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七話 混乱と動揺

 ……どうしてこうなった。

 俺は今激しく動揺している。

 《始まりの街》を出て直ぐにある森の奥深く。

 帽子屋と別れた後直ぐに、新しく発見されたと言うダンジョンのある場所に向かったのだが、情報通りダンジョンに辿り着いたそこで、今正にオークに襲われている少女を発見した。

 条件反射的にオークに斬りかかり助けたが、大丈夫かと近づいた瞬間、悲鳴に近い声を上げながら全力で距離を取られ、腰の剣を抜きこちらに向けて威嚇してくる。

 健全なお年頃の男としては、助けた筈の女性にそんな反応をされれば流石に傷つく。

 いや、別に助けたからとか言って恩を着せるつもりはないんだけどね……。

 なんと言うか……そんなに俺が嫌でした……?

 思いの外メンタルへのダメージが半端じゃない……。

 ショックのあまりフリーズしていたが、気がつけば彼女の持つ剣が青く光りだしていた。

 思い切り臨戦態勢じゃん。攻撃スキル使う気満々じゃん。

 彼女の装備やライトエフェクトから、あのスキルは片手用長剣の初期スキル《スラッシュ》だろう。

 どう見ても俺に向けてますよね……。

 この依頼が終わったらしばらく宿に篭って泣こう。うん。

 というか彼女は本当にスキルを打つつもりなのだろうか。

 今このゲームはデスゲームとなっている。

 通常のMMOならPKなど日常茶飯事だが、SCOでプレイヤーを殺そうものならそれは人殺しだ。

 それにダメージを負わせれば、相手に痛みが伴う。

 まともな人ならそんな事は普通しない。例えあの時の影の言葉が嘘だったとしても、確証がない以上してはいけない。

 彼女の頭の上にあるカーソルを見る。

 色は緑。

 それは彼女は少なくとも現在は犯罪的行動をしていない事を意味している。

 一度でも同じ緑色のプレイヤーを攻撃すると、カーソルの色はオレンジとなる。

 オレンジ色のカーソルは犯罪者を意味し、一定期間を過ぎ再び緑に戻るまで、街や村などの《圏内》に入る事が出来なくなってしまう。

 それはプレイヤーにとっては致命的だ。

 宿で眠る事も、回復アイテムの補充も出来ないまま、期間が過ぎるまで《圏外》にいなければいけないのだから。

 PKをする際のメリットがほとんど無く、デメリットがあまりにも大きい。

 その為オレンジカーソルになるという事は、明確な悪意を持つ者だと証明することにもなる。

 目の前の女性が悪意を持って俺を攻撃しようとしてるとは思えない。

 というかどう見ても動揺してパニックになってるよね……。

 俺のせいなのかなぁ……。それしか考えられないよなぁ……。

 とりあえず彼女を落ち着かせることを優先しよう。

 俺が原因でパニックになってるとしたら、下手に声をかければ余計に彼女を刺激してしまうだろう。

 ここは彼女が冷静さを取り戻すまで攻撃を躱し続け……っ!

 彼女が持つ剣が僅かに動いた瞬間。俺の脳から強烈な危険信号が鳴った。

 ほとんど反射的に後ろに飛び退いたその時、彼女の身体がブレ、先程まで俺が立っていた場所に強烈な斬撃が放たれた。

 ……速い!

 このゲームに慣れ、数々のスキルを見てきた俺でも、今彼女が放った斬撃を完全に捉え切る事が出来なかった。

 明らかに攻撃スキルによる動きの補助だけではない。

 攻撃スキルによってアシストされる動きに、合わせて自分も動く事でその速度と威力を底上げする技術。

 俗に言うシステム外スキルと言うやつだ。

 アシスト任せに慣れてしまったプレイヤー程、この技術は習得し辛い。

 僅かに動きにズレが生じるとスキルが中断され、無防備な状態に陥ってしまう危険性があるが、それによる恩恵はとても大きい。

 ただスキルのアシストに任せて攻撃を放って防げなかったMobの攻撃でも、この技術を使えば防げるようになったりもする。

 俺自身も使っているが、今の彼女の動きを再現出来るかと言われれば難しいだろう。

 それ程までに彼女の動きは極まっていた。

 俺に攻撃を躱された事に気付いた彼女が、再び剣に青い光を宿し斬りかかる。

「ちょ……っ!」

 身体を思い切りひねり、高速の斬撃をなんとか躱す。

 振り向けば彼女は既に次の斬撃を放とうとしていた。

 初期スキルである《スラッシュ》は簡単に言うとタダの水平切りだ。

 威力こそ大きくないが、その分リキャストタイムがかなり短い。

 単純や動きとはいえ、目で追うことが困難な程の速度の剣を、この近距離で躱し続けるのは無理だった。

 三度目の斬撃を俺は躱すことが出来ず、手に持った大剣で防いでしまった。

 ガキンッ!

「ッ……!」

 金属同士がぶつかる甲高い音が響くと同時に、俺のHPゲージがほんの少し、僅かに減少する。同時にダメージを知らせる鈍い痛みが両手に走る。

 あぁ……やってしまった……。

 どれだけレベルが離れていようとも、スキルで放たれた攻撃をスキルを使わずに受けてしまえば、例えガードしようとも僅かにダメージが発生してしまう。

 俺にダメージが発生したことによって、女性のカーソルが緑からオレンジに変化する。

 これで彼女は完全に犯罪者プレイヤーとなってしまった。

 ……もういいか。

 ダメージを受けてしまい、彼女がオレンジになってしまった以上、もう躱し続ける必要はないだろう。

「ほっ」

 彼女の剣を自分の剣の腹で受けた状態から、俺は大剣を力任せに振り上げ彼女の手から剣を弾き飛ばす。

「…………あ」

 弾き飛ばされ、宙を舞う己の剣を見つめながら、目の前の女性はその場にへたり込んだ。

 力無く座り込み項垂れるその瞳には、何処か絶望した様な、諦めの色が浮かんでいた。

 女性にもう戦う意思が無いことを確認した俺は、大剣を腰のホルスターに収め話しかけた。

「落ち着いた?」

 もっと気の利いた事を言えたら良かったのだが……。今さっきまで襲われていた身としてはこれが限界だった。

 俺の言葉に反応を示すことなく、女性は地面を見つめながら沈黙を続ける。

 ……無視ですか。……そうですか。

 空はもう暗くなっており、夜空を大きな月と大量の星が照らしていた。

 これからはMobの強さが変わる。装備やさっき俺に与えたダメージからして、彼女のレベルはそれ程高くはないだろう。もしかしたらレベル1なのかもしれない。

 それであれ程の斬撃の速度を出せるのは恐れ入るが、彼女をここに放置するという選択肢は俺には皆無だった。

 月の光が俺たちのいる場所を照らし、彼女の姿を明確に映しだした。

 思わず息を呑む……。

 襲われている時は気づかなかったが、目の前の女性はかなりの美人さんだった。

 月の光によって黄金色に輝く長い髪に、透き通る様な白い肌。青い瞳を持ち、小振りで整った顔は、ゲームで出てくるエルフを連想させた。

 健康的な肉付きを持つ手足に、布を僅かに押し出し存在を主張する胸はバランス良く整っており、見る者(主に俺)の視線を釘付けにした。

 いや、全体像ではエルフより女騎士のイメージの方が近いか……って何を考えてる俺! しっかりしろ!

 今重要なのはこれからの事だと自分に言い聞かせる。とは言え、彼女が反応をしてくれない限りはどうすることも出来ないのだが……。

 うーむと俺が考えていると、今まで沈黙を守っていた彼女が口を開いた。

「ーーーー」

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