすことにしよう。

 僕も静かに目を閉じた。


 ──それが翌朝の大惨事に繋がるとはこの時の僕は思いもしなかった。

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