ラプンツェル25
ロロポートの映画館があるフロアは4階、最寄り駅との渡り廊下があるフロアは3階なのでエスカレーターで登れば直ぐだ。
映画館が近くになるに連れ甘い匂いが鼻に付くようになってくる。
映画館というばポップコーンとジュースは必須だ。杏が見たいという映画の券を受付で二人分購入し、ポップコーンとジュースも二人分購入した。
ポップコーンは、俺がキャラメルで杏がイチゴだ。昔は、塩やバターしかなかったポップコーンの味だが色々増えたものだ。
「杏、何の映画を見るんだ?」
「兄さん、これです」
いつの間に杏は、映画のパンフレットを買ったようで俺に見せてきた。
タイトルは、映画に疎い王子は聞いた事がない。だが、内容をざっと見るにベタベタとラブストーリーだという事は絵柄とかで何となく想像出来る。
これを見るのかと王子は、少し憂鬱になる。男にとってベタベタのラブストーリー程に苦手な映画は中々ない。
こう何ていうか、背中がムズムズとしてくるものがある。ただし、書籍で読む分には平気だったりする。
「これを見るのか?」
「はい、SNSでも評判がありますし、私のクラスでも話題作として結構話したりもします」
そ、そうなのか!俺のクラスの女子達が話したいたような気がする。
俳優と女優も人気急上昇中の良いとこ取りを使っており、これは話題性があるのは間違いない。
「兄さん、時間がきたようですよ。入りましょう」
「そうだな」
時間が来てしまったか。俺は、もう諦めて杏を追い掛けた。
やはり話題の映画という事もあり、席はほぼ満員で、その観客を見たところ恋人同士ばかりで、周囲からハートマークが飛んで来る勢いでイチャイチャしているでないか。
杏もそれと負け時か、俺の腕と組み肘掛けの上にて恋人繋ぎを俺はさせられている。
こんなところを杏璃に見られたらどうしよう。でも、杏璃がこんな映画を見る訳がない。
杏璃も俺と一緒で、ベタベタなラブストーリーの映画を見ると、背中がムズムズと痒くなる体質だ。
「兄さん、もうそろそろ始まりますよ」
照明が薄暗くなり、スクリーンに映像が映し出される。
映画の内容は、簡潔に説明すると男二人と女一人の幼馴染みがメインで登場し、男二人で女を取り合うという何ともベタなラブストーリーだ。
他にもそれぞれの友人達が三人を引っ掛け回し、最後まで女がどちら側へくっつくのか分からない。
笑いあり、感動ありとありふれた内容で、パンフレットで王子が覚えた内容だ。前半部分なら俺でも見れそうだ。
だけど、周囲のカップル達が映画そっちのけでイチャイチャしており、映画に集中出来ず内容が入って来ない。
だから、俺は寝た。杏には悪いが、映画を見ても内容が入って来ない事には見ても意味がない。
そして、上演しから数分後には俺は意識を手放した。
「う、うぅ~ん」
俺が起きたのは、どうやらラストシーン辺りでヒロインと幼馴染みの男の片割れと抱き合い、濃厚なキスをしていた。
このまま男が押し倒そうとした瞬間にテロップが流れエンドロールとなった。
俺は、ほぼ寝ていたので涙は流してないが隣の杏は、うっすらと涙を溢していた。
よっぽど感動したのだろう。俺は、杏にハンカチを渡した。自分の涙に気付いていなかったらしく、恥ずかしそうにハンカチを受け取り、杏は自分の涙を拭った。
「兄さん、ありがとうございます。これは洗って返しますね」
「いや、同じ家なのだし」
「洗って返しますね」
「………………」
たまに杏は頑固なところがあり、同じ言葉を繰り返すと、その意思は変わらない。
まぁ別に悪いことではないので、俺は黙って頷いた。そうこうしてる内にエンドロールが終わり、照明が明るくなる。
「少しお腹が空きました」
「あぁそうだな」
映画は二時間程の上映時間で、ちょうどお昼に近い時間帯となっていた。
ロロポートは、飲食店も豊富でどれにするか迷ってしまう。日本食・中華・イタリアン・フランス料理等々、中には聞いた事のない料理もある。
「お父さんに拝借しましたので、何処でも大丈夫です」
その金額、およそ5万円程を杏にあげたらしい。一介の学生が1日で使うには、旅行や携帯・ゲーム機を買う以外だと多すぎる。
本当に父さんは杏に甘い。昔から娘が欲しかったと俺に口癖のように愚痴を溢していた。
「実は既に予約をしてあるのです」
「……………!!」
ちょっと待て!既に予約してるって、高いところではないよね。流石に二人で5万円でも不安になってきた。