四十五話・シンデレラ32
ギギィィィィっと扉が開き入ると、そこは長年使用してなかったのかホコリまみれな物置部屋みたいだ。確かに普段使用してない所なら潜入した事でさえバレないだろう。と、信じたい。
「うぅ、こんなドキドキ感って苦手なんだよね」
王子はお化け屋敷やパニック系も苦手だが誰かが怖がると逆に冷静になってしまうタイプである。
しかし、こういう誰にも見つからずにクリアするアトラクションは別の意味でドキドキして苦手で本来なら直ぐにでも帰りたい衝動に駆られそうになるがシンデレラ━━いや、エラのためだ。我慢………我慢だ。
カビ臭い倉庫には窓が無く入って来た扉を閉めると、真っ暗であるが入る時に真っ正面に扉が見えた。距離にして十歩程度だ、暗くなっても大丈夫だろう。
「………痛っ」
距離を間違えたか。扉に頭を見事に衝突し、頭を抑え床に座り込んだ。
『これだから人間はバカなんだよ。エラは違うけどな』
『大丈夫ですか?気を付けましょうね』
「あぁ、すまん。先に進もう」
暗い中、手探りで扉のドアノブを探し音を出さないように………そぉーっと少し開け扉の隙間から誰もいない事を確認する。開けた途端に見つかったら洒落にならないからな。
気配はないし音もしない静かなものだ。ゲーム内の時間は夜八時を廻った当たりだ。
現実ではまだ起きてる時間だが、この時代は電気は存在せず蝋燭かランタンで照明をとっていたのである。なので、夕食を食べた後、直ぐに寝てしまう。蝋燭代もバカに出来ない為だ。
「………よし、誰もいないな」
場所的には台所の近くみたいだ。頼りになる明かりは窓から差し込む月明かりのみで足元はほぼ暗闇で気を付けないと少しの段差でも躓きそうだ。
『エラの部屋に行くには、まずこの先にある階段を昇る必要があります』
『音を立てないようにな。人間は鈍臭いからな。あっ、エラは別だからな』
なんかイラっとくるな。ネズミ一匹目はちゃんと案内や注意するから良いが、二匹目は最初から毒舌だ。このクエスト終わったら潰してやろうか。それとも後でシャルルを連れて来るかな。
「………この階段だな」
『えぇそうですが、継母と姉二人の部屋がありますのでご注意を』
『人間はトロいからな。音を出すなよ?出すなよ!』
何かそう言われると音を出しそうになるからやめぃ。
「はっはっハックション」
ほら、出しちゃったじゃないか。
「誰かいるの?」
や、ヤバい!王子は階段を昇る前にスキル"気配遮断"をかけ直し息を潜める。
「気のせいだったのかしら?」
人の気配は去って行き王子とネズミはホッと安堵した。
そして、階段を一段一段ずつ階段を上り始めた。
「………抜き足……差し足………忍び足」
一歩ずつゆっくりと王子は歩を進めるが、この時代にはもちろん鉄筋コンクリートなんて物は存在せず木造なのでギシッギシッと音が響いてしまう。
『抜き足差し足忍び足ってどういう意味だ?』
『人間の言葉でゆっくりと音を立てずに進むという意味だったと』
『それならもっと音を出さずに歩けよな。これだから人間は』
うるせぇよ。しょうがないだろ。どんなに慎重に歩いたとしても、お前らネズミと違って俺達人間は重いのと、ここは木造で古そうだし音は出ちゃうって、特に階段とかはさ。
ギイィギイィギシッギシッギイィギイィギシッギシッ
どうにか二階にたどり着いた王子は、月明かりを頼りに廊下を見渡し誰もいない事を確認する。
階段の直ぐの部屋の扉に意地悪な継母の名前が書いてある。息を潜め、その前を慎重にかつ素早く通り過ぎ、屋根裏部屋に続いてる階段がある部屋前までたどり着いた。
姉二人の部屋と反対方向で良かった。これで、エラの部屋にたどり着ける。
『さぁ、もう少しです』
『ここで台無しするのが人間だよな』
本当に猫の餌にしてやろうか。それにしても、毒舌を吐きながらも俺と一緒に来てくれたんだよな。そこだけは感謝だな。
「よし、いざ行かん」
ギイィギイィ………バッタン
???
「あれ、誰か居たような………気のせい?」
『この先がエラの部屋です。本来は倉庫として使ってた所みたいです。可哀想に』
『何で人間は同じ仲間なのに争うんだろうな?エラは優しくて、違うからな』
まぁ言いたい事は分かる。現実でも紛争が絶えない地域もあるからな。俺らの国が平和だから、ほとんどの人は他人事のように考えてしまう。
本当に何故争うんだろうな。もっと仲良く出来ないものか、最初は食料や水の奪い合いから始まった事が、土地に続き人種の違いだけで争うようになったのが人類の歴史の一つだ。
まぁ今はこんな事を考えてもしょうがない。この先はもうエラの部屋だ。階段を昇り終えやっとエラの部屋前まで来た。
そして、王子は扉をトントンっとノックしたのだ。