1 出会いは、K稲荷神社
閲覧専門でしたが、自分でも書きたくなり、書いてみました。霊的なものや、スピリチュアルに興味があり、霊的能力がある人に憧れを持ってる主人公の話です。
コンちゃんは、きつねである。
そう、キツネ。
しかし、動物の狐でもなければ、うどんでもそばでも無い。
そう、彼は(多分、彼)は、神の使いだと言う。
彼との出会いは、突然だった。
思い立って、祖父が生前お参りしていたK稲荷神社に行ったのだ。すると、ご利益と思われる事があったので、遠かったがお礼参りに行ったのだ。
本殿の前で、手を合わせると、参道を引き返す。入口の鳥居をくぐったところで、頭の中で聞いたことの無い声を聞く。
「守ってやるぞ、守ってやるぞ。安心しろ、大丈夫だ。」
低くて温かみのある、力強い男性の声が、お腹に染み渡る程に響いた。
きっと、神様に違いない!
今までの私の苦労を、分かってくれたんだ!
ありがとう!
違和感なんてみじんも感じず、私は、目に感動の涙さえ浮かべて、今一度一礼し、K稲荷を後にした。
……それで終わりだと、思ったのに。
「はい、ストップ! そこの店で達磨を買え!」
……? 何が起きたのかと思った。
「だーかーらー! ダルマを買えって言ってんだろ! あ、色は、白な」
またしても、聞いたことの無い男性の声が、頭に響く。先程とは違う、少し高めの舌っ足らずな、男性の声だ。思わず辺りを見渡すと、近くには誰もいない。
「だーかーらー! お前に話しているんだって!」
……疲れてるんだ。自分の頭がおかしいのは。うん、気のせいだ。
「気のせいに非ず。これは、神託である! 」
先程から聞こえている、男性の声が、畏まって硬くなった。間違いない、怒ってる。逆らったら、ヤバそうだ。ご神託か。恐いよ。
昨夜読んだ、美輪さんの本の内容を、思い出す。神様の言う事を無視して、大変な目に遭ったという。いくつも実例を挙げてあった。これ、やらなきゃ、ダメなヤツだよね、きっと。
……畏まりました。はいはい。買えば良いんでしょ? 買えば!
実は、神社を出てすぐ隣に、神棚や達磨を売っているお店があったのだ。……何屋さんて、呼べば良いんだろ?
とにかく、その「達磨屋さん」の店頭ワゴンに一つだけ入っていた、野球のボール大の、白色のダルマを手に取り、店内へ入って行った。
見るからに優しそうな、初老のおじ様が、接客をしてくれる。
黒髪と白髪がほどよく混ざった銀髪を、七三に撫で付け、金属フレームの円い眼鏡を掛けている。あー、次があったら、またこのお店に来たい。そう、思わせてくれる。
ダルマを買うのは、初めてだ、と話すと、丁寧に教えてくれる。
右目を描いてやり、(なお、筆記用具は何でも良いらしい)ダルマの後頭部にお願いを書く。お願いが叶ったら、ダルマの左目も書いて、神社や購入したお店に持って行き、お焚き上げをしてもらうらしい。写真入りの説明書まで、見せてくれた。紙袋に入れてくれ、会計を済ませて店を出ると、いつの間にか昼になっていた。
どこでお昼ご飯を食べようか?
昼食を取る店を探していると、
「あー、そこのそば屋、うまいぞ。」
……はあ?
「そこのそば屋さんに入れ。ちなみに、お前の好みは、『けんちんうどん』な。」
……また何か聞こえる。進行方向右側に、お店がある。見上げてそば屋の看板を確認すると、店の前に、小さな黒板の立て看板がある。
もり (そば うどん)
ざる (そば うどん)
たぬき (そば うどん)
きつね (そば うどん)
けんちん (そば うどん)
等と、書いてある。混乱しながらも、空腹感には勝てそうも無い。お出汁と醤油の匂いに引き寄せられる様に、黒い格子の付いた引き戸に手を掛けた。
店内で、座敷席を選び、写真の付いたメニューを眺める。もちろん、けんちんうどん一択だ。エプロンの似合うお姉さんが、柔らかい笑顔で、注文を聞いてくれる。うん、このお店にして、良かった。近頃、感じの良い店は、決して多くない。接客が良い店は、貴重だ。……それにしても、頭の中で話しているのは、誰なんだろうか。稲荷神社の帰りなら、お勧めメニューは、いなり寿司か、きつねそば辺りだろう。けんちんうどんで、大丈夫なんだろうか?
「はーい、おまちどお様です。申し訳ございません、謝らなきゃいけない事があって。」
調理していたらしい、エプロンの似合うおばさんが、お盆を持ってきてくれたのだが、どこか、気まずい笑顔を浮かべている。
「はい? 」
「あー、実はね、けんちんの具が思ったより少なくて…用意出来なかったの。お詫びに天ぷらサービスするから、許して頂けないかしら? 」
「はあ? ええ、もちろん大丈夫ですよ?」
「本当に、申し訳ございません、ごめんなさいね。」
少しマヌケな声を出してしまったが、けんちんうどんと天ぷらうどんの両方を食べられるなんて、かえって得をした気になった。少し濃いめの出汁が、うどんにからんで口の中一杯に広がる。幸せな気分で丼の中身と天ぷらを交互に口にする。天ぷらは、さつまいもと、かぼちゃだった。甘い物が大好きな私は、更に幸せな気分を味わう。
「ほーら、けんちんで良かっただろ? 」
……また、自信満々な声が聞こえる。頭の中で声がする、なんて、きっとドラマの見過ぎか、物語の読み過ぎだろう。化粧室の場所を店員に聞きながら、私は、頭を一振りした。
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