八十話・ラプンツェル21
どうにか一ヶ月には間に合った感じです。
かき氷というば、先ずはこの味だろう。
「かき氷といえば、断トツ大人気な味といえば"イチゴ"だよね。はい、召し上がれ」
まるで雲のようにふわふわに削られた氷の上に真っ赤なシロップに、屋台としては珍しいイチゴ自体が飾られ目で見ても実に楽しい。今で言うところのインスタ映えと言ったところか。
これをスクショで撮りSNSに挙げても現実な写真と間違えられ、"いいね"がたくさん得られるではないか。
「口の中に入れた途端、ふわふわと蕩けいくらでも食べられるではないか。こんなに冷たくて旨いもの初めて」
現実のJK並みにパクパクとあっという間にかき氷イチゴ味が吸い込まれ容器が空っぽとなっていく。
と、思いきや途中でラプンツェルの手がピタッと止まり、この世と思えない程に頭を抑え顔面蒼白となっている。この症状もしやアレではないか。
「うぅぅ、王子様頭がキーンと痛いですわ」
「そんなに急いで食べるからだよ」
かき氷の良くあるあるだ。かき氷を食べてると頭がキーンと痛くなる。
確かかきアイスクリーム痛とテレビの特集でやっていたような、冷たい物が喉に通ると冷たさが痛さと勘違いして頭痛が起こると言っていたと記憶している。
「こんな凶器を食べさせるなんて、王子様はヒドイですわ」
「ゆっくり食べれば、痛くはならないよ」
感覚的にラプンツェルの好感度が下がった気がする。この時に好感度のパラメーターがあれば確認出来るのに、何かイライラするシステムだ。
「それなら、王子様が食べさせてください」
ラプンツェルがアーンと口を開けて甘えてくる。俺は自分のかき氷メロン味を一口スプーンで掬い、ラプンツェルの口へと恋人同士がやるよう溢さないように入れてあげた。
「うぅーん、王子様に食べさせてもらった方が美味しく感じるの。もう一回…………あぁーん」
更にオネダリしてくるので、俺は自分のかき氷を掬ってあげるのだが、ラプンツェルは気づいてるのだろうか?これは間接キスという事に。
塔の中でもキスはしたが、これはこれでドキドキするというか、心臓がバクバクして心拍数が上昇傾向にある。
「うぅーん、美味しかったわ。次はあれをしましょう」
満足気に俺のかき氷も食べたラプンツェルが指したのは夏祭り定番の遊びの一つ…………金魚すくいだ。
青っぽい水槽に四種類の金魚が泳いでおり、鑑定してみると次のように鑑定結果が出た。
・小赤
一般的な金魚のうち小さめなワキン。小さいため動きが速い。
・黒出目金
通称:出目金と呼ばれる目玉が飛び出てる黒い金魚。
・姉金
大きな小赤、尾びれを含め力が強い
・大物
目玉となる派手で高価な金魚。数は少ない。
ふむふむ成る程、狙うとすれば大物なのは明らかだ。だが、数百いる金魚の中で大物は1%しか満たない。鑑定をやれば、見分けるのは苦ではないが他の金魚が邪魔だ。
「ほぅ、何やらたくさん泳いでおるのよ」
玩具を初めて見る子供のように瞳をキラキラさせている。まぁ、俺も小さい頃は街の夏祭りの金魚すくいをやったもんだ。気持ちはスゴく分かるつもりだ。
「これは金魚すくいだ。泳いでる魚が金魚で、すくった数だけ家に持って帰れる訳だ」
「面白そうなのよ。早速やりましょう」
「オジサン、二人一回ずつね」
「はいよ、これがポイね」
金魚のオジサンから渡されたのは、紙製のポイだ。地域によってはお菓子のモナカでやる所もあるそうだが、俺はやった事はない。
「この紙で金魚をすくうんだ」
俺もあんまり得意な方でないが、聞いた話によるとポイの外側に金魚の尾びれを出しながらすくうのがコツなのだそうだ。
たけど口で言うのは簡単だが、金魚は常に動いてるからコツを実戦するのが難しい。
「やってみるわ」
ラプンツェルの可愛い瞳が獲物を狙う猛獣のような瞳へと変わる。ポイの柄を親指と人差し指で掴み肘を90度曲げたまま肩の位置まで挙げる。
周囲の雑音をシャットアウトするかのように水槽の金魚のみ視線を集中する。ポイの入射角、金魚の大きさ、速さ、仕草等々を計算してポイを金魚に向けて水槽の中へ入れられた。
「えいっ!破れちゃった。金魚さん強いわね」
どちらかと言うと自爆に近い。金魚を追い掛ける間に水の抵抗により、ポイにダメージが蓄積された結果、金魚がちょんと触れただけで破れてしまった。
初見でそうそう掬えるもんじゃない。金魚の方が一枚も二枚も上手だっただけだ。
「どーれ、俺の番か」
「王子様頑張って」
ラプンツェルに応援されるが、それが余計だ。プレッシャーが増すばかりで王子自身が金魚を掬えるイメージを持っていない。
過去の夏祭りで例外なく杏と杏璃とは行ってるというか、もう風習化になってる。その都度、二人の浴衣姿の感想を言う羽目になる訳だ。
その時に金魚すくいをやるのだが、例外なく俺が最下位で運動が得意でないはずの杏と生徒会前は運動部の助っ人を頼まれてた杏璃が勝負したら、普通は杏璃が勝つと思いきや………ほぼ互角で同点なのも珍しくない。
杏曰く俺が見てる中で負ける訳にはいかないだそうだ。それで杏璃と互角以上に戦闘を行えるのだから大したもんだ。
因みに杏璃が掬った金魚達は、水槽では狭くなり父さんが庭に池を作って、そこに元気に暮らしてる。