ラプンツェル35
「この声はシャルルなのか!」
『王子様、頭で念じれば声に出さずとも話せます』
シャルルの指摘に周囲のメンバーにはシャルルの声は聞こえておらず、まるで一人芝居や急に一人言を言ってる風にみえる。
『こ、こうか?』
『一発で成功とは流石です。それで先程の弾が命中したのは、私がサポートしたからです』
シャルルによると、王子のステータスを多少弄る事が出来、シャーリーに命中した弾の時は、命中率や弾の速度と弾を認識し難くするように隠密を掛けたようだ。
えっ?!なにそれ最強じゃねと王子は思った。いわゆるシャルルは即席の隠密弾を作っちゃった訳だ。
「王子大丈夫かにゃ?一人で喋ったと思ったら、急に黙ってしまって」
「大丈夫だ。シャルルと話していた」
「にゃ?共鳴融合してる赤ずきんちゃんと?」
「お姉様、頭を打ちました?」
「何か悪い物でも食べたか?」
「王子様、回復でも描けましょうか?」
「タカちゃん、今日はログアウトする?」
何か知らないけど、みんなに心配させてしまったみたいだ。まぁ俺以外シャルルの声は聞こえないし、俺でも俺と同じ事を誰かがしてたら不審に思う。
「いやいや、シャーリーも試せば良いだろ?桃太郎、俺達の声聞こえてるんじゃないのか?」
「にゃっはははは、そんなはずは……………にゃ?!」
先程の俺と同じような現象がシャーリーに起こる。喋っていたシャーリーが心ここにあらずのように黙ってしまった。
おそらく、俺と同じく念話で桃太郎と話してるのだろう。異世界ファンタジー物では良くありそうな事柄だが、実際に体験すると驚く。
「ニャハハハハ、王子の話は本当だったにゃ。にゃんで今の今まで気づかにゃかったにゃて情報屋としてあるべき失態にゃ」
情報屋としてのプライドを傷つけられたらしく、シャーリーは相当落ち込んでいる。
「まぁ猿も木から落ちるって言うし」
「河童の川流れと言いますしね」
「弘法も筆の誤りじゃねぇか?」
「天狗の飛び損ないだね」
「釈迦も経の読み間違いですわ」
「それって全部同じ意味にゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
みんなに弄られ、シャーリーは発狂する。顔が真っ赤でガクガクブルブルと震えている。
「今日は帰るにゃ」
「ごめんってシャーリー」
完全に拗ねてしまったシャーリーを慰めようとする王子だが、当のシャーリーは目を合わせてくれない。
「シャーリーさん、ごめんなさい。つい調子に乗ってしまいました」
「シャーリーごめんな。悪ふざけが過ぎたぜ」
「シャーリーごめんね。落ち込んでるシャーリーが可愛くて」
「シャーリーさん、すみません。そんなに傷付くとは思いもしませんでした」
「ほら、みんなも謝ってくれてるんだからさ。こっちを向いてよ。シャーリー」
みんなに背中を向けてるシャーリーは、チラッチラッとこちらを盗み見て、根負けしたのかクルリと半回転して、やっと向いてくれた。
「そんな目で見詰めるにゃ!シャーリーちゃん困っちゃうにゃ」
「それで一緒に着いてくれるんだよな?」
「スルーにゃ?!まぁこのシャーリーに任せれば百人力にゃ」
みんなから拍手喝采雨霰、上機嫌になってシャーリーを先頭にラプンツェルの話世界へ突入する。
話が進んだからなのか、今までラプンツェルがいた塔に向かうはずの道は閉鎖されており、逆に森深くへ通じる道が解放されている。
諸説あるが、実際のラプンツェルでも塔から突き落とされた後、森の奥で子供二人と暮らしていたそうだ。そこに王子様がラプンツェルを探して発見出来、そのまま一緒に暮らす事になり終わる。
つまりは、この森の奥に進めばララに会える可能性があるという事だ。
「こっちで合ってるのかな?」
「間違いないにゃ。新たな道が出来てきたのが証拠にゃ」
「今のところモンスター一匹も見つからねぇな」
「それだけ大量温存出来るから良いじゃないか」
そう言ってるもののモンスターどころか鳥の鳴き声とかも一切聞こえて来ない。
それが不気味で、この先にラプンツェルがいるのか不安になってくる。
一回引き返した方が良いと頭の中を過るが、背後には既に道はなく、前へ進むしか道が失くなっていた。
怖くなった王子は、デスペナルティー覚悟で自決という手も考えたが、このゲームは自決出来ないシステムとなっている。パーティーを組んでるメンバーにも傷付け合えない。
「おい、なんか明かりが見えて来たぞ」
やっと森から出られると思っていた。