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十四話 ダンジョンボス

五層目

 ダンジョン攻略もかなり進んで来た。この規模のダンジョンであれば、そろそろボスの部屋が見えて来てもいい頃だ。     

 ……しかし。

「うー。センパーイ」

 昨晩の怒りも忘れ、何故か俺の腰にしがみつきながら唸るハル。

「うるさい。歩きづらい。離れろ。何? どうした」

「アリサさんのあれ何ですか? 凄すぎませんか? このままでは私の立場が! アタッカーとしてのポジションが!」

 アリサの尋常じゃない剣撃の速度を見た事によって、ハルを含めたパーティメンバー全員がアリサを見る目が変わっていた。

 アリサの持つ将来性の高さに、俺と同じ様にハル達も気づいたのだ。

「安心しろ。ドジっ子の後輩ポジションはハルで不動だ。良かったな」

「私はドジっ子じゃないですってばー!」

「別にアタッカーが増えるのは良い事だろ。パーティのバランスが大きく崩れる訳でもないし」

 ハルは自分の立場が危ういのではと不安になっている様である。

「そうですけど……はぁ。もういいです。ていうか、アリサさんを誘った理由は昨日話してくれた内容だけじゃなかったんですね」

 ハルがジトっとした目で俺を見つめるが、慣れている俺は知ったこっちゃないので気にしない。

「そうなんだよ。アレはもう説明するより直接見てもらった方がみんな納得するだろ。スゲーよな。あんなん見たら誘わずにはいられないよな」

 やっとアリサの持つスペックの高さをみんなにも感じて貰えて、俺は内心ウッキウキである。

「テルとハル。何を話しているんですか?」

 後ろでセナと喋っていたアリサが、いつの間にかすぐ後ろに来ていた。

「んー。アリサは美人だし、センスあるなって話してたとこ」

ドカッ!

 ……ハルに蹴られた。

「え、あ、その……ありがとうございます」

 褒められ慣れていないのか、少し頬を赤らめるアリサ。

「いや本当凄いよ。アリサの剣撃の速度は。現実で剣道とかしてた?」

「いいえ。特にそういったことは。ただ無我夢中で剣を振っているだけですし」

「うーん。アリサさんはVRギアとの適正が高いんですかね?」

 アリサは未だ自身の異常な剣撃速度には気づいていない様だ。

 どうやら俺達が気を使って褒めているのだと感じているらしい。

 そんな会話をしながら攻略を進めていると。

「ん? 先輩。前」

 ハルが前方のあるものに気づいた。

「ああ」

 俺達が進んでいる道の先、遠目からでもかなりの大きさだと分かる巨大な扉があった。

 案の定、ボス部屋の入口だ。

「思ってたより早く着いたわね」

「このダンジョンの規模ならこんなもんじゃないか?」

「やっとすね! 皆さん全然ダメージ受けないから、ヒーラーの俺スゲー暇でしたよ!」

 後ろからセナ達も追いついて来て、ボス戦に対しての準備を進める。

「さて、今からボスに挑むけど、ここからは流石にアリサは前衛に出ないように注意してくれ」

「はい!」

「安心して下さい。危険が迫ったら身を呈して守りますから……先輩が!」

 オット。ハルさん手厳しいですね。

「まぁいざって時はそうするつもりだけど、出来るだけ回復役のカケルから離れないようにね」

「わ、分かりました」

 アリサはいよいよボス戦と聞いて、これまで以上に緊張しているみたいだ。

 こればかりは慣れるしかない。“数回‘’チャレンジすれば、次第に慣れていくだろ。

 パーティ全員の準備が整った。

「それじゃあ。始めようか」


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 息が荒れる。この世界での疲労は現実の身体に影響はなく、脳が身体が疲労していると認識し信号を送っている、仮の疲労に過ぎない。

 だけど苦しい。全力で走り、肺が潰れそうな程の苦しみを感じる。

 もう少し……もう少し……

 自分よりも遥かに大きな扉。明らかに人が通る為に作られた物では無い事が分かるその扉が、開いた状態のまま放置されており、それがみるみるうちに近くなる。

 出口手間になっても走る速度を落とさないアリサは、転がり込む様にその部屋を出た。

「っ~~!」

 転んだ体勢が悪かった為、アリサの膝に小さく痛みが走る。

「端によって!」

 後ろからハルがアリサに向かって叫ぶ。

 アリサの後からハル、セナ、カケルが次々と部屋を出て、素早く広場の端に寄る。

 アリサも疲労した身体に鞭を打ち、ハル達に習って端に身を寄せた。……瞬間。

ドゴォォォン!

「うお!」

「ぐっ!」

 部屋の出口近くで大爆発が起き、轟音と共に大量の炎が出口から噴射した。つい先程までアリサがいた場所は瞬く間に炎に覆われる。

 その爆風によって、大剣や盾で炎から身を守る体勢で、テルとコウが部屋から弾き出された。

「あつっ! カケル回復してくれー」

「MP切れです。ちょっと待ってください」

 カケルがMPの自然回復を待ちながら、時間をかけて二人を回復させる。

 テルとコウのHPゲージは半分を切っており、その色は黄色になっていた。

 最後の爆発によるダメージのせいだろう。

 だが、パーティの中でも防御に長けたコウとテルが、しんがりとなって爆発を受けてくれなければ、アリサ達も大きなダメージを受けていた。

「……ふぅ」

 回復を済ませたテルとコウが、地面に座り込んで一息つく。

 扉はアリサ達が全員退出した時点で閉まる仕組みになっている様で、未だ健在のボスを残し、既に閉まっている。

 完敗だった。

 《オーガロード》それがこのダンジョンのボスの名前である。レッドオーガよりも遥かに大きく、その攻撃はとてつもなく重かった。

 現に、自分よりも遥かに強いテル達が、オーガロードの前では防戦一方だったのだ。盾や剣で直撃は防いでも、防ぎきれない分のダメージが入る為、テルとコウはローテーションで攻撃を受け止めカケルはダメージを受けた二人を回復する役に徹していた。

 主に攻撃をするのはハルとセナで、刀の近距離攻撃と魔法による遠距離攻撃のコンビネーションはとても絶妙だったのだが、本来攻撃に加わる筈のテルが防御に回った事でオーガロードに与えるダメージは微々たるものだった。

 それでも少しずつ、少しずつボスのHPゲージを減らし、かなりの時間をかけて残り四割にまで減らした所で、テルが撤退を指示したのだ。

 ただ敵の攻撃範囲から外れ、見ている事しか出来なかったアリサは、何も出来なかった自分の無力さを嘆くと共に、彼等が敗北したと言う事実はとても悔しいものだった。

「いやー。思ってたより硬い敵でしたね」

 ハルが少し疲れた声を出して、テルの隣に座り込む。……が、その距離が妙に近い。と言うか「ふう」と一息つきながらテルの肩に頭をちょこんと乗せた。

 アリサが内心動揺している事も気にせず、テルやセナ達も当然の事の様に無反応だった。

「攻撃も結構重かったしな。まぁHPゲージが黄色までの攻撃パターンはしっかり見れたし、赤になってからはその場で対応するとして、それまでは楽にいけるだろ」

 テルが今だ肩に頭を乗せているハルに答え、アリサ達に向き直る。

「さて、相手の攻撃パターンはあらかた把握出来たし、次で倒しきれる様に対策練ろうか」

「え!?」

 テルが当たり前の様に言った一言に、アリサは驚きの声をあげる。

「ま、待ってください!」

「ん? アリサ。どうした?」

「また……挑むんですか?」

「もちろん」

 迷い無く、当たり前の様にテルは答える。

「た、たった今負けて撤退したじゃないですか!」

「そりゃ初見だったし」

「え?」

 アリサにはテルの言っている意味がよく分からなかった。

 負けて、撤退して、自分達では無理でしたで今回の依頼は終わりでは無いのか。

 アリサは知らない。

 このゲームにおいて、未知のダンジョンに挑む事の難しさと、この依頼の厳しさを……。

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