四十三話・シンデレラ30
「ふぅ、やっと洗い物終わったわ」
食器を洗い終わったエラは食器棚に皿を片付けていると、継母が台所に入ってきた。
「まだ洗っていたのかい。どんくさいね、シンデレラ」
「義母様、ご免なさい。今、終わりました」
「そうかい、なら次はこれだよ。さっさとやりな」
ざばっと大量の洗濯物を積まれた篭をぶん投げられ、そのまま継母は出ていった。四人分とは思えない量の洗濯物を篭に入れ、何もなかったかのように裏庭に出た。
「早く終わらせないと、また怒られちゃうわ」
エラは裏庭の井戸から水を汲んで桶に注ぐ。そこに洗濯板を水に浸けると準備が整った。
山の洗濯物を一枚一枚ずつ丁寧にじゃぶじゃぶと洗って干していく。全部干し終わると次は買い物に出掛けた。夕飯の準備で、おつも継母は愚か姉二人も家事は手伝わない。
そんなエラにとって休憩出来るのが短い食事の間と夜間、屋根裏部屋にいる時だけである。
一方、王子は装飾職人フェアリーの店を出、路地裏をクネクネと曲がり王子はエラの家に急行した。早く、クエストを進行させたいため、NPCであるがシンデレラの喜ぶ顔を見てみたい一心で急いだ。
「ハァハァ、おいネズ公持って来たぞ」
マップのポインターを頼りにクエスト受注した時のネズミ二匹を探した。受注した時と同じ場所にいたお陰で探す手間はそんなになかった。
『おぅ、来たか。人間』
「これで良いんだろ?」
イベントリからドレス一式が入った箱を取り出しネズミ二匹に見せた。ネズミからしちゃ箱が大きすぎなので、王子が開けて見せて確認してもらう。
『うむ、確かに綺麗なドレスだ』
『ありがとうございましす。これでエラも舞踏会に出れます。これを渡せば、きっと大喜びでしょ』
これで、このクエストは終了かな?
取り敢えず、続きのクエストはあるかもしれないが、これで一区切りかなと思っていたが━━━
『しかし、我々二人ではドレスを運ぶのには大きすぎます。我々の代わりにエラの所へと運んで渡してくれませんか?』
なぬ、まだ続くのか!ただ、配達系クエストなら楽勝かと内心思っていた。
しかし、ただの配達系クエストではなかった事がこの後分かるのであった。
クエスト更新
・クエスト内容:エラの家に忍び込み、エラの部屋へ行け
・クリア条件:エラの部屋へと到着
・失敗条件:継母・姉二人に見つかる事
・クリア報酬:???
ちょっ!これは配達系じゃなくて、数は少ないが地味に難易度が高い潜入系クエストじゃないか!俺にメタ○ギアのス○ークになれって言ってるんじゃないだろうか!まぁただ家に潜入するだけで、それは大袈裟だがな。
『安心しろ、我々二人が案内してやる』
『もうそろそろ邪魔な人間が静かになりますので、少々お待ちを』
敢えて聞かなかったが、邪魔な人間ってエラの継母と姉達の事だよね。シンデレラの世界では確かに邪魔だ。
ネズミの言う通りに待ってると数分間で太陽が沈み暗くなってきた。やはり、ここはゲーム内だと実感する。
痛覚以外の五感は現実に再現出来てるが、痛覚も再現すると現実の脳に障害が生じるらしい。某小説の様に死んでしまう事もあるとか。
それはさておき、現実と時間の流れが違うとこれはゲームだと実感するもんだな。街灯が点灯しネズミが言った時間になりエラの家に潜入しようとした矢先、メッセージが届いた。
『兄さん、今どこにいるんですか(怒)』
『タカちゃん、何処にいるのかな(怒)』
あっ、ヤバい!怒らせると最も怖い二人からメッセージが届いた。しかも、怒りマークを添えて。帰るのが怖くなってきたよ。しかも、現実では二人共に俺の家にいるし、お説教コース確定かな。
『いやぁ~、今クエスト中』
『後でお話があります』
『私からもあるから覚悟しておくように』
『あははははは、すみませんでした』
『『…………ギルティ』』
いぎゃああぁぁぁぁ、お説教コース確定しちゃったよ。トホホ、ハァー。
ネズミの案内でエラが洗濯をしていた裏庭まで来ていた。そこには台所に通じる裏口と隅にその半分の大きさの扉があった。入るのは小さい扉の方である。
『おい人間、扉の鍵を開けて来るからちょいお待ち』
と、ネズミ一匹が俺の肩から降りて外壁に空いた穴を通り中に入って行った。この家なら隅から隅まで知っていそうだな。
「あっ、そうだ。待ってる間にスキルを取って置こう」
この潜入系クエストを始めてからとあるスキルを取得しようかと決めていた。そのスキルとは━━━
「━━━━━っと、あったあった。少しポイント使うがまあ良いか」
王子はステータスウィンドウのスキル項目から潜入にぴったりなのが何個かあったがこれを選んだ。それは"気配遮断"効果は読んで字の如く気配を消すスキルだ。
他に"遮音"や"透明人間"何かもあったが王子的には気配遮断が一番しっくりくるというか、ロマンを感じ格好いいからが一番の理由である。
気配遮断にスキルポイントを3ポイント使い、残りはLv15で6ポイントだ。
そして、ガチャンと内側から鍵が開き、ギギィィィィっと長年使われてないような錆び付いた音を鳴らし開いた。ここからが、潜入系クエストの開始である。