十話 決意と選択
「なるほどなるほど。そういう事でしたか」
俺の説明を聞きハルが納得の声を上げる。
さっき俺を突き飛ばして距離を取らせたりしてたし、内心では疑っていたんだろうなぁ。
森の奥深くで、知り合いが見知らぬオレンジプレイヤーと二人でいたら俺でもそうするだろう。
アリサは疑われている事を理解しているためか、俺達に自身のレベルすら明かしてこれまでの経緯を話した。
ゲームの経験があまり無いこと、お金が無くなったことが理由で今日初めて街から出たこと、狩場が無く、そのまま森に迷ってしまったことなど、今日一日でなかなかハードな体験をしていた。
「それじゃあこっちも自己紹介しないとな」
こちらが相手の事を一方的に知っているのはフェアじゃない。
彼女が安心できるように、信頼できるようにするにはこちらも誠意を見せるべきだ。
「俺はもういいとして、誰からいく?」
「ではでは、僭越ながら私から!」
俺の振りに対してハルが元気よく手をあげる。
「初めましてアリサさん。私はハルっていいます。レベルは18。前衛のアタッカーです。まぁ細かい事はこの際いいとして、リアルではテル先輩の後輩をしてます」
「えっと、よろしくお願いします」
「ハル、あんまりリアルの事は話さない」
てか俺との関係を話されても困るだろうに。
「えー。いいじゃないですかー私と先輩の仲ですし」
「変な噂になってほしくないんだよなぁ」
俺の愚痴もこの後輩は全くの無視である。
「後はそうですね、先輩と同じで私も元βテスターです」
その言葉にアリサは息を呑む。
疑っている訳ではないのだろうが、やはり元βテスターへの不安は消えないのだろう。
現に今《始まりの街》で問題を起こしている元βテスターがいるようだし。
……後で潰しとこう。なに、ちょっとお話をすればやめるだろう。
「次、私でいい?」
話が逸れそうな所でセナが手をあげた。
「初めまして。私はセナ。レベルはハルと同じで18。後衛で魔法をぶっ放すのが仕事。テルとは……そうね。楽しいゲーム仲間って感じかしら。私達がいない時にテルに何かされてたら遠慮無く相談しなさい。シメてあげる」
「はい! ありがとうございます」
……うん。返事が力強い。
「何もしてない。してないよー」
「それはあんたが決める事じゃないの」
「そうですか……」
「あ、それと私も元βテスターだから」
「え、セナさんもですか?」
アリサが驚きの声をあげる。
「ていうか、俺ら全員元βテスターだよ」
今まで黙っていたコウが前に出て来て補足する。
まぁ確かに一人一人言っていく意味はないわな。
「初めまして。俺はコウ。レベルは18。前衛でタンクをしている。テルやハルとは昔、セナとゲームでコンビだった時に出会ったんだ。それからはよくパーティを組んでゲームをしている」
「……タンク?」
アリサは聞き覚えのない単語に首をかしげる。
「あぁ、前に出てみんなを守る役割の人のことね」
俺が横で説明を入れる。
「それじゃあラスト。ラストはオレっすね」
待ちわびた様にカケルは勢いよく手を上げた。
「俺はカケルっていいます。レベルは皆さんと同じく18。回復担当のヒーラーっす。テルさんとのパーティでは俺が一番新米っすね」
「はい。よろしくお願いします」
「もう一年ぐらいの付き合いなのに相変わらず敬語だな。さん付けもいいって言ってるのに。俺らも普通にタメ口だしさ」
俺の言葉にカケルはとんでもないと首を振る。
「いえいえ。皆さんは俺の中では憧れの先輩っすから。尊敬の証としてさん付は外せないっす」
カケルは真っ直ぐな目で俺を見つめて言う。そんな目をされたらこちらも無理にやめさせられない。
「さいで」
とりあえずこのままでいいかと話しを打ち切った。
「それにしても。アリサは可愛いわね。とっても美人さん。妹にしたいぐらい」
「え?あっ、わわ」
自己紹介が一通り終わった所でセナがアリサに抱きつきながら頭を撫で始める。
「それで、事情は分かったけどこの子これからどうするの? まだ街に戻れないんでしょ?」
アリサを撫でながら、セナは疑問を口にする。
「あぁそれな。考えたんだけど、ダンジョンに一緒に入ってもらうってのはどうだ?」
「……は?」
「……え?」
セナとアリサが同時に声をあげる。
「ちょっと待ちなさいよ。今回のダンジョンは未発見のやつで高レベルなんでしょ? そんなところに連れて行くつもり?」
すぐさまセナが反論する。
「高レベルだからこそだ。誰かを残してアリサを護衛させていたら、ダンジョン攻略の難易度が上がる。俺たちのパーティはそれぞれの役割がはっきりしてる分抜けられるのは厳しい」
「ならアリサさんのペナルティーが終わるまで攻略を延期すればどうです?」
話を聞いていたハルが、横から意見をする。
「今回の攻略は極力急ぎだ。『始まりの街』のすぐ横にある高レベルダンジョン。ビギナーが何も知らずに入れば危険だしな。出来るだけ早く攻略して注意喚起をしなくちゃいけない」
「なら帽子屋さんに情報を公開してもらうように頼めば……」
「深部までの難易度が不明の、新しいダンジョンが出たって公開して、挑戦しないでおこうと思える奴らがどれだけいるかわからない。場所が場所だしな。難易度が低いと思う人がほとんどだろう」
「うーむ。確かに、ダンジョンの攻略をプレイヤーが止めるのはマナー違反。というか手段が無いっすからね」
カケルが納得し頷く。
「そういう事」
まぁ無いことは無いが……
「全員で潜ればその分守りやすいし攻略も早い。ついでにアリサのレベルが上がる。そう考えた結果なんだが……それで」
俺はアリサに向き直り自分の考えを伝える。
「あくまでこれは効率を考えた俺個人の意見だ。アリサはどうしてほしい?」
「わ、私ですか?」
俺は頷く
「全員でダンジョンに潜った場合一番危険なのはアリサだ。もちろん俺たちは全力で守るけど絶対に死なせないとは誓えない。アリサが嫌なら俺が責任を持って外で護衛するつもりだけど……どっちがいい?」
俺はアリサに再び問いかける。
個人的にはダンジョン攻略に参加して欲しいと思っている。
初めて彼女の剣撃を見た時、俺は惜しいと思った。
今のまま街に閉じこもっているのではなく、経験を積み、自信をつければ彼女はきっとすぐにでも俺たちトッププレイヤーに追いつくだろうという確信を、何故か俺はこの時感じていた。
それ以外にも参加して欲しい理由はあるが……。
「私は……」
アリサは答えを迷い考える。
テルが提案したものはアリサにとっては渡に船だ。
彼等に着いていけば自分のレベルは上がり、お金の問題も解決する。それは今だけにとどまらず、レベルが上がればこれからの生活で役立つことは大いにあるだろう。
ただ一点、死の可能性があるということ以外は……。
アリサはテルを見る。
テルは黙り、アリサが答えを出すのをじっと待っている。
自分が残りたいと言えば、彼はきっとダンジョンに入らず、自分を守り切ってくれるのだろう。
だがそれでいいのだろうか。
今までの様に街に閉じこもり、ただ外からの助けが来るのを待つだけの日々に戻ることが……。
違う。
それでは今までと何も変わらない。
自分の後悔のない様に生きたかったと、ついさっき悔やんだばかりではないか。
もう二度と後悔はしたくない。
ならどうするか、答えは決まってる。
「行きます。連れていってください」
アリサは深く頭を下げた。
「最後に幸せだったと言えるように」と「SCO」の両方を読んでくださった方は気づいたかもしれませんが、キャラの設定背景はまんまる同じです。
もしも「最後に幸せだったと言えるように」のキャラがゲームの世界に入ったら
そう考えて見てみると面白いかもしれません。
というわけで、露骨な宣伝でしたw