九話 パーティ集合
「……成る程ね」
目の前にいるアリサと言う女性から、これまでの経緯を説明され俺は頷く。
よかったぁぁぁ!……思わずそう叫びそうになった。
とりあえず彼女が俺を見て叫んだり攻撃してきたのは、オークに襲われてパニックになっていた事と、俺に対する噂が原因だったようだ。
俺自身が性的に嫌過ぎてあんな事をしてきたのではなくて本当によかった。
「て言うか、俺の噂ってそんなに酷いの?」
俺の質問にアリサは少し迷いながらも、申し訳なさそうに頷く。
「はい。《圏外》で人を襲ったとか、元βテスターに凄く肩入れしていて何かあると報復に来るとか、女性にその……乱暴をしたとか……他にも色々と」
思わず頭を抱える。
うーん……。元βテスターに対する噂や愚痴があるのは帽子屋から聞いていたが……まさか自分の事だったとは。
て言うか、そう言うことはちゃんと伝えろよ! 隠されてた分ショックがデカいんだけど……。
「そうかー。面倒臭い事になったな」
「悪い噂が広められているのに、怒ったりしないんですね?」
「まぁ……半分は俺の自業自得みたいなものだし」
アリサが意外そうにこちらを見つめている。
「俺たち元βテスターがやったことは大体その通りだし、俺だって善人ってわけじゃないしな。ここに来たのも単に依頼があったからってだけだよ」
「そう……ですか」
「噂だけを信じるのも良くないと思うけどな」
俺の言葉にアリサは気まずそうに顔を逸らす。
少し意地悪だったか。
「さて。普通なら君を《始まりの街》まで送って行くところなんだけど……」
アリサがハッとこちらに向き直る。
その期待を裏切るように俺は言葉を続ける。
「残念ながら今はできない」
「な……なんでですか?」
「今の君のプレイヤーアイコン、オレンジ色だろ。それは犯罪者を意味していて、グリーンカラーのプレイヤーを攻撃したらなっちゃうんだけど、その状態だとペナルティー期間が過ぎてグリーンに戻らない限り、街や村に入れないんだよ」
「そ、それじゃあ24時間は《圏外》にいなければいけないんですか?」
アリサが視線を右上に移す。
おそらくそこにペナルティーの終了時間が表示されているのだろう。確かオレンジの初犯は24時間で、重ねるごとに時間が増えていった筈だ。
アリサの瞳には恐怖の色が浮かんでいる。
攻撃したのは自分とは言え、今日までずっと《始まりの街》にいた状態から、いきなり24時間《圏外》でサバイバルをしろと言われたらそうなるだろう。
「そう言う事。まぁ間接的とはいえ原因は俺にもあるし、ペナルティーが終わるまでは付き合うよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、アリサは驚きの声をあげる。
もしかして、一人でなんとかしようと考えていたのか……。
普通は他人の助けを真っ先に期待するだろうに。
頼れる人が今までいなかったのだろう。いたらそもそもこんな事になっていないか……。
「あの、それはとてもありがたいんですが……いいんですか?」
「いいよ。俺もここで用事済ませなきゃいけないし。……それに」
俺は《索敵》スキルに反応があった方向を見る。
やっと来たか。
「俺の用事にも付き合ってもらう事になるだろうし」
「?」
彼は不敵に笑い、森の奥深くを見つめた。
言葉の意味を理解する前に、テルと言う名前の少年が向いた先の草むらがガサガサと揺れた。
新手のMobだろうかと一瞬身構える。
時刻はもう19時を回っていて、辺りは暗くなり視界が悪い。
自分達を照らすのは夜空に浮かぶ月と、夕食の時に起こした焚き火のみで、ダンジョン前の広場は多少照らせていても、森の奥は真っ暗だ。
今までMobが現れる度にテルが速攻で仕留めてくれていた為、アリサは無傷でいた。
この辺りのMobはテルにとって敵ではないようで、全て一撃で倒している。
それに何か気配が分かるのか、この暗闇でも急に走り出したと思ったら、既に敵を仕留めた後なんて事もあった。
そんな彼が……。
「せんぱーい!」
「ぐおっ」
森の奥から突如、大声を上げながら飛び出した影にタックルを受けて吹き飛んだ。
「え、え?」
慌てて彼が飛んでいった方向を見る。
彼は仰向けに倒れており、その身体はタックルをかましたであろう人物にがっちりとホールドされていた。
「せんぱい! お久しぶりです! ほら! 久しぶりにあった可愛い可愛い後輩のハルですよ! 何か言うことはありませんか?」
焚き火の光が当たり、ハルと名乗った人物の姿が露わになる。
少し長めなセミロングの黒髪に、真っ白なリボンが印象的な少女。綺麗な顔立ちをしており、満遍の笑顔を見せながらテルにしがみつく。小柄な彼女の身体は美しいと言うよりもかわいいと言った印象を受ける。とても笑顔が似合っており、その姿は同性のアリサから見ても可愛らしいと思える程の美少女だ。
袴の様な服を身に纏っており、腰には刀と思わしき武器を下げている。
「とりあえず離れろハル。動けねー」
「えー。せんぱいがかわいいって言ってくれないと嫌です」
「はいはい。かわいいかわいい」
「うわー。適当ですねー」
少女はまぁいいですと言ってテルを解放し離れる。
「……ふう」
解放されたテルは座り込みながら小さく息を吐く。
「ちょっとハルー。あんまり一人で先に行かない」
すると、少女が飛び出して来た方向の森から続けて三人現れた。
前を歩きハルと呼んだ女性は、アリサよりも年上だろうか、大人の女性といった印象が強い。腰まで伸びた茶髪は滑らかで、軽くウェーブがかかっている。整った顔立ちにも関わらず、少し鋭い目付きをしているが、テル達二人を見る目はとても温かい。アリサも思わず注目してしまうような大きな胸が、全身を覆う厚いローブの上からでも見てとれる。手には魔法使いが使う様な大きめの杖が握られていた。
その後に続いてきたのは男性が二人。
一人は黒髪をテルよりも短く揃えた若い男性。テルよりも大人の雰囲気を感じさせ、鋭い目付きに軽く微笑んでいるその顔は、どこか仕事人の印象を受ける。身体に鉄の鎧を着込んでおり、腰にはアリサと同じ片手用直剣。背中には鉄製の大きな盾を背負っている。背丈はテルよりも少し高く、鎧の下から覗く筋肉質な腕は細身ながらもガッチリとしていて、力強そうだ。
もう一人はアリサと年齢が同じぐらいの男性だが、鎧を着ている人よりも背が高い。女性と同じく全身を覆うローブを着込んでいるが、なんとなく彼も細身っぽい。茶色に染めた髪にモデルの様な顔立ちをしている。目付きは優しく、彼もまたテル達を見ながら微笑んでいる。手にはやはり女性と同じく杖が握られていた。
彼等は全員、一瞬ちらっとアリサを見るが、すぐにテルに向き直り彼の近くへ集まる。
……少しばかり孤独を感じる。
「ようお前ら。遅かったな」
テルは彼等を見て声をかける。
「これでも迷宮区から急いで戻って来たのよ。久しぶりにメールを寄越したと思ったらいきなり《始まりの街》の近くにある森に来いって……。こっちの身にもなりなさい」
ローブ姿の女性がテルに呆れたような顔を見せる。
「あースマンスマン。帽子屋からの急ぎの依頼でさ、俺一人で受けるつもりだったんだけど人手がいるっぽくてな」
テルが両手を顔の前で合わせ、謝罪のポーズをとる。
「コウとカケルも久しぶりだな。二週間ぶりか?」
「テルはあれから相変わらずソロで行動してるみたいだな。まぁ元気そうで何よりだ」
コウと呼ばれる鎧を来た男性が表情を変えずに答える。
「お久しぶりっすテルさん。やっぱりこのメンバーが揃うと落ち着くっすねー」
カケルと呼ばれた金髪の男性は明るい調子で言葉を返した。
集まった人達と一通り挨拶を交わした後、テルは会話を切り出した。
「さて、お前らに集まって貰った理由を言う前に、説明しとかなきゃいけない事がある」
「そちらにいる女性の事ですよね」
ハルが内容を察してかアリサを見る。
おそらく年下だと思われるが、じっと見られると少し気まずい……。
そんな自分を背に、テルは事情を説明し始めた。
VR系じゃなくて純粋なファンタジーや異世界ものも書いてみたいんだけど、オリジナルの用語や名前を付けるのが一苦労だと思う。