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二話 デスゲームの始まり

 「……何だよこれ」

 窓に映る自分の顔を見つめながら今の状況について考える。

 何故キャラクタークリエイトが無く、現実の体格や顔でSCOの中にいるのか……。

 現実の顔を再現する事自体は、顔をすっぽりと覆うVRギアならやろうと思えば不可能では無いだろう。しかし、そもそもそうする理由がわからない。完全なフルダイブだから、現実との差異を無くした?……いや、それではネットゲーマー達が恐れるリアルばれだ。そんな事を意図してするとは思えない。

 ふと気になり、視界の左上にあるHPバーを見ると、そこにはアルファベットで【tell】と書かれた名前を確認する。

 テルという名前は、VRギアの初期設定で自分の体格などを入力する際に一緒に入力した、ゲーム内で表示される自分のプレイヤーネームだ。VRギアでプレイするゲームでの自分の名前は、基本的にこれで固定されている為、ひとまず、名前まで本名だったらどうしよう……という俺の心配は解消された。

 しかしまだまだわからない事が多すぎる。

 頭が少し冷静になると、周りの動揺の声がハッキリと聞こえてくる。

「おい、どうなってんだよ。いきなり始まったんだけど。キャラクリは?」

「てかこの広場から出られないんだけど。バグ? 運営何してるんだよ」

「まじかよ。ログアウトも出来ねーじゃねーか!!」

 その声を聞いて、俺と周りにいたプレイヤー達も、慌ててメニュー画面を指で開き、ログアウトボタンを確認するが……。

「……無い」

 βテストの際に何度も目にした、ログアウトの項目そのものが無くなっていた。


 変化が起こったのは、正式サービスが開始してからニ時間後の事だった。

 真っ先にこの世界に来たプレイヤーも、少し遅れてきたプレイヤーも、自分達がログアウト出来ず、自力でのこの世界からの脱出は不可能という事を知り、更に《始まりの街》中央広場に約一万人のプレイヤーが密集している事でのストレスからか、プチパニックが発生している最中だった。

 広場の中央、SCOの世界でここから他の村や島に移動する際に使用するテレポーターの真上に、派手な爆発エフェクトが発生した。

 幸いこの《始まりの街》や他の街は、《圏内》つまりダメージを受けないエリアになっている為、爆発に驚いたプレイヤーはいても、ダメージを受けた人はいなかったようだ。

 広場に密集する約一万のプレイヤーが、何事!? とテレポーターに注目し、爆発エフェクトが消えたそこには、真っ黒な影に全身を覆われた、人の形をした何かがいた。

『はーい。皆さーんちゅーもーく』

 軽い、あまりにも軽い口調で、その影は声を放つ。

『はい。注目してくれましたねー。まず落ち着いて、静かに聞いて欲しいんですが、私このゲームの制作者兼GMゲームマスターでーす』

 その影の一言で周囲のプレイヤー達は口々に抗議の声を浴びせる。

「GM? 早くこのバグ修正しろよ!」

「ねぇ、キャラクリは出来ないのか?」

「この後用事あるんだよ! 早く出してくれよ!」

 影はプレイヤー達を見下し、そのまま話を続ける。

『早速ギャーギャー五月蝿いですねー。お猿さんですか貴方達は?』

 呆れる口調で両手を上げ、やれやれとする行動が、よりプレイヤー達の神経を逆撫でする。

『まぁいいか。それじゃあ今からこのゲームについてのチュートリアルを始めるぜー』

 さっきまでの軽い声から一転、影の声は重く、ドスの効いた声となる。

『まず始めに、今この場で起きている事はなんと全部! GMである俺が計画的に起こしている事だ!』

 その一言で、今まで騒いでいたプレイヤー達は静まり帰った。

『このチュートリアルでお前らに伝える事は二つある。一つ、このゲームは自発的にログアウトする事は出来ねぇ。出る為にはこのゲームをクリアする以外に方法は無い。二つ、この世界で死んだ瞬間、現実世界でのお前らの頭は、SCOのソフトについてきた付属部品に仕込まれている、爆弾によって爆破される。蘇生機能やアイテムは一切使えない。つまり、ここでの死は現実世界での死と同じ事だと考えてくれ。あぁ。外部からの救出は期待すんなよ。今警告のニュースが広がってるけど、無視して無理矢理VRギア外そうとしたら、そいつもろともボンって事になった奴もいるから』

 影は手で何かを操作すると、今現実で放送されていると思われるニュースがいくつか表示され、そのどのニュースにも『VRギアの付属部品に爆弾が!』『約一万人がゲームに閉じ込められた!?』と言った内容が表示されている。

 ……なんだと!?

 映し出されたニュースを見た全員が沈黙する。目の前で起きている事が信じられないといった顔をしている。

『おや? どうしたんだてめーら。あ、もしかしてまだよく分かってない? 仕方ねーな。それじゃあ分かりやすく簡潔に言うぞ』

 影の言葉に皆がはっと顔を上げる。もしくはまだ自分の勘違いかもしれないという、淡い期待を抱いている人もいるのかも知れない。

 しかし影は、その期待を裏切る様に、高らかに叫ぶ。

『今からSCOはデスゲームになりました。脱出する為のルールは簡単。このゲームをクリアする事! そんな事、ゲームに全てを捧げてきたお前らからすれば簡単な事だよなぁ!』

 言葉通り簡潔に、かつ自分達に現実を突きつける様に影の言葉は広場中に響く。

『まぁ俺も悪魔じゃないからよ。お前らにも一つだけ希望を与えてやるよ。たった今思いついた特別ルールだ』

 影は絶望し、下を向く俺たちに、最後の言葉を告げる。

『残りのプレイヤーが100人以下になったら、ここのテレポーターから現実に返して上げましょう。ハハハハハ。それじゃあ、精々足掻いて、絶望する様を見せてくれよ。日本中のトッププレイヤー諸君!!』

 その言葉を最後に影は消え、広場には、取り残された約一万人のプレイヤーだけが残った。


 誰も言葉を発さない無音の静寂は、遠くで上がった誰かの悲鳴によって破られた。

 その場のプレイヤー達が、さっきまで影がいた場所に向かって叫びを上げる。

「ふざけんな! 出せよ! 出してくれよ!」

「なんでこんな事するんだよ! 意味わからねーよ!」

「家に家族がいるんだよ! こんなの酷いよ!」

 俺はその場で声を放たず、ただじっと地面を見つめていた。動揺していなかったわけじゃない。むしろかなり取り乱していただろう。

 だが、周りの人が自分よりも先に動揺し、取り乱した姿を晒していた為、その姿を見た俺は、辛うじて冷静を保つことができた。

 今の状況を、冷静な部分を使い考える。ゲーム開始時に抱いていた疑問は、さっきの影の説明で解消された。ならば次はどうするかだ。

 おそらく影の話は本当だろう。モニターに流れていたニュースはとても作り物や演出には見えなかった。なら自分達はこのゲームをクリアするしかない。その為にはレベルを上げ、スキルを磨き、この世界で強くならなければいけない。

 もし、いつか外部からの助けが来たとしても、《始まりの街》でずっと叫び続けるなんて事は論外だ。

 SCOが供給する金や経験値は限りがある。皆が現実を認め、攻略に動き出したら《始まりの街》周辺のモンスターは直ぐに狩り尽くされるだろう。

 俺には周りのプレイヤーよりも、βテストで得た情報のアドバンテージがある。

 ならば速やかに此処から抜け出し、次の街へ向かうべきだ。危険なルートは全て頭に入っている。レベル1の状態でも安全に着くことができるだろう。βテストの知識を最大に活かし、ビギナーを見捨てて先へ進むんだ。

 しかしそれで良いのか? ビギナーに情報を与えて、みんなで協力するべきじゃないのか? という考えが、俺の足を鈍らせた。


 そこからしばらくの葛藤の後、俺は未だ騒ぎが収まらない広場を出た。


 《始まりの街》に残った皆が現実を受け入れ、本格的に攻略に動き出したのは、正式サービス開始の日から一ヶ月後の事だった。

 それまでに元βテスターと思わしきプレイヤー達が俺を含め、約500人が《始まりの街》から消えた。

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