4 今日から、俺は!
やっとまとまりました。
第四話、です。
神社の向かいの酒屋に来た。店内を眺めると、お酒の瓶、びん、ビン……。どれが何だか分からない。
吟醸と大吟醸の違いが分からない。
淡麗辛口、濃潤甘口?
とりあえず、店員さんに来てもらい、「神様のお供え物」にと、言ったら、お神酒用と書かれた物を渡された。レジでお金を払おうとすると、
『なあ、甘酒買ったらどうだ? 』
『は? 一々うるさい……』
『由緒正しき、栄養ドリンクだぞ! 』
「え? 由緒正しき? 」
「お客様? 」
もう、嫌だ! また、うっかり声に出したらしい。
「あー、その~、甘酒が美味しそうだな? と、思って。由緒正しい酒屋さんの甘酒は、さぞ美味しいのかな? と。」
「ありがとうございます! 江戸時代から、由緒正しき酒蔵で、作っています! 疲労回復にも、もってこいですよ! 紙コップですぐにお出ししますか? それとも、持ち帰り用の瓶もありますよ? 」
酒屋さんを意図せずに、誉めてしまった。こんなに満面の笑みを浮かべているのに、買わない訳にはいくまい。
「紙コップでお願いします。すぐに飲みたいので。」
「畏まりました! 熱々をご用意しますね! 中庭にお持ちしましょうか? 」
「はい、お願いします。」
レジで、甘酒の分も一緒に支払いを済ませて、店の奥にあるという、中庭へ進む。日当たりが良く、暖かな陽だまりの中のベンチを見つけ、そこに腰掛けて、待つことにした。
張り切った店員さんによって、熱々に温められた甘酒は、口当たりが良く、甘さや独特の粒々感も、心地好い。昔、飲んだ時は、甘ったるくて、苦手だったが、程好い甘さで美味しく感じる。しっかりと温められているから、なのだろう。
『いやー、良かった良かった! お前、少し疲れてたからな! 少し、元気になっただろ? よっ? 』
『よっ? じゃないし。あんまり、外では話しかけないでよ! 』
シュンとした気配がして、目を閉じると、案の定、子狐モードで、尻尾を脚に挟んで、下を向いていじけている。
はーっ、と、ため息を1つ吐くと、また、心の中で語りかけてみる。
『あんたさあ、平社員かも知れないけど、仮にも神様でしょ? 何で私に話しかけてくるの? 』
『お前~! そんなに俺が嫌なのか? 』
『いや、』
『はあああん?! 』
『面倒だなあ、……いいえ、嫌では御座いません。』
『おお! 言葉遣い変わった! 俺様の重要性が、やっと分かってくれたか! 』
子狐モードで、ご機嫌な狐さんは、ピョンピょこ、ピョンピょこ、跳んだり跳ねたり。あまつさえ、くるくると、空中宙返りの前転・後転までしている。とんぼ返りをする、狐、……初めて見たよ。
正確に言えば、目を開けていると見えないけど、気配で感じる。目をつぶっても、人が隣にいるのが、分かるよね? 感じる体温とか、匂いとか、風の動きとか。そういう感じなのだ。
『いい加減に答えて! どうして私に構うのよ! 』
『うん、お前は、真面目で良い奴だからな! 』
『……そんなことは、無いと思うけど。』
『ただ、真面目過ぎて、頑張り過ぎて、疲れちゃったんだろ? 』
『……神様が、人を助ける基準て、「真面目」と「善人」? 』
『うん、あと、お参りしたか、どうか。』
……良い人間でも、お参りしないと、助けてもらえないなんて、神様はケチじゃないだろうか?
『だって、お前、この国の人間、何人いると思ってんの? 数え切れない位いるんだぞ? 八百万 の神様がいるんだから、こっちは、ご縁のある人間を助けようとするだけで、精一杯だぞ? それに!
「誰でも良いから助けてくれ!」
って、言った、困っている奴を優先しないとな! 』
『……、そんな事、言ったわ。』
『でさ、ちゃんとお礼に来ている! 』
『助けてもらったら、相手が誰でも、ありがとうは言わないと、いけないんじゃない? 後、お稲荷様にお願いしたら、お礼をしないと怒られて、困った事になるって、都市伝説の本に書いてあった! 』
『あー、……困らせたい訳じゃないんだけど、こっちもね、仲間と一緒に、全力で頑張ってるんだよ。見えないから、分からないだろうけどさ、神様も一生懸命! 頑張ってるのよ! それなのに! あーそれなのに! お礼も言ってもらえないなんて! 』
『だから、お礼に来て欲しくて、困らせてアピールするのね? 』
『うん、神様は、
「良い良い、捨て置け。見えなければ、分からぬだろう。」
って、言うけど、俺達は、許せないのよ! 神様は、こんなに頑張ってるのにって。』
……つまり、偉い神様は、お礼が無くても怒らないけど、部下は、
「何、無礼かましてるんだ、謝れ! こら! 」
と、お怒りになるというシステムか。
……学生時代、部活で三年生の先輩に、恥をかかせてしまった事があった。その先輩は怒らなかったけど、二年生には、めちゃめちゃ怒られて、大変だったもんね。すごく納得。
『と、いうわけで、お礼に来た、まっとうな人間には、優しくしてやりたいんだよ! しかも、お前! 家から遠いのに、よく来たな! 無理して来なくても、来られる時で良かったのに! お前が、神様に感謝してるのは、分かってたんだぞ? 』
『うん、助けてもらったって、何となく分かったの。だから、会いに来たかったの。』
『会いたかった!? く~、嬉しい事を言ってくれるねえ! 』
子狐モードで、くるくる、ピョンピょこしながら、話をしていたら、急に狐男モードに戻り、あらたまった表情で、頭を下げる。
『これから、宜しく頼む。』
慌てて、紙コップの甘酒を飲み干すと、こちらも背すじを伸ばして、頭を下げる。
『こちらこそ、お世話になります。』
『よし! 今度こそ帰るか! 帰ったら、早速神棚に酒を供えてくれ! さーけ!さーけ! 』
紙コップをゴミ箱に入れて、駅に向かって歩き出す。
『まったく! 雰囲気ぶち壊しだよ! あ、帰りの電車の中では、話しかけないでよ! 一時間半位は、黙っていてよね! 酔っぱらい! 』
『えー! もっと、まともな名前で呼んでくれよー! 』
『パリピ』
『却下! 』
『酔っぱらい 』
『俺様は、酒好きだが、酔っぱらいでは無い! 』
『……酒飲みからの、ざる! 』
『おおい! 俺は狐だけど、うどんでもそばでも無い! 』
『コンちゃんは? これ以上は、考え付かないよ。』
『……安易なネーミングだな。でも、まあ、簡単で呼びやすくて、可愛い! 俺様にピッタリ! 気に入った! 』
『……じゃあ、今日からあなたは、コンちゃんね。』
『おう、「コンちゃん様」でも良いぞ! 』
『うるせー! パリピに戻すぞ! 』
『ええ? こいつ、怖い! コンちゃんて呼んでくれよー! 』
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