ラプンツェル32
帰って来れたのは、6時を過ぎていた。バイトがある時なら、もっと遅い時間帯に家に着くが、今日はバイトがない日だと杏も知っている。
「兄さん、こんな遅くまで何処をほっつき歩いていたのですか?」
玄関に仁王立ちしている杏様が俺をニッコリと睨み付けている。
消して比喩ではなく、口元は笑っているが目元が笑っていないのだ。
俺の背後には杏璃もいるのだが、杏の視線から上手く隠れている。
生徒会の仕事が終わり、杏璃とここまで一緒に帰って来た。
「杏璃さんも隠れてないで出て来てはどうですか?」
俺の背後に隠れてる杏璃もバレていた。しょうがなく、杏璃も杏の前に出て来た。
「テヘっバレちゃった。杏、タカちゃんを怒らないであげて。私の都合で生徒会を手伝ってくれたの」
「まぁそんなところだと思いました。どうしたのです?何時まで突っ立てないで中に入ったらどうですか?」
杏が怖くて足が動けなかったとは口が割けても言えない。
俺と杏璃は、靴を脱ぎ家に上がる。リビングに入ると、既に料理は用意されており後は俺と杏璃が座るだけである。
「父さん今日は早くない?」
「仕事が早く終わってね。久し振りにみんなで食事しようと思い、早く帰って来たのだよ。それに息子に彼女が出来たと知ってから、どれだけ帰りたいと思ったことか」
父さんは、社長のため母さんとは正反対に家にいる時間帯が短い。社長のコネで妹である杏にもたまに仕事を廻すくらいには忙しいらしい。
でも、学業を優先するため杏に廻す仕事は本当にたまにである。
それでも杏は正確無比で、それでいてスピーディーであるため、どうしても杏に仕事を廻したい案件が大量にあるが、テスト期間中とかどうしてもやれない時は、仕事をキャンセルか正規社員に頑張って貰うしかない。
「それで母さんは?」
「どうやら締め切り間近で、ごはんはお盆に乗せて置いて来た」
「じゃぁ、これは全て杏が?」
「はい、料理が好きなんて張り切ってしまいました」
普段のいつもの食卓よりも豪勢で、高級ホテルやレストランと言われても納得出来てしまう程に美味しそうだ。
「今日は何か目出度い日だっけ?」
「いえ、ただ私が張り切り過ぎただけです。兄さん」
「そうか、頂こうか」
「「「「いただきます」」」」
どれから食べようか?どれも素晴らしい出来映えで目移りしてしまう。
普段はしないが、これをインスタやツイッターで写真をアップすれば映えるんじゃないか?
「どうですか?美味しいですか?」
「素晴らしいよ。俺にもレシピ教えてくれ」
「私にも教えて」
「うふふふふ。えぇ、良いですよ」
俺の方が上だと思ってたのに、いつの間にか追い抜かれた気分だ。でも、嬉しい気持ちもある。
杏に俺以外の好きな人が出来た時に振る舞い胃袋を鷲掴み出来れば、もう男の方はいちころだろう。
「父さんは父さんは、杏の手料理が食べられて嬉しいぞ」
父さんは、杏の手料理を食べながら泣いている。そんな父さんを見て俺を含む三人は笑っていた。
「さてと始めるか」
風呂と明日の支度を済ませ、アルタイルを頭に装着しベッドに横たわっている。
後はログインと口にすれば、起動しGWOの世界に入る事が出来る。
「ログイン」
王子は、世界の中心都市の宿屋の一室で目が覚めた。
ラプンツェルの話世界に行く前までは、シャルかエラが部屋に入って来ていたが、今は入って来ない。
やはり童話召喚をしないと現れないようになったみたいだ。ラプンツェルのボスに助言されるまで気付かないとは情けない。
「さてと行くか」
俺は、ラプンツェルの話世界の入り口に立っていた。
「王子様、先に行きませんか?」
「王子様となら三人でラプンツェルという女を直ぐに見つけられますよ」
童話召喚をし、シャルルとエラの二人を呼び寄せ今現在三人でパーティーメンバーを待っている。
「まぁ待て。後、もう直ぐで来るはずだから」
俺が到着してから数秒後、フローラとアテナが仲良く歩いて来た。
「兄さん、お待たせしました」
「やっほー、タカちゃん。待ったかな?」
「全然待ってないから大丈夫だ」
二人に挨拶すると、急に両目がシャットアウトした。いや、誰かに目を塞がれた。
「にゃふふふふ、誰かにゃ」
もう声と喋り方で丸和かりだ。
「シャーリーだよね」
「にゃんだ、詰まらないにゃ」
バレてしまい、王子の両目から両手をどかす。視界が晴れシャーリーの姿に一瞬、王子は驚いた。
シャーリーのアバターが第二の僧侶ではなく第一の武神であった。