プロローグ
一度SAOの様な話が書きたいと思い書き始めました。
それ程長くはならないと思うので、付き合って頂ければ幸いです。
鈍色に光る剣尖が、俺の頬を軽くえぐった。
視界の左上に固定表示されている緑色の横線・HPバーが少し減ると同時に、胸の奥をひやりと冷たい手が撫でる。
敵の剣が再び振り下ろされるのを俺は両手に持った大剣で防ぎ、お返しとばかりに握った大剣で斬りつけるが、それを読んでいたかの様に敵はバックステップでひらりとかわす。
大人程の体格をした深緑色の皮膚を持つ鬼、ゴブリンソルジャーは、手に持った剣をヒラヒラと揺らしながらこちらを挑発してくる。
「はっ……」
無理やり大きく空気を吐き、息を整える。HPバーはまだ七割は有るが、油断は出来ない。今の俺にはこのHPバーが命であり、生命線だ。それが七割ということは、自分の死が三割近づいているということなのだから。
相手のモーション一つ一つに最新の注意を払わなければならない。
たとえ、俺が見ている全てが脳に映された仮想の3Dオブジェクトであり、減少しているのが数値化されたヒットポイントであろうとも、俺は実際に己の命を賭けて戦っているのだから。
現実だ。今の俺にとって、ここに有る全ては現実。空も、地面も、木や敵でさえも、仮想の偽物などひとつもない。
俺は、両手に持った片刃の大剣を目の前の敵に向けて構える。
対するゴブリンソルジャーも、左手のバックラーを掲げ、右手の剣を引いた。
「ギィヤっ!」
ゴブリンソルジャーが叫ぶと同時に、手に持つ剣が青く光り輝く。相手が攻撃スキル・《スラッシュ》を発動したのだ。ゴブリンソルジャーの剣はスキルによって加速し、俺を切り裂こうと刃がせまる。
その行動を待っていた俺は、身体をひねることで剣を躱し、その勢いのまま俺も同じように攻撃スキル・《スローエッジ》を発動し、大剣を相手に叩きつける。自身の身の丈程の大きさをもつ大剣は、放物線を描きながらその高い威力を充分に発揮し、ゴブリンソルジャーの胴を両断する。
赤い血の色を模したダメージエフェクトが、真っ二つとなったゴブリンソルジャーから止めどなく発生し、やがてガラスが砕けるようにその身体が霧散した。
相手のHPバーが全損し、死んだのだ。
ゴブリンソルジャーの身体が完全消失した後、俺の目の前に今の戦闘で得た獲得経験値、ドロップアイテムなどが表示される。周りに敵がいない事を確認した後、俺は大剣を腰のホルスターに戻し、ようやく一息つく。
何気無く見た空には、俺が今立っている大地よりも遥かに高い位置に、巨大な島が螺旋を描いて八つ浮遊している。
この世界SCOを構成する九つの島、これら全てを攻略しなければこの世界からは解放されない、出られない、絶望的なデスゲーム。
俺はふと、この世界に来る前、ほんの二ヶ月前の事を思い返していた。