六十七話・ラプンツェル7
みんなと合流した後、塔の中での出来事を大雑把に説明をした。王子の説明を聞いた後、シャーリーは目を大きく開け口をあんぐりと開けたまま固まっている。
どうやら、自分が説明した事と大きく違う事に情報屋としてのプライドがズタボロにキズついた様子だ。そんなシャーリーをみんなで慰めつつ、塔付近にある街の宿屋にチェックインしてログアウトするのであった。
「ふぅ、ラプンツェルに接触出来、クエストを進められて万々歳か。それにしても………シャーリーの情報と違うのが驚いたな。まぁ猿も木から落ちるとかだな」
王子が考え事をしてると、トントンとドアが叩く音がする。ログアウト直後に王子の部屋に訪れるのは一人しかいないだろう。
『兄さん、まだ起きてますか?』
やはり妹の杏ようだ。もし、眠っていたら布団の中へ侵入され、そのまま朝まで添い寝されていた事だろう。危ないところだったかもしれない。
「起きてるよ。もうそろそろ寝ないと朝起きれないぞ」
『少しでもお話出来ませんか?』
はぁ~、しょうがないな。相変わらず妹には甘い王子である。ドアの鍵を開け杏が中に入ってくる途端、王子のベッドにダイブする。
「うふふふ、兄さんの匂いだ。クンカクンカ………兄さんエネルギーを充電中………」
まぁ、いつもの光景だから特別驚きはないが、ツッコミたい事が一つだけある。それは………何故俺のワイシャツを着てるんだ?
そういうば、また最近少ないと思っていたけど犯人は杏だったか。
「杏、聞きたい事があるんだが………」
「私と添い寝してくれたら良いよ」
質問をするだけで、なんともリスキーなんだ。それなら良いや、ワイシャツの一枚や二枚は諦める事にする。王子は忘れている、杏との間にとある約束をしてしまった事に。
その約束とは"今まで拝借した兄コレを黙認する事"だが、それはあくまで"今まで"という事で"最近"の事ではない。まぁいつ拝借したかなんて証拠はない。
「はぁ~、話すだけな。添い寝なんて必要ないから」
「そ、そんな~!それじゃぁ、私明日1日どうやって過ごしたら良いんですか!」
知らないがな。俺には関係ないし、昔ならともかく今されたら義理だから余計に理性が持つ自信がない。こんな妹に育ったのは、ほとんど親のせいだと思ってる。
普通の両親は実でも義理でも兄妹で恋愛感情を持つような事は止めるだろう。だが、ウチの両親は逆に推奨してるから質が悪くて困ってる。ていうか両親二人とも楽しんでる節がある。
「はぁ~、明日カフェで何か奢ってやるから。それで我慢しろ」
「はい、軍曹殿、我から折衷案があるのでございます」
誰が軍曹だ、誰が!それに………何だその喋り方は。何処かで聞いた事がありそうな口調だが思いだせない。何かのアニメだと思ったが忘れたなら仕方ない。
「杏隊員、話してみろ」
ノリで杏に合わせる事にした。して、折衷案とは何だろうか?無理難題ではないだろうな。一緒に風呂入るとか入るとか入るとか………一つしか思いつかない。
「はっ!妹殿と買い物行くというのはどうでしょうか?きっと喜ぶ事必須と断言するでございます」
まぁそりゃぁ、自分の希望だし喜ぶの確実だろうな。ここはしょうがないな、杏の希望を叶えるか。そうしないと、今の危機的状況を脱出出来ない。
「ふぅ~、分かったよ。そんでいつが良いんだ?」
「今度の日曜が良いな。杏璃さんとデートしない事は確認済ですしね」
ど、どうやって調べたんだ!俺は話してないし、むしろ杏璃に自ら聞いたら反論して教えてくれないどころか、杏と対抗して俺の意見無視で日曜が杏璃とのデートになっていただろう。強制的に強行しても俺としては杏璃なら嬉しいけどな。
「えーと、兄さんのスマホを………チョコチョコ中身を見ただけです。兄さんの暗証番号なんて私にとって無いに等しいですから。兄さんはスケジュールに全ての用事を書き記してますから簡単でした」
ズーン、分かってはいたけど、俺のプライベート全然ないな。ある時といえば、学校かバイトの時くらいか………まぁそれも怪しいがな。
「俺のプライベートって一体何だろうな?」
「兄さんにプライベート存在する訳ないですよ。だって、私と杏璃さんがいる限り………うふふふふ、杏璃さんと一緒に一生離しませんから」
凄く怖くて、凄く重いよ。何この………ヤンデレって言うんだっけ?他の女と話しただけで包丁で刺してくるみたいな。まぁそれはドラマや漫画の話だと思いたい。
実際、俺は浮気する度胸というかする気ないけど………そうすると、杏は結婚する気ないって事か。
義理の兄だけど、それはそれで不安だな。俺以外に素敵な人を見つけて欲しいものだ。それと裏腹に、杏が誰かと付き合う事になった際には俺と父さんの審査が必須になるかもな。
それはさておき、今度の日曜にデートする事を了解して杏は自分の部屋へ帰っていった。




