四十話・シンデレラ27
さーて始めるか。
王子はイベントリから市場で買った材料をキッチンのワークトップに置いていく。
包丁やまな板、鍋等の料理道具は本当ならオリジナルで作成した物の方が料理のレア度や完成度が上昇しやすいが、今回は据え置きの物を使用したいと思う。道具まで作っていたら間に合わなくなるからな。
「兄さん、リンゴを洗って皮を剥いて置きました」
フローラが剥いたリンゴの皮は見事に全部繋がっていた。本来なら皮にも栄養はあるが、ここはゲーム内だし関係ないだろ。
「サンキュー、作業早いな」
「えへへ、兄さんに誉められました」
「ぐぬぬぬぬ、何か悔しい。何か負けた気がする」
アテナが地団駄を踏む中、ニヤリとフローラがアテナの方を向いて微笑む。
「おい、貴様何故こっちを向いて笑う?」
「気のせいじゃありません?あっ、兄さん鍋の用意出来ました」
先読みするかの如く、フローラは王子の先回りしてサポートしていく。けして、王子の邪魔はせず次は何を欲しいか相手の速さに合わせ準備する。
これぞ、兄妹のなせる業?なのかもしれないが、シンクロしすぎやしないか。その様子を見てるアテナは相変わらず地団駄踏んだりしてるが、他の者は若干引き気味である。
俺はフローラが用意した鍋に八等分にイチョウ切りしたリンゴ四個分を入れる。入れ終わったタイミングでフローラが砂糖(リンゴの40%)、生クリーム(大さじ×2)、バター(20㌘)、レモン汁(小さじ×2)を入れてくれた。これで蓋を閉め20分置く事でリンゴと砂糖を馴染ませる。
「何か凄いにゃ!料理は得意と密かに聞いていにゃけど、ここまでとにゃ」
「………なぁ、出来たら俺に味見させてくれないか?」
「にゃ!ズルいにゃ!私も食べたいにゃ」
「わ、私も食べたいです」
「ゲーム内でいくら食べても太らないしね」
「そうですそうです。いくら食べても………って現実でも太ってませんよ」
ニムエのノリツッコミに笑いが周りに響き渡った。ギャグには縁遠いニムエがやった事でギャップがあって余計に笑いを引き込んだ。
「ぷっくくくく」
王子が背中を向けて微動だに震えている。
「あっ!王子様までもひどいです」
「ごめんごめん、今回のこれは無理だけど、今度何か埋め合わせするからさ」
キラーン、とニムエの瞳が光り輝いた風に見えた気がした。本当に気のせいだったのか?
「王子様、その言葉本当?」
「うん?あぁ、男に二言はない」
「今度、現実で━━━」
ニムエの提案にフローラとアテナは反対するが、当の王子本人は男のプライドとして、してしまった約束を破る訳にはいかずニムエの提案を了承した。
だが、その代償としてジトーっとフローラとアテナの視線が王子の背中に突き刺さる。これは現実に戻った際に何か言われそうだ。
「おっ、もう20分経ったか。そしたら、火を着けて灰汁を取りながら煮詰めていくぞ」
フローラとアテナの視線から逃げるように料理を再開する王子。
煮詰めてから直ぐに甘い匂いが作業場全体に漂い始めた。まるで、匂いのハニートラップみたいに他のプレイヤーも周りに集まりだした。
ざわざわざわ………
「すげぇ、旨そうな匂いだな」
「ここまで匂い広がるものか?」
「いや、ここまでになると………おそらく相当なレア料理が出来そうだ」
「マジかよ。うん?ちょっと待てよ。アイツって最近話題の王子様じゃないか?」
「えっ!あっ本当だ!スクショと一緒だ」
ざわざわざわ………
外野が五月蝿くなってきたな。こうなると、分かっていたら個室に行ったのに。まぁ、もう後の祭りだ。仕方ない、今は目の前の料理に集中だ。
「王子様、こっち向いて」
その声に応えて満面な笑顔でニッコリと手を振る。つい、バイトの感覚でやってしまった。
パシャパシャ
「きゃぁぁぁぁ、こっち向いて手を振ってくれたよ」
「ちゃんとスクショに撮れた?」
「グゥ、ばっちり」
さっきのやつをパシャっとスクショに撮られたようだ。うーん、変な騒ぎにならなければ良いが………
「兄さん、さっきの奴等殺してきますか?」
キラーン、とナイフを野次馬に見えない位置でしかも俺達には見える位置で光らせた。
「フローラ、私も手伝うよ」
「や、止めなさい」
何でこういうところは気が合うのか謎である。そう思ってるのは王子だけで、他のメンバーは当たり前だと心の内で思っているのだ。
「ちっ、兄さんは優しすぎるのです」
「まっ、そこが良いところでもあるけどね」
うんうん、と他のメンバーも頷く。
ちょっと、そんなに誉めても何も出ないからね。えっ!後で現実の手料理をご馳走になるからって、マジですか!えっ!「これは決定事項」って何でシャーリーが言うの?
「私だけ除け者にゃんてズルいにゃ」
「俺の家に来る気ですか?」
「もちのロンにゃ。日程はシンデレラ攻略終わってにゃからの打ち上げといことでにゃ」
はぁ、こんな大人数家に入るかな?絶対にテーブルとイス足りないよな。
こうして、王子はどうするかと悩むのであった。