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四十一話・シンデレラ28

 強制的に天童家で打ち上げというかパーティーをする事が決定した中、20分間煮詰めながら灰汁を取っていた。


「兄さん、20分間経ちました」


 王子たかしは鍋にブランデーを回し掛け混ぜる。リンゴの甘酸っぱい香りが余計に引き出され、野次馬がさらに集まった結果となった。それが現実リアルにも影響を及ぼすとはこの時は誰も思いもしなかった。


「煮詰めたリンゴをザルに注ぎ煮汁と分ける」


「はい、ザルとボールです。兄さん」


 ジュワーっとザルに注いだ瞬間にも匂いが辺りに広がり匂いだけで倒れるプレイヤーが続出した。


「お、おいどうした!ま、まさかこの甘い香りは毒なのか?」


「ふわぁ、匂いだけで美味しそう」


「嗅いだだけで、倒れるとは食べたらどうなるんだ!」


「お願いだ。出来上がったら売ってくれないか」


「あっ!ズルいぞ」


「すみませんね。これはクエストアイテムなので売る事は出来ません」


「そ、そうか」


 ざわざわざわ


「そんなクエストあったか?」


「いや、俺は知らないな」


 さて、外野はスルーしといて次の工程だ。煮汁をきったリンゴをアップルフィリングと言う。そのアップルフィリングをパイ生地を敷き詰めたパイ型に入れる。


「兄さん、パイ型に生地を敷き詰めました」


「おっ、早いな。助かる」


「こちらが細く切ったパイ生地です」


 パイ生地にアップルフィリングを入れ、上には細いパイ生地を格子状に編む形で乗せていく。

 周りにもパイ生地を乗せ、格子状のパイと下のパイをくっつける。そして、格子状のパイに煮汁を塗っていき、オーブンで20分焼けば出来上がりだ。


「ふぅ、これで焼き上がりを待つだけだ」


「兄さん、お疲れ様です」


「あぁ、おつかれさん」


 もうそろそろ完成間近のと売れないと言われ外野は徐々に散り散りになっている。残ってるのは完成品を見たい輩が大半とレア度を鑑定したい輩が少数が残ってるのみだ。


「それに良い匂いにゃ♪一口でも食べたらダメにゃ」


 可愛くオネダリしてもダメなものはダメだ。これはシンデレラ攻略に大事なアイテムなのだから。


「ダメだよ。先程、俺の家でお疲れ様会やろうって話がついたばかりじゃないか」


「にゃー、にゃって匂いを嗅いて………じゅるり、食べたくにゃったんにゃもの」


「俺も………我慢出来ない」


 クールなメリッサが頬を赤く染め頬をかいてる。

 シャーリーとメリッサの言葉を聞いた残りのプレイヤーも「はいはい、俺も食べたい」とか「あっ、ズルいぞ。俺にも」等々騒ぎが大きくなった。


「はぁ、しょうがないですね。フローラ、後そうだな………五人分の材料を買って来てくれないかい」


「それは構わないのですが、よろしいので?」


「まぁ、今回はしょうがないよ。ですが、お金は貰いますよ」


 ニコっと今回だけですよ。と、ワタルは笑顔だが何か怖い。みんなの背筋に寒気がきた。仲間も王子たかしが怖い場面を見た事ないものだから恐怖よりも驚いている。普段大人しい人が怒ると怖いって言うけれど、まさにそれだ。


「タカちゃん、怒ってる?」


 恐る恐るアテナが王子たかしに聞く。


「ん?怒ってないよ?」


 変わらない笑顔だが、先程の怖さは無くなっている。仲間達はほっと安堵になり、みんなして「今度から気をつけよ」と決意するのだった。


「兄さん、買ってきましたよ」


「ありがとう。こちらも出来たところだよ」


 フローラが買い物から戻ってきたとこで、最初に作ってたアップルパイが出来上がった。

 王子たかしがキッチンミトンを装備してオーブンからアップルパイを取り出した瞬間に作っていた最中の時とは比べものにならない程に匂いが充満し、その匂いを嗅いだ者が次から次へと倒れる者が続出した。それも、すごく幸せそうな顔をしながら。

 意識を保持出来たのが作業場の一割しか残ってない。GWO史上初めてかもしれない。仲間達は何とか意識は保ってるが、ヨダレが止まらずに、もし何も知らない人が見たら確実に引くだろう。それほど、淫らな顔になってる。


 ポタッポタッポタッポタ


「ハァハァ、ねぇ、本当に食べちゃダメ?」


 アテナがヨダレを垂らしながら、こっちに迫って来る。目が尋常なく狂喜に染まっており、まさに狂戦士バーサーカー化して怖い。他のプレイヤーも四方八方から王子たかしに手を伸ばしてくる。

 王子たかしはイベントリにアップルパイを仕舞うが、イベントリから匂いが漏れてるではないかと錯覚する程体に匂いが染み付いており「あっ、これはヤバいかも」と作業場から逃げだし王子たかしとその他プレイヤーの鬼ごっこが開幕したのである。


 鬼ごっこ中、フローラが王子たかしの代わりとしてアップルパイを五つ作ってもらった。後日知ったことだが、王子たかしよりかはランクが下がったようだが、それでも人気が高く美味しかったそうだ。

 一ホールに付き2000ゴルで売れた。食べる前に鑑定した者によると、一万ゴルでも安いと言っていたそうだ。


 そして、鬼ごっこ逃げきった後仲間達が正常に戻った頃に合流して、シャーリーにアップルパイの鑑定を依頼した。

 調理直後よりは匂いも収まり狂戦士バーサーカー化する事もなく安堵した。


 "鑑定した結果"


 ランク:SSSレア


 名称:女神が作りし魅惑のアップルパイ


 効果:HPとMP全快

  異常状態全回復

  三十分間無敵状態

  三時間全ステータス五倍UP


「はっ?何このあり得ない効果は!」


 シャーリーが鑑定した後、みんなもそのレア度と効果を見て開いた口が塞がらない状態で数秒固まっていた。

 女神が作りしと書いてあるけど、俺は男だからな。俺が作ったんだからな。そこは間違えないように。




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