ラプンツェル27
レストランを後にした俺と杏は散々遊び尽くした夜、俺は夕飯と風呂を済まし自室のベッドへ横になっている。
アルタイルを装着し、早速ログインした。先日ログアウトした世界の中心都市の宿屋のベッドで起きた。
早くラプンツェルに会うために宿屋を飛び出し、ラプンツェルの話世界へ直行した。
「ハァハァ、何か嫌な予感がするんだよな」
直感というべきか、ラプンツェルに危機が迫ってる気がする。
もう少しでラプンツェルがいるはずの塔が見えて来る。もう少しでラプンツェルが会える。
「ハァハァ、見えた!」
息を切らせながら走り続ける。ラプンツェルに会えるまで安心出来ない。
「ラプンツェルラプンツェル、髪を下ろしておくれ」
何時もは髪を下ろしてくれるラプンツェルだが、今回はいくら待っても下ろしてくれる様子がない。
塔の中で何かあったのか?ふと、俺は塔の周囲を観察したところ、手や足が掛けられる出っ張りが等間隔にある事に気がついた。
「これを登って行けば」
ロッククライミングをする要領で登っていく。現実では、けして怖くて出来ない事でもゲーム内なら安心して出来てしまう。
ほんの数分で塔の窓まで到達し侵入する。そこにはラプンツェルの姿はなく、代わりにラプンツェルの実の母親から連れ去った魔女らしき老婆がいた。
「おや?あんたは誰だね?」
「ラプンツェルは何処だ?」
「そうかい、あんたがラプンツェルと恋仲になった男というのは!」
魔女から物凄い風圧が王子に襲い掛かる。踏ん張り、どうにか近付けそうな風圧だが少し呼吸が辛い。
だけど、もう少しで王子の間合いに入る。剣さえ、届く事が出来れば魔女にダメージを与えられる。
モンスターみたいに魔女の頭上にはHPバーが設けられており、ダメージを与えられる事を意味をする。
つまりは、これがボス戦だという事になる。覚悟はしていたが、いきなりボス戦とは萎える。
「うぉほほほほ、塔の外へ吹き飛ばそうとしたのだが中々耐えるか。ならば」
風圧が止んだ。今なら歩みを進められると一気に王子は駆け出した。
だけど、それが間違いだと気付く。魔女の周りにプカプカと浮かぶ水の玉らしき物体が浮かび始める。
「うぉほほほほほ、これならどうじゃ?」
「くっ」
水の玉が高速で王子へ一斉に襲い掛かる。王子は、剣と盾でどうにか防げてるが、距離が縮まるどころか遠退いていく。
「ふぉー、これを防ぐか。やりおるのぉ。だが、何時まで続くかな?」
「ち、近寄れない」
このままではじり貧だ。魔女のMPは、後どれだけあるか分からないが、どう見ても魔法に特化している魔女だけにMPが尽きるには相当時間が掛かるだろう。
とてもじゃないが、現実的じゃない。
「うぉほほほほ、そなた何で召喚を使わないのじゃ?」
「し、召喚?」
「ほれ、そなたには他の話世界の住人を仲間にしたのじゃろう?じゃから、既に召喚を使えるはずだがの」
魔女は水の玉を撃って来ながら王子に攻略のヒントを出してくれたようだ。
赤ずきんのシャルとシンデレラのエラを、この場に呼び出せる?
そういえば、今日は二人に会っていないな。このためだけに姿を消して、召喚というチュートリアルを受けてるみたいだ。
しょうかんショウカン召喚………………あった!ステータスは、両手が塞がってる時に頭で念じるだけで頭内に浮かび上がってくる。
この方法は、相当慣れてないと失敗する事もある。何気に念じるとか頭の中で何かを思い描くというのは想像以上に難しい。
「〝童話召喚〟赤ずきん〝シャル〟シンデレラ〝エラ〟我が名に置いて馳せ参じよ」
ピカァー
王子の両隣に光り輝く円柱が現れ、その中に二人の姿が出現した。
どうやら成功のようで王子は、ホッと安堵の息を吐く。
「どうやら、とんでもないヒントを出してしまったかのぉ」
「お陰様でな。助かった」
光の円柱から二人が一歩、二歩と歩みを進め出て来ると光の円柱は消え、その代わりに俺へ罵声が響き渡った。
「王子様、遅すぎですわよ。私達がどれだけ待っていたと思っているのですの」
「王子様、シャルの言う通りです。流石の私でさえ、怒ってるんですからね」
「わ、悪かった。だから、今はこの状況をどうにかしないと」
召喚の最中でさえ、魔女は手を緩めず水の玉を撃ってきていた。それを防ぐのに王子は必死で、返事は適当になってしまう。
「お仕置きは後にして…………エラ、王子様を助けますわよ」
「はい、王子様を助けます」
これで二人が加わり、三対一となった。