ラプンツェル36
王子達一行は光を射し込む場所に辿り着く。そこは、綺麗に澄んだ泉で一面花畑でピクニックでも来たのではないかと錯覚してしまう。
「綺麗ね」
アテネが、ボソッと本音を漏らす。王子も内心から素直にそう感じてる。
「んっ?見てください、あそこにいるのは」
「ララ?!」
フローラが指差す方角へ視線をずらすと、そこには見違うはずがない。
キレイな金色の髪で身長よりも長い。間違いない。ラプンツェルのララだ。
「そこにいるのはララだよね?」
「その声は王子様?」
うん、間違いない。俺を王子様と呼んだのだ。やっと見つけた。
「ララ会いたかったよ」
「王子様、来ないで!」
ララが叫んだ。その瞬間に周囲の景色が一変する。木々や花がモンスターへと変わったのだ。頭上にHPバーが出現し、王子達一行を襲い出す。
「これはミミックツリーとミミックフラワーですね」
森の木々や花に擬態してるモンスター。そこまでは強くないが、厄介な事に完璧に姿を表すまでは普通の木と花と区別がつかなく、それに加え破壊不可能となっている。
「くそっ、そこを退けぇぇぇぇぇぇ」
切っても切っても次から次へと沸いて来る。はっきり言ってキリがない。このままでは物量で、こちらが疲弊してしまい死に戻りしてしまう。
「にゃ?遠回りにゃそうだけど、あそこに道があるにゃ」
シャーリーがモンスターの隙間に道を発見した。ただし、ミミックツリーを押し退けながらじゃないと道が直ぐ様に埋まってしまう。
まるでパニック映画でシャッターが閉まるギリギリで駆け込むスリル感がある。
「王子早く!」
「タカちゃん、急いで!」
二丁拳銃で牽制していたら俺が最後になっていたようだ。スライディングするかのように滑り込み、どうにか先に進める事が出来た。
間に合わなかったら、おそらく物量による圧死で死に戻っていたことだろう。
背後を振り返ると、ミミックツリーで埋まってしまっており帰り道は失くなった。ミミックフラワーは、何故かミミックツリーに押し潰され戦う意味がない。
「超怖ぇぇぇぇ」
「ハァハァ、疲れました」
「ニャッハハハハハ、久し振りにスリリングな体験だったにゃぁぁぁぁぁ」
「もぅ、吐きそう」
「何時からこのゲームはホラーゲームになったんだ!」
いくらゲーム内と言っても流石に疲れる。肉体というより精神的に。
ホラー・パニック系は、見てる分には面白い分野だと王子も思ってる。だけど、自分が体験するとなると話は変わってくる。
心臓がドキドキバクバクと早くなり、変な汗を掻いてくる。今でも心臓が煩くて、この場から動けないでいる。
「ハァハァ、戻る事は出来ないし、先に行くか?」
「ログアウトは……………出来ないね」
大抵は話が進んでもログアウトは出来るが、たまに後戻りが出来ないパターンに限り、死に戻るかクリアするしかログアウトが出来ない仕様となっている。
「よし、先に行くか。みんなは、もう大丈夫か?」
「タカちゃんが行くなら私も行く」
「お姉様の仰せのままに」
「どうせ先に進まないと行けないんだろ?」
「にゃふふふふ、ラスボス感が渦巻いてきたにゃ」
「こ、怖いですけど、頑張ります」
どのみち一本道のようで迷う要素が皆無である。また、ミミックツリーみたいなモンスターに警戒しつつ先に進んで行く。
「シクシク」
多少遠回りになったが、ララがいる泉まで戻って来た。泉の畔にララが泣いてるようだが、良く見るとララの瞳は閉じられている。
オリジナルでも塔から落とされたラプンツェルは、命は助かったものの盲目になってしまったらしい。
「王子様、来ないでって言ったのに、また来てしまったのね」
「あぁ、ララの事が心配で助けたいと思ってる」
「もう遅いのよ。目が見えなくなってしまった。顔も醜く傷ついてしまった。こんな姿を見て一体誰が愛してくれると言うの?みんな逃げ出すに決まってるじゃない」
ララから黒い靄が溢れ、この一帯を包んで行く。今のところ、ステータスに異常はなく毒ではないみたいだ。
ララから溢れていた黒い靄は十数秒後、排出が止まり一ヶ所に集合し何かの形に成っていく。
その一方、ララはグッタリと座ったまま動かずに頭を垂れている。
「ララ大丈夫か?」
「……………」
王子の問い掛けに返事がない。ここで思うのも不謹慎だが、まるで動かない、ただの屍のようだと内心から思ってしまった。