3 パリピでは、ありません!
まだ、主人公の詳しい事が書けませんが、もう少ししたら、ファンタジー要素や、モフモフが好きな人とかにも、お楽しみ頂ける様に、狐さんを魅力的に書きたいものです。
なぜこうなったのだろう。そば屋さんのほうじ茶は、美味しいけど、落ち着いて飲めない。
目を閉じると、暗闇の中に、白い子狐が、尻尾を脚に挟んで、うるうるした瞳で上目遣いに見上げてくるのだ。
もちろん、目を開けていようと、閉じていようと、相手は、頭の中に勝手に話しかけてくる。オドオドしながら。
『あのう、さ、酒は? あんたには、悪いんだけど……。』
「う!」
「はい、何でしょう? 」
「お、お会計、お願いします。」
思わずまたしても、うるさいと叫びかけた。『必殺! 笑ってごまかす!』を店員さんに向けて、駆使しなければならないのだ。
もう! 少し黙っていて欲しい。
『……静かにしなさい。今、考えているから。』
『よ、よろしくお願いします。……何でこんな事に。飲みたかったなあ……。怖かったよう。』
美味しかったはずなのに、口の中には、余韻のかけらも無いまま、笑顔を作り、店の出入口横の、レジで会計を済ませて、外に出た。
神社の方へ、のんびり歩いて戻りながら、頭の中に話しかけてみる。もちろん、安全の為に、目は開けたままだ。
『それで? お稲荷様のみつかい? お使いとは違うのよね? 天使みたいなものかしら? 』
盛大にこける気配がする。オーディション無しで、お笑い芸人になれそうだ。ウケる。
『天使なんかじゃない。あ、今のは失言だ。天使とは違うって、言いたかっただけで、あいつらは、感じの良い奴らだよ。所属が違うだけで、仕事は同じ様なモンだしな。うーん、「けんぞく」って知ってるか? 』
神様にお仕えしてるのに、失言とか。
この人大丈夫かな? わざとかも知れないけど、何か心配になる。
……あ、人じゃないのか。天使も、御使いにかかると、あいつらとか、奴らとか。どこからツッコミを入れたら良いのだろう。
『おい、全部聞こえてるからな。まあ、「けんぞく」ってのは、神様の中でも、1番下の位。平社員だよ。その分、経験も実力も足りないから、修行するんだよ。あ、言い忘れてたけど、主な仕事は、神社の中で、神様や、神様を信じる人間とかを守ってんだ! 』
『ふうん、なるほどねえ。? あなた! 神社の中にいるの?』
『当たり前だろ?』
その辺のシステムが分からないし、じゃあ、今私にはどうやって話しかけてるのだろう?
『とりあえず、神社のどこにいるか、教えて。』
『おっけー! 中に入れ! あ、お前達の世界で言うと、細胞分裂が、1番近い! だから、神社の中にいても、同時にあちこちにいられるぞ。』
『便利ね。』
神様が、細胞分裂。……すごいな。
そうこうしている間に、神社の前に戻ってくる。
鳥居をくぐると、白い石畳が敷き詰められた参道の両脇に、狐の石像が、並んでいる。
普通の神社なら、狛犬がいるのだろうが、稲荷神社ならば、狛狐とでも言うのだろう。
ゆっくりと両脇の狛狐を眺めながら、参道を歩いていくと、
『ここだ。』
と、声が聞こえる。どうも、シリアスモードになると、声が重くなるみたいだ。狛狐だか「けんぞく」だか分からない。でも、仮にも神様だし、大切にしなければ、という心持ちになる。人の目も気にはなるが、自分なりの礼儀を尽くそうと、1体の狛狐の石像に一礼し、手を合わせる。
『何故、私に話しかけて下さったのかは、分かりませんが、御守り下さって、ありがとうございます。これからも……よろしくお願い致します。』
『おっけー! 良いぞ!』
声も、態度も元通り。雰囲気ぶち壊しだ。……やっぱり、ムカつく。こんなパーティーピーポーで、ウーイ! な神様が、現実にいるのだろうか?
でも、最近、辛かった。色々な事があり過ぎて。
家族とは喧嘩するし。
バイト先でも、人間関係が微妙だし。
資格試験は、不合格になるし。
友達とも疎遠になるし。
身体も最近、疲れやすくなって、いつも何処かが痛くなるし。
ストレスは溜まるし。
お金は貯まらないし。
他にも、色々あり過ぎて。
偽物でも良い! 騙されても良い!
自分を助けてくれる存在に、すがりたい。
正直、この狐男の軽さは、腹立たしくも、救いでも、あった。
『写真、撮っても良いですか? 』
『おう、イケメンに撮ってくれ! あと、俺様は、本物だ! 騙されても良いなんて、考えるんじゃねーぞ。』
返事はしない。スマホのカメラを起動して、右側から、写真を撮る。我ながら、上手く撮れた気がする。
『あー、俺様は、反対側から撮る方が、写りがいいんだけどな。』
『早く言いなさいよ。このパリピぎつね!』
『はあああん?! 俺様は、パリピじゃねーし! 宴は、楽しむもので、騒ぐ為のものじゃねーし! 大体、仕事を真面目にすればこそ、酒はうまくなるもんだし! 騒いでるだけの奴らと、一緒にするなよ! 』
『……お撮り直ししましょうか? 』
『ううっ! 結構です! ……怖いよ~。』
苛立ちに任せて凄むと、また可愛らしい子狐になった気配がする。なんて、あざとい奴なんだ。イライラする。
狐男のせいで、性格まで変わりそうだ。鳥居をくぐったところで、話しかけられる。
『さあ、張り切って帰ろうか! 』
『……お酒、買って帰るよ。』
『え? 良いのか? 』
『知ってたんでしょ? まさか酒屋さんが道路を挟んで、神社の向かい側にあるなんて。前に来た時は、神社の方しか見てなかったから、気付かなかったわ。』
『お前っ! 良い奴だなあ! 俺! 頑張るよー! 』
『お調子者なんだから。このパリピめ! 』
『パっ! パリピって言うなあ! 』
ご覧頂き、ありがとうございました。
何かお気付きの事がありましたら、お知らせ下さいませ。
よろしくお願い致します。