ラプンツェル31
「あら、天童くんいらっしゃい」
「どうも、失礼します」
俺に気付きいち早く挨拶した彼女は、俺の先輩で生徒会副会長を任されている飯村茜先輩だ。
黒髪ロングで学校のマドンナとも呼ばれ、一年生から三年生まで知らない人を探すのに苦労する程有名人だ。
今はいない副会長の片割れである三年男子と付き合ってる噂も聞くが、茜先輩が真っ向から否定している。それはもう生理的に無理と言った風に。
「んっ?天童か。もう生徒会に入れば良いのに」
「あっはははは、それはご勘弁を」
茜先輩から数秒遅れで俺に気付いた彼女は、同じ先輩で会計を任されている石動カリン。栗毛をツインテールで纏めている。
俺を生徒会にスカウトした一人であり、俺が生徒会室に訪れる度に勧誘してくる。
そして、カリン先輩の前に座ってるのが俺の愛しい人、俺の彼女である杏璃だ。
「タカちゃん、待っていたよ」
手を振り俺は何の迷いもなく杏璃の隣に座った。今の様子を見てた先輩二人には違和感を持たせる事に十分であった。
今までは、杏璃の隣を座るのに多少躊躇があった。だけど、今回はそれがない。
「やっと二人はくっついたか」
「うふふっ、おめでとう」
そんな些細な事で先輩ね二人には、付き合ってる事がバレてしまった訳だ。そうなると、弄られるのは確定か?
「それで、どちらから告白したのかしら?」
「おっ?いきなり聞いちゃう。茜が聞くならボクも聞きたい。さぁ、答えたまえ」
カリン先輩は完璧に好奇心から聞きたいと瞳がキラキラと輝いている。
その一方で茜先輩は言うまで帰さないとマドンナからは想像出来ない程の剣幕で、こちらを見詰めている。口元が微笑んでる分、怖い気持ちが口に出さないがある。
「先輩達、早くやらないと終わりませんよ」
「どちらでも良いじゃないですか、早くやりましょう」
「そうだね、早く終わった方がジックリと聞けるもんだ」
テーブルに積まれた書類の山を整理・処理していく。各々の部費の内訳やもう少し先になるが体育祭の出し物を何にするか等を決めていく。
体育祭の出し物と言っても代わり映えは対してない。定番の競技が大半で、全国生徒から寄せられたアイディアから数個選ぶ。
「これなんか良いじゃないか?コスプレリレー」
「それはただ単に去年の部活動リレーをコスプレにしただけでないですか?」
「でもよ、これにすれば結構映えるんじゃねぇか?例えば天童に執事のコスプレで」
「天童くんが執事…………良いわね」
茜先輩が何やら上斜めに視線を向けている。王子の執事服姿の妄想をしたようだ。
どのうような妄想をしたのか気になるが、一体俺が何をされてるのか怖くて聞けない。
そして、妄想の世界から現実に戻って来たようで茜先輩は、ウットリと右手を頬に付き俺を見詰めている。
隣の俺の彼女は、ムスっと頬を膨らまし不機嫌に俺の横腹をテーブルで見えないよう殴る。
「痛っ」
「タカちゃんどうしたの?」
シレッと何も知らない風に殴った張本人が痛がってる俺に聞いてくる。
対して痛くはなかったが、ジンジンと鈍い痛みが広がってる感覚を覚えている。
「いや、何でもない」
見えない攻防で、王子にはこう答える選択肢しか残っていない。
それに横腹だけではない。テーブルの下になると、足をゲシッゲシッと俺の上履きを踏んづけ、脛を蹴ってくる。
態とではなく、偶然と済むような微妙なタイミングでやってくる。これを何ともないように過ごすのは難易度が高い。
だけど、俺はやりとげた。表情には出さずに、無心で資料整理をしていた。
「先ずは、これで決定で良いんじゃねぇか?茜も見たいだろ?」
「それもそうですが……………」
「じゃぁさ、杏璃は見て見たいか?彼氏の執事姿」
茜先輩は煮え切らない様子で仕方なく杏璃に話を振るカリン先輩。
カリン先輩に顔を向けると、数秒考えた後に杏璃は答えた。
「そうですね、私は見た事ありますから、どちらでも良いですよ」
杏璃の見た事ある発現にビックリマークを頭に浮かんでるような驚いた表情をする先輩二人。
瞳をキラキラさせてるカリン先輩は当然ながら茜先輩もテーブルを押し退け、二人してこちらに身を乗り出す。
「ちょっ!先輩顔が近いです」
カリン先輩は兎も角、茜先輩も鼻息を荒く、この時だけマドンナの面影が激減している。
「見ますか?スマホで撮ったので」
自分のスマホを取り出し慣れた手つきで操作する。ほんの数秒後にスマホの画面に俺の姿が写っていた。
それは俺のバイト先である童話喫茶・子ウサギの隠れ家にて『不思議の国のアリス』の帽子屋マッド・ハッターのコスプレをしている俺だ。
端から見ると執事に見えなくもない。マジマジと先輩二人が杏璃のスマホ画面を食い入るように見ていたせいで、帰宅するのが遅くなってしまった。